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村人Aの野心  作者: 阿須斗路
3/4

村人Aと勇者

いつもと変わらぬ夜。

いつもと変わらぬ街並み。

いつもと変わらぬ人混み。


ただ、いつもと違う空気が流れているところがある。


その場所こそ、勇者の訪問宅、村人Aの家である。



「………」

「………」


勇者とエースは再び何も言えなくなっていた。


勇者は勇者で、自身の魔法が通じないことの意味がわからなかったし、エースはエースで、また俺何かやっちゃいました?状態なのだ。


暫しの沈黙の後、早く我に戻ったのは、エースだった。


勇者は今気が動転している。何が起こったのかはわからないが、逃げるチャンスは今しかない。

二階にある自室まで、走るしかない!


「あっおい、待て!」


勇者の声が背中から聞こえる。

幸い二階への階段は勇者と反対側にあったし、割と余裕がある。荷物を持って二階の窓から飛び降りることにはなるが、そうすればこの窮地を脱することができるかも…そう思っていた。


そう思っていたのだが。


「パラメータで、俺に勝てるわけが無いだろ。」


階段を登り切る間も無く、勇者に まわりこまれて しまった!

不意をついたにもかかわらず、階段の半分、踊り場で追いつかれてしまった。


圧倒的な窮地だ。


だがここで、エースの脳は光を見出す。

この勇者、パラメータは確かに常軌を逸しているが、メンタルが弱いのではないだろうか、と。


不意をついたとは言っても、ほんの一瞬。本当に神々の加護を受けたりしているのなら、階段など登る暇もなく、それこそ時間が止まったように回り込まれていたはずなのだ。

この勇者は自分の力を過信している。

それ故に、魔法が効かなかった時のショックが大きすぎて、スタートが遅れていたんだ。

さらに、もしかしたらこのタイミングで、何らかの事象で僕に魔法無効の能力が目覚めたのかもしれない。希望的観測もいいところだが、そう思うしかない。そう考えるしかない。

打開策は、それしかない!


「おい、勇者!」


「なんだ!」


「お前、本当に魔法を使えるのか?」


「は?」


「さっき、魔法を発動しようとして、俺に無効化されていたよな?神の加護なんてこれっぽっちも受けていない、平凡な村人Aに。」


「ちょっと調子が悪かったんだよ!もう1発打てば…!」


「まあ落ち着けよ、じゃあこうしよう。

持てる魔力の全てを使って魔法を打ってこい。それが俺に効くかどうかだ。単純だろ?」


「なんだお前、急に口調変えやがって。虚勢なんか張ってんじゃねえよ、ガキが。舐めてると潰すぞ!」


「やってみろよ!」


勇者は指先に全魔力を集中させている!


(かかった!)

勇者ならば、体内にある魔力も相当多いはず。

それを一度に放出するとなれば、かなりの溜めが必要になる。

勇者の脇をすり抜け、荷物を取り、こうなった以上、そのまま旅に出てやる!首を洗って待ってろよ!


「うおおおおおおおお!」


脇目も振らず走り出した。

すぐに勇者の姿は視界から消え、階段を登りきり、部屋のドアが見えた。どうやら電気を付け忘れていたようだ。

暗室になっている部屋の中からどうにか荷物をふんどり、そのまま窓から飛び降りる!


ばさっ。


家の生垣に着地した。

もしエース家に生まれていなければ、こんな贅沢なものが地面から生えているなんてことはなかっただろう。それでも痛いが、致命傷は避けられた。

降りる時に窓は閉めたし、魔法が効かないという僕の能力を考えれば、転移魔法でも使ったように見えたんじゃないだろうか。

あとはバレないように町の外に出るだけだ…。



自室の電気がついており、中に人影が見える。

勇者だ。

魔法が効かないといっても、動向には注意しておくべきだと思い、しゃがみながらも視界に自室の窓を入れる。

だが、特にこれといって怒ったり、悔しがったりもしていない。体を動かしていないのだ。

どうしてなのだろう。まあ何もしてこないなら警戒もクソもないか。

僕はホッとし、姿勢を低くしながら故郷を出て行った。







その頃の勇者は、愕然として動けていなかった。

自分の全力が無効化されたのだから。

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