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X-WORLD  作者: 向井 光輝
Season Ⅰ
1/3

Ep_1_restart

 ―――10年前、世界は一瞬にして豹変した。

突然、何の前触れも無く大音量を伴い視界が閃光に包まれた。

それからどれほど経ったのか、人々の視界が戻った時には世界は何もかも変わっていた。

人類の叡智の結晶である科学文明は(ほぼ)壊滅しており、大陸の形は変わり、海には新たな未知の大陸が出現した。

それだけに留まらず、物理法則が完全に崩壊しており、話している言語は違うが意味は伝わってくると言う到底解明不明な現象も多発している。

そして最も世界の人々を困惑させたのは、地球と違うルーツをもつ人々がいたことだ。

彼らは自分達が居た世界を『アルミラシオン』といい、現代では作り話の中でしか無いもの、架空の産物とされていた『魔術』を使う。

人々はこの現象を何かの因果により世界が統合されたと仮定し、それが広まっていった。

否、そう考える以外説明が出来なかった。

人々はこの大災害を『再構築』と呼んだ。

それから人々はお互いの持てる知力を結集させなんとか生きながらえている。

しかし、地球人とアルミラ人との対立は完全には解消されておらず、両方の人々が一同に暮す『境界都市』はまだ世界に数える程しか存在しない。

―――そしてそれから10年。

世界はある少女を中心に歪に動き出そうとしていた。




...その鍵となる少女は、

「おい!誰だよ!熊なんて楽勝って言ってた奴は!」

「さ、さあ誰だろう。ボ、ボクは知らないなー。」

クマに追われていた。

彼女は16歳程度と思われる魔術師のシオン、そしてその隣にいるのが同い年で剣士のエクスだ。

彼女等2人には奇妙な共通点があった。

記憶喪失孤児だったのである。

2人は10年前、『再構築』以前の記憶は存在しなかった。

しかし、記憶は無かったがシオンは地球の知識とアルミラの知識を少し、エクスはアルミラの知識を持っていたので気味悪がって誰も引き取ろうなんてあの混乱の時代では誰も思わなかった。

また、彼女等がいた地球人が言う『旧日本列島中部地方』は今や地球人との干渉を嫌うアルミラ人によって作られた『結界都市』となっており、エクスはアルミラ人と思われる容姿をしていたので良かったが、シオンは地球の日本人の顔立ちや黒髪だったので彼女等に対する風当たりも穏やかでは無かったのである。

