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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

無能扱いされた実は万能な武器職人、Sランクパーティーに招かれる~そんな装備で大丈夫かと理不尽を突きつけられた挙句パーティーからも追い出されましたが、最強パーティーに入れてもらえたので結果オーライです~

初めて短編を書きました。

連載候補作になります。

連載する際はもう少し細かな描写を入れる予定です。


「アレン、お前は今日限りでパーティーを抜けてもらう」


 突然告げられるパーティーからのクビ宣言。

 冒険者をやっているならば、誰もが落ち込む瞬間だろう。


 でも俺にとっては痛くも痒くもなかった。

 そう……俺にはもう新たな道が既に用意されているのだから。




 ♦




 ――パーティー追放から四日前




「おいアレン! お前は何度同じことを言えば気が済むんだ! この無能クリエイターがッ!」


 そう怒号を飛ばしてくるのは俺の所属するパーティーのリーダー。

 名前はテリーさん。


 大柄で奇抜なモヒカンが特徴的な人で、大剣を愛用するC級冒険者だ。


「いきなりなんですかテリーさん!? 俺、なんか悪いことでもしました!?」


「どうしたもこうしたもあるか! また使えねぇ武器を渡してきやがって!」


「武器って……この前渡したヤツですか?」


「ああ、そうだよ!」


 一週間前、俺はテリーさんに武器を作るよう要望を受けた。

 

 そこでほんの二日前に彼が愛用する大剣ベースで新しい武器を渡したのだが、お気に召さなかったみたいで。


「今度は何がいけなかったんですか? ちゃんとテリーさんの要望通りに――」


「要望通りだぁ……? お前、本気でそれ言ってんのか?」


 本気だ、俺は冗談で言っているわけじゃない。


「確かに俺はテリーさんが言った通り、火属性に特化した武器を……」


「あれが特化した武器だと? 笑わせんな!」


 俺がテリーさんから頼まれたこと。

 それはとにかく火属性に特化した強力な武器を作ってくれということだった。


 彼が言うには、火を扱えることは強さの象徴だそうで。

 逆に今まで作って提供してきた水属性の武器などカッコ悪くて使えるかという暴論まで吐かれてしまった。


 あまりにもアホらしい話だが、本当にそう言ってきたのである。

 

 実際、前に新しい武器を作るよう迫られた時にも同じことを言われた。

 

 でも俺は諸々の理由で乗る気はしなかった。

 というのも属性武器はある程度適性を持っていないと扱うことが難しいからだ。


 残念ながらテリーさんは自分が忌み嫌う水属性に一番適性があり、逆に火属性は全属性でも一番適性が低い。

 要はテリーさんに火属性特化の武器を扱うことは難しく、武器自体の能力に呑まれかねない。


 だから俺は乗り気じゃなかった。

 人に合わない武器を提供するのはクリエイターが一番してはいけないことだからだ。


 しかし、テリーさんは一歩も引かなかった。

 そこで俺は今回でケリをつけようと、テリーさんが()()()ギリギリの装備を作った。

 

 それでも、テリーさんの欲求は満たされなかったみたいだ。


「とにかくだ! もう一回違う武器を作れ! 期限は三日後だ! 分かったな?」


「はい……」


 そして三日後。

 俺は再びテリーさんに新たな武器を提供した。


 今度は趣向を変え、テリーさんが扱えるよう大剣の剣体を細身にし、火属性特化の武器を作ってみた。

 剣体を細身にすることでその分、属性特化の方に回すことができるからだ。


 テリーさん用に調整するのにかなりの手間がかかったが、何とか仕上げることができた

 

(流石にこれならテリーさんも……)


 そう思っていた時期が俺にもありました。


 だが……


「おい。なんだこのガラクタは。そんな装備(ほっそいの)でモンスターと戦えんのか?」


「十分に戦えますよ。それに、以前の武器よりも属性に特化して――」


「なぁ、アレン。俺は言ったよな……?」


「は、はい……?」

 

 いつも俺たちが一堂に会するギルド内の酒場。

 周りは賑やかに盛り上がっている中、俺たちだけが険悪なムードを漂わせていた。


「俺が欲しいのは強くて火属性に特化した武器だ。分かるよな?」


「もちろんです」


「この武器が強そうに見えるか?」


「いや、それは使ってみないことには何ともいえな――」


「俺には分かんだよ! この武器は俺が求めているモノじゃない。てめぇ、あれほど言ったのにも関わらず手を抜きやがったな……?」


「そんなこと……」


 全くもってない。

 俺は至って真剣に作ったつもりだ。


 お前こそ、使う前からそんなこと分かるわけないやろがいッッッ!


 ……と一発言ってやりたいのだが、そんなこと言えるはずもなく。

 

「いいか! これが最後のチャンスだ。今度くだらねぇもん持ってきたら……そん時は覚えとけよ?」


「でも……これ以上強化したら扱いが……」


「づべこべ言うな! 作れって言ったら作るんだよ! 期限は明日の朝までだ。分かったな?」


「あ、明日……!? そんな無茶な……」


「うるせぇ! 朝までに出来てなかったら、てめぇの家まで押しかけてやるからな。覚悟しとけよ!」


「分かりました……」


 結局俺はその要求を呑まされることになった。


(ちくしょう……)


 こんな理不尽なことがあっていいのか。

 一度も使われることなく、ガラクタ呼ばわりされるなんて……


 周りのメンバーも見て見ぬふりだったし。

 ま、逆らえないんだろうけど。

 

