倫理的問題
「トップページに掲載される重要性は理解したっス。じゃあ掲載に失敗したら、どうしたら良いッスか?」
まぁ、当然の質問だと思う。
先に説明した投稿方法は、上手くいった場合である。
サーバーの込み具合や回線状況によって、タイミングがズレる事は十分に考えられる。
そうでなくとも1分間10件以上の投稿が集中すれば、どんなにタイミングを合わせたところで、運任せのクジ案件となってしまう。
つまり掲載失敗は常に覚悟しておいた方が良い。
「あきらめろ」
「え~~~っ」
後輩は、あからさまに不満そうな顔をこちらに向けてきた。
トップページ掲載を狙うのは良いが、トップページ掲載に固執する事はして欲しくない。
ただ……
「正直、失敗をチャラにする手がないわけではない」
「おおっ!」
だが「私」は、その手段を取りたいとは思わなかった。
ここは黙っているべきか、教えるべきか……
失敗をチャラにする その方法は、少し考えれば誰でも思いつく方法なのだ。
だからこそ、あえて今ここで教えて、その行動に釘をさしておくべきなのかも知れない。
「絶対に使わないって約束できるなら、裏技を教えてやる」
「おー裏技ッスか! 良いッス。約束するッスから、教えて欲しいッス!」
軽いノリの後輩の態度に、軽い頭痛を覚える。
そして「私」は、重い溜息を吐きつつ口を開いた。
「トップページの掲載に失敗したら……」
「失敗したら?」
「投稿した作品(部)を削除して、もう1度投稿し直す!」
「え~~~~!!」と後輩が声を上げた。
別に この方法、トップページに掲載が失敗した時にだけ使える手ではない。
「タイトルで目を引かせる必要がある」と云う条件が付くものの、ひとまずトップページに掲載されれば、興味に駆られた新規読者はやってくるのだ。
ならば、投稿⇒削除⇒投稿⇒削除を繰り返す事で、トップページへの作品タイトルの露出時間を延ばす事は、新規読者獲得には、十分に有効な手法なのである。
「ただ、規約が許しても、倫理的にアウト!だと「私」は思うけどね!!」
実際、この手法を使って新規読者を稼ごうとしている投稿者は一定数いる。
その努力に見合った成果が出ているかは不明だが、少なくとも「私」が発見した中では、成果らしい成果を出せている投稿者はいなかったと思う。
「しかし、よく見つけたッスね。そんな投稿者」
「だって、トップページを確認する度にいるんだぜ。嫌でも目に付くよ」
中にはそう云う『削除⇔投稿』の無限ループを、夜中の3時近くまで毎日続けている投稿者もいた。
あれってボット作業だろうか?
もし手動投稿なら、ものすごい執念だなぁ……とは思う。
「けど それって、まっとうな投稿者の作品発表の機会を奪っているとも云える訳で……」
彼らがトップページを占領すれば、それだけ別の投稿者の作品露出機会は減るし、過剰な削除と投稿の繰り返しは、データーベースの負荷を増大させる。
こう云う事を続けるのか止めるのかは、その投稿者次第だけど、出来ればその努力を別のモノに振り分けてくれればとは思う。
彼らの努力と必死さが伝わってくるから「やめろ」とは云えない。
だから、これは あくまで希望だ。
「安心して欲しいッス! 自分は絶対に使わないッスから」
「そうか……♪」
たぶん「私」は嬉しかったのだと思う。
思わず可愛い後輩の頭をグァシッと撫でた。