表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/112

第5話 ワーウルフの村と、神の存在証明

「蜘蛛のモンスターなんか食べて、美味しいんですか?」

「うまくはないが、他に食えるものもないしな」



 虫を食うことにも慣れてしまったけれど、だからといって美味い飯を食いたくなくなったわけではない。

 やっぱり、元々は人間なわけだし。ラーメンとか、ハンバーガーとか、パフェとか、そういう美味いモンの味は覚えている。この世界にそういう料理やスイーツがあるのかどうかはわからないが。



「ところで、さ。君の――あ、名前何だっけ?」

「シエルです」



 シエル。いい名だ。



「シエルくんの村はこの近くにあるんだっけ?」

「ええ、ありますけど」

「よかったら、案内してくれないかな。ほら、私、産まれたばかりで家もないしさ。こう見えてもちょっとは強いみたいだし、モンスターを倒したりとか、結構役に立つかもしれないぞ?」



 シエルがじっと私を見る。

 やっぱりダメかな。命の恩人でも、蛇だし。モンスターだし。しかも喋るし。不気味だよなぁ。



「もちろんです! 蛇神様は命の恩人ですから、お礼したいです!」


 ほらな。

 ――って、いいのかよ。



「ありがとう。けど、本当にいいのか? 私、モンスターだぞ?」

「モンスターではなく神です」



 なにその、どこぞのカードゲーム漫画に出てくる社長みたいなセリフ。



「はじめはみんなも驚くかもしれませんが、説明すればわかってもらえるはずです。住む場所がないのなら、おじいちゃんに相談してみますよ」



 その”はじめ”のタイミングでいきなり攻撃してくるとか、やめてくれよ?



「ちなみにおじいちゃんって、どういう人?」

「村長です。誰にでも優しくて、僕の一番尊敬している人です。あっ、蛇神様のことも尊敬していますよ。ど、同列1位ですっ」



 気を使わなくていいのに。本当に優しい子だなぁ。

 しかし、村長か。これはラッキーだな。村長に認められれば、村を拠点にすることは叶いそうだ。



「じゃあ、案内よろしく頼む」

「はいっ!」



     ★☆



 洞窟を出て、舗装された山道をまっすぐ下る。道中、私はシエルからこの世界に関する情報を集めた。


 この世界には獣人のほかに、人間やエルフ、竜人、ドワーフなど、ファンタジーらしい種族がたくさん存在しているようだ。そういった二足歩行で文明を持った知的生命体のことを総じて「人」と呼んでいるらしい。

 対して、魔物とかモンスターとか呼ばれるような存在は、魔力を持ち獰猛で人を襲う獣のことを指すらしい。野生の猛獣みたいな感じか。普通に猫とか犬とか、ペット系の動物もいるとのこと。

 案外、私の暮らしていた世界と違いはないのだろうか。魔法とかモンスターとか、そういう要素は除いて。


 ちなみに、今私たちがいる国は『アインアクア』といって、5大大国の一角なのだとか。



「シエルの村にはワーウルフしかいないんだよな? どこに行けば他の種族に会えるんだ?」

「王都に行けば、たくさんの種族に会えますよ。僕の村から山を下っていけば、半日ほどでたどり着けます」



 わりと近いな。

 大国の王都をみれば、この世界の文明がどれほどのものなのかがわかるだろう。この世界を満喫するために、一度調べに行きたい。

 問題は、蛇の姿で行っても大丈夫なのかということだが。普通の動物も存在しているのなら、喋らなきゃ魔物だとバレないか?


 いやでも、全長2メートルほどで、ピンクだしなあ。

 魔物じゃなくても、目立ちすぎる。



「王都にはよく行くのか?」

「いえ、僕は村から出たことがないんです。興味はあるのですが、おじいちゃんやお姉ちゃんが許可してくれなくて」

「そっか」



 まだ子供みたいだしな。1人で都会遊びをするのはまだ早い、的なやつだろうか。



「けど、いつか世界中を自分の足で旅して、いろいろな国をみたり、たくさんの人と友達になったり、してみたいんです」

「いい夢だな」

「だから、僕は普段から本を読んで世界のことを勉強したり、学んだことをノートにメモしたりしているんですよ」

「じゃあ、大きくなったら冒険に出るのか?」

「いえ……無理なんです。僕は一生、村から出ることはないんです」



 無理?

 それはどういう意味だろうか。



「そのおじいちゃんやお姉ちゃんが許してくれないってことか?」

「……」



 黙って俯くシエルくん。

 うーん、なにか事情がありそうだな。山の中を1人で出歩けている以上、監禁されているとか毒親に束縛されているとか、そういうわけではなさそうだが。

 ファンタジーらしく、なにか重大な使命を背負った巫女的な存在だったり?

 男の子だけども。まあそこは問題ではない。



「あっ、見えました。あれです。あれが僕の村です」

「ん?」


 シエルの指さす方向には、山を切り開いてつくられたような、小さな集落があった。家はレンガ造りだろうか。数は――1、2、3……40軒? となると、人口は100~300人くらいだろうか。



「僕が先に行って、おじいちゃんたちに事情を説明してきます」



 シエルが坂道を駆けだして、村へと入っていく。

 そうだな。いきなりピンクの大蛇が村に侵入したら、みんなを驚かせちゃうもんな。

 

 私は木々の裏に身を潜め、そーっと村の様子をうかがう。

 お、シエルが大人数人を連れて、村の入り口に立ったぞ。本当にみんな狼みたいな顔をした獣人だ。


 シエルは私を指さして、何かを言っている。

 実は私をだまして、大人たちに討伐させるつもりだったり……はないよな?


