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The Kingdom  作者: 春野隠者
ゴード暦527年 覇を統べる王4章
60/103

謀略の使徒23

 二人の踊りが後曲(デピュネ)の舞台を独占する。すべての耳目を集め、それを弄ぶように踊ってみせる二人にティザルは内心嫉妬していた。

 ウェンディの熱を含んだ視線。艶かし過ぎるそのしぐさ。思わず肘掛を強く握り締める。だがここで飛び出して彼女を奪い去るわけには行かない。今の自分は十貴族第一人者の地位にある。軽々に動いてはこれからの政治にかかわってくるだろう。

 ゆえに“クラウディの13番憂う胡蝶”が終わるのを今か今かと待ちわびていた。じりじりと内心を焼かれるような焦燥感。それに耐え無表情を顔に貼り付ける。

 鋭くなる視線の先には、常に踊る二人の姿を追っていた。





 しなやかに伸びるカルの手がウェンディを引き寄せ、その胸に抱く。舞踏とは分かっていても、心に爪をたてる不快感は消えてなくならない。まるで愛するものに身を任せるような迷いのなさでカルに体を預けるウェンディ。

 ティザルの我慢が限界に達しようとした時、音楽の余韻を切るような激しさで曲が終わる。カルがウェンディを抱き寄せた姿勢のまま、短く静止した。

 その姿勢のまま、ウェンディは何事かカルに囁くのをティザルは見逃しはしなかった。

 湧き上がる歓声と拍手。カルはウェンディの手を取って礼をしていた。舞踏会場を包む熱気に圧されるように、ティザルは席から立ち上がる。

 一刻も早く、彼女を取り戻したい。カル・スカルディアの手から愛しいものを奪い返さねばならない。そうしなければ、なにもかもが自分の手から奪われてしまう。

 焦燥、嫉妬、不安、交じり合う感情のうねりに胃がよじれる。

「流石はカスティーヤの舞姫」

 呟かれたフィクスの賞賛も耳に入らず、ティザルは立ち上がる。二階席の彼に向かって階下で挨拶をしようとするカルとウェンディを制して声をかけた。

「良い、この場へ」

 表面上は落ち着いて見えるティザルだが、内心は嵐にも似た激情が吹き荒れていた。

 一刻も早く、あの二人を引き離したい。彼女を自らの手に収めなければ、嫉妬に狂い死にしそうだった。

 階段を上る優雅な仕草さえもが、ティザルを苛立たせる。やっとティザルの前に立った二人は深々と礼をする。

「見事だった」

 胸の内から洪水のように溢れ出しそうな、感情を抑えてティザルが声をかける。

 無言で首を垂れるカル、そしてウェンディ。

「ウェンディ」

 呼び掛けられると同時に差し出されるティザルの手。僅かカルに目配せすると、ウェンディはその手を取った。

 腰に回したティザルの手が、ウェンディの体を引き寄せ、カルに向けた視線は氷点下よりも尚冷たい。

「さて、カル・スカルディア」

 ウェンディの体から立ち上る芳香を思うさま吸い込むと、ティザルは僅かに口元を歪めた。

「はっ」

 カルは片膝をついたまま深く首を垂れたままだ。

「見事な踊りの褒美を取らそうと思うが、まさか断るまい?」

 無言を肯定と受け取って、ティザルは口を開いた。

「我が国との国境に、隣国ポーレの軍勢が迫っておる。即刻おのが手勢を率いてこれを討て!」

 内心を押し包み、無言を通すカルに向かって更にティザルは言葉を続ける。

「ロクサーヌを震撼せしめた武勇、今度は我らがために奮ってもらおう……良いな?」

 念を押すティザルに、僅かカルは頷いた。

「はっ、お言葉のままに」

「もし、見事武勲をあげたならそなたの席次を引き上げよう」

 ティザルの中ではカルをウェンディから遠く引き離したいという一念と、カルを飼い慣らせると言う自信に満ちていた。夜会を通したカルの従順な態度、ウェンディを取り戻したと言う自信がティザルをして、カルの実力を過小評価させるに至っていた。

