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お嬢様専属執事長セバス。狐の亜人の側近オオコ。魔王候補お嬢様アモン


 私には悩みがある。ある日からお屋敷に働いている。お父様の執事の持ってくる縁談に辟易しているのだ。


「執事長………これは?」

「お嬢様。婚約者一覧で御座います」


 私の仕事は……変わっていた。仕事となのかはわからないが存在が仕事なのである。


 そう……私の国の姫様に当たるのだ。未来の魔王候補である。故に縁談が尽きぬのだ。我美人やし~


「これ……全部?」

「姫様が見られなかった物。全てで御座います。省かせて戴いた一部ですが」

「い、一部!?」

「他国からの貴族様たちも一度お逢いしてどうでしょうかと送られて来ます。返信はご安心ください。私の方で用意させていただきました」

「全部見ろと?」

「もちろん。見ていただいた物には姫様の国印を押してください」

「………」


 私は周りを見る。建物のようにそびえ立つ肖像画のはせられた本たち。部屋一杯に並べられている。


「うむ。これから四天王と打ち合わせが……」

「そんなご予定は御座いません」


 おじさまの手に何処から出したのかメモ帳が現れる。3冊、私の予定が記されたのとおじさまの予定が記されたのと側近の予定が記されたメモ帳が空中で開かれる。懐中時計を片手に……片眼鏡でメモを凝視する執事長のおじさま。


 すごく格好いい……昔と大違いだ。


「そ、側近と話が!!」

「側近殿はこれから私と会議……ご相談があるそうです。この前の事件を謝りたいのでしょう」


 エロ本を持っていった事件だろう……くっ!!


「な、なに!? あの売女め!! ぬけぬけと!!」

「お嬢様……」

「あ……ほほほ……私ったら何て汚い言葉を……ほほほ」

「……」


 カチッ


 おじさまは一睨みしたあとに銀の懐中時計を開けて中を見た。


「そろそろお時間ですね。では……お嬢様。昼までに帰ってきます。今日のご飯はドラゴンの唐揚げでございます」

「わぁ~い」

「お嬢様……」

「おっほん!! ええ、楽しみだわ」


 畜生!! なんで言葉使い!! 気にしなくちゃいけないんだ!! おじさましかいないだろ!! 


「では、また」


ブゥン


 おじさまは空間を切り裂き。のんびりした足取りで部屋を出るのだった。あまりの優雅な魔法にレベルの高さを伺い知れる。


「……ぺっ……適当に判押そ~どうせ見てないでしょ」


ガッシャーーーン!!