そんな彼女等を見捨てなかったのは1人の神父だった。

彼は2人を快く受け入れ、2人に生きる為の知恵も教えた。

その有様はとても年老いた神父とは思えなかった。

そんな彼女等にとって親同然の神父は今から2年前に急死した。

結局彼が何者だったのかはわからず仕舞いだが。


そんな彼女等だが、今日はある依頼で熊を討伐しに来たのである。

熊と言ってもただの熊ではない。『再構築』によって凶暴化してしまった魔獣だ。RPGのモンスターを想像してくれると有り難い。

「大体、エクスが後先考えずに突っ込むからでしょ、こうなったのは。」

「う、うう...」

明らかに顔色が悪くなるエクス。

彼、実力と度胸はあるが、少々周りを見ないのが玉に瑕である。

「仕方ないな、まだ完全完成してなかったからあんまり使いたくなかったんだけど...」

シオンは右手に持つ自分の身長程あろうかという杖を翳し、呪文(スペル)を詠唱する。

Ich (我は)befehle(命ずる),Schießen()Sie(),Eisweiße (氷の)Klinge(白刃)!』

杖に大気中のマナが集中し、氷の槍が形成される。

その尖った切っ先が正面に堂々と居座る熊へと放たれる。

グサッ、と鈍い音とギィャッ!という熊の呻き声が周囲に反響する。

「......やっぱり凄いなシオンは。」

エクスは悔しそうに、だが感情を殺す様に言う。

この男、負けず嫌いなのである。

「ほらほら、ボーッとしてないで早く革剥いて肉もちょっととって帰るよ!」

そんなエクスをいざ知らずスタスタと倒れている熊に近づいてゆく。

シオンがある程度近づいたところで、空気が震える。

突然熊が立ち上がった。まだ生きていた。

「嘘ッでしょ!」

シオンは咄嗟に飛び退いて間合いを取る。

「仕方ないなぁ、まだ完全完成してなかったから使いたくなかったんだけど...」

と、先程聞いたような言葉を嫌味ったらしく吐いて、エクスが前進。

「...行くぞッ!『加速刃(アクセルブレイド)』!」

エクスの剣が微かに蒼白い光を帯び、刃が加速し、半円の軌道を描き熊の首を刎ねる。

「グギャルガァ!!」

「オラオラァ!まだまだだぜ!」

間髪入れずに追撃、傍から見ると趣味の悪い死体切りだ。

「ちょ、ちょっともういいでしょ!」

シオンが叫ぶが、その言葉がエクスに届く事は無かった。

何故なら......

轟音と凄まじい光が2人を襲った。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「!?何が起こった?大丈夫か?!シオン!」

慌てて辺りを見渡すエクス。森の中には目立った変化は無いようだが、

「う、うん。こっちは大丈夫でもこれって...」

「ああ解ってる。これは.......」

"あの再構築と同じじゃないか。"

という言葉を2人は飲み込む。

「さ、さっきの音、街の方からしなかったか?」

「そ、そうだね急ごう。」




































−−−−−−−−−2人が着いた時にはもう、何もかもが手遅れだった。

「そ、そんな...なにも、何も...残って無いなんて......」

「.........」

そこには街はおろか、何も無かった。いや、何もない空間が広がっていた。無がそこにはあった。

「いったい...一体誰がこんなことを...」

2人はただ呆然と立ち尽くす。

今まで育った街、徐々に受け入れ始められた故郷。

それが一瞬で消えてしまったことが2人には受け入れられないんだ。

「オヤオヤァ?騒がしいと思えば、何かいるじゃないかァ。

チミ達は一体誰なのかなァ?生き残り?只の通行人かァ?」

横を見ると今まで誰も居なかった筈空間に、全身黒ずくめの謎の人物が立っていた。

「...ッ!な、何者だ!オマエは!」

エクスが臨戦態勢で叫ぶ。

「おィ、疑問文を疑問文で返すなって、バッチャンに教わらなかったのかよ。一々騒ぐな羽虫共。俺様の時間を使わせるな。」

「何だよ!知りたいのはこっちだ!これは何なんだ!お前がやったのか!?答えろ!!」

それでもエクスは噛み付く。

「......ハァ。わかった、あい、分かりました。

テメー共は俺の質問答える気はサラサラない...と。

そうか...残念だなァ、ならば死刑だ。素直に答えてくれたら生かしておいてやろーかなーッテ、思ってたのにナー。」

そう、棒読みで言いながら片手で攻撃を放つ。視認出来ない。予備動作無しの攻撃だった。

「ぐあァッ!」

「シオン!!」

シオンが後の木に叩きつけられる。スピード、威力共に申し分ない。しかし、放った当の本人は、

「!?この攻撃を食らって実体を保ってやがる!?......ハハッ!これは少し楽しめるかもしれない......ゼ☆!」

「させるかッ!」

新たな攻撃が放たれる。エクスが空かさず受け止める。先程よりかは威力は少ないが、殺しきれない。

「ぐぁッ!」

「オイオイどうしたァ?こんなものかよ騎士(ナイト)さんよォ?

こんなもんじゃ後ろのヒメサンを守れねぇぜ?」

「まだだッ!1発当てた位で調子に乗ってんじゃねぇー!」

エクスが勢いに任せて剣を振るう。しかし大振り。隙が大きい。

エクスの攻撃はいとも簡単に避けられてしまう。

しかし男は反撃してこず只々躱すのみである。

「遅い遅い遅いィ!こんなもんなのかァ?騎士(ナイト)様の剣撃はァ?」

「まだッ、だあッ!まだだーッ!」

疲労とダメージもあってか、エクスの剣速は徐々に下がっている。

その剣を男は掴んだ。

「はァ。...少しは楽しめるかと思ったんだが、こんなんじゃ俺様を楽しませるどころか準備運動にもならねぇぜ?もう時間が惜しい。じゃあな、ヘボ騎士(ナイト)。」

男が攻撃準備に入る。これが、最初にシオンに向けて放ったものよりヤバイものだと本能でわかった。

「や...やめて......やめてーーー!!!」

攻撃が放たれる直前、シオンがエクスの目の前に飛び出して来た。

「!?」

(なんだ?シオンの杖が光って...)

