執事の休暇4日目
私は執事長を尾行する。執事長が復讐のために何かをしようと悩んでいるのがわかった。
何故なら……刺客を全員無慈悲に殺して行っている。
行動はこうだ。
先ず、顔を晒し尾行する者を引き連れて裏路地に行く。
銀時計を取りだし。一人1分の基準で狩るという。
銀時計を片手に指をパッチンとすると刺客はまっぷたつ。剣はお飾りのように抜かずに魔法だけで倒していく。
飛び散った血や。死骸を執事長は影に飼って居る番犬ケロちゃん(ケロベロスではないただのヘルハウンド。たまにフリスビーで遊ぶ)に燃やしたり食べさせたりしている。
黒い体に亀裂が走ったようなマグマの筋が脈動し。美味しそうにペロリと平らげる。
「………何をしてるのだろうか?」
執事長はしきりに銀時計を見ながら刺客を倒していく。たまに身ぐるみを探りながら……ゆっくりと歩くすると。
路地裏の影が蠢いた。
「!?」
その光景に腰を抜かし……尻餅をつくとなんと。影の中から何匹のヘルハウンドたちが執事長の影に飛び込んだ。
「……これで全部。次は何処行きましょうか?」
私にはわからない所で……すでに戦争は始まっていたみたいだった。
*
グローはその戦災な光景に息を飲んだ。真っ黒な死骸が積まれた広場の光景に。
看板にはこう書かれている。
~城の地下で亡くなった亡霊が復讐に来る~
「……」
奴のせいに違いないとグローは思った。しかし……地下で亡くなった人と言われ怖じ気づく。
「…………畜生」
看板を叩き割り。衛兵に撤去を言い渡す。国民は皆……ビクビクとしだすのだった。
*
私は……隠れながら広場の見える屋根にあがった。騒ぎを聞き見に行くとこれまた非道な光景が目に映る。
「おじさま……」
おじさまにしてはあまりにもあまりにも残酷で無慈悲な行為に背筋が冷えた。あまりの怒りの権化たる死体の山に昔のおじさまに戻ってしまうのではないかと不安になった。
「……止める?」
私が一言言えば復讐は終わるだろう。 命令すればいい。
「……」
だが、引っ掛かる。城の地下で亡くなったと言う言葉に。
「………ちょっと私の方でも探ろうか。もしかしたらあるのだろう」
予想が確かなら拷問室が地下にあるのだろう。現に力のある権力者は敵となる者を拷問したり牢に閉じ込めて使役する事はよくある。他の国でもやっているだろう。
しかし、それを表に出すか出さないかで差がある。
人徳、人権が尊重しますと言う国なら拷問なぞ御法度。私の国でもそう。御法度である。
まぁ……私たちの国は捕虜になった人はもれなく自国民になって一緒に剣を持つのでちょっと変に違うが。捕虜=味方になるが多すぎて多すぎて。変だが……
「そんなことより。この国は……どう言った国だったか……」
私は屋根を降りて屋敷に戻る。屋敷の兵数を確認するために。
*
「……刺客はこれで全てですね」
「昔より強くなった気がする……」
執事長は自分の影に飼っている番犬8頭に囲まれてベロベロと舐められる。ベチャベチャになりながら撫でてあげる。キサラギの霊が笑いながらその光景を眺めていた。
「えーと死にそうなほどに怪我したヘルハウンドを見つけたんですよ。この1頭が母親ですね。これが身籠ってしまいまして……気がついたらこれほど増えました。ヘルハウンドは雌雄同体らしく。マグマ等の熱量で増えていけます」
「………熱くないの?」
「ここの国民では熱く無理ですが。私なら涼しいものですよ。こら……噛まない」
ヘルハウンドたちは寂しかったのかこれでもかと執事長に押し寄せて黒い尻尾を振り回す。
「にしても……復讐は何処までにしましょうか?」
「もう二度と私のような犠牲者は出さないようにお願いします」
「……国民が立ち上がるなら考えます。芽は埋めました。花が咲けば転覆するでしょう」
「あなたが国を治めるのは……今でなら……」
「自分は執事長です。出来るのは精々執事のお仕事だけ……」
「執事長は楽しい?」
「……それはもう。幸せの毎日ですよ。キサラギさん」
執事長はヘルハウンドを戻しながら笑みを向ける。
「アモンお嬢様にお仕え出来ていますから。さぁ……もっと恐怖を植えましょうかね。きっとランカーが出てくるでしょうから」
ヘルハウンドたちでは倒せないレベルが出てくる事を執事長は予見する。もちろんそうなるのだが彼は余裕がある不敵の笑みで身構えるのだった。
*
「どういう事だ!? 刺客が全て殺されただと!?」
玉座の前で報告を聞いた王が驚いた声で聞き返す。
「はい……陛下……これはもしや我が国を転覆しそのゴタゴタのうちに攻めて来ようとする国外の工作ではないでしょうか?」
「……かもしれぬ。国民に疑惑を植え付け……反乱を起こさせるつもりかもな」
「諸外国はただいま新生魔国を連合を組んで攻めているため。兵は居ないと思われるのですが……」
「非参加国があるだろう」
「我が国と同じような国は4つほど」
「………とにかく早く終わらせよ。我が国は屈強な冒険者が多くいる」
「はい。彼等にすでに頼んでおります」
「では……」
「直にいい報告が出来るでしょう。お待ちください」
玉座の間に悪どい笑い声が木霊するのだった。
*
執務室で兵員の数を私は当たっていた。使用人含め50人だけである。
「やべぇ……めっちゃおる」
人員点呼票を見て驚く。料理人やメイド、執事なども入れる数で50人は小隊クラスだった。
普通なら50人で何ができると言われるだろう。しかし、新生魔国は人的が足らない。
足らないならどうする?
質で勝つしかない。だからこそ質の高い50人は多いと思ったのだ。
「父上、母上はいつかここの50人に破壊工作等をさせるつもりだったな……」
ずっと住ませているのがいいのかすでに怪しまれていない。
「……勝手に使っていいものか? それに……今は2面作戦中。こっちまで手が回らない。側近の遊撃隊も長期戦闘で磨耗してる。休ませなければいけない。それに少し飛び地………護るのも一苦労」
考えてみればあまりに欲しい土地とは思えなかった。
「うーむ……むむ」
「失礼します。紅茶をお持ちしました」
「あー置いといて欲しい。でっ? 白と黒」
「黒でした」
「あーあー」
執事に情報を調べさせた結果は黒だった。執事長はそれを確信しており。憤ったのだろうか?
「国民に疑惑の目があります。貴族の方も王に対する不振が募っています」
「へぇ~」
「そして。貴族の一人が私に接触してきました」
「……ん?」
「一応、冒険者でもありますから。友人で……執事長が行ったことを聞きました」
私は話を聞き驚愕した。会議で行ったことを聞き……復讐の理由が確信をもってこれだと言うのがわかった。
「執事長は仲間想いなんですね」
「昔のおじさまは仲間見捨てだけど……今のおじさまはスゴく仲間想いよ」
そう、執事の領域を越えて戦う事もある。いつもは手を出しませんと涼しい顔しながら。裏でこっそり助けるほどに。みーんな知らん顔してあげてるんだから。
「明日……何かあるかも。全員待機命令」
「かしこまりました」
私は身構える。休暇が終わる日に。