村人Aの導入
村人Aの物語。今回は、その導入です。
「リオドの町へようこそ!」
みなさんお馴染み、村人Aの台詞だ。そしてこれが僕の仕事。挨拶とこの場所の名前を言うのが仕事なんだ。
僕は由緒正しきエース家に生まれた。この家に生まれた人は、村人Aへの就職を約束される。それは義務でもある。まあ、給料は良いし、割と自由だし、何よりラクなもんでこの仕事を嫌がる人はいない。
僕を除いては。
だって仕方ないじゃないか。年は今14。丁度血の気が増してきた所に、勇者が現れて、世界を救うとか言ってるんだから。そりゃ、憧れないわけがないでしょう。
そんな訳で僕は、勇者のパーティに入り、あわよくば2人目の勇者、とかになりたい。どうせ村人Aは楽な仕事で引く手数多だろうし、僕が辞めても魔王さえ倒せばさほど問題にはならないだろう。
魔王を倒した後は、もう村人Aなんてやらなくていいわけだから、仲間と一緒に祝杯をあげて、お姫様と結婚して、巨額の富をてにいれて、英雄扱いされて、それから…
「ねえ。」
かけがけのない仲間を作って、スキルもいっぱい覚えて、最強の武器防具とか装備して…
「ねえ!」
子供も勇者に育て上げて、また英雄扱いされて、銅像なんかも建ててもらえちゃったりして…
「ねええええええええええ!!」
「わああああああああああリオドの町へようこそおおおおお!!」
「あははっ、すごい驚き方だねー!」
びっくりした。こいつは幼馴染の魔法使いの卵、ユノだ。
「うるさいなあ。誰だって急に大声出されたら驚くだろ。」
「急ではなかったと思うけどね?」
「あ、もう少し前から呼んでた?」
「呼んでた呼んでた。まあ妄想してるんだろうなと思ってはいたけどね。」
「大当たりだよくっそ。でも、お前はお前でまた授業サボってるだろ。サボってなかったら今頃学校で授業受けてるもんなあ?」
「確かにサボってるけどさ、エース君だけ授業がないのはずるいよ!学習意欲に影響するよ!私も授業受けなくていいやって思っちゃうよ!!」
「考え方がおかしいだろ!それに、授業がないのは俺が好きでやってんじゃないってことくらい知ってるだろ?」
「知ってるけど、やっぱ納得いかない!」
というのも、このリオドでは、義務教育は幼稚園、小、中の12年間。ただし、親が武器防具屋、道具屋、宿屋などの重要職に就いている場合は中学校には進学できず、小学校で通学をやめなければいけない。
村人Aという職業も、この例に漏れていない。ちなみに、これは僕の友達が少ない理由になっていたりする。決して引っ込み思案だからとかいうわけではない。断じて。
一方ユノは、将来魔法使いを志望しており、専門学校に通っている。そのためまだ授業があるのだ。あるはずなのだ。が。まあ彼女の自由だし、これ以上何も言うまい。
「で、なんでこんな、村の入り口にまで来たんだよ。用でもあるのか?」
「そうそう。はいこれ。」
「これは…お守り?」
「そう。今日授業で習ったの。あなたにあげる。製作者の魔力に応じて効能が上がるらしいから、まあ私のお守りは、さしずめ神のお守りってところかな?」
「持ってたらかなり口が達者になりそうだな。」
「それも悪くないんじゃない?」
「良い点はあるか怪しいけどね。てかこれ、くれるの?」
「もちろん!明日誕生日でしょ?ちょっと早めのバースデープレゼントだよー。お誕生日おめでとう、エース君!」
「あ、ああ、ありがとう。」
くっ…可愛い。さっきお姫様がどうとか思ってたけど、負けず劣らずだと思う。小学校からの幼馴染ということでかなり仲はいいが、友人以上恋人未満の仲である。ともあれこのお守りは肌身離さず持ち歩くか、部屋に飾っておくとしよう。
そこからとりとめのない話をして1時間が経ち、昼間になった。2人とも昼ごはんはそれぞれ学校と家だし、村人Aの立場からすると人手が出てくる分忙しくなる。やがて解散しようという話になった。
「もうお昼だな。らちがあかないし、そろそろ解散にしないか?」
「そうだね。まあつぶあん派の立場を離れることはないけどね!」
「つぶあんこしあん論争から離れろって。もうお昼なんだって。」
「えへ、ごめんごめん。じゃ、私行くね。」
「うん。」
転移魔法の準備をするユノ。
「また明日とか、会おうね。」
「うん。」
「妄想もほどほどにね。」
「うん。」
「困ったら、お守り、使ってみてね!」
「うん。うん?え、お守りを使うってな…」
「じゃあね!」
消えた。学校へ転移したみたいだ。
使うものとなれば、部屋に飾るのはやめて、肌身離さず持っておこう。
置いていくのが惜しいとかいうわけではない。
いや、ちょっと惜しいかも。
初投稿ということで何かと至らぬ点もあると思いますし、あくまで趣味の領域なので続くかわかりません。それでもいいよという方は、ぜひ指摘、応援などよろしくお願いします。コメント機能があるかどうかすら知りませんが。