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第2話 習得済み毒の引継ぎと強化

 いやいや。

 まてまてまてまて。


 確かに、確かによ?

 転生といえば異世界よ?

 剣と魔法のファンタジー世界よ?


 だけどさ。今まで私、何度も何度も転生してきたのに、ず~~~っと地球上に生息する一般蛇だったじゃん。一般蛇ってなんだよ。

 とにかく、普通の蛇だったじゃん。


 いや、この際そこはどうでもいい。異世界に転生してしまったのだから、この事実を受け入れるしかない。その方が人生、もとい蛇生を謳歌できるから。

 私は異世界の蛇、私は異世界の蛇。オッケー、受け入れた。あるがまま、異世界蛇らしく楽しく生きよう。


 ともすれば、私のするべきことはなんだ?



 情報を集めることだ。

 私には人間だったころの記憶はない(知識はあるようだが)。だが、おそらくは考えたことがあるはずだ。

 


「異世界に転生して、チートスキルで人生勝ち組ルートにはいりてええええええ!」



 とか。

 どうやら前々々々々(中略)々々々は社会人だったようなので、出社前に



「あ~、部屋にトラックが突っ込んできて、異世界に飛ばされてぇ~。そうすれば働かないで済むのになぁ~」



 だの。

 考えたことがあるはずだ。


 喋る蛇とケモショタ犬獣人がいるのなら、エルフやドワーフだっているかもしれない。魔法があって、スキルがあって、空飛ぶ島や虹色に輝く空なんてのもあるかもしれない。

 わくわくするじゃないか。異世界、いい。すっごく冒険したい。

 ならいつ冒険するの?

 今でしょっ!

 

 となれば、情報を集めないと。

 一度異世界転生を果たしたのなら、次もこの世界に転生するかもしれない。



「君、この世界についていろいろと教えてくれないかな」

「ひいっ、た、食べないでくださいぃぃ~~~」



 あ、だめだ。完全におびえちゃってる。

 まあ自分よりも大きくて喋るピンクの蛇を見たら、普通はおびえるよな。

 反応から察するに、私の卵を何か別の卵だと勘違いしていたみたいだし。


 このケモショタちゃんは弱そうだけど、彼に通報されて魔法騎士や冒険者的な存在が駆けつけてきたら、私は討伐されてしまうかもしれない。

 それは困る。せっかくの異世界転生だ。謳歌したい。

 ならここは、ケモショタをぺろりとたいらげ――。


 なんてことはしない。

 私はおそらく、優しくておもいやりのあふれる人間だったのだ。

 子供を襲うなんて卑劣な真似、命令されてもやりたくはない。



「えっと……そんなに怖がらなくても大丈夫だよ? 私、悪い蛇じゃないよ?」



 舌を出してみる。

 てへぺろっ。

 あっ、ウインクできねえ。蛇って、瞼ないんだった。

 なが~~~い舌をちろちろさせることしかできん。



「ひいいいいいいっ」


 

 ほら、案の定怖がらせちゃった。


 

「ん~~と、どうしたら信用してくれるのかなぁ~?」



 尾の先を突き出してみる。握手のノリだ。



「し、絞め殺されるぅぅぅ~~~~~」



 ダメだこりゃ。

 ケモショタはしりもちをついたまま、ずるずると後ろに下がる。

 彼の後ろは崖だった。



「え? うわっ、あああああああ~~~~!」


 そのまま落下。



「バカっ!!」



 私は素早く地面を這い、後先考えずに崖下へ飛び込んだ。

 ケモショタのクッションになるべく、彼の尻の下にすべりこみ、そのまま数十メートル下の地面へ、ドシーン。叩きつけられた。

 はい、死んだ。


 死ななかった。



「いてて……。今回の体は結構丈夫みたいだな。さすがはモンスターってところか?」



 これなら、悪ガキに掴まれて、地面にビタンビタンと叩きつけられて死ぬ心配はない。

 そもそも体が大きいから、その心配は無用か。

 悪ガキどもめ、ざまぁ。



「あ、あの……」


 おっと、ケモショタを背中(?)に乗せたままだった。



「大丈夫か? 怪我はないか?」

「あっ、はい。おかげさまで」



 よかった。

 獣人だろうと、子供が死ぬ姿は見たくないからな。私、マジ優しい。



「あの、どうして、僕を……」

「人を助けるのに、理由なんていらないでしょ」



 使い古された言葉。

 私って、セリフ回しのセンスないなあ。



「本当に、怖いモンスターじゃなかったんですね」

 

 どうやら、信用してくれたらしい。



「だから言ったでしょ。それより、君はどうしてこんな危険な場所に来たの?」

「姉さんの好きなキノコエッグが、この洞窟に生えているんです」



 よっぽどお姉ちゃんが好きなのだろう。笑みを見せるケモショタ。

 なにこの可愛い生物、推せる。

 というか、キノコエッグって。

 なにその卵みたいなキノコ。

 それと私の卵を間違えたのか。



「この世界って、もしかすると魔法とかモンスターとか、普通にある感じ?」

「ええ、ありますけど」


 やっぱりか。

 わくわくがとまらないぜ。うひょーーーー!!



「でも、この洞窟にはモンスターが現れたこと、ないんです。なのにあなたがいたから、びっくりしちゃって」

「なるほど。ということは、君の住んでいる町――村かな? それはこの近くなのか?」

「はい。僕たちワーウルフの村は、この山の中にあります」



 ワーウルフね。

 ここは山の中の洞窟で、その村には獣人がたくさんいるってわけか。

 冒険の始まりらしく、最初は辺境の小さな村からスタートということらしい。


 とか考えている場合ではなかった。

 ケモショタくんの後方から、見るからに危険そうな毒々しい紫色の大蜘蛛が近づいてきているのだ。

 パッと見で、全長4メートルはある。私より大きい。



「ちょっと下がってて」

「え? あっ」



 ケモショタくんも、それに気づいたらしい。

 緩みかけていた表情が一瞬で恐怖の色に逆戻り。

 私は彼を背に隠すように、大蜘蛛の前に立った。



「あ、あれは紫雷の毒蜘蛛ヴォルト・スパイダー。ど、どうして……あんなモンスター、今まで現れたことないのにっ」



 お姉ちゃんっ子のケモショタくんを、こんな化物に殺させるわけにはいかない。

 人間の頃の記憶はなくても、魂に刻み込まれた言葉がある。


 ――てぇてぇものは護れ。


 よくわからないが、お姉ちゃんを想うケモショタの優しい笑顔が、てぇてぇというやつなのだろう。

 ならば護って見せようじゃないか。

 こう見えて私、ただの蛇ではないのだ。



 私が自分の「転生」について、知っていることは


 ①蛇にしか「転生」できない

 ②蛇の記憶を引き継げる

 ③前の蛇の毒を引き継ぎ、今の蛇の毒と融合させより強力な毒にすることが出来る

 ④身体能力も引き継ぐ


 蛇なのでわかりにくいのだが、私の体は転生を繰り返すほどに固く、そして速く地面を這えるようになっていく。

 崖からの転落でもほぼノーダメージだったことから、今の私はそうとう強くなっているはずだ。モンスターとしての体が頑丈なだけかもしれないが。


 なんにしても、強力な毒があることには変わりない。

 こいつで『紫雷の毒蜘蛛』なるモンスターを退治してくれよう。

 私は人間(獣人も含む)には優しいが、獣(獣人は含まない)とモンスターには厳しいぜ。


 ジャングルの奥地でも育ったことのある蛇の戦闘スキル、舐めるなよ~~~~~~!!


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