ランク外投稿者の投稿術
「先輩! センパイ!せんぱーい!」
けたたましい呼び声と共に、古びた書斎のドアが「バン!」と開け放たれた。
お世辞にも掃除が行き届いているとは云えない室内。
そこに突如発生した突風は、積み上げられた本に うっすらと積もった埃を巻き上げ、チラチラと幻想的な空間を作り出した。
「うっさいわ!」
静かに読書を楽しんでいた「私」は、思わず手に持っていた書籍(鈍器)を、無粋な乱入者に向かって投げつけていた。
「あだっ」
飛来した書籍(鈍器)を両手と額で「ズバッ!」と受け止めた後輩は、涙目でその場に蹲った。
「ひどいじゃないッスか、せんぱ~い」
恨みがましい表情で額をさすりながら、こちらを見上げてくる後輩の顔をジト目で見降ろしながら、「私」は ぞんざいな態度で云い放つ。
「要件を云え」
これまでの経験上、後輩の用事が碌な事でないのはわかっている。
だが無視した所で、この後輩の鬱陶しさは続くのだ。
その事が痛い程わかっている「私」は、さっさと後輩の用事を片付ける事にした。
「これなんッスけど……」
後輩は そう云って肩掛けのカバンから書類の……いや、原稿用紙の束とノートパソコンを取り出した。
「それは?」
「ゴールデンウィーク中に書き上げた自作の小説ッス」
「んで、コレをどうしろと?」
手渡された原稿用紙を捲り上げながら、「私」は後輩に向かって訪ねる。
正直、こんな原稿をポンと渡されても対応に困るのだ。
批評して欲しいのか、推敲して欲しいのか、それとも挿絵を描いて欲しいのか?
……いや、それはないな。「私」に絵心はない。
「実は、その小説を「なろう」に投稿したいッス」
「ん、すれば?」
「私」は冷たく云い放った。
したければすれば良い。そもそも「なろう」とは「そう云う場」なのだから。
「せんぱーい、冷たいッス」
「だーっ!何なの?君は」
半泣きで擦り寄ってくる後輩にワイシャツの裾を引っ張られながら、「私」は思わず叫ぶ。
まったく! 後輩は「私」に、いったい何を求めていると云うのだろうか?
「先輩は「なろう」投稿経験者ッスよね?」
「!!」
こいつ、いったい何処で それを知った!?
そんな「私」の今の態度から確信を得た後輩は、「ニタァ~」とした嫌な笑みを浮かべて、こちらを見つめてきた。
「先輩の事だから、「なろう」に投稿する際に、色々と効率的な投稿方法を探して、アレコレ実験していたんじゃないッスか?」
図星である。
どちらかと云うと興味の本質は、そっちの方がメインだったとも云える。
「そのノウハウを、ちょろっと自分に教えて欲しいッス。巨人の肩に おんぶに抱っこッス」
「バカが! それを云うなら「巨人の肩の 上 に立つ」だっ!」
先人の積み重ねた発見に基づいて何かを成す。
人類の発展においては、欠かせない概念だ。
そして「私」の好きな言葉でもある。
ゆえに「私」の積み重ねてきた試行錯誤を後輩に教える事に抵抗はない。
どのみち持っていても死蔵されるだけの知識である。
「教えてくれ」と云われれば、教えるのは やぶさかではないのだが……
「しかし良いのか? 「私」は日刊ランキングにすら入った事のないランク外投稿者だぞ?」
「へ?」
後輩は間抜けな声を出して固まった。
後輩が何を期待しているのかは知らないが、少なくとも「私」は、大した成果もあげられなかった、鳴かず飛ばずの投稿者だ。
投稿した作品のタイトルは「俺の養女に手を出すな!」
おおよそ3か月の投稿で得た成績は、
総合評価 約100pt
ブックマーク登録 約30件
評価者数 約5人
である。
「……なんか微妙な成果ッスね」
後輩が哀れみの眼差しを向けてくる。
なるほど。
後輩にとって この成績は、十分に憐れむに値するモノと云う事か……
まずは、その考え方から矯正しないとならんようだな。
「……で、どうする? 「私」の話を聞くのか? 聞かないのか?」
「聞くッス。聞かせて欲しいッス」
「私」の言葉に、後輩は その居住まいを正して、そう答えた。
この知識がどれほどの役に立つかは不明だが、後人の力に少しでもなるのであれば良しとするか。
「私」は立ち上がり、後輩に向かって高らかに宣言した。
「ならば教えよう。ランク外投稿者の投稿術 虎の巻を!!」