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第7話 禁術に抱かれし天使の子

 とくに急いですることもないし、ゆっくり村を散歩してみようか。せっかく村人みんなに歓迎されたのだ。獣人たちと交流をしてみるのもいいかもしれない。

 と思ったのだが。


 突然、小屋に何者かが飛び込んできて。



「きゃーっ! 私の可愛いシエルーーっ! 無事でよかったーー! んもうっ、心配したんだからねっ! いっぱいぎゅーっしちゃう!」



 そいつはシエルに抱き着き、激しく頬ずりをした。



「ぎゅぎゅ~~~~っ。もふもふ、もふもふ。んん~~~~~~~っ」



 そいつの髪は赤みがかった癖の強いロングヘアー。体毛はほとんどなく、フォルムは限りなく人間に近いが、やや獣感のある鼻と、ピンと伸びた狼の耳。そして、尻尾。れっきとしたワーウルフの少女。

 少女かな?

 黒いワンピースを膨らませる胸のサイズは並程度だが、顔立ちは大人びていて、少女というには微妙な年代にも見える。

 

 あと、ふんわりと甘い香りがする。

 いや、シャンプーか? よくわからないが、この世界にもそういうのはあるのか。


 年齢は――私の見立てでは、18~22歳くらい。うん、そのくらいだ。

 その女性獣人は私の視線に気づき、はっとした表情でこちらを見る。そして、横からシエルに抱き着いたまま、目つきを鋭くさせる。



「あんた、蛇神様とか言われて調子に乗ってるみたいだけど、私はまだ認めてないから」



 と、声を低くさせるけれど。

 初対面がそれじゃあ、ちっとも怖い印象は受けないぞ。



「姉さんっ、蛇神様に失礼ですよっ」



 シエルは抱かれたまま、眉をひそめた。



「姉さん? お前、シエルの姉なのか?」

「なに見てんのよ抉り取るわよ!」

「どこを!?」



 ギロリ、するどい目つき。

 なるほど、シエルが大切に想っているらしい姉か。



「どんな魔法を使ってシエルを陥落させたのか知らないけど、シエルは私の弟よ。余所者が馴れ馴れしくしないで頂戴っ」



 あーあー、そーゆータイプね。

 ツンツンしているけど、本当は弟が大好きすぎて取られたくないっていうアレね。

 この手のタイプは、なにかきっかけがあればデレっとなって、認めてくれるんだよなぁ。



「なにニヤニヤしてんのよ」

「ん? わかるのか?」


 今の私、蛇だから表情が読み取れないと思うのだが。



「なにがよ」

「いや、別に」



 動物(魔物だけど)の表情を読み取る力あり、と。これがスキルではなく観察眼によるところだとすれば、やっぱり根は優しい女の子だ。



「心配しなくても、私はシエルをとったりはしないよ。シエルはみんなの天使だ」

「天使って」



 あ、天使という言い方はまずかったかな。

 かえって、シエルを狙っているように聞こえたかもしれない。



「わかってるじゃない。そうよ、この子は世界一可愛い天使よっ」



 ぎゅううううう~~っと、シエルを強く抱きしめる。



「どうでもいいが、シエルの首しまってるぞ?」

「……え?」


 横からシエルを抱くために滑り込ませた腕が、シエルの細い首に絡みついてしまっている。



「姉さん、苦し……がくっ」

「きゃーっ!? ごめんなさいっ、今回復魔法かけるからっ!!」



 ああっ、シエルがオチた!?

 女性獣人はぐったりしたシエルを片腕で抱きながら、もう一方の手のひらをシエルの額に近づける。



「えっ、姉さんっ、炎属性攻撃魔法しか使えないんじゃっ」



 あ、復活した。

 そして――ボッ。

 シエルの頭に火が付いた。



「うぎゃ~~~~! 僕の髪っ、髪が~~~~~~~っ!」

「わ~~~~っ! どうしようっ、どうしよう~~~~~~っ!」



 何をやっているんだ。コントか?

 部屋の隅に、「消火剤」と書かれた米袋みたいなやつが積まれているのには気づいていた。私はすばやく袋を尻尾で絡み取り、そのままきつく締めて袋を破り、中の白い粉をシエル(とその姉)にぶっかけた。