 私の真上に銀盥が落ちてきたのだった。






 チッチッチッチッカチッ


「そろそろですね」

「あっ!!」


 私は執事服を着た執事長が銀時計の蓋を閉めて私に向き直るのが見える。深いシワの笑顔が私の心臓に鐘を打たせた。


「執事長さま!!」


 金色の尻尾を持つ私はつい、抑えきれなくて尻尾を振ってしまう。トテトテと執事長の前に立ち。顔を覗かせた。


「お話があるそうでここでお待ちしておりました」

「ありがとうございます!! あっ……いいえ」


 私は会えた嬉しさで忘れていた。耳を閉じて謝らなければいけない。


「あの……すいませんでした」

「……なんのことでしょうか?」

「え、えろ本を好きだと勘違いした件です」

「いつの話でしょうか? もう歳ですかね……忘れてしまいました」


 ポンポンと私の頭を叩く。そういうことなのだろう。気にしてないと。この人に撫でられるのはすごく好きだった。


 私は若くないが……彼のように大人っぽくはない。だからだろうか……憧れる。


 執事長は手を離し、銀時計を眺めた。


 チッチッチッチッカチッ


「お昼時間ですね。これからコーヒーを淹れようと思います。ご一緒にどうですか?」

「いいですね~薄めのミルク入りでお願いします。姫様は?」

「使用人にお任せしております。仕事、事務は全て任せております故」


 彼の凄いとこを垣間見た気がする。管理がうまいために彼の仕事がないのだろう。そう……まるで存在が仕事のような人だ。


 そして……何かあれば……その場所へ誰よりも先に向かうのだ。


「それでは……ゲートを開けます。お先にどうぞ」

「ありがとう……本当に空間を繋ぐの上手いですね」

「褒めてくださりありがとうございます。オオコさん」


 私はゲートから漂う匂いでわかった。今日は唐揚げが昼に出る。


「この前のドラゴンですか!? 執事長!!」

「そうです。オオコさん。今日はしっかりと仕込みましたゆえ……自信作でございます」

「自信作!? これは期待の期待を期待して出来そう」


 語彙力乏しい私は自分で何を言ってるかわからなかったがゲートに飛び込んだ。






「ふふふ~」

「楽しそうね……オオコ側近」


 執務室で拒否の判子をペタペタと張る。オオコが今日は暇であると言うので手伝いに来てくれたが……今さっきから笑顔で癪である。


「執事長は優しいですね~」

「……厳しい」


 昼ご飯は使用人が持ってきてくれた。美味しい唐揚げで満足だったのだが……


「執事長は来なかった」

「緊急で屋敷を出て行かれましたから。私も今日は四天王たちに任せてますし~暇ですねぇ~」


 私はオオコが暇をしているのは実は良いことなのを知っている。軍部の四天王をまとめる役であり四天王が上手く機能しているよ言うことだ。昔は全くまとまりのない軍部だったが……オオコは上手くやっていると思う。


 群雄割拠の時代。父上も母上も前線で睨みを効かせている世の中でこうも穏やかな日は稀少だろう。


「……」


 稀少なのに……


「おじさま……何故に……」


 執事長がいない。怒られるけれど……いない方が私には辛かった。


「ふふふ~魔王さまに呼ばれましたからね~」

「母上が?」

「はい……フフフ」

「……今日は変だぞ。オオコ」

「よくぞ聞いてくれました」


 尻尾をブンブン振り回す。耳を立てて満面の邪悪な笑みを向ける。その顔で察する事が出来、私は苦虫を噛み潰した表情を向けた。


「執事長とお昼は一緒でした」


バチバチバチ!!


 右手に魔力を流し込み吹き飛ばす準備をする。


「姫様……そんなことをすれば怒られるだけではなく嫌われますよ?」

「う……うぐ。命拾いしたな!!」

「まぁ……その。私の説教されるの嫌なので挑発はしません……」


 過去、殺し合った事があり、同時におじさまにこっぴどく叱られた事もある。


 喧嘩内容は恋敵での事だった。


「お昼……一緒に食べたかった……」

「おじさまが珍しく食べてましたね。いつもはいつご飯をいただいてるのかわかりませんから」


 そう、おじさまは神出鬼没なのだ。タイムウォークと言うのか。銀時計でいつも時間を見ており。時間通りに動く。


「にしても……休んでる日はあるんでしょうか? 不安です」

「……勤続もう3ヶ月だよね」


 記憶が確かならだが。私たちは体調を不安がる。屋敷の使用人も外の民も皆がそこは心配していた。実は何をしているかも皆は知らなかったりする。


 ただ、庭の剪定をしていた。ただ、城の外で魔物を倒した。ただ、勇者を撃退した。四天王の相談に乗った等々。国の至るところでおじさまの目撃情報があり。その、神出鬼没のお陰か不正はなくなりつつあり~予算案の決定もスムーズになった。


 監視者とも言える。


「はぁ……側近と言う役職になれてよかったです。あんな人と一緒に仕事できるなんて光栄です」

「……いいなぁ。私も普通にしたかった」

「いいえ。姫様のスカウトは素晴らしいと思います。どうやって見つけたんですか?」

「拾っただけよ……だけど。ここまで有能だとは思いもしなかった」


 今、この国は執事長と言う歯車が噛み合って強くなっている。そう……本当に。


「だけど……女ッ毛ないよね」

「それがいいんです!! けど……興味がないと言うのも悲しいですよね。告白してください姫様」

「死ねと? 告白して散っていった使用人が何人もいるのよ!?」

「執事長も嘆いてましたね。辞めていくと」


 執事長はモテる。若い使用人も執事長に告白して玉砕し。いつもと変わらない執事長に心が折れて辞めていくのである。


 しかし、私たちにとっては良かった。現に目の前の側近オオコとは執事長を愛する者協定を結んでいる。情報共有だ。誰が好意を持っているかは非常に重要である。ライバルが多いための協定。


 今、戦争が上手くなったのはきっとこう言う駆け引きの練習が生きている気がした。


「にしても……執事長かっこよかったぁ……」

「わかる。あの……静かに銀時計を見る姿はすごいのすごい」

「語彙力ないですね姫様……」

「鏡見る?」

「わぁ!! 可愛い狐さん!!」

「鏡割って刺してやろうか?」


 イライラしながら……私は溜め息を吐く。


「この候補者におじさまが入っていれば……」

「ははは。そのときは破くか隠します」

「……だよね」


 強敵は今日も元気だった。






チッチッチッチッチッカチッ


「……」


 執事長はゲートから出た後、都市の国民を守る外壁の上で誰かを待っていた。銀時計を閉じ、方眼鏡を拭く。すると……新たなゲートが生成され。丸眼鏡をかけたローブの男が現れる。