「彼に軍勢を預けるのは危険ではなくて?」

 ティザルの腕の中、彼の耳元でウェンディは囁くが、ティザルはそれに笑って頷いた。公式の場と言うこともあり色仕掛けは使えない。心の中で歯噛みしながらも、顔には嫣然たる笑みをたたえていた。

「承知しました」

 感情を伺わせない、さめた声で返事をすると、カルは立ち上がり自ら与えられた席につく。

「君と踊った他の者達にも褒美を与えねばな」

 ウェンディに笑いかけ、階下の貴族達へ言葉をかける。

「美しい花々に、感謝の恵みを。これよりは、無礼講とする」

 わっと湧き上がる貴族達に、ティザルは片手にグラスを上げて答えた。





 年若い娘を持つ父親は、彼女らを大貴族への挨拶に赴かせるのに余念が無い。無礼講となれば、普段は立ち入ることすら出来ない二階席に、堂々と立ち入れるからだ。運よく彼女らが大貴族の目に留まれば、栄華栄達は手にしたも同然だった。

 このティザルの処置に、もっと苦しめられたのはカルだった。周囲を若い少女らに囲まれてご満悦の他の貴族達に、心の中で罵詈雑言を投げつけ、鋭い視線を投げかける。

「スカルディアの御当主様」

「カル様!」

「一曲踊っていただけませんか?」

「あ、あぁ……」

 呼ばれるたびにカルの困惑と疲労は深まるばかりだ。戦場で恐れを知らぬカルではあったが、こと舞踏会には幼き頃より近寄りさえしなかった。理由は簡単で、一度だけ出た舞踏会で年上の婦人達に囲まれおもちゃにされてしまったからだ。

 婦人達にしてみれば、見目麗しい少年を鑑賞していたいという罪の無い欲求に従っただけなのだろう。だがカルにしてみれば全く面白くない。幼いながらもスカルディア家の次期当主だった彼は、矜持を大いに傷つけられ、それ以来舞踏会には極力参加しなかった。

 だが、この舞踏会での人気が彼に集中するのはもはや自明の理だった。

 十貴族中、首座にいるティザルの側には常にウェンディがいるし、それと並ぶ実力者のバトゥは既に酔いつぶれて正体が無い。残るミザークや、他の諸家についても、当主は皆老人の域に差し掛かっている。

 しわがれようとする男達の中にあって、ただ一輪。活力に満ち、未だ決まった婚約者の無いスカルディアのカル。もはや彼女らにとってカルは垂涎の的である。

 しかも、ロクサーヌ随一の美貌と言われるほどの美男子とくれば、カルの惨状は目に余りあると言っていい。

 カルとて、彼女らに罪がないことは分かっている。自分を苦しめる為にここにいるわけではなく、親の期待を背に、家々の命運を背負ってカル自身に挨拶をしているのは、当然分かっている。

 だが、それと自身の不快な気分とは全くの別物。それが分かっているからと言って、気分が晴れるなどと言うことは無い。精々引きつった笑みを振り撒くのが関の山だった。

 そのカルに、助け舟が入る。

「カル様、あちらにお食事の用意が出来ております。見目麗しい少女達との会話も愉しかろうとは思いますが、ミザークよりの心からのもてなし、是非お受け取りください」

 十貴族の家には生まれたが、表面上当主の重きから解き放たれているテクニアが、少女達に囲まれているカルを助け出す。

「それでは、お受けしよう」

 少女達の非難めいた視線と、敵意を一身に受けながらも爽やかに笑って流すテクニアに、カルは一万の軍勢よりも頼もしさを覚えたのだった。




「ティザル、私少し部屋で休ませていただきますわ」

 傍らの男に囁きかけて、ウェンディは席を立った。

「ウェンディ……」

 引きとめようとする彼に、悪戯っぽく笑うと耳元で囁く。

「あまり貴方を独占しすぎて、若い少女達の嫉妬を買いたくございませんの」

「私は別に」

 いいかけるティザルを遮って、再びヘルシオの妖婦は囁いた。

「もちろん、貴方の誠意を知っているからこそ、信じているからこそ出来ることですわ。ふふ、私の可愛いティザル。十貴族の主席ともなれば、下々の貴族の機微を推し量ってあげねば……では、失礼します」

