第9話 毒装天樹(ヒュドラバームス)の実を食べてみた
丸太小屋でシエルとお喋りしながら待つこと数時間。村の大人たちが木箱にいっぱいの毒物を詰め込んで、小屋にまで運んできた。
シエルがすっぽりと収まりそうな木箱、4箱分。
「こんなに集めてくれたのか」
「ええ。どうせなら、と村長が魔法薬の調合につかうやばい毒薬などもいれまして」
魔法薬に使うやばい毒とは。
大人たちが木箱を残し小屋から出ていったところで、食事を始める。
「僕が開けますね」
シエルが木箱の蓋を開けてくれる。最初の箱に入っているのは、全体が黒くて、青、赤、紫といった色でまだら模様を形成した毒々しい果実たち。
「これは毒装天樹という樹木からなる果実たちで、こっちは右から蒼毒装天樹、紅毒装天樹、紫毒装天樹です」
お、おう。
ひでー厨二ネーミング。
「んじゃ、いただくとしよう」
ほかにもいろいろキノコが入っていたけど、関係ない。木箱ごと噛み砕いて、バリバリと食す。
《『蒼毒装天樹毒耐性』『紅毒装天樹毒耐性』『紫毒装天樹毒耐性』を習得。各毒を無効化し、調合。『毒装天樹・超融合毒』を習得しました》
ちょっと何言ってるかわかりませんねえ。
《ユニークスキル『ウロボロスの毒調合』、パッシブスキル『ウロボロスの抗体』のスキルレベルが2にあがりました。毒耐性習得までの時間3%減少、調合した毒の威力2%上昇》
ふむふむ。スキルの性能もあがるのか。
「次はこっちも開けますね」
2つ目の木箱には、これまたやばそうな色の野草が詰め込まれていた。
「これはサワルトキケン草、マヒ二ナリ草、ニドト・サメヌ・ネムリニオチ草、それから、やばいをこえてむしろ草です」
「最後の、なんだって?」
「やばいをこえてむしろ草、という毒草です」
どういうことだってばよ。
まあいいや、摂取しよう。
これもまとめて、木箱ごとばくり。もぐもぐ、ばきばき。ごっくん。
「おえええええっ。なんかすっごい苦いのがあるぞっ」
苦味体制は習得できないのか。
《『サワルトキケン毒耐性』『マヒ二ナリ毒耐性』、ニドト・サメヌ――えーっと、とにかくいろいろな毒耐性を習得しました》
おい、頭の声。めんどうになっただろ。
《『草超えて草原毒』を習得しました》
もうつっこまねえ。
ちなみに、毒の説明は?
《土属性耐性の低いものにより大きなダメージを与える強力な毒です》
ただの毒ではないということか。
《ユニークスキル『ウロボロスの毒調合』、パッシブスキル『ウロボロスの抗体』のスキルレベルが4に上がりました》
3を飛び越しちゃった。
3つ目の箱には毒薬の瓶がいっぱい、4つ目の箱には毒を持つ虫の入ったカゴがいれられていたが、食べて耐性を習得し、毒を強化しただけなので以下省略。
結論からいうと、耐性を持つ毒と使える毒の種類は増えたけれど、スキルのレベルは4で止まった。
これ以上はもっと強いモンスターの毒を摂取しないとダメなのかな。
「もしかして、もっと強い毒を摂取しないといけなかったりしますか?」
うおっ、このケモショタ天使、私の心を読んだ!?
「いや、そんなことは……まあ強毒があれば嬉しいっちゃ嬉しいけど」
「でしたら……思い当たるものが1つ」
「ん? なんだ?」
「その……このことは本人にはあまり言わないでほしいんですけど……」
「おう、なんだ?」
「姉さんの……」
姉さんの?
スピカが、なんだ?
「料理は……」
料理?
料理と毒になんの関係があるんだ?
「いえ、やっぱりなんでもありません」
「なんだよっ、気になるじゃないかっ」
「あれはこの世のものとは思えない、凄まじい……いくら蛇神様でも……」
なんだ? まさか、どんな強毒よりも強力なやばい料理をつくるというのか?
