第105話 ホカイドゥンのダンジョン氾濫。
商業国家オーサクの南東の農業国家ホカイドゥンで、中規模ダンジョンの氾濫が起こったという。
俺達が行く事にしたが、詳しい場所が分からない。
「特別でっせ、タダで差し上げますわ」と、エティゴーヤ手書きの地図をもらった。
屋敷の敷地で、ドラゴンに慣れた使用人達に取り囲まれているピルムを回収して、飛んで行く。
[皆さん私に近付き過ぎて、踏んじゃわないか気が気じゃなかったです~]
「あはは、カチコチに固まってたもんな。ピルム」
「……旦那様、まだ魔力あるの?」
メルティナが不思議そうに聞いてきた。
「ああ。俺は回復が早いし、魔力総量も多いからな」
メルティナ達は、俺のスマホの事やスキルを知らないからな。今のところ言うつもりもない。
「旦那様……、絶倫」
メルティナは、そういいながら、俺の胸に頭をすりつけて来た。
「……」
俺がメルティナを抱えて飛んでいたが、ドラゴン姿のピルムに掴ませて運ぶ事にする。
「少しくらい強めに握ってもいいからな?」
[はい]
「ぐふっ! ……悪くない」
日も落ちかけて薄暗くなった中、ダンジョンの近くの町エニアの上空に差し掛かった。
所どころでモンスターと戦っている集団も見える。
町の外に、火が焚かれていて人が大勢いる場所があったので、そこに下りた。
「ギャァァアア! ドラゴンだー!」
「ドラゴンがいるなんて聞いてねーぞ!」
「にっ! 逃げるぞ! この町はもう終わりだ~」
「おっおい! 既に誰かつかまえられているぞ!? 握られている!」
メルティナです。
「待て待て! 違うからっ! 握られているのも移動の為だから! それより、ここの代表者はいるか?」
傭兵国家キタクルスの傭兵で、ホカイドゥンに駐在している傭兵団の代表と、エニアの冒険者ギルドマスターが出て来た。
「エニア冒険者ギルドのマスターをしているナックスです」
「俺はここの傭兵の頭だ。あの掴まれている奴は助けなくていいのか?」
「あれでいいんだ。あれはあれで安定しているからな。それより、これを読んでくれ」
まずはエティゴーヤから預かった手紙を渡す。
「途中でモンスターと戦っている集団がいたが、ここは何をしているんだ?」
聞くと、戦っていたのは傭兵団を中心に攻守のバランスを考慮して組まれた集団が、モンスターと戦いつつ氾濫の進路を誘導しているらしい。
ここを誘導したモンスターの終着地にするらしい。
よく見ると、ストーンウォールやロックウォールやガラクタでバリケードらしきものを築いている。
それに、今ダンジョンから出てきているのは、ダンジョン浅層のモンスターだからまだいいが、それでも凶暴化しているらしい。
「凶暴化もしているとなれば、町には絶対に近づかせたくないですからね」
「エティゴーヤのところで聞いたが、中規模ダンジョンだって? 何階層ぐらいあるの?」
「45階層ですが、その45階層のボスがガルーダですので、難易度はBより上ですし、モンスターが凶暴化しているとなれば、ガルーダにはAランクパーティーが複数要るかもしれません」
ガルーダって、そんなに強かったけ?
ダンジョン内に取り残されている冒険者や傭兵がいるか確認する。
「俺達傭兵はダンジョンにゃ入らねえ決まりだからいねえし、ナックスが冒険者もいない事を確認済みだ」
「そうか。手間が減って良かった」
「……ところで、お前がユウト殿なのか?」
「ああ、俺がユウトだけど。どうした?」
「いや、エティゴーヤの旦那からの手紙には、『ごッつい手練れ』だと書かれているが?」
「何だその言い方……。まあ自分で言うのもなんだけど、手練れだな」
傭兵の代表とギルマスが、俺を上から下まで見回している。
そんなに頼りなさそうに見えるかな?
「まあいい。俺達がダンジョンに入るから――って言ってもピルムは入れないか……」
「「ピルム?」」
「ああ、あのドラゴンだ。ピルムはここに置いていくから、使ってやってくれ」
「ちょっ! まっ! 待て! 置いていくって……大丈夫なのか?」
「もちろんだ。俺からもピルムに言っておくから。――でも、指示は2人のうちのどっちかが出してくれ、他の奴らからあれこれ言われても混乱するだろうからな」
「わ、わかった。混乱されたくないからな……絶対に守ろうな?」
「ええ、絶対に……」
行こうとしたところで思い出した。
「俺、《インダクション》使えたわ。途中で見つけたモンスターには、誘導かけといてやる」
「それは助かる。ところで、ユウト殿は冒険者登録しているのか?」
「ああ、している。確か……DのCのB(ランクの依頼まで受けられる)だったかな?」
「DのCのB?」
「よくわからんが、仲間からはそう教えられたぞ?」
「お、おう……」
「とにかく、ダンジョンの中は任せろ!」
代表2人をピルムの元に連れて行き、ピルムにこの2人の指示に従う様に伝える。
「よ、よろしくお願い致します。ピルム様」
[こちらこそです]
(ギャリャリャー!)
「ぎゃー! 吠えたぞー!」
「やっぱり襲われる~!」
代表2人がピルムの声にたじろぎ、外野の連中も怯えているが、今更ツッコミも説明もしない。俺達は行く。
「じゃあ頼んだぞ? ピルム」
[はい]
(グヲォ)
「「ぎゃー!」」
「……いい加減、慣れろよ」
ピルムからメルティナを返してもらって、途中でモンスター共に誘導をかけながら、教えてもらったダンジョン入り口に向かう。
ダンジョンから出てうろついていたのは、ゴブリン・ラビット・ウルフ・ヘビ系モンスターだという。
「まだ鳥型モンスターは出てきてないようだったから良かったな」
ダンジョン入り口に着いたところで、メルティナの拘束を解く。
「いいの?」
「縛ったまま囮にしてやってもいいんだけど?」
「……悪くない」
どんな癖だよ……
「はっきり言って、抵抗しても無駄だからな?」
「……旦那様にそんなことしない」
ストレージに押収していた杖も渡して、ダンジョンに入って行く。
「お前、魔力は?」
「あまり回復していない。小さい魔法はいいけど、……大きいのはダメ」
仕方が無いので、俺がメルティナに《フライ》をかけて、メルティナを先行させて鳥系モンスターを撃ち落とさせる作戦にする。
メルティナだって魔王軍幹部だったんだ、多少の攻撃は捌けるだろう。
「よし! いくぞ」
「ん」
モンスターは全滅させる必要は無いけど、取りこぼしが外に出ないようにロックウォール先生で入り口を塞いでから進む。
この感じ、久し振りだなぁ。懐かしいな。
「明日中には終わらせて出ていけるように急ぐぞ!」
「ん。――ええっ!? 45階層あるよね? 旦那様?」
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長編小説です。
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