 一人の女に固執しているなどと、下の者に思わせてはならない。そう思われてしまっては、小さき男だと評価を受けかねないからだ。そのために敢えて自分を離して男の大きさを見せなさい……ウェンディの言葉の意味に納得すると、ティザルはウェンディを手放した。

 ティザルの周囲に若い少女達が集まるのを背中で聞いて、ウェンディは退出する。

 向う先は、自身に割り当てられた休憩室。扉の横に控えるヘルシオの家宰が、視線だけで来客の旨を伝えるのに頷いて、ウェンディは扉を開けた。

「舞踏会は楽しめましたか? ウェンディ様」

 臣下の礼を取りながら、顔には無表情を貼り付けたヘリオンがそこにいた。

「ええ、従順でとても可愛らしかったわ」

 家宰が扉を閉めるのを背で聞いてから、ウェンディは嫣然と微笑んだ。快楽に溺れるように、とろんとした表情に誘うような甘い視線。並みの男ならすぐ彼女の前に陥落するであろうそれを見返し、なおヘリオンは平然と首を垂れる。

「それは重畳」

「何か望むものはあって? 私自身でも、構わなくてよ」

 濡れるような艶のある声。むせるほどの色香に、ヘリオンはただ首を振った。

「滅相もない。私ごとき下賤の者、ウェンディ様を望むなど恐れ多い」

「ふふ、口は達者ね。ちっとも、そう思っていない癖に……まぁ良いわ」

 瞳にちらりとよぎるのは、吹雪すら生温いと感じる冷えた視線。

「望む物を言いなさい、レイング家の安寧ぐらいなら、かなえてあげましょう」

 傲然とうそぶくウェンディに、初めてヘリオンは顔を上げる。

「では一つお願いが」

「言ってみなさい」

「私をティザル様にご紹介して頂きたく」

 ヘリオンの言葉に、ウェンディの目がスッと細まる。

「どういうつもり? 主を馬のように乗り換えたいなどと、よもや考えてはいらっしゃらないでしょう?」

 嫣然と微笑むウェンディはそのままだが、その視線は凍てついていた。

「しからば、申し上げますが……あの方は、カル・スカルディアを相手にするには些か役者不足かと愚考いたします。先程も、感情に任せて彼に兵を率いさせると宣言するなど、折角首輪をつけた虎を野に放つのと変わらぬ――」