そんな、ダークマターを生成をするどこぞの料理下手ヒロインじゃあるまいし。
いやでも、異世界ならそういうこともあり得るのかも??
「とにかく、なんでもないので忘れてください」
にっこり、天使スマイル。
「気になるなあ」
「それに、姉さんは今引きこもり中ですから」
「まあ、いら立っているところに押しかけて、料理つくってくれとは言えんよな」
料理を毒物判定して食べに来たとか、なおさら言えねえわ。
だけど、いつか食ってみたいなあ。
「蛇神様。毒、やっぱりそれではたりませんか?
「いや、ためにはなったよ、ありがとう」
まあ、無駄にはならないだろう。
しかし、毒同士を混ぜてより強い毒を作るなんて、まるで蟲毒だ。どちらかというと、悪役のやりそうなことなんだけどな。
やっぱり私は『ヨルムンガンド』なのだろうか。
ま、なんでもいいや。
「それより、その蛇神様というのはやめてくれ。もう友達なんだから、名前で呼んでくれ」
「蛇神様の、いえ、あなた様の名前を僕は知りません」
「そういや、教えてなかったな。私の名前は――」
あ、名前、覚えてないんだった。
「どうしたんですか?」
「名前はないんだ。シエル、お前がつけてくれないか?」
「ええっ!? 僕がですか?」
「ああ。頼むよ」
「う~ん……ちょっと、すぐには思いつかないので考えてみてもいいですか?」
「ああ、いつでもいいぞ」
いつまででも待ってやるさ。
だから、絶対死ぬんじゃないぞ。呪いなんか、この私が治してやるから。
★☆
夜。
ご存知だとは思うが、蛇は変温動物だ。自身で体温の調節ができず、周辺の気温状況をもろに受けるのだ。
春(だと思われる)とはいえ、夜になれば山中は冷え込む。ドアのない小屋で、私は寒さに打ち勝つべくトグロを巻いていた。
蛇になって長いとはいえ、寒いもんは寒いからな。
炎系の魔法やスキルを習得すれば、暖を取ることもできるのだろうか。
スピカは炎魔法が得意らしい。頼んだら教えてくれるかな。
というか、ここまで私、魔法使えてないよな?
全部スキルじゃないか。
もしかして魔法が使えない……なんてことは……ない、よな?
わー、わー。
ん? なにやら外が騒がしい。
わー、わー。
どたばたっ。
人が駆け回る音もする。
「たたた大変ですーーっ!」
小屋に飛び込んできたのはシエルだった。
「どうした?」
「ねねねねねね姉さんがっ! 姉さんがーーーーーっ!」
「姉さんが、どうした?」
「姉さんがっ! さっき! 机でっ! いなくて! 1人でっ! 姉さんがっ!!」
うん、一旦落ち着こうか。
「なに言ってるかわからん。ほら、深呼吸しろ。落ち着いて話すんだ」
「すうううう…………はぁ~~~~~~………すうううう…………はぁ~~~~~……」
ケモショタ天使の深呼吸。ASMR音声にして配信したら、需要ありそう。この世界にネットは……ないだろうなあ。
「どうだ? 落ち着いたか?」
「は、はいっ!」
「それで、スピカに何かあったのか?」
「は、はいっ! さっき姉さんの部屋を見たら、これが机にありまして」
ズボンのポケットから取り出したのは、四つ折りにされた紙。なかなかいい用紙だな。ほどよい硬さで、しわもつきにくい。文字を書くのに使っているのは、油性のインクか?
まるっこい文字で、こう書かれている。
シエルの呪いを解くため、ダンジョンへ解呪石をとりにいってきます。
スピカ
あのブラコンお姉ちゃんめ、危険だから反対だと言われたのに、1人でダンジョンに行きやがったのか!
「これを見つけたのは今さっきか? スピカはいつ出て行ったかわかるか?」
「村の大人の中に、30分ほど前に家から出てくる姉さんを見かけた人がいて……ただの散歩だと思って気に留めてなかったそうなんですが」
「ならまだ間に合うかもしれないな。シエル。ダンジョンの場所はわかるか? お姉ちゃんを助けにいくぞ!」