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第7話:エスケープルームIV

「な、何したの!?」


 トオルさんがビクッ! とこちらを向き、何が起きたのかを目の当たりにした。

 ……タンスをバールで壊して、ここまで大きな音が鳴るとは思わなかった。

 それに、土壁みたいに勢いが無くなるかもと思って、本気でやったから、そのせいもあるかもしれない。


「い、いや……別に」

「別にって、タンスを壊したんだね!? まさか、やるとは思わなかったよ!」


 トオルさんは、プンスカと怒っているが、本を読んだままなので、イマイチ説得力がない。


「でも、鍵が必要だから、仕方ないじゃん」

「こんな日記の中身とか、本気で信じてるの!? ここまで馬鹿だとは思わなかった!」


 う……物凄く怒ってた……。


「……ごめん」

「……もう、いいわよ」


 ふぅ、とトオルさんはため息をつき、本を読み続けた。

 さて、説教が終わった所で、タンスに開けた穴の中を見てみる。


 ――――還元かえもと いつくは、タンスの穴を覗くと、ギョロギョロと蠢く、目玉を見つける。

 そして、その目玉はしっかりと還元 慈を捉え、まるで獲物を見つけたかのように、キュッと目を引き絞った。

 そして、徐々に穴に近づいてくる――――。


「ぁぁああああッ!?」


 僕はタンスから逃げるようにして、トオルさんにしがみついた。


「ちょ……何!? 一体!? カエモト!?」

「…………ッ!」


 駄目だ、しばらく立てそうもない……。

 恐怖のあまり、体は硬直し、体は終始震え、息は乱れる。


「ふざけないで! カエモト!」


 トオルさんは、動けない僕に対して、突き飛ばしを行い、僕はトオルさんから離れた位置で、動けなくなる。


「ど、どうしたの? カエモト? 怯えた顔して……」


 そんな顔をしてるのか、なんて思考も出来ず、何をすればいいのか、何を感じているのか、そんなのを考えることさえ、不可能になっていた。


「……ごめんね、カエモト。何か、あったんだよね。それなのに、突き飛ばしたりして、ごめんね」


 辛うじて、優しい言葉を掛けられてるのだけ、分かる。

 その後、何か温かいのが、僕の手に触れているのを感じて、僕の意識は遠のいた。


 ――――還元かえもと いつくは恐怖した後、雪国ゆきぐに とおるに触れ安心したのか眠ってしまった。

 それから起きたのは約1時間後である――――。


「ん……兄ちゃん……」

「ごめんね、カエモトのお兄ちゃんじゃないよ」


 いつの間に、眠ってしまったのだろうか……。

 確か、タンスに存在した目玉を見て、それから……。


「疲れてたんだよね。1人で探させちゃってごめんね」

「ううん……僕こそ、眠っちゃって」


 って、兄ちゃんじゃないって?

 どういうこと?

 僕なんか言ってた?


「……トオルさん、僕……なんか寝言とか……言ってた?」

「いや? 言ってないよ?」


 トオルさんの顔は、明らかに笑いを堪えてるのが分かる。


「嘘だ! 言ってたんでしょ! なんて言ってたの!?」

「いや……ふふッ……なんでも……ない……よ……あはッ……」


 トオルさんが笑いを堪えるほど、酷い寝言を言ってたの!?


「忘れて! 何言ったか分からないけど、忘れてよ!!」

「言ってないって……あは……ふふ……」


 寝言を言った言ってないで言い争って、数分くらい経った頃、僕達は落ち着きを取り戻して、探索に戻る。


「……それで、僕が寝てる間に何かあった?」

「ううん、特には。タンスから鍵を見つけたくらいかな」


 そう言って、トオルさんは鍵を見せびらかしてくる。

 ……特徴のあり過ぎる黒い鍵。

 持ち手のデザインが魔法陣みたいな……いや、そうでもないかな。

 鍵になる部分も黒くて、本当に鍵なのかを疑うレベルだ。


「……これがあれば、出られるのかな」

「日記にはそう書いてあったよ。後は、言葉を呟けばいいんだって」

「……その言葉は?」

「そこまでは分からない。日記には無かったし」


 ……ううん、何か引っかかるけど。

 何か……そう、何か引っかかるんだ。


「……カエモト?」

「う、ううん、何でもない」

「そ? それじゃあ、扉に鍵をさしてみよう。何かあるなら、変化くらい起きるでしょ?」


 トオルさんは、足早に、その鍵を差し込む。

 そして、なんの疑いもなく、それを捻った。

 カチャ……と音がして、扉を開く。


 ――――扉を開くと、そこには一面、土で覆われていた――――。


 ……こうまでなんの変化もないとか……本の内容を疑うレベルだ。

 でも、きっと事実が書いてある……と信じたい。


「何……? なんの変化もないの……? ここまでして……?」


 ヘナヘナと、トオルさんは座り込んでしまい、土の壁をボーッと見ている。


「カエモト……あたし達、帰れるのかな……」

「え、いきなりどうして……」

「やっぱり、帰れないんだよ……あたし達、一生ここにいなきゃいけないんだよ……」


 トオルさんは俯き、また泣き言を言い始めてしまう。

 ……彼女を折るには、これだけで充分だったんだ。

 1度立ち上がって、また駄目で、これで終わりだと思い込む。

 ……彼女はもう、脱出を諦めたのだ。

 希望が消え、絶望を受け入れる。

 もう傷つかない為に、もう疲れない為に。

 ……そんな彼女を見ても、僕は諦められない。

 いや、彼女を見たからこそ諦めちゃいけない気がした。

 兄ちゃんなら、こんな時、その人を励まして、引っ張るはずだ。


「……トオルさん、もう少しだけ、我慢してくれないかな」

「……何を?」

「諦めるのを」


 僕はそう言い切り、必死に頭をフル回転させる。

 糖が切れた中、それはしんどいきれど、このまま諦めるくらいなら、倒れるくらい頭を使ってやる。

 ……もう、本棚には頼れない。

 有益な情報はあるかもしれない。

 でも、何とかなる気がするんだ。

 もう、ピースは揃ってるハズなんだ。

 ……何かを見落としてる。

 閃け……過去から……そう、何かが引っかかってた……。

 なんだ、それは……?

 部屋の違和感……?

 扉……?

 土の壁……?

 いや、違う……もっと前……。

 起きた……?

 先にトオルさん……。

 起きる前……。

 熱中症……。

 なりかけ……。

 立ちくらみ、ボーッとした、倒れ込む……。

 誰かがあの時……呟いて……。

 ……えっ?

 誰だったんだあれ?

 倒れる僕に向かって、何か話した……?


「駄目だ……! 多分、ここなのに……! ここな気がするのに……!」


 思い出せない……!

 記憶にはあるのに……!

 あるはずなのに……!

 聞き取れてるはずなのに……!

 それをもう1度聞けば、確信できるのに……!

 ……そうか、僕じゃ駄目なのかもしれない。

 これだけ、頭を回転させて、無理だったんじゃ、後はもう1人に考えてもらうしか……ない。

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