「下級貴族が、大貴族の政治を批判するなどと、許されると思って?」

「……忌憚のない意見が、ご所望かと思いましたが?」

 自身の言葉に動揺しないヘリオンに、ウェンディは面白くなさそうに鼻を鳴らす。

「面白みがないわね」

「続きを話しても?」

 黙って頷くウェンディを確認すると、ヘリオンはさらに言葉を続けた。

「つまり、彼の影から全てを操りたい……そう仰りたいのね。随分な褒章だこと」

 常と変わらぬ甘い笑みを浮かべるウェンディ。対するヘリオンも、微動だにしない無表情で彼女の答えを待った。

「……いいでしょう。私の信望厚い貴族とでも紹介することにします。ですが、その先はあなた次第よ?」

「無論、いわれるまでもありません」

「自信家ね。でも嫌いではないわ、近々ティザルに会う機会を……」

 遠くから少女の絹を裂くような悲鳴が聞こえてきたのは、そのときだった。

 気だるげに、悲鳴の聞こえてきた扉の向こうを見やると、ウェンディは外に控える家宰に声をかける。

「どうなっているの?」

「はっ……それが、二階席でなにやら揉め事のようです。なんでもバトゥ様とカル様の」

「へえ、面白そうね」

 一瞬ウェンディの瞳に、無邪気な猫のような悪戯な光が灯ったのを家宰は見逃さなかった。

「ご案内を?」

「結構よ。迷うほどの屋敷ではないわ」

 歩き出すウェンディの背中に、深く頭をたれた。

 ウェンディが二階の貴賓席に戻った時、その場は以前として混乱していた。

 赤ら顔に、肥えた体を揺らしカルに向かって怒鳴り散らすバトゥ。背に少女を庇いながら、バトゥを睨み付けるカル。立ち上がったはいいが何もできない貴族たち、そして不愉快な表情で二人を見るティザル。

「なるほど」

 小さく呟いて、事件のおおよその見当をつける。そしてウェンディ自身が、もっとも力を発揮できる場所……ティザルの傍に向かって歩き出した。

「私の可愛いティザル」

 彼女はティザルの耳元でささやいて、そっと隣の席に腰を下ろす。

「ウェンディか」

 不愉快そうに眉を顰めながら、ティザルは一瞬だけ視線を向けた。だがすぐに対峙する二人の方に、視線を向けなおす。

「どうなさったの? 先ほどまでの穏やかな空気が嘘のよう……怖いわ」

 自身を抱きしめるウェンディに、ティザルは頷く。

「全くだ。君が作ってくれた穏やかな時間を、バトゥめとカルの小僧がぶち壊してくれた」

「何があったの?」

 お互いにしか聞こえないほど近く、で交わされる二人の会話。

「発端は今、小僧が庇っている少女をバトゥが手篭めにしようとしたことだ。抵抗したあの少女も愚かだが、そこに割って入ったカルはもっと愚かだ」

 視線を向ければカルの頬には、殴られた後がある。少女を庇った時に、もらったのだろう。切れた口の端からは、赤い血がわずかに滲む。

「ふふ……怖い人ねティザル」

「うん?」

 おそらく何も考えていないティザルに、ヘルシオの妖婦が悪魔の如き囁きをする。

「出来れば、バトゥを排除したいのでしょう? ロクサーヌ一の実力者になった今、同等の力を持つ貴族なんて邪魔でしかないものね」

「……あぁ」

 一瞬驚いたような表情を見せたが、ティザルもウェンディの言っていることはよくわかる。何度も繰り返されてきた権力闘争だ。負けたものは地位を追われ、勝った者は栄華を手に入れる。

「出来ればバトゥには、取り返しのつかない失点を犯してほしいものだ」

 だが、これ以上はなかなか難しい。後は剣でもとって決闘でも演じてくれれば、確実にバトゥのラストゥーヌ家は貴族達の信頼を失うのだが。

「ふふ……任せてもらえるかしら? ティザル」

「もちろんだ」

 微笑んだウェンディが立ち上がり、ミザークの次期当主に歩み寄る。満足の笑みを返し再びティザルは対峙する二人に視線を戻した。




「貴様っ、小僧! 俺を……愚弄するか!」

 あまりの怒りに言葉を忘れたかのようなバトゥ。その彼を見返し、カルは心中でため息をついた。

 カルとて、この場が半ば大貴族達が妾や妻を選ぶ場となっているのを知らないわけではない。少女達の親も、それを公認の上でここに彼女らを送り出しているのだ。

 一旦、テクニアのもてなしを受けたカルが、気が進まないながらも貴賓席に戻ってきたときに、事件はおきた。

 眠りから覚めたバトゥが不機嫌そうに周囲を見渡し、手近にいた少女の手を無理やりつかんだのだ。唖然とする少女に一言来いとだけ、無表情で言うと貴賓席を去ろうとするバトゥ。

 あまりのことに、少女の喉から悲鳴が迸った。

 それがカルの理性を沸騰させてしまった。脳裏に浮かんだのは、今はなき婚約者の姿。

 自身でも気がつかない内に、少女を握るバトゥの手を払い、少女を背に庇っていた。気がついたのは、怒りでわれを忘れたバトゥが拳を振り上げたのと、テクニアの悲鳴に似た声が同時に聞こえたときだ。