「ごめんよ。お前はいつか大切に使ってもらえるような人に必ず渡してやるからな」


 帰り道。

 俺は自分の作った()()()を抱えながら、謝った。


 俺は自分が苦労して創り上げたものはみんな我が子のように思っている。

 クリエイターなら誰しもがそう思っていることだ。


 この剣だって勝手に地面からにょきって生えてきたわけじゃない。

 

 しっかりと人の手で、丹精込めて作られたものだ。


「なのに、あの男は……」


 思い出すだけでもイライラしてくる。

 今だったら、頬に一発くらわせるくらいはできる気がする。


「もういい。こうなったら、俺が作れる最高の武器を作ってやる」


 もうその人に合った武器とか関係ない。

 アイツが望むなら、作ってやろうじゃないか。


 適性諸々を完全に度外視した武器を……


「ま、どうせあのモヒカン野郎じゃ扱えないだろうがな」


 せいぜい武器の力に呑まれて、終わりだろう。


「はぁ……めんどくせ」


 扱えないことを知れば、俺は確実に怒りを買うことになる。

 場合によってはパーティーを追い出される可能性だってある。


 いや、可能性じゃないな。

 アイツのことだからほぼ確実だ。


 でもそんなことはどうでもいい。

 俺はあくまで要望に従ったまで。


 俺が責められる要素はどこにもない。


「一応パーティーを追い出された後のことも考えておかないとな……」


 半ば吹っ切れて、そんなことを考えていた時だった。


「あの~ちょっといいですか?」


 背後から聞こえてくる知らぬ声。

 でも俺は自分が呼びかけられていることに初めは気付かなかった。


「あの~! そこのお兄さん? ちょっと待ってください!」


 何だ? 話しかけられているのは俺か?


 周りを見るも俺以外に人はいない。


 ということは……


「俺のこと……ですか?」

 

 状況を把握し、後ろを振り返りつつも確認を取る。

 

 ……と、そこに立っていたのは銀色の美しい髪を持った美少女が立っていた。


「俺のことですかって……あなたしかいないじゃないですか」


「そ、そうっすね……あはは」


 勘違いだったら恥ずかしいことこの上ないので一応確認を取ったが、やっぱり俺のことだった。

 

 でも一言言わせてくれ……


(だれ、この美人……!?)


 一応言っておくが、知り合いではない。


 当然、話したこともない。


 そもそも、面識すら一度もない。


 というか、俺にこんな可愛いガールフレンドはいないッ!


「あの~どうかされましたか?」


「えっ、ああいや……何でもないです」


 どういうことだ?


 あ、もしかして何か落とし物でもしていたとかか?


「そ、それで……俺に何か御用でも……?」


「あなた、クリエイターよね?」


「え、あ、はい。そうですけど……」


 見た瞬間、クリエイターだと分かったのか?

 特に今は自分をクリエイターだと示すものは身に着けてないんだが……


 だが彼女はそれを聞くと、ニコリと笑みを浮かべた。


「やっぱり……! ということはこの人の可能性も高いってことよね? ね、カスパール!」


「か、カス……?」


 全く別の方向に顔を向けていたので、誰に話しかけているんだと思ったら――


「カスではないです。カスパールです」


「うわっ!? いつの間にそこに!?」


「ずっといたわ。リアナが貴方に話しかけたときからね」


 銀髪美女の後ろからひょっこりと現れるもう一人の影。

 今度は金色の髪に左に紅色、右に蒼色の双眼異色の瞳を持った美少女だった。


 服装は黒基調で重ねられた幾何学模様のレースにふわっとしたスカート。

 ネクタイで絞められた襟に、頭に白い花のついたカチューシャをしていた。


 見た目の個性はかなり強いが、こちらも相当な美少女だ。


(影はすっごい薄かったけど……)


「む、今私のこと影が薄いって思ったわね?」


「えっ……!? な、なんでそれを……!?」


 なんと心を見透かされる。

 まぐれだよな……いやでも……


 まさかの出来事にあたふたしていると、隣にいた銀髪美少女が説明してくれた。


「ああ……この子、人の心を読むことができるのよ」


「人の心を……?」


「そ。鑑定眼って言うんだけどね」


 鑑定眼。

 聞いたことがある。


 何でも人の中身を覗くことができる特殊な能力だと……


「だから、目の色が……あっ!」


 つい口に出してしまった一言。

 触れてはいけないことなのかなと思っていたので、すぐに撤回しようとするが。


「いいの。色々と言われるのはもう慣れているから」


「ごめん……」


 一言謝る。

 本人はそう言っても、流石にさっきの発言は軽率だったからな。

 

「それで、リアナ。話を元に戻すけど、この人の可能性というか私たちの探していたのはこの人のことよ」


「えっ、この人なの!?」


「間違いない。私の眼に狂いはないわ。眼だけに」


「「……」」


 あ、これは触れてはいけないヤツだな、うん。

 一瞬場が凍りついた気がするが……まぁ気にしないことにしよう。


 それよりも……


「俺を探していたって……どういうことですか?」


 ここまでの美少女コンビが俺みたいな冴えない男に何の用があるのか。

 会ってからすぐに抱いた疑問を聞いてみると、またも銀髪美少女が答えてくれた。


「実は私たち、パーティーに入ってくれるクリエイターさんを探しているの。パーティーに入ってから即戦力として活躍してくれるような人をね。でも中々見つからなくて……そんな時にカスパールが貴方を見つけたの。とんでもない能力を持ったクリエイターだって言って」


「はぁ。それで俺をパーティーに招待しようと声をかけた……ってことですか?」


「そゆこと!」


 ……え、どゆこと!?


 てか、俺がとんでもない能力を持ったクリエイターだって?

