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第10話 ミケ、動く。


******ミケ



「よし、俺、アニカとアニタ、ミケで入るぞ。ミケは警戒も頼むな?」

「任せるのじゃ」


 ユウトが黒い入口に入っていく。

 アニカとアニタは、不安そうにお互いの手を取り合いながらも勇気を出して入りおった。

 周りには誰も、何もおらんな。登ってきてもおらん。


 一度中に入ったら、我は有限の生命として生きることとなるとニアは言っておった。

 ユウトに言った言葉は本心じゃ。恥ずかしさのあまりケーキがあるからなんぞと言ってしまいもしたがな……

 ユウトと共におると決めたのじゃ、臆することなんぞ無い!




 何か柔らかい膜を抜ける感じがする。

 空気が違うし、寒さも無い。自分が変わった感覚も無いな……

 2人も変わりなし、ユウトは……? 何かおかしいぞ?


「ユウト! どうしたのじゃ!」


 ふらついて足元がおぼつかない様子だ。あ! 尻もち! 倒れた!!


「ユウト!」「ユウトさん!」「ユウトお兄ちゃ~ん」


 ユウトが倒れた? 何が起きたのじゃ?

 すぐに行ってやりたいが、ユウトには2人の面倒を頼まれておる。まずは周りの警戒じゃ。


「アニカ、アニタ! ユウトの様子を見てくれ」

「はいっ!」「うん!」


 ユウトにかけ寄って抱き上げて様子を見たアニカが、大丈夫と頷いて「息してる!」と叫ぶ。


「ニアよ、どうじゃ? 何が起こった?」

「意識がない状態ですが、命に別条はないようです。おそらくですが、ユウトさんのなかに在ったバハムートの魂が、こちらの世界に戻ったのでユウトさんの魂に干渉しているのだと思います」

「何!? ユウトの身体を乗っ取るつもりか?」

「それは……なんとも言えません……」

「くっ! こんな時に何もしてやれんとは。――いや、とにかくユウトの意識が戻るまで守るのじゃ」


 ここは入り口じゃが、幸いあちらの世界からは今は誰も到達できまい。


「皆でユウトを隅に運ぶぞ」

「はい!」




 ムッ! 奥に気配がある! 出おったなモンスターめ!


「アニカ、アニタ、見えるか? あそこに2匹おるのが」


 山をうろついていたのと同じモンスターが、一本道の奥からヒタヒタとやってくる。


「うん、見えるよ、ミケちゃん」

「ミケさん、あれはゴブリンという弱い部類のモンスターです」

「そうか、ゴブリンか、まだ距離があるとはいえこちらに向かってきておる」


 いずれにせよ戦うしかあるまい! 弱いならば……、それにこちらの世界の魔法には雷が無い。


「ちょうどよい。我が弱らせて動きを止めるゆえ、お主らが1匹ずつトドメをさせ」

「ええぇ!? む、無理ですよ~。私達に出来るわけないですよ」

「ミケちゃん、アニタ怖いよ~」


 幼いおなごじゃ、当然じゃな。……じゃが!


「お主ら、お父上の仇を取るんじゃなかったのか? 頑張るんじゃなかったのか?」

「うっ! で、でも……」

「怖いよ~」


 まだ戦意が湧かぬか? ナイフは離してないが、肝心の戦う意思がまだ無いな。


「ユウトがそこに倒れておる。我らが戦わねば我らもユウトも死ぬぞ? 大丈夫じゃ、我が瀕死にする。お主らは奴らの心の臓にそれを刺すだけじゃ」


「ユウトさん……」

「お兄ちゃんはアニタが守るっ!」


 2人の目に意思が宿ったな。


「よし、よいか? 我が雷を放つ、それが当たったら出番じゃぞ?」

「私達が頑張らないとですね」

「う、うん、やる!」


 よし、ではゴブリンとやらを殺さぬように、弱く、弱く雷を放つ。……弱く――ん? 逆に難しいのではないか?


 

 ちょうどよい位置まで近づいて来おったな。


「よ、よーし! やるぞ。2人とも準備しておれよ!」

「はい!」「うん!」


 2人は……? 震えながらじゃが、ナイフを構えておるではないか。よいぞ!

 では、弱く、弱く、よわーく。


「ほれ」


 ピシャーン


「グェッ!」


 当たった! ……よし、動かぬな?


「ゆけーい!」

「はい!」「いくぞ~!」



「えい!」


 先に着いたアニカはできたようじゃな。アニタは……?


「たー!」


 うむ、姉には負けられぬようだな。


 息絶えたゴブリンがサラサラと消えてゆく。



 まずい! さらに奥に獣のようなモンスターがおった! オオカミ? ……1体。

 2人の手に余りそうじゃ、どうする? ……ええい、時間がない! 我がやるしか無かろうが!

 白狐になって2人を超えてゆけば間に合う!


 ボワン!


「2人とも! 頭を下げておれよ! 飛び越えるぞ!」


「えっ!? わかりました!」

「うわぁ、ミケちゃん速~い! きゃっ」


 アニタめ、言うことを聞かぬから転がりおったわ……。とにかく2人の前に出ることはできた。


「ふんっ!」


 バーン!


「ちと力を入れすぎたか?」

 

 一撃で頭が吹き飛びおった。

 これもサラサラと消えてゆく。



「おい、ニアよ消えおったぞ?」

「はい、ダンジョンの魔力によって生まれたモンスターは、死ぬと魔石を残して消えます」

「魔石?」


「ミケちゃ~ん!ゴブリン消えちゃったよ? ……でね! これが落ちてたよ!」


 2人が戻ってきて小さい光沢のある石を見せてくれた。

 そして我をモフモフ触ってきおって! ……まあ、よいか。こ奴らも頑張ったしの。


「ほう! 凄いな。よくやったのぉ、お主ら」


 ……我もな。


 元の姿に戻ったし、オオカミ? の魔石も拾ったし……


「ふ~、ひとまず落ち着いたかの。早くユウトの所へ戻ってこの調子でユウトを守り抜くぞ!」

「おー!」

「あっ、ミケちゃんの雷、すごかったね~?」

「じゃろ~?」



******ユウト



 水に沈んでいくような感覚。……暗い、……沈んでいく、……ゆっくりと確実に沈んでいく。……何だこれは? ここは何処だ? どれだけ沈むんだ? ……だが、不思議と怖さはない。




 どれだけ沈んだのだろう?

 すこし明るくなってきたぞ?

 ああ、暖かい。白くて明るい。


 ん? 何かいるぞ? 人間? ぼやけているが、……男? ……外国人? ……若いな。

 ああ、段々はっきりしてきた、……イケメンだ。……兵士? いや騎士か? 戦うのか? 

 いや、相手は構えていない。敵意は無さそうだ。ああ、暖かい。



 安定してきた。……立てそうだな。



「やあ、馬場勇人殿」


 えっ!? 俺の名前を知っている? なぜ?


「はじめまして……と言っておこうかな」

 

 さわやかな笑顔だ。


「あ、ええ。こちらこそはじめまして。馬場勇人だ」

 

 右手を差し出すと、相手は一瞬意味が解らなそうな素振りをして、気付いた様で握手をする。


「失礼だが、あなたは?」

「ああ、そうか。初めてお目にかかる、私はバハムート、バハムート・ファースター・エンデランスだ」


お読み頂きありがとうございます。

長編小説です。

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