 おかげで一撃もらってしまった。

 全く問題ないとはいえ、バトゥ如きに触れさせるなど武人としてのカルは自責の念にさいなまれる。

「君、行きなさい」

 庇った少女に、瞬きにも満たない一瞥をくれるとカルはバトゥの前に立つ。バトゥの視線を真っ直ぐに見据えて一歩前に出る。

 あまりに堂々としたその態度に、一歩ひるむバトゥ。殴ってしまった後で、思い出したのだ。目の前に立つ少年は、つい先ごろまで戦場を縦横無尽に駆け回っていた凶暴な獣なのだと。その冷たい湖水色の瞳が、すぐにでも自身の喉首を掻き切ろうとしているかのようで、バトゥは背に汗をかいていた。

 しかしここまで来て引き下がれない。既に周囲の耳目の全てを集めて居るこの状況で、逃げるなどもってのほか。

 臆病者と謗られるのは目に見えていた。

「おやめください!」

 バトゥの危機を救ったのはミザークの衛士達の声だった。

「放せ! あの小僧、許せぬ!」

 自身の言葉が虚勢と知りつつも、だが演じねばならないバトゥ。体を抑える衛士を確かめながら、カルに向って手を伸ばす。

「カル様、こちらに」

 一方のカルは、一瞬だけ衛士の持つ武器に視線を向けるとすぐにバトゥに背を向ける。

「逃げるか、小僧!」

 バトゥの罵声を背中で聞きながら、側に駆け寄ってきたテクニアの案内に任せる。カルとしては、こんな茶番は早く終わらせてしまいたかった。

 目の前で醜く騒ぐバトゥよりも、心の中にいるルクの幻影に暗澹たる気分だった。





「本日はまことに、申し訳ありませんでした」

 既に夜は深い。月と星が照らす夜空を一度見上げて、カルは声の主に向き直った。

「君のせいではない」

 昼間からすればやはり芯と冷えた夜の空気。ミザークの豪華な玄関を出たカルに、深く頭を垂れたテクニアは陳謝した。

「それより、バトゥに絡まれていた少女……彼女とその家を守ってやってくれ」

「出来る限りのことをさせていただきます」

「では、世話になった」

 玄関の前に付けられたスカルディアの馬車。中には、既にヘリオンが控えていた。カルの馬車が見えなくなるまでテクニアは頭を下げたままだった。

「侍従長を、先の騒ぎになった家を調べよ」

 馬車が見えなくなり、あたりに静寂が戻る。テクニアは、傍らに控える侍従長に命を下し、厳しい顔つきのまま貴賓席に向った。




「ラストゥーヌの当主と諍いを起こしたそうだな」

「……あぁ」

 窓の外をのぞき、心ここに在らずという風のカルにヘリオンは眉をひそめた。

「なんだ、そんなに殴られたのが効いたか?」

「いや、二つほど思い出したことがあった」

 視線は以前窓の外、流れる夜景を眺めてカルは独白する。

「一つは守りきれなかった人のこと」

 敢えてヘリオンは沈黙を守る。

「もう一つはカスティーヤの舞姫のことだ」

「ヘルシオ家のウェンディ様か」

 虚ろな視線の先、今ではなく過去を追いかけるカルの瞳。

「ウェンディ・カスティーヤ」

 湖水色のその瞳が、実像を結ぶ。

「なぜ、今まで忘れていたのだろうな。私はあの人の踊りが好きだった」

 絶望に頭を抱え込んでしまいたくなるカルを他所に、未だ傷の癒えないロクサーヌの夜を、馬車は疾駆していた。


更新が遅れて申し訳ありません。

そろそろ、<謀略の使徒>も終わりが見えてきました。

誤字脱字などあれば、ご指摘お願いします。

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