 

(どこ情報だよ、それ……)


 でもそういえばさっき俺を見かけたのはあの金髪の少女だと言っていたよな……?

 しかも人の中身を見れる鑑定眼を持っているし、もしかして……


「ほ、本当に俺にそこまでの能力があるのか? 正直、信じられないんだが……」


「貴方に自覚はないと思うけど、私の眼がそう言っているの。貴方の持つクリエイターとしての資質は計り知れない。私は今まで沢山のクリエイターを鑑定してきたけど、貴方はその中でも別格」


「まぁ……こんな感じでいつも無口なカスパールが大騒ぎしちゃってね。ここ数日、貴方を血眼になって探していたんだけど見つからなくて……で、今日ようやく発見して「やった~!」ってなって今に至るというわけ」


「な、なるほど……理解しました」


 未だに信じがたい話だが、嘘をついているようにも思えない。

 

 でもパーティーへの招待か……されたのは生まれて初めてだな。

 

 この際、もう乗り換えてもいいかもしれない。

 今のパーティーゴミだし(主にリーダーが)。

 

 でも勝手に抜けて他のパーティーに入れば後々面倒なことは明白だ。

 そうなれば、全く関係のない彼女たちを巻き込んでしまうことになるし……


 とりあえず、今は検討しておきますってことで返事をしよう。


「あの、とても嬉しいお話なのですが少し検討させてもらってもいいですか? 考える時間が欲しいので」


「だよね~いきなりこんなこと言われても困るよね……」


「それに自己紹介すらしていないんですよ。警戒されて当たり前です」


 すかさずカスパールさんのツッコミが入る。

 するとリアナさんがハッとした表情で。


「あっ、そう言えば自己紹介するのすっかり忘れてた! 私はリアナ、宜しくね!」


「カスパールです。よろしくです」


「アレンです。こちらこそ宜しくお願いします……」


 続けて俺も自己紹介を。


 というか、忘れてたのか自己紹介……

 

 なんかスムーズに話を進めてくるから、新手の詐欺か何かかなと思っていたけど、単にアホを発揮していただけか。


「よし、んじゃ自己紹介を済んだことでこれをキミに渡しておくわ!」


 小さく丁寧に折りたたまれた紙を渡される。


「これは?」


「連絡先と諸々の情報よ。もしパーティーに入る決心がついたら、そこに書いてある場所に来て」


「わ、分かりました……」


「それじゃ、前向きな検討をお願いね」


「失礼します」


 手を振るリアナさんに続いてカスパールさんも軽くお辞儀すると。

 二人は街の中へと消えて行った。


「なんかすごいことになっちゃったな……」

 

 そんなことを思いながら、俺は貰った紙をそっと広げる。


 すると……


「お、おいおい……嘘だろ!?」


 俺は一瞬、自分の眼を疑った。

 そこに書かれていた、とんでもない真実に。



 ♦




「間違いない……レイファールってあのレイファールだ!」


 帰宅して早々、俺のデスク周りはとある資料で埋まっていた。

 それはパーティーに関する記事ばかり。


 そこで俺は真実を知った。


「まさかあのレイファールにスカウトされるなんて……」


 【レイファール】


 王都にあるギルドの総本部に所属するパーティーで、パーティーランクは最上位のS。

 全てのパーティーメンバーがSランクで構成されており、その圧倒的強さと実績からついた異名が【絶対無敗】。


 誰もが知る有名パーティーの一角で、俺も名前くらいは知っていた。

  

 でも驚くことはそれだけじゃない。

 

 俺を誘ってきたさっきの二人組。

 名前は確かリアナとカスパールと言っていたが、彼女らこそパーティーの中で最も有名な二人。

 

 リアナは冒険者パーティー【レイファール】のリーダーにして、勇者級の実力を持っているとまで言われるSランク冒険者。

 そしてカスパールは万年に一度現れるとされる神眼の持ち主、全てを見通し、世界の災厄ですらも予見できると噂されるほどの人物だった。


「俺はその勇者レベルの人と神眼持ちにお誘いを貰ったわけか……」


 夢物語かよ。


 そうツッコミたくなる。


 未だに信じられない話だが、記事を見る限り、本当らしい。

 色々な記事に今日会った二人が写真付きで載っていた。


 まぁそんな感じで。

 衝撃の事実を把握したわけだが、まだ俺にはすべき決断がある。


 それは言わずもがな、パーティーに入るか否かだ。


 俺の決断はもちろん――


「入るに決まっているよなぁ~っ!」


 もう考えるまでもない。

 あの超有名パーティーからのお誘いだぞ?


 逆に断る方が失礼ってもんだ。


 聞けばSランクパーティーって物凄く待遇いいらしいし、とある友人の話によれば一生遊んでくらしていけるほどの金も手に入るらしい。


 もちろん、その分依頼の難度も跳ね上がるんだろうけど。


 あと、有名パーティーに入るとそれなりの箔がつく。

 当然、周りの注目も浴びるし、女の子にモテる……なんてイベントも――


 ……という妄想はここまでにして。

 とにかく、今のパーティーなんかよりは遥かにいいことづくめだ。

 

 ……いや、あんなのと比べるのは流石に失礼が過ぎるか。

 

 レベル的には天と地ほどの差があるからな。

 

 ともかく、これで今のパーティーに居続ける理由がなくなったわけだ。 

 

「武器だけ提供したら、俺から別れを告げよう」


 俺はそう心に決めた。

 でもその前に……


「あのバカ野郎がご所望の武器をささっと作るか」

 