「わぷっ」



 シエルがむせる。

 小麦粉をぶっかけられたみたいに真っ白になってしまったが、無事頭の炎は沈下した。



「ご、ごめんさいっ。私っ、弟のことになるとちょっとドジになるみたいで」



 同じく真っ白になった姉の方が、私に対し頭を下げる。

 礼儀正しくはあるようだ。



「ちょっと?」

「なによ。蛇の蒲焼にするわよ?」



 ギロリ。

 すぐに目つきが鋭くなって、立てた人差し指の先に、ポウッと小さな火の玉を出現させる。

 これが魔法か。



「ごめんなさい」


 とりあえず、ここは謝罪して穏便に済ませておこう。



「あんた……少しは話がわかるみたいだけど、だからってあんたを認めたわけじゃないんだからねっ!」



 と、火のついた人差し指を突きつける。あぶないなあ。

 それから、頬を膨らませてぷんぷんしながら去っていく。

 どことなく、ポンコツ姉の空気が漂っている。



「なんというか、強烈な姉だな」

「ごめんなさい。でも、スピカ姉さんは、普段は誰に対しても優しくて、面倒見もいい人なんですよ。ただ、僕のことになると過保護になりすぎるというか、その」

「わかるよ。シエルは天使だからなあ。私もシエルのお姉ちゃんだったら、悪い虫がつかないよう警戒するだろうな」

「悪い虫?」



 首を傾げるシエル。そんな仕草もいちいち可愛いなあ。子犬みたいだ。



「あっ、もしかして……シエルが村の外に出させてもらえないのって、スピカの過保護のせいだったり?」

「いえ……間違いとは言い切れないかもですけど、そうではなく……」

「あー……言いたくないことなら、無理に話さなくてもいいぞ?」

「いえ、大丈夫です。聡明で多彩な蛇神様にはいずれ見抜かれることでしょうし」



 聡明で多彩って、褒めすぎだろ。

 ちょっと強くて、神話に関係するスキルも使えて、蘇生だって出来ちゃう喋る蛇というだけだぞ。

 聡明で多彩だった。



「実は僕、呪いを受けているんです」

「呪い……?」

「昔、山で遊んでいて迷子になったことがあるんです。村の大人に発見してもらったんですけど、僕、地面に倒れて気を失っていたみたいで……その時呪いを受けて、こんなことに」



 ぺろん、と服をめくってお腹を見せる。

 やだ、えっち。


 と言いたかったけれども。

 おへそから胸にかけて、黒いひび割れのようなアザが浮き出ていた。アザの箇所だけ、ふさふさの毛が生えていない。



「僕が読んだ本によると、古代の禁術魔法による呪いらしいです。このアザは年々心臓に向かって伸びていき、心臓に達した時、僕は死ぬらしいんです」



 おいおい。心臓までって、あと10センチもないじゃないか。



「本当に呪いなのか? だって、今はすごい元気じゃないか」

「呪いで死ぬこと以外は、身体的影響はないそうです。アザの伸び具合からして、あと3、4年でしょうか。だから、僕には外の世界を冒険することなんて、できないんです」


 そんなの、ひどすぎる。



「そうだっ。王都に行けばっ、呪いを解除できる奴がいるんじゃないか?」

「解呪料は高いんです。とくに禁術になると、解ける人も限られますし」

「だったら、お前に呪いをかけたやつを捕まえてっ」

「僕、あの時のこと覚えていないんです。村のみんなも、不審な人物は見ていないそうですし、モンスターだって、先程蛇神様が倒してくれた蜘蛛以外、出没したこともなく」



 八方塞がりというわけか。

 だが、魔法によりかけられた呪いなら、必ず解呪する方法があるはずだ。


 そうだ、私のスキルはどうだろうか。

 今は自分の受けた毒しか無効に出来ないようだが、そのうち他者の受けた呪いも打ち消せるようになるかもしれない。

 なにせ、私はあらゆる蛇に関係する力が使えるようになるらしいし。


 それか、死んでまた別の蛇に転生すればいい。転生を繰り返していけば、呪いを操る蛇の神になれるかもしれない。

 いや、それはダメだ。

 地球の蛇から異世界の蛇モンスターに転生したのだから、次はまた違う異世界に飛んでしまう可能性もある。


 となれば――。



「シエル。この辺りに毒のあるキノコや草、虫、あるいは薬なんかはないか?」

「毒キノコならいろいろ生えているところ、知っていますけど。どうするんですか?」

「私、摂取した毒の耐性を獲得し、しかもその毒を素材に新しい毒を体内で作れるみたいなんだ」

「さすが蛇神様ですねっ」


「それで、な。毒調合と毒耐性のスキルを使っていけば、スキルのレベルが上がって呪いを解けるようになるんじゃないかと思うんだ。そうしたら、シエルの呪いも治せるかもしれない」

「本当ですかっ!?」


「まあ、保証はできないが……」

「そういうことなら、山中にある毒物をかき集めてこよう」



 うおっ。いつのまにか背後に村長がいる!

 こやつ、気配を消しおったなっ!



「いいのか?」

「いいもなにも、むしろお願いしたいくらいですじゃ」

「そうか。じゃあ、頼むわ」


 蘇生スキルを使ったからか、食ったばかりなのにもう腹も減ってきているし、な。


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