第1話:「私立魔法教育専門学校ガリヴァー」
私立魔法教育専門学校ガリヴァー。
ここではこの世界に存在するありとあらゆる魔法を専門の魔術師がここで学ぶ魔法使いの卵達に指導している。この学校は3年制で、各学年に分かれている。
しかし、中には魔法の才能に長け、魔法を自由自在に扱えるものもいれば、幼い頃から独学でそれらを覚