 俺はやれと言われたことなら最後までやり通す。

 望まなくても一度頷いた以上、仕事を投げ捨てるようなことは俺にはできないからだ。


 今回の仕事はクリエイターにとっては外道もいいところだが、致し方ない。


 強気に出られなかった俺にも責任があるしな。


 その後。

 俺は徹夜漬けで武器を製作したのだった。




 ♦




 時は進んで、次の日の早朝。

 俺はいつものようにギルド内にある酒場へと向かった。


「はっ、まさか本当に一日で仕上げてくるとはな。職人バカは疲れ知らずってやつか」


 テリーさんは俺に会って早々、薄ら笑いを受かべてくる。

 

 流石にこの時は一瞬カチンときた。

 てめぇが明日まで作れって言ったんだろうが! と言いたくなるほどに。


 でもそれをやると余計に面倒なことになるので、必死に怒りを抑え込む。


「で、約束のものは?」


「ここにあります」


 布で丁寧に巻かれた大剣をテーブルの上に置くと、紐をほどく。

 

「ほう、中々良さそうじゃないか」


 今までない反応だった。

 テリーさんは俺の作った武器を手に取るなり、うんうんと頷く。


「気に入ってもらえましたか?」


「ようやく及第点ってところだな。ま、これなら使えないことはないだろう」


「そうですか、それは良かったです」


 いつにも増して偉そうな態度。

 見飽きて、もう何とも思わなくなったけど。


 ま、今更褒められたところでパーティーに残る気はさらさらないけどね。

 あとは昨日決めた通りに別れを――


「あ、そうそう。そう言えばお前に言っておくことがあったんだった」


「なんでしょう?」


 俺が問うと、テリーさんはニヤッと不敵な笑みを浮かべる。

 そして何も言わずに俺の肩にポンと手を置くと、


「アレン、お前は今日限りでパーティーを抜けてもらう」


「え……?」


 まさかの一言に思わず声が出てしまう。

 そして続けて……


「パーティーを抜けろって……本当に言ってるんですか?」


「ああ、本当さ。お前は今日でさよならだ。せいぜい一人で、頑張るがいい」


 勝ち誇ったような顔をして見下げてくるテリーさん。


 だが俺の内心は……


(マジか! よっしゃぁぁぁぁぁぁぁ~~っ!)


 最高に歓喜に満ちていた。


(向こうから言ってきたってことは正当にパーティーを抜けられるってことだよな?)


 初めは追い出されるか、自分から切り出すかの二択しかなかったから、これは嬉しい誤算だ。


 それにリーダーに止めろって言われたなら、それに従うしかない。


 俺は遂に、地獄から解放されるんだ……!


「へっ、いかにも絶望してるって顔だな。ざまぁないぜ」


「……」

 

 俺は終始下を向いたまま無言を貫いていた。

 顔を上げたら嬉しくてニヤけているのがバレるからである。


「はぁ~これでようやく邪魔者を門前払いできる。この際言わせてもらうが俺はな、元々クリエイターってやつらが好きじゃねぇんだ。戦闘に出るわけもでもなく、ただ武器いじりをしているだけで金を貰えるだからよ。レイナが後々必要になるからってうるさかったから、仕方なくパーティーに入れてやったんだ」


 ふ~~ん。


 正直、そちら様の事情は一ミリたりとも興味ないんだが……


 そう思いながら、俺は黙って話を聞いていた。


 あ、ちなみにレイナっていうのはパーティーの副リーダーであり、こいつの彼女だ。

 毎度毎度依頼の時にいちゃつきをかましては、他のメンバーに討伐を押し付ける最低カップル。


 あまりにも残念を極めるもんだから、殺意が芽生えた時もあったな。


「でもこうして納得のいく武器を手に入れた以上、お前はもういらなくなった。レイナには悪いが、今日で消えてもらう。異論があるなら今ここで聞くが?」


「……そうですか。分かりました。あ、異論は特にありません」


「ほう、随分と潔いじゃないか。今後自分を引き入れてくれるパーティーがあるかどうかすら怪しいのによ」


 残念、それがあるんだな~


 ……なんて。


 そんなことは言わないけど。


「今までお世話になりました、テリーさん。それじゃ、俺はこれにて失礼します」


 俺はテリーさんにペコリと一礼すると、背中を向ける。

 そして最後に……


「あ、そうそう。一応忠告しておきますけど、もし自分がその武器の能力に呑まれそうになっても、それは武器の欠陥ではないですので。そのことを心に留めておいてくださいね」


 こう一言だけ言っておくと、俺はその場から速やかに立ち去った。

 

 去り際にテリーさんは舌打ちをしながら、


「なんだ、あの余裕な態度は……気に食わねぇ」


 そう言っていたようだが、俺は気にすることもなく前に進んだ。

 

 それよりも俺は、これから待つ希望溢れる未来に心を躍らせていた。


「一応忠告はしたからな……」


 丁寧に文面で記した紙も入れておいたけど……


 この忠告は何も大袈裟なことではない。


 だがこの時のテリーは思ってもいなかった。


 自分の身に災厄が降りかかろうとしていることなど。


 もちろん、アレンの忠告など彼の心に響くことはなかった。



 ♦



「ここか、王立演習場ってのは」


 太陽がてっぺんに登り、街も人で賑やかになってきた頃、俺はとある場所にいた。

 昨日貰った紙に書かれていた場所だ。


「街の少し外れにこんな施設があったなんてな……」


 王立演習場。

 名前の通り、冒険者たちが訓練をするために作られた施設だ。


 国が資金をかけて建立させたのもあって、かなり充実した施設になっており、内部は沢山の冒険者で賑わっていた。


 ちなみにここに来るのは初めてである。

 というかこんな施設があることすら、知らなかった。


 そもそも俺は戦闘員じゃないしな。

 武器生成の訓練は家で出来るし。


「ここの3rdフロアだったな……えーっと」


 案内板を見ながら、目的地を探す。

 