次の瞬間、バァチィン!!と轟音がなったがエクスにもシオンにも目立ったダメージは見受けられなかった。

「?!一体、何が起こって...」

「あの攻撃をかき消し、そしてあの光..............ククッ、ハハッ、ハッハッハッッハ!そうかそうかそうかそうか!お前が新しい修復者(リメイカー)だったのか!なら俺様の最初の攻撃が防がれたのか納得だ!...ククッ、まさか俺様が最初に見つけることが出来るとは!」

男は態度を一変させ、狂ったように笑いだした。

「...はぁ..?なんだよ...修復者(リメイカー)って...おい、答..えろ...」

「はァァ?なに言ってるの?お前なんかには興味はねェ、」

そう言って男はシオンをじっと見つめている。

「俺様の目的は、お前だ。

大人しく殺されりゃァあのヘボ騎士(ナイト)の命は助けてやらなくも無いぜェ?」

「...ッ!訂正しろ!」

シオンは男を睨みつけるように言葉を続ける。

「エクスはお前が思ってるよりも、ずっと強い!ヘボくなんかない!エクスは...立派な騎士(ナイト)なんだッ!」

男は一瞬不服そうな顔をしただが、

「......ハイハイわかりました。

お前が命を差し出せばそこの立派な騎士(ナイト)さんの命は必ず助けて差し上げましょう。」

「絶対だな。」

「ああ。もちろんー。俺もあんな強そうな騎士(ナイト)さんと殺り合うなんて恐いからねー。」

そうするとシオンは少し考えた様な素振りを見せ、何かを呟いてエクスに向かって笑って見せた。

シオンは杖を投げ捨て、男の前に立った。

男が何か言おうとした直前、

「ダメだッ!!!」

エクスが立ち上がり男とシオンの間に立ち塞がる。

「なにがッ...強そうな....騎士(ナイト)だッ!女の子に守られる騎士(ナイト)が、あってたまるか!それこそ......最大の侮辱だッ!!

俺は、お前と戦う!たとえ敵わないとしても!負けてしまうとしても!俺は...お前が言った騎士(ナイト)のように、親友であるシオンを、守って死んでやる!!!」

「エクス........................」

暫しの沈黙が流れる。

それに耐えかねたように男が口を開く。

「.........もういい。

俺だって暇じゃないし、さっき街1つ消したから疲れてんだよ。」

男はさっきまでの雰囲気とは一変させ、威圧的に話しかける。

「や、やっぱり街はお前が...」

「黙れ。」

エクスの言葉を遮るようにただ淡々と述べる。

先程までの人を煽る様な口調がなくなり、それが1層男が自分達では敵わない絶対的な強者であるということを表していた。

「じゃ、さよならだ。せめて俺の暇潰しになれたことを光栄に思いながら死にな。」

男が構える。

本能的に分かった。

この攻撃は今までのどの攻撃よりも強い。

動け、動け、守るんだ、エクスを、私の力で守るんだ、

シオンは体を動かそうとするがびくともしない。

それはエクスも同様だった。

人は本当の絶対強者と対面した時は、許しを乞うことも逃げ惑うことも出来ないのだ。

























2人が死を覚悟したその瞬間、

男から放たれた漆黒の攻撃を一筋の光が防いだ。

いや、正確には受け流した。という表現の方が正しいだろう。

その光によって2人の金縛りは解け、何とか回避する事が出来た。

「......チッ、もう嗅ぎつけやがったか。......全く面倒な連中だぜ...」

男の顔が歪む。

少なくともこの光は男の味方では無いようだ。

「まだ戦いますか?

貴方が一撃必殺を好む典型的なパワー型、まして街を1つ消したすぐ後となればもう魔力は殆ど残ってないと思われますが。」

男のイラつきが更に増していくのを感じた。

「............ッたく分かったよ、今回は引いてやる。オイ、そこの2人名前はなんだ。」

名前を突然尋ねられて少し身構えるが、特に言わない理由もない。

「......シオン」

「...エクスだ。」

すると男は満足げに名前を何度も呟いた。

「シオンと...エクスか...