「……時間ピッタリでございますね。陛下」


 執事長は深く頭を下げる。目の前の男性は笑顔で顔を上げてくださいと言った。そう、彼は国の頂点の一人。魔王の旦那である。


「すまない……呼び出して」

「いいえ、如何なる時も主人のためにです」


 執事長は笑顔で答える。本当に尊敬してますよと言うように。


「娘は元気ですか?」

「報告の通りでございます」

「そうか。元気な子に育っているのは良いことだ。活発なのは……妻に似たかな」


 妻とは現魔王の女性である。二人一組の王であり……今の国を支える重要な人物だ。


「それで……陛下。なんでしょうか? 時間があり……申し訳ないのですが……」


 執事長は銀時計を取り出す。そして、そのまま見た後に答える。


「3分しかございません」

「いつもと変わらない時間だね。忙しいのかい?」

「同じように呼ばれてます」

「そうか……わかった。実は……妻を怒らせてしまったんだ」

「……」


 執事長はクククと笑いだす。


「またですか? 今度は何をされたのですか?」

「いや……浮気を疑われて。そのまま……」

「わかりました。魔王様にはそれとなく違うことを伝えておきます」

「ああ……ありがとう。捕まらないから困ってる。嫉妬深いのはいけないと注意しといてくれ」

「わかりました」

「最後に愛していると言っておいてくれ」


 陛下がゲートを開けて北側の城へと帰っていく。北側に攻めの兆候ありと言うことで四天王と向かっているのだ。


「………」


チッチッチッチッチッチッチッチッカチッ



「時間ですね」


 3分しかないと言った時から3分が経過し、目の前にはゲートが現れる。今度はドレスを着た緑色の髪の令嬢が顔を出した。


「えっと……執事長。ごめんなさい……お忙しい中」

「いいえ。魔王さま……ちょうどよかったです」

「あら?」


 ゲートからそそくさと女性が執事長の前に出た。


「なら、よかったです!! 助けてください!! 私の早とちりで浮気と決めつけて怒ってしまい!! どうやって謝ろうか悩んでるんです!! 仕事に身が入りません!! ああああああううううう!!」


 目の前の緑髪の魔王が執事長の泣きながら頭を下げる。執事長はゆっくりと頷き言葉を口にした。


「実は4分前に陛下にお会いになりました。浮気はしていない事と愛していると言葉を残され……そして逃げ惑うのはやめてくれとの事でした」

「そ、そうなの!? ああ……ああ……よかった。嫌われたかと思いました」

「陛下は愛深い方……魔王さまが一番ご存知なのではないでしょうか?」


 緑髪の魔王が自分の髪をクルクルと弄る。


「……そうなんですが。妖精も増えて……魅力的な子も多く……不安なんです」

「……私が申しあげるのあれなんですが。魔王さまも十分お綺麗です。それに……陛下とお話をもっとされるのをオススメします」

「あ~ごめんなさい……いつもいつも同じことを言わせてしまって……あ……うん。長く居ても!! やっぱり今のお姿がたまらないのです……夢を掴んだ姿は格好いいです」


 執事長は溜め息を吐く。この二人はと思いつつ。銀時計を見たのだった。





トントン


「入ってよいぞ」

「お嬢様。お疲れさまです」

「あっ……おじさま……」

「おじさ………執事長!!」


 私の執務室にノックをして執事長が入ってきてくれた。帰ってきたのだ!!


「側近様も……お疲れさまです。申し訳ないです。お嬢様のお手伝いを……」

「いいえ!! 喜んでお手伝いをさせていただいてましたから‼」

「……」(この女狐!!)


 私は悔しさに歯を食い縛る。立場は私の方が上だが。執事長は私に対しては教育者監視者。側近に対しては同業者なのだ。立場を変えてほしい。しかし……オオコも立場を変えてほしいとあった。


 一緒に仕事するとダメになりそうだかららしい。


「仕事も終わったようですし。飲み物はいかがいたしましょうか?」


 執事長は笑顔で私たちの顔を伺う。


「アイスティーを」

「同じものを」

「かしこまりました。すでにご用意させていただいております」


 空間に切り込みが入りティーセットを執事長は取り出した。お盆の上には氷の入った紅茶。予測の手際に舌を巻く。


「お茶菓子は今日、シェフに焼いていただいた物です」


 今日も執事長は全力だった。







 





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