 すると。


「あれ、キミは昨日の……」


 ちょうど目が合う一人の人物。

 その美しき銀髪は一度見れば忘れない。


 すぐに昨日の銀髪美少女だと分かった。


「あっ、リアナさん。こんにちは」


「こんにちは。えーっと……エレンくんだっけ?」


「アレンです」


「あ、そうだったそうだった! ごめんね、わたし人の名前を覚えるのが苦手で……」


「いえ……」


 昨日も思ったけど、少し天然入っているよなこの人。


「ここに来たってことは、決意が固まったということかな?」


「ええ、まぁ……」


「じゃあ、早速案内するよ! ちょうどこの上でいつも練習(トレーニング)しているから」


「お願いします」


 と、いうわけで。

 俺はリアナさんの後についていくことに。


「みんな、例のクリエイターくんが来たよ!」


 目的地の三階演習場に着くなり、リアナさんは手を振りながら大きな声で呼びかける。

 いたのは数人の男女。

 

 その中には昨日会った金髪美少女の姿もあった。


「お、君がパーティーの新メンバー候補!? めっちゃ若い子じゃないっすか!」


「予想外。もっと渋いおじさまが来るのかと思ってた」


 どうやら皆さん、俺の若さに驚いているようで。

 確かにクリエイターは若い人よりも少し脂ののった中年者が多いけど。


 でもまさかそこまで驚かれるとは……


「昨日ぶりですね、アレンさん」


「あ、どうも。えーっと……カスパールさんで合ってますよね?」


「はい。あと、私のことはカスパールと呼び捨てで結構ですので。口調も崩してもらって構いません」


「え、そう? じゃあそうさせてもらおうかな。宜しく、カスパール」


「はい、こちらこそ宜しくお願いします。アレンくん」


 なんかいきなり金髪ちゃんと進展した。

 するとその背後でニヤニヤする人物が。


「お、何か今日のカッスちゃんはやけに積極的っすね。やっぱリアナちゃんの話は――」


「黙っていただけますか、ガイルさん。あとその呼び方は止めてください。不愉快です」


「うほっ! こりゃまた辛辣なお言葉……」


「でも今日のカスパールは活き活きしてる。なんか嬉しそう」


「そうですか? 至って普通だと思いますが……」


「ふふっ、そういうのは自分では分からないものよ」


「はぁ……」


 盛り上がる会話。

 とにかくこの人たちの仲がとても良いということはよく分かった。


「あ、ごめんね。勝手に盛り上がっちゃって。俺はガイル、役職はガーディアン! みんなを守る壁役をやってるっす! よろしくっす!」


「私はシオン。ヒーラーをやってる。宜しくね」


「アレンです。こちらこそ宜しくお願いします」


 シオンさんにガイルさんか。

 二人とも良い人そうだ。


 前のパーティーで人選びがどれだけ大切かよく分かったからな。

 誘われたとはいえ、実際どういう感じなのかと思っていたが、心配無用だったみたい。


「ちなみに他にもあと二人メンバーがいるんだけど、今日は来れないらしいからまた後日紹介するね」


「あ、はい」


 あと二人もいるのか。

 ということは俺が加入することになると7人パーティーになるわけか。


 パーティーとしては大人数になるな。


「あの……ところで、リアナさん。俺がここに呼ばれた理由って……」


 わざわざこんな場所を選んだのには理由があるはずだ。

 普通にメンバーに紹介するだけなら酒場とかでいいし。


 まぁでも理由があったとしたら、大体の予想はつくけど……


「あっ、そういえばまだ具体的なことを話してなかったね。実はケレンくんをここに呼んだのはすこーしばかりテストをしたいなと思ってね。まぁ騎士団風に言うなら入団テスト的な感じ?」


「やっぱりですか。あと、一応言っておきますけど名前はアレンです」


 予想通りだった。

 ま、そもそもそれ以外考えられないよな。


 スカウトされた身ではあるが、相手は実力派の超有名パーティー。

 簡単に入れるわけはないとは思っていた。


 昨日はあまりの嬉しさにちょっと浮かれてしまったけど、冷静に考えればこれが自然だ。


 あれ? じゃあもしこのテストに落ちたら俺は……


「あっ、一応誤解のないように言っておくけど、今回の結果でスカウトを取り下げるなんてことはないから。そこは安心してね」


「えっ、そうなんですか?」


「うん! だって貴方はあのカスパールに選ばれた人ですもの。あの子、ああ見えて結構シャイでね。今まで人付き合いとかに全然感心なかったんだけど、君を見てから人が変わっちゃってね。パーティーに招こうって言い出した時は思わず椅子から転げ落ちるほど驚いたよ」


「はあ……」


「それにあの子の眼が選んだのなら、貴方の実力に嘘はないと思っているわ。実際にあの子が嘘をついたことなんて一度もないしね」


「そうです。私の眼に狂いはありません」


「わっ!? いつの間にそこに!?」


 俺のすぐ背後に忽然と現れる。

 昨日もそうだったけど、影の薄さも神レベルだと思う。


「ちょっと大袈裟な気もするけど……」


「いえ、大袈裟ではありません。貴方には計り知れないほどの才能があります。これだけは自信を持って言えます」


「そうなのかな……」


 自覚はないが、神眼とまで言われている子にここまで持ち上げられるなら本当なのかもしれないな。


「とにかく、今日はテストというよりも現状クリエイターとしてどれほどの能力を持っているか確認するためだから気楽にやってほしいってこと!」


「わ、分かりました」


「よーし、じゃあ早速始めようか。ついてきてジレンくん!」


「アレンです……」


 わざと間違えているのか、ガチなのか……

 

