第1話 無限転生
はじめまして!
よろしくお願いします!!
ドチャッ!
トマトがつぶれたような音と共に、腹部に激痛が走る。
ぐえぇ~~……と、わめいたつもりの私から出た音は。
「シュゥゥゥゥ……」
空気の抜けるような低いうめき声。
視界が歪んでいく。体が冷たくなっていく。意識が薄れていく。
《対象の死を確認。スキル『無限転生』強制発動。ステータスの一部、全習得スキルと引き継ぎ、レベルをリセットします。次の転生先を検索中、検索中。ヒットしました。『ヨルムンガンド』への転生を実行します。個体データ、インストール中。完了。転生、スタート》
頭の中で、女性らしき声が響いたような気がする。
よく聞き取れなかったけど。走馬灯、だろうか。
ああ、視界がだんだん、暗く、暗く――。
――。
――――。
――――――――。
《転生が終了しました。おはようございます。新しい人生のはじまりです》
【名前】?
【性別】女
【レベル】1
【総転生レベル】128
【種族】神
【得意魔法】すべて
ううん……?
今、一瞬視界にレベルだの魔法だのという文字が浮かんだような――。
さて、ここはどこだ?
真っ暗で、ほんの少し暖かくて、窮屈なところ。
手は――動かず。
足も――ダメ!?
だが感覚はある。手足のではない。ぐにゃりと曲がった胴体が、固い何かに触れている感覚だ。
暗闇に目が慣れてくる。視界は良好だ。
さて、私の体は――。
ああ、手足は動かないのではなく、最初から存在しなかっただけか。かわりにあるのは、尻尾。
つまり、いつも通りだ。
これで何度目だろうか。
私は今、「蛇」だ。
細くて長くてぶよぶよの体を持つ、ヘビ亜目に分類される爬虫類。
トカゲとは親戚のような存在であり、それ故にしばしば神話の中では、「竜」として扱われることもある。
そんな「蛇」に、私は「転生」している。
名前?
そんなものは覚えていない。
いや、人間ではあった。確かに、最初は人間だったんだ。日本人だったと思う。性別は覚えていない。年齢もわからない。どうやって死んだのかだって記憶にない。だが、上司に謝罪メールを送るときの書き方のような、クソどうでもいい知識は残っているので、おそらく社会人ではあったのだと思う。
まあ、そんなことはどうでもいい。
問題は、今回も私が蛇に転生としたということだ。
ある時は砂漠のコブラに転生し、ある時はジャングルの奥地に住まう8メートル超えのニシキヘビに転生し、またある時はどこかの田舎の小さなシマヘビに転生し悪ガキどもに「せいやっ」と、地面に叩きつけられご臨終。
蛇って強いと思うじゃん?
実はそうでもない。一部の大型種を除き、子供の悪戯で死ぬくらいに脆い存在。
そもそも蛇って、基本臆病者なんだよね。
確か、前回の転生では洞窟らしき場所で産まれて、すぐに落石にあって死んだんだっけ。
その前も、洞窟の中で転落死だったっけ?
死んでも記憶を引き継げるのは便利なんだが、蛇にしかなれないんじゃ記憶の活かしようがないじゃないか。
毎回人間に転生させてくれれば、今頃は産まれながらの超天才として人生の成功者になっていただろうに。
ちくしょうめ!!
なんて気にしない。過ぎたことを気に掛けるより、今を楽しんだ方がお得だ。
そう、問題は今世。
察するに、私は今「卵」の中だ。なんの蛇に転生したかはわからない。
蛇は基本卵を産んで数を増やす生物だが、中には胎生といって、子を直接産む蛇も存在する。ボア科やクサリヘビ科がそうだ。
つまり、今の私はそれ以外の蛇ということ。
どうせなら動物園に飼われている蛇が良い。ニシキヘビあたりかな。死んでもすぐ転生できるとは言え、死ぬのは痛いし辛い。
天敵のいないぬるま湯のような環境で、ぬくぬくと生きさせてくれ。
「わっ、おっきぃタマゴ! これを持ち帰ったら、姉さん喜ぶぞーっ!」
ん? 男の子の声?
蛇の巣の近くに子供がいるとは考えにくい。なら、やはり動物園か?