 シエルが両手をあげた。

 バンザイ? 違う、丸だ。オーケーという意味のポーズだ。



「蛇神様~~! おじいちゃんがぜひあなたに会いたいと言っています! こっちに来て下さーーい!」



 おそるおそる、全身をさらしてみる。

 シエルは笑顔だ。けど、両サイドの大人たちが顔をこわばらせて、鉄の槍を握りしめているんだが。

 本当にオーケーなのか?


 ずるり、ずるり。

 人の歩行速度で村に接近していく。


 白い毛並みとサンタクロースのような口ひげを生やした獣人が、一歩前に出た。



「もしかして、あんたが村長か?」

「そうじゃ。ワシはこの村の村長にして、シエルの祖父。シロウと申す」



 口調は穏やかだ。目元も、シエルに似て優しそう。



「えっと……シエル……君から、どこまで聞いてます?」

「お主がモンスターに襲われたシエルを、身を挺して助けてくれた、と伺っておる」

「じゃあ、その……」

「住処が欲しいとも聞いておるよ。お主の体に合う住居となると、今すぐ用意できるのは馬用の木小屋しかないのじゃが、それでもよければ貸すことはできる」



 十分だ。

 今までの転生ではずっと野宿だったからな。そりゃもう、野生の蛇でしたもの。



「しかし、その前に1つ確認をさせてほしい」

「確認?」

「お主がシエルの言う通り神だというのなら、なにか特別な力を持っておるはずじゃ。それを披露して、村のみんなを納得させてほしいのじゃ」



 ははぁ。そう来たか。

 特別な力といっても、私にできるのは毒の無効化、毒の調合、毒で相手を殺すくらいだ。

 蘇生もできるみたいだが、だからと言って、「今から蘇生スキルを披露するんで、1回毒で殺していい?」とは言えないよなあ。


 さて、どうしたものか。



「おじいちゃん、この方はモンスターに襲われた僕のケガを治してくれて、モンスターを退治までしてくれたんです。本当なんです」



 シエルのやつ、一生懸命に私の安全性を説明しようとしてくれて。すまない、さっきはちょっとだけ君を疑ってしまった。

 君はやっぱり天使だったよ。


 すると、村長がシエルの頭にぽん、と優しく片手を置いた。



「なにもワシはお主が嘘をついているとは思っとらんよ。シエルは聡明で、誰よりも優しい男の子じゃ。そのお主が言うのだから、このお方は本当に蛇神様なのじゃろう。しかし、ほとんどの者は、頭ではわかっていても、実際に目にしないことには納得できないのじゃよ」


 ああ、そういうことか。



「つまり、私が危険なモンスターではなく、心優しき神なのだとみんなにわからせて、安心させろということか」

「すまんの。蛇神様に対して大変失礼な申し出だということは理解しておる。しかし、この世には人語を操るモンスターもいるというからのう」



 人語を操るモンスターもいる、か。

 言い方からして、大半のモンスターは喋らないようだ。



「最も、お主が本当に危険で邪悪なモンスターだとしたら、この時点でワシは既に食われておるじゃろうがのう。ほっほ」



 ほっほ、じゃねえよ。年寄り特有の自死ネタは反応に困るからやめてくれ。


 

「まあ、そういうことなら力を見せるけど。実はこの世界に生まれたてで、まだ自分のスキルのこと、ちゃんとはわかってないんだよな。しかも、どうやら私に使えるスキルは蛇系のもので、毒に関するものが大半っぽい」

「ふむ。毒、か。なかなか披露させづらい力じゃな」



 そうなんだよね。

 へたに毒を吐いて木々を溶かしてみろ。やっぱり危険なモンスターじゃないか~~~、と怖がらせてしまうに決まっている。



「でも蛇神様、僕を蘇生させてくれたじゃないですか」

「蘇生? シエルや。お主、ケガを負ったという話じゃったが、一度死んだのか?」

「ええ。でも、今はピンピンしています」

「なんと。蘇生術ときたか……これはもしや……このお方なら……」



 もしやこのお方なら、なに?

 なんかのイベントフラグたてちゃった?



「では、こういうのはどうじゃろう。ワシがみなの前で、家畜の首を切り落とす。そのあと、蛇神様がその家畜を蘇生する」



 首を切り落とすって。

 家畜相手なら、私のいた世界でもおかしくはない行為だけれど。



「ちなみにその家畜って?」

「ニワトリじゃよ」



 おお、ニワトリがいるのか。

 じゃあ卵料理もあるのかな。オムライスとか、食べたいなあ。



「オーケー。どこでやればいい?」

「村の中央にある広場でどうじゃろう。そこなら、村人全員が集まれる」

「じゃあ、それで」



 こちらとしても、村人全員の姿をおがめるのはちょうどいい。この村で生活する以上は、ちゃんとみんなに自分の存在を知っておいてもらいたいからな。



「シエルよ。村のみんなに広場へ集まるよう声をかけていっておくれ。それから、お主たちはニワトリ小屋からイキのいいヤツを一羽、連れてきておくれ」



 村長に言われて、シエルと、槍を手にしていた大人たちが駆けていく。



「ではワシは、蛇神様を広場に案内しようかのう」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=710501439&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