 いや、多分後者だなこれは。


 話していると、所々天然さが垣間見れるし。


(いつかは名前を覚えてもらえるように頑張らないと……)


 俺の中で一つ、目標ができた瞬間だった。




 ♦




「さて! んじゃあ、まずは準備体操からしようか!」


 元気よく体操を始めるリアナさん。

 俺は彼女に連れられ、同フロアにある演習場にやってきた。


 かなり広々とした場所で、ここなら剣を振るなり魔法を使うなり自由にしていいとのこと。


 というのも今日は貸し切りだそうで、俺たち以外に人が入ることはないらしい。

 流石は一流パーティー、やることがビッグである。


 まぁ場所のことはこれくらいにしておいて、それよりも……


「体操中のところ悪いんですけど、俺も体操(これ)やる必要あります?」


 体操を始めるのはいいが、俺はクリエイターだ。

 身体を動かすわけじゃないので、体操する必要はないと思うんだが……


「クリエイターでも体操は大事だよ! もし生成(クリエイト)している時にうっかり、クリエイト盤に足の小指ぶつけたりしたら大変でしょ?」


「確かにそれはあるかも……じゃなくて、それでも体操する意味ないじゃないですか!」


 とまぁ自分でも意味不明なやり取りをしたところで。

 いよいよ本題へと入る。


「セレンくん、クリエイター盤は持ってきてる?」


「ありますよ。あとさっきから何度か言ってますが、自分の名前は()レンなんで。そこんとこ宜しくお願いします」


 もう一周回ってわざとなんじゃないかと思えてきた。

 まぁ自分で人の名前覚えるの苦手って言ってたし、まだ初めて会って二日目だからしょうがないかもしれないけど。


 俺は予めアイテムボックスに圧縮しておいたクリエイター盤を取り出す。

 

 ちなみにクリエイター盤というのはクリエイターが武器・防具等を生成する時に使う魔道具のこと。

 分かりやすく言えば作業台だ。


 クリエイターの仕事は全てここから始まる。


「準備できましたよ。何を作ればいいですか?」


「えっとね、今回は一からじゃなくて、既存のものを改造してほしいの」


「既存のものと言いますと?」


「これなんだけどね」


 そう言ってリアナさんが手渡してきたのは何の変哲もない鉄製のロングソードだった。

 多分、その辺の武器屋で買ったものだろう。


 値札がついたままだった。


「これをどう改造すればいいんですか?」


「好きにしてくれて構わないわ。特に条件は設けない。貴方の持てる力でこれを良い剣に仕上げてほしいの。生成が終わったらわたしが試し切りするから」


「え、それだけでいいんですか?」


「うん! それだけでOK!」


 意外だった。

 能力を確認するってことだったから、もっとこう複雑な条件を提示されると思っていた。


 でもそれならお安い御用だ。


「分かりました。じゃあできたらお呼びしますね」


「うん、お願いね!」


 生成中の間、リアナさんには近くで待機してもらうことに。


(よし、じゃあまずは武器の解析からだな)


 一応言っておくが、クリエイターの仕事は武具生成だけではない。

 生成を始め、改造・強化・点検と武具に関する事なら全般的に受け持つのがクリエイターの仕事だ。


 その中で武器関連に特化したクリエイターと防具関連に特化したクリエイターと別れている。

 俺の場合は前者だ。


 もちろん、防具のこともある程度は扱える。


 今回行うのはその内の改造という仕事だ。

 強化と何が違うのかは既存のモノと全く別のモノにするかしないか。


 強化の場合は元の武器の能力を反映させつつ、調整していくが、改造の場合は根本から変えていく。


 そして改造や強化をする場合、共通してクリエイターがまずするのは武器の解析だ。

 その際はクリエイト盤に武器を置いて……


「≪ディスクロージャー≫」

 

 と、呪文を綴り、解析魔法を展開させる。

 

 この時に現状持つ武器の能力を数値化・言語化して最適な改造方法を模索するのだ。


「ふむ、能力は全て平凡だな。属性値もオールゼロだ」


 市販のロングソードだから当然ではあるのだが、一応調べておく。

 

「お次は……≪アプライズ≫」


 視線をリアナさんに向け、鑑定魔法を展開する。

 

 次に行うのは使用者のステータスを調べること。

 これはクリエイターにとって最も重要なことの一つで、使用者の特性を把握した武器を生成するには必須の工程だ。


(うわぁ……ま、マジかよこれ……)


 リアナさんのステータスを見た瞬間、俺は思わず声が出そうになった。

 

(全属性高数値って……こんなの今まで見たことない)


 大体適性属性と不適性属性とはっきり分かれるものなのだが、リアナさんにはそれがなかった。

 全てにおいて高水準でかつ、基礎的な能力も高い。


(これがSランク冒険者かよ……)


 次元が違いすぎる……


 俺は改めてその真実を把握した。


(このロングソードが耐えられるとこまで上げておくか)


 クリエイト盤に術式を加え、指でなぞっていく。

 武器の能力よりもリアナさんの能力が圧倒的過ぎて調整が難しい。


 というのも、能力値を上げ過ぎれば武器破損に繋がるからだ。

 人も無理をし過ぎれば身体を壊してしまうように、武器にも同じことが起きる。


 だから武器の能力と使用者の能力を照らし合わせながら、適切な調整しないとならない。

 クリエイターの腕の見せ所の一つだ。 


 その点、一から作る時はそれらを度外視できるから楽ではある。


「よし、最後は……」

 

