表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

好きだから

ただ家に帰るのに、未だかつて、これ程緊張したことは無いと思う。


帰り道。

少し前に、吉村先生が歩いている。

その右後ろを懸命についていく私。

嬉しさと困惑で体が熱くなる。


空は少しづつ薄暗くなってきた。

学生たちの下校時間のピークをすぎ、人通りもあまりない道。

先生の背中と斜め後ろから気持ち見える顔をチラチラみては、胸の高鳴りを抑えるのに必死になる。

せっかく一緒に歩いてるのに、何を話せばいいのか。

話ベタな私と違って、かなちゃんなら無言な時間なんて無いんだろうなと、ついついネガティブ思考になってしまう。


「松本さんは⋯。」


「はいっ!!」


突然、先生から名前を呼ばれて、変に大きな声で返事をしてしまい、顔が熱くなった。

先生は少し微笑んでいた。


「松本さんは、体育祭の選択競技、何に出場するの?」


「えっと、二人三脚に出る予定です。」


「二人三脚か!チームワークが大事になってくる競技だね!」




道中、先生のおかげで、なんとかおしゃべりができた。


「家はこの近くだよね?」


「⋯はい、そうです。」


気がついたら、あっという間に自宅周辺まで来ていた。


「じゃあ、ここまでで⋯。遅くなってごめんね。」


先生は教育実習生という立場もあるからなのか、家の前までではなく、少し離れたところで足を止めた。

送ってもらっただけで十分幸せだったし、お話もできた。

なのに、寂しさが込み上げてくる。


「また明日、学校で!」


右手で軽く手を振る先生。

にこやかに笑う表情に熱い気持ちが止められない。


「先生!あのっ!」


「ん?どうかした?」


「⋯好きです!」


言ってしまった。

咄嗟にうつ向き我に返る。

言うつもりはなかったのに。

言っても困らせるだけなのに。

先生は今何を考えてるのかな?どんな顔してるのかな?もう話してくれなくなるかも。距離を置かれるかも。

いろんな考えが短時間で錯綜する。


「松本さん、ありがとう。」


えっ⋯。

顔を上げ先生の方を見ると、嬉しそうに恥ずかしそうに笑っていた。

あっ⋯。

これは本気では受け取って貰えてないことが分かった。

好きだから、言ってしまった言葉。

分かってた。

頭のどこかでは分かりきってたこと。


「先生、ありがとう。」


私はそう言って、家に向かって走った。

いろいろな感情が込み上げてきたけど、先生の優しさに自然と言葉が出ていた。




「神様!仏様!ゆき様!一生のお願い!!」

勢いよく私の両肩に手を置きながら、かなちゃんが懇願してきた。


体育祭、当日。

順調にプログラムが進む中、かなちゃんが足に怪我をして、選択競技の出場ができなくなった。

その代わりに出場することを私に頼んできた。


「競技って⋯」


恐る恐る聞くと、不敵な笑みとともに1番聞きたくない言葉を発した。


「ふふっ!借り物競争!!」


最悪だ。






















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