俺は破壊者世界統一機関(ブラック)幹部、盲目のハデン=ブライドだ。

今回は引き下がるが、お前達は必ず俺が殺す。

次会う時までにはせいぜい俺を楽しませれるようにはなっておけよ。クッ、ハハハハハハ!」

そう言い残してハデンと名乗った男は何処かに消えてしまった。

「...ようやく帰ってくれましたか。

とにかくお二人共無事で何よりです。」

と、先程の光...その正体は1人の女性だった。

がこちらに話しかけてきた。

「は、はい何とか...

ところで貴女はいったい...」

今のところ先程の一瞬で起こったことが多すぎてまだ頭が混乱している。

目の前の女性は一見敵では無いようだが、

今まで見た事の無い気配なので警戒はする。

「気分を害されてしまったのであれば申し訳ございません。私共は創造者(クラフター)と呼ばれる特殊な『能力者』なのです。」

『能力者』とは、この再構築が終わった後に誕生した地球にもアルミラシオンにもなかった特殊な能力の事である。

そう、ごく一般的に知られている超能力と言うものだ。

『能力者』も多種多様で念動力(サイコキネシス)発火能力(パイロキネシス)などが有名だが女性が言う創造者(クラフター)という能力はシオンもエクスも聞いたことがなかった。

「あ、あの、創造者(クラフター)とは一体...

それに、あの男は私のことも修復者(リメイカー)だとかなんだとか、一体......なんなんですか!」

とにかく今は分からないことだらけなのだ。流石の博識シオンでも知らないことだらけである。

「お気持ちお察し致します。

ですがそれを全て伝えるだけの時間は今の私にはございません。先程の戦闘でのダメージにより魔力が大幅に減少しこのホログラムを保てません。もう1度来たとしてもすぐに奴らがまた来てホログラムをブロックされてしまうでしょう。」

「「ホログラム?!」」

シオンとエクスが同時に驚く。

あの途轍もないエネルギー攻撃を彼女は実体でないもので受け流したのだ。

「シオン、エクス...

私共の拠点であるイースタルトX―Tまで来てください。

そこで私共は全てをお伝....え....る........おねがい.....ま...」

ザザッというノイズじみた音と共に女性は消えてしまった。

そきにはシオンとエクスただ2人が残された。







しばらくして、場の静寂を破ったのはシオンの一言だった。

「......ボク、イースタルトに行くよ。」

そう静かに決意を告げた。

「危険かもしれないし、あの人が言ってたことが全部デタラメかもしれない。

でも、ようやく見つけた記憶の鍵になるかもしれないピースなんだ。

ボクは、自分を、もっと知りたいんだ。」

真っ直ぐな瞳でエクスを見つめる。

たとえ付いてきて貰えなくても行くという決意の目で。

エクスは一瞬驚いた素振りを見せたが、

「そっか。じゃあ俺も行く。」

シオンが目を見開いて驚く。

「いい...の?」

「ああ、なんてったって俺はお前の騎士(ナイト)様だからな!」

そう言って笑うエクスの姿はいつもと変わらないはずなのになぜかとても頼もしく見えた。

......うん。もう大丈夫。

この先どんな困難が待っていたとしても、行き着く先に何も無くても、

2人ならきっと大丈夫。

シオンは何故だそう思えたのであった。


そうして物語(運命)は始まる。

これは世界の真実を探す物語だ。

これは少年少女が運命に挫折する物語だ。

これはその挫折を破壊する物語だ。

これは新しい世界を創り出す物語だ。

これは世界と人と神々の在り方を修復する物語だ。


もしもこれから先、耐え難い運命(Fate)が待っていようとしても、

今はただ一筋の運命(Destiny)を信じて少女は笑う。


「頼りにしてるよっ!騎士(ナイト)さん!」



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― 新着の感想 ―
[一言] 心がぴょんぴょんしますねぇ~。でも行間が長いです。1万文字近く書いてるんじゃぁ無いのかなぁ。ディスティニーに抗う人間は結構面白いですし、戦闘物となると興奮して、心臓がとまりませんよ~。僕は2…
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