 次が最後の工程、属性の付与だ。


 無属性武器の場合はこの時点で最終調整を加えて終了なのだが、今回は属性を付与してみようと思う。


 属性付与は自分の腕の向上にも繋がるからな。

 今回のような繊細な調整を必要とする場合は特に。


(属性は……氷属性にしよう)


 理由はリアナさんの属性値の中で一番高かったからだ。

 まぁ、ぶっちゃけどれも高いので何の属性にしてもいいんだけど。


 今回は一番高い数値に従うことにした。


「≪グラント=アイスアトリビュート≫」


 ゆっくりとゆっくりと。

 少しずつ属性を付与していく。


(くっ、基礎値を少し上げ過ぎたか……)

 

 基礎能力を上げ過ぎたからか、あまり属性効果を付与できなかった。

 とはいえ、属性武器としてはほぼ完璧なものができた。


 流石に特化型までは破損の恐れがあるので、できなかったが。


「……うしっ! 完成だ!」


 最終調整まで済ませ、完成。


 クリエイター盤から剣を取り上げ、天に翳す。

 

 個人的には中々いいものができたと思う。


 後は実際に使ってみてだが……


「あれ、もうできたの!?」


 ちょうどいいタイミングでリアナさんが戻ってきた。


「はい。できましたよ」


「早いね! まだ30分も経ってないのに」


「そうですかね?」


「うん! 普通改造は最低一時間でもかかるって、前にジャクソンさんから聞いたけど……」


「ジャクソンさん?」


「あ、前にうちのパーティーにいたクリエイターだよ。家庭の事情で今はもう止めちゃったけどね」


 なるほど。

 俺はその後任ってことか。


 でも一時間はかかるってのは初耳だ。


 能力等の問題で個人差はあるけど、改造なら誰でも30分くらいでやるもんだと思っていた。

 一時間あれば生成ができるぞ。


 まぁ俺は特にクリエイターの友達とか知り合いとかいないから、基準は分からないけど。


「もう使っていい?」


「どうぞ」


「じゃあ遠慮なく……………はぁぁぁぁッ!」


 リアナさんは構えることなく、一刀。

 剣を振りかざす。


 だがその瞬間。

 周囲に暴風が巻き起こり、剣を振った方向に氷波が形成。


 ガガガッと地面を抉り、遂には演習場の壁を突き破るほどの氷山が形成される。


(す、すげぇ……! これが……)


 Sランクの力か!


 圧倒的だ。

 あの一振りでここまで能力を引き出すなんて……流石としかいいようがない。


 俺は思わず震えた声で、


「す、すごいですねリアナさん! たった一振りでここまでの力を出せるなんて!」


「え? え、ええ……まぁね~」


 少し唖然としながらも、ニッコリ笑顔で返答してくる。

 だが彼女の内なる心は驚きで支配されていた。


(ど、どういうこと? ただ普通に振っただけなのに……たった一刀でこの威力って……)


 しばらく無言で佇むリアナ。

 それは外で見ていた三人にも影響を及ぼしていた。


「お、おいおい嘘だろ……」


「あれはリアナの力じゃない。まさかあの剣が……」


 若干顔を青ざめて見守る二人。

 だがただ一人、何も驚くことなくその一部始終を見ている人物がいた。


「ふっ、やはり私の眼に狂いはなかったようね」


 胸を張り自信満々なカスパール。

 ガイルとシオンもこれには言葉も出なかった。


 それでも、やっぱり一番驚いていたのは武器を使ったリアナ本人だった。


 カスパールの言う通りこの男の子の才能は、計り知れないと。


「り、リアナさん? 大丈夫ですか?」


「え、ああ……うん! 大丈夫よ!」


 ぼーっとしていたみたいだけど、大丈夫だろうか。


「あ、あの……それで、どうでしたか。俺のクリエイト能力は」


 一番気になるところはそこだ。

 俺はこのパーティーに入るに値するか。


 いや、実力的にはまだまだだろうけど。


 本当のところを知りたい。


 ドキドキしながら返答を待っていると、リアナさんは頭上に大きなマルを作った。


「もちろん、合格だよ! すごい能力だね! 今まで使った剣の中で一番使いやすかったよ!」


「ほ、ホントですか!?」


「うんっ! カスパールの言う通り、キミはすごい才能を持っているよ」


「あ……ありがとうございます!」


 嬉しかった。

 お世辞だろうが、なんだろうがどうでもいい。


 ただただ、嬉しかった。


 こんなにも褒められたのは生まれて初めてだったからだ。

 しかも冒険者の中でも頂点に立つ人にこんな嬉しいことを言われる日がくるなんてな……


「というわけで、これからも宜しくね、レインくん!」


「こちらこそ……宜しくお願いします! あと俺の名前はアレンです!」


 嬉しくて言葉が震える。

 そして握手を交わし、俺は正式にパーティーメンバーとして迎え入れられることになった。

 

 今日は、一生で忘れられない日になるだろうな……


 少なくとも、人生が変わった瞬間だということは間違いない。

 

 これからどうなるかは分からないけど、今は……


(この嬉しさを噛みしめよう……)


 そして目指すは、このパーティーに相応しいクリエイターになること。


 まだまだ先の長い道のりになるだろうけど、とにかくがむしゃらに頑張ろう。


 いつかみんなと肩を並べて、歩けるようになるために。




 ♦



 

