追想
まだ勤め人の頃だった。鮮明な記憶。
日本中が数時間で変わってしまった日。
人間にはまだ人間の予測しえぬ事あり。
誰にも分からなかった。あの日のこと。
一変した夜。職場で一晩を明かした。
身を守るにはそれしか最善の方法がなく。
翌日、ようやく当時の住まいに徒歩で戻りニュースを付けたまま、信じられないその現実に静止しままになった。
その10年目。
朝を迎えた今日。
昨年より続く未知なる脅威は、収束どころか鈍く、遂に今までとは異なるものが拡大傾向になりつつある。
この前は10年前の余波が起こる。
しばらく眠ることが出来ずにいた。
あの日、妙な天気。暗いのか明るいのか何という色といった良いか、そんな黄土色混じりの灰色のような雲の広がる午後だった。
今年の今日は、あの時の色ではない。
いつものようにパンと紅茶の朝食。
それから、いつものデスクワーク。
合間に生活動作をいろいろ入れる。
15時からは明日の準備を整える。
整えつつ、様々なことを仕上げる。
あの日から、それまで自然に過ごしてきたいつもの暮らしが続くことに、より一層のありがたみを思うようになった。昨年からの時世の訪れで、その気持ちは倍以上に強い。
今日、取り寄せを申し込んだ新たな知識教養の本と昔の懐かしい作品が届くことになっている。
今宵の夕飯の後、開封するのが待ちどおしい。
生きているからには、命の活性化に励み精進したいものである。
改めて、静かに深く祈る。
生涯、忘れない、あの日。
緑茶の味をひとくち含む。
その潤いこそありがたい。




