第3話 神話の力もスキルで会得
先手必勝!
私は素早く地面を這って、『紫雷の毒蜘蛛』の真横に移動し、腹部に横から噛みついた。
グサリ。
様々な蛇への転生を経て、強力にブレンドされた毒を注入してやる。
どうだ蜘蛛野郎!
まいったか!!
「…………」
じ~~~~~~~っ。
蜘蛛野郎が自分の横腹に食いついた私を見降ろしている。
あれ? 効いてない?
ぶわっ!
蜘蛛野郎が10メートルくらいの高さまでジャンプした。
空中で体をぶるぶると振るわせて、私を振り落とす。
背中から地面に叩きつけられた私に向かって、蜘蛛野郎は糸を吐きつけた。
「遅い!」
ごろごろと地面をローリングして、回避。
回避した先に、蜘蛛野郎が着地する。
がぶり。
噛まれた。
いてぇ!!
じわり、じわり、私の横腹が黒く変色していく。
この野郎、毒蛇モンスターの私に毒を浴びせやがった!!
なんだか妙に暑い。汗がとまらない。息苦しい。体の力が入らない。
強力な蜘蛛毒を受けると、激痛のほかに血圧上昇、呼吸困難、言語症、筋肉の硬直などに陥り、最悪死ぬという。
その症状が出ているんじゃね、これ?
やっべ、これ死んだかも。短い人生、いや蛇生だったが、どうせまたすぐどこかに転生する。
前の蛇生も落盤で死んだから短かったし。
ただ、次にどこに転生するかはわからないんだよなぁ。
ケモショタくんを助けに戻ることは、うん、無理だな。
すまん。非力は蛇を許してくれ。
《パッシブスキル『ウロボロスの抗体』が発動しました。体内に侵入した敵の毒を分解し、無効化します》
ん?
なんだ、この頭に響く女性のものらしき声は。
ぶぺっ。
蜘蛛野郎が私を吐き捨て、私は地面に転がった。
その瞬間――。
《『クモ毒耐性』『クモ毒改』を習得しました》
パアアア――という効果音を出しながら、私の傷口が白く光り、変色したボディが元の可愛いピンクに戻っていく。
息苦しさと体の熱さも感じなくなった。
ふおお!? 私、毒効かないの!?
「あああああ! ピンクの蛇さーーーーーーーーん!!」
しかし、そうとは知らず悲鳴をあげるケモショタくん。
あいつ、会ったばかりの私を心配しているのか。やっぱり、優しい奴だなぁ。
ううっ、泣けてくるぜ。
《ユニークスキル『ウロボロスの毒調合』を習得しました。分解した『紫雷の毒蜘蛛』と自身の毒を調合し、新しい毒を作成することが出来ます。実行しますか?》
うるせええええええええ!
さっきから何だこの声!?
今、そういう空気じゃないでしょ!
感動的なあれだったでしょ!!
《作成しますか?》
ああ、もうっ!
イエスだイエス!
なんだかしらんがやってくれ!!
《『蜘蛛毒』を習得しました》
ふおっ、マジで喰らった毒を覚えちゃったの!?
「よくもっ、よくも蛇さんをっ!」
あっ、馬鹿。あいつ、ナイフなんか抜いて何をする気だっ。
「うわああああああああーーーーーー!」
蜘蛛野郎に向かっていきやがった!?
ちょっと待てって、今復活しているところだからっ!
くそっ、声が出ねぇ!!
ガブリ。
ケモショタくんが噛まれた。
「うぎゃああああああ! 痛いっ、痛いっ、痛いいいいいいいい~~~~~~!」
蜘蛛野郎はケモショタくんの横腹を大きくえぐり取り、小さな体を吐き捨てた。ケモショタくんはびくんびくんと体を痙攣させている。
「お前っ! どうして私のためにっ!!」
ああっ、今頃声が出やがる!!
大慌てでケモショタくんのそばに這いよると、ケモショタくんが青ざめた顔で、微笑む。
「よ、よかった……無事なんですね……」
「私のことはいい! お前っ、どうしてモンスターで、会ったばかりの私のために立ち向かった!」
「だって……蛇さんは、僕のために、戦ってくれたから……」
うおおおおおおおおお!
こいつ天使かよ! なんっていい奴なんだああああああああああああ!!
死なせたくねえ!
回復魔法とか、ないのかよ!!
「蛇さん……にげ……て……」
「お、おいっ!」
ケモショタくんの目から光が消えた。
嘘だろおい!
《ユニークスキル『アスクレピオスの蘇生術』を使用しますか?》
だぁぁっ、うっせーぞ頭の中の声えええええーーー!!
今そういう空気じゃ――アスクレピオス?
人間だったころの私は、世界の蛇や蛇に関する神話に詳しかったらしい。
今の私の中にも、アスクレピオスに関する知識がある。
アスクレピオスとはギリシア神話に登場する名医のことで、彼の持つ杖には蛇が巻き付いていたらしい。なんでも、その杖は医の象徴とされているのだとか。
実際、神話の中でアスクレピオスは別の神を蘇生している。
つまり……?
「そのスキルって、どういうものなんだ?」
《ユニークスキル『アスクレピオスの蘇生術』。自身のすぐ側にいる死後30分以内の死体を完全な状態で蘇生させるスキルです。このスキルを使えば、獣人の少年は五体満足の状態で蘇生されます》
マジか。
私、いつの間にか一般蛇だけではなく蛇系の神話に関する力まで身に着けちゃったわけ?
「そういうことなら、実行してくれ!」
瞬間、少年の体が白い光に包まれた。
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