 一方その頃。

 とあるダンジョンの深層部では二人の冒険者が大型モンスター狩りにやってきていた。


「えっ、あんたあのクリエイターを手放したの!?」


「ああ。アイツが今朝俺のとこに来て抜けたいって言ってきてな。俺は止めたんだが、全然聞かなくてな」


「そんなこと言って、あんたが辞めさせたんじゃないの?」


「まさか。流石の俺でもそんなことはしないよ」


 奇抜なモヒカン男とブロンド髪の女が会話をしながら、横に並んでダンジョンの深層部を歩く。

 その正体は言わずもがな、テリーとレイナだ。


「ところで、何でこんな場所に来たの? ここはA級の冒険者でも4人以上のパーティーを組まないと入れない場所のはずだけど」


「ギルドにちょっとした友人がいてな。絶対に公にしないという理由で特別に深層部入りを許可してもらったんだよ」


「でもなんでいきなり……」


「なんでって武器の能力をチェックするために決まってんだろ」


「それって辞めたクリエイターが作ってくれたやつ?」


「おう。ようやくあいつも俺の要望に応えだしてな。一応武器鑑定屋にも鑑定してもらったんだが、俺の予想を遥かに超える代物だったわ。これなら大型モンスターだろうが大型魔獣だろうが、俺一人でやれる」


 自信満々にそう話すテリー。

 だが、レイナは疑心暗鬼だった。


「強い武器を手に入れられても、あんたに使いこなせるの?」


「は? 逆に聞くが、俺に使いこなせないとでもいうのか? 俺は由緒正しきライファートの血筋を持った男だぞ?」


「それは……そうだけど」


 テリー。

 本名はテリー=フォン・ライファート。


 見た目に似合わず子爵家の長男であり、家は100年以上続く騎士家系の一角。


 父のベイク=フォン・ライファートは未だ現役の国家騎士の大隊長を務めており、テリーはそんな父に誇りを感じていた。


 そして彼には確固たる自信があった。

 才能溢れるオヤジの息子である俺にも当然同じ才能を持っているだろうと。


 まぁ実際はC級レベルなんだが、彼はそれに納得していなかった。


「これでもし俺が一人で大型モンスターを倒せれば、俺の株は急上昇だ。俺のランクは鰻登り、親父の顔もさらに際立たせることができる。一石二鳥じゃねぇか」


「うん……」


「ま、お前は黙って見ていればいいんだ。俺は今日、新たな伝説を作る。お前はその勇姿に立ち会える。最高じゃねぇか!」


「そうだけどさ……」


 レイナはどこか嫌な予感を感じていた。

 でも自信に満ちたテリーを止めることはできなかった。


 そして、遂にその瞬間が訪れる。



 GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!



 ダンジョン内に響き渡る咆哮。

 だがテリーは一切身じろぎもせず、鞘から大剣を抜いた。


「お、ようやくお出ましか。腕がなるぜ。おい、レイナ! お前は手出し無用だ。分かったな?」


「わ、分かった……」


 自信に満ちた剣先を向け、来る戦いに胸を躍らせる。

 だが、現実はすぐにテリーへと容赦なく遅いかかった。


 ……

 ……


「くそっ! どうしてだっ!? どうして攻撃が通らないっ!?」


 会敵して戦闘が始まってから早3分。

 テリーは早くも苦戦を強いられていた。


「バカなッ! この剣なら大型モンスターすらも一刀両断するって言ってたのに!」

 

 武器鑑定屋が言っていた言葉。

 確かにテリーの持つ剣にはそれほどのポテンシャルはある。


 あるのは嘘ではないが。


「ちくしょう! なら属性攻撃だ! くらいやがれ!」


 火柱を放つ体験を振り上げ、モンスターに向かって豪快に振り下ろす。

 

 瞬間に燃え盛る炎。

 だが適性の低いテリーにとってその炎を操るのには完全にキャパオーバーだった。


「うわッ!? なんだッ!? ほ、炎がッ!?」


 モノを伝って広がるように。

 制御不能になった炎は無差別に辺りを焼く。

 

 それはテリーも例外ではなかった。


「う、うわぁぁぁぁぁッ! れ、レイナ! た、助けてくれッ!」


 だが彼の叫びはもう誰の元にも届かない。

 何故なら、レイナはもうそこにはいないからだ。


「お、おいレイナ! ウソだろ……!? いるなら返事をしてくれ! お、俺を見捨てるのかよ!?」


 悲痛の叫びがダンジョン内に響く。 

 もちろん、その叫びは誰にも届くことはない。


「くそっ! 誰か……誰かいないのか!?」


 逃げ場はもう既に断たれていた。

 皮肉なことに、自分がまき散らした炎が行く手を塞いだのだ。


 それに反してモンスターは炎などもろともせずに向かってくる。

 テリーは自分に纏わりつく炎を振り払うだけで精一杯だった。


 モンスターはゆっくりとゆっくりと。

 テリーの息の根を止めようと近寄って来る。


 そして、


「やだ、死にたくないッ! こんなところで……こんなところでッ! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」


 これが、彼の最後の叫びだった。


 当然、アレンは今頃テリーがどうなっているかなんて知る由もない。

 

 むしろ、もう彼の記憶の中にはテリーの存在などすっぱりと消え去っていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

少しでも面白い、応援したいと思っていただけましたらブクマと広告下にある「☆☆☆☆☆」からのポイント評価をよろしくお願い致します。


下のリンクから過去作にも跳べますので、そちらも良ければ是非!

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― 新着の感想 ―
[一言] 是非とも続きが見たいですね!
[一言] 是非とも続きが読みたいです!!
[一言] 主人公がSランクパーティに受け入れられていく流れは良いと思うんですが、ざまぁを入れたいがために元パーティの死へのながれが雑すぎるかなと。 結果主人公が良い環境に入れること自体がざまぁなわけで…
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