あれ? でも、今持ち帰ったらって。
「よいしょっと……重いなあ……」
ぐらり。私の体がゆすぶられる。子供が卵を持ち上げたのだろう。
重いと言っていたが……はて。
私の記憶では、世界最長の蛇はアマゾン川に生息するアナコンダか、熱帯雨林などに存在しているアミメニシキヘビだ。
アミメニシキヘビは黒と黄色の模様が美しい蛇で、100kgを超える体重のものや全長990cmもの大型個体も確認されているという。蛇だけに、ヘビーだぜ。はい、今つまんねって思ったやつ。あとで噛みつきの刑な? 冗談だ。
話を戻して――アミメニシキヘビは、人間はおろか、ヒョウですら丸のみにされたこともあるのだとか。
産卵時には、多い時は100個以上もの卵を産むこともある。ということは、1個1個の卵はさほど大きくはないのではなかろうか。
「だめだ、重い」
ドスン。
うおっ。
軽い衝撃。卵が地面に置かれたらしい。
結構重い音がしたぞ。
おいおいおいおい。この卵、何キロあるんだ?
「やっぱり、これを1人で持ち帰るのは無理かな。これだけ大きな卵なんだし、目玉焼き20人前くらいにはなりそうなのに」
目玉焼きだって!?
こいつ、私を食べようっていうのか!!
私がアミメニシキヘビだったとして、人間の子供をとって喰う趣味はない。記憶がないとはいえ、元は私も人間だったからな。
だからといって、喰われてやるつもりもない。
かわいそうだが、ちょっと脅かして、お引き取り願おうか。
「うりゃ~~~~!」
私は卵の内壁に体当たりをキメた。
バキ!
パキパキパキパキィ!!
卵がくだけて、私が現れる。
そこは薄暗い洞窟の中だった。
完全な真っ暗ではないのは、岩壁にこびりついた苔らしきものが、青白く光っているから。
そして、私を食べようとした命知らずな少年は、赤黒い毛並みをした2足歩行の犬だった。
何を言っているのかわからないと思うが、私もわからない。
だってマジで、犬顔なんだもん。毛とか超ふっさふさ。服は着ているし、確かに10歳前後くらいの背丈なんだけど、尻尾があるし。
コスプレ?
いや、そういうレベルじゃない。
これはまさか。
「お前、獣人なのか?」
「しゃしゃしゃしゃ、しゃべった~~~~~~~!?」
子犬の獣人 (?)らしき男の子は、尻もちをついて私を指さした。
「おいおい。驚きたいのはこっちの方だぞ。だいたい、蛇が喋るわけ――」
あれ?
あれあれ?
「私、喋ってる~~~~~~~~~!?」
長い胴体を利用して、自分の体をじろじろと観察してみる。
人間の大人くらいのサイズはあるかな? もっとデカいか?
幼体でこのサイズは、かなり大きな部類だと推測される。
体の色は、ピンク。
ピンク!?
ああ、メスってことか。
そうなのか!?
長い人生、否、蛇生の中でピンクの胴体は初だ。
あ、まて。人間だったころに覚えたらしい知識として、ピンクの蛇のデータが脳の片隅にあるぞ。
アメリカ合衆国南東部に生息するコーンスネーク。こいつはまあまあの確率で、ピンクの体色を持つ変異が生まれるらしい。
そうか。なら私はコーンスネークの変異体に転生したわけか。
コーンスネークが喋るわけねえぇだろ!?
今の私が抱える問題は2つ。
今まで言葉を発することの出来なかった私が、何故人語を発せられるのか。
目の前にいるケモショタはなんなのか。
ふむふむ。まいったな。考えられる答えは1つしかねぇ。
「ここって、地球?」
「ち、チキュウ? な、なんですかそれ?」
やっぱりね。
私、異世界の蛇モンスターに転生しちゃってる~~~~~~~!?
☆★
誰だって、自分らしく、自由に楽しく生きた方がいいに決まっている。
自分のことより、まわりを優先しがちなケモショタ天使も。
弟が好きすぎて、時々ポンコツ化してしまう犬耳のお姉ちゃんも。
見た目は王子様風のイケメンだけど、実はロリコンで女の子な騎士も。
爆破癖のある、才能にあふれた幼女人形師エルフも。
みんなの笑顔が大好きで、本当は強いのに力を使うことを恐れる定食屋の竜娘も。
自分を恥じず、自分を押さえ込まず、自由に堂々と生きた方がいい。その方が、楽しいから。
これは、「死」から追放された蛇と、ちょっと変だけど根はすっげーいい奴らとの交流を描いた、自由と冒険と人助けと、あとなんかハプニングの物語。
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