執事の休暇3日目
王国内の会議室に重鎮と新参が集まった。深い深い静かな深淵のようなドス黒い空気の中で顔をつき合わす。その中できらびやかな服を着た王が声を出した。
「ある冒険者ギルドの集会所にアヤツが現れたらしい。名をバルバロス・グランドレッドノート。過去にギルドの最高峰SSSランクを持つ。凄腕の冒険者だ。半分ほど新参者も居るだろうかから説明しろ」
王の側近らしい痩せこけた男が説明し出す。
「では、今現在SSSランクの冒険者は多くいます。では何故彼が危険なのかはご存知ですね。そうです、彼は初代にSSSランクを自称しそれがいつのまにか認められるほどの実力者であり創始者でした。何処から生まれたかわからない人物で……あまりにも傍若無人の振る舞いは皆を困らせる邪魔物でした」
側近がボロクソに貶し出す。
「とにかく。王国に仇を成す輩であり。命令されず使い勝手の悪い畜生でした。んっ?」
ボロクソに貶す中で一人の貴族が手をあげる。
「聞いてもよろしいですか?」
「なんでしょう? ローバ卿」
「彼が危険なのはしっています。しかし、何故国外追放を?」
「国民の支持が低く。尚且つ強かった。我々の支持も低く。依頼を文句ひとつ言わない奴でもないほどのくそったれだった。故に全員で団結して追放するために手を打った」
「我々の駒にならないからと言う事でいいですね」
「そう。それと……奴を追放した結果。国民の支持があがった。悪者としていい活躍をしてくれたよ」
「……そうですね。聞けば酷い男だった。しかし、私の情報網でも大概君たちを酷いですね」
場の貴族たちが一斉にローバ卿を見る。深い笑みを溢して発言する。
「地下の拷問室はまーだ現役でしょう? 心臓を捧げると良いことあるのですか? 悪魔でも喰いはしないですよ」
ダンッ!!
一人の老人が机を叩き指を差した。
「何を言っている!! 妄言甚だしいぞ!! この若造を追い出せ衛兵!!」
「狼狽えると。あると言っているようなものです。悪童バルバロスを追い込むのにある家族を犠牲にしたそうですね。キサラギ・ナイツ。家族は離散し……生きているそうですね」
旧き人物で皆が顔を変える。何故それを知っていると言った顔つきだった。
「別に悪童を追放はアイツが悪いです。しかし……その仲間の家族を脅し、自殺に追い込む事はどうなのでしょうね。拷問して殺したのはどうなのでしょうね」
「衛兵そいつをつまみ出せ!! 王の前での狼藉は許せん」
「その通り。我の前でその妄言!! 死に値する。首を跳ねよ!!」
「……王。あなたもですか……あなたも共犯か!!」
ローバ卿が立ち上がり。顔に手を触れた。すっと撫でると顔が変わる。そこに現れたのは若き執事長の姿だった。
「なに!? お前……誰だ!!」
「お忘れか旧き重鎮たち帰ってきたのだ。今日は顔をお見せだけで帰りますが……復讐はくだらんと思いましたが!!」
べちゃくちゃ!!
空間に切れ目が生まれテーブルの上に赤く濡れた肉が落ちてくる。テーブルの上の惨状に一部の貴族が悲鳴をあげる。
今日、死んだ人を転移させたのだ。
「いまだにおぞましい事をしている故に許さないぞ。お前ら」
執事長は叫ぶ。
「私は帰ってきた!! キサラギ・ナイツさんの復讐にな……悪童バルバロスが帰ってきたぞ!!」
衛兵がハルバードを持って背後に立とうとする。執事長は銀時計を持ち時間を見た。
チッチッチッチッカチッ
「ん……時間ですね」
シュン
衛兵のハルバードが空を斬り。執事長が居なくなった事に驚きながら周りを見た。
「何してる!! あやつを探し殺せ!!」
側近が叫ぶ。しかし……一部周りの目線が疑惑の目線となった。
「何してる!! お前ら全員、あやつが王を貶めようという狼藉だ!!」
その瞬間。疑惑の芽は埋め込まれるのだった。
*
城の尖塔の屋根の上に執事長は座る。隣の女性に聞く。白い透明な彼女はこの地に捕らえられていた。あの墓の前で。
復讐のために。
「……何年も前に亡くなっていただろう。牢屋には……誰もいなかった」
「ありがとう……そして……ごめんなさい」
「いいえ。悪いのは全て自分です。王にも逆らい、誰にも従わなかった私の落ち度です。回避できた事でしょう」
「……文句を言うならもっと早く改心して欲しかった」
「すいません……ですが。変われた切っ掛けも皮肉な事に君の死からでした。多くの方が私のための犠牲となったのですね……」
執事長は自分を攻め続ける。
「……ふぅ。昔より。丸くなりましたね」
「お嬢様のお陰です。何がよくなかったかを全て教えてくださり。執事として迎えて下さいました。今、思うなら同じように墓に入れと言いたいですが……恩を返しきってません」
「墓の前で言ってた。オオコさんの事?」
「違います。オオコさんは同………新しい仲間です。それも、キサラギさんのように凄くお強い人です」
「……妬けるなぁ」
「?」
執事長は隣を見た。
「私にもそう言って欲しかった。足で纏いばっかし言ってさー」
「すいません……本当にすいません。すいません……いや……すいません」
「でも。本当の事だった。追放まで足を引っ張った」
「……」
パカッチッチッチッチッ
執事長は銀時計を取りだして時間を見る。空を見ると彼は笑顔になった。
「にしても。今は清々しいです」
「どうして?」
「キサラギさんに出会えた。自己満足かもしれませんがそれだけで良かったです」
「……あっ。それは……」
彼女が気が付いた。銀時計に掘られている文字を。執事長はそれを優しい眼差しで見る。
「一時も忘れた事がないですから。もっと早く……もっと早く……気が付いていれば良かったですね。失った物の大きさを。あなたのその正義感は大好きでしたよ」
執事長の止まった時が動き出すかのように言葉を口にした。
「………うれしいわ。忘れてなかったのね。グローと大違い」
「彼は覚えてますよ? 墓で会いました」
「彼は墓に近付かなかった。懺悔もしない。何もなかったとして忘れようとしている」
「……」
「……」
執事長は眉を潜めた。もしやと思い口にする。
「彼も共犯……」
「……」
沈黙は肯定だった。そして……本当に執事長は悲しい表情をする。
「彼の方が……あなたを愛してたと言うのに」
*
私はヤバイ物を見た……あの執事長が復讐を始めている。尖塔の上で独り言をいい。まるで出逢った最初の頃のような容姿で眼下を見ていた。
しかし……途中から辛そうな表情をする。
声は聞こえないが。
その復讐は辛いものを思い出させている気がしたのだった。
「おじさま……」
私には何が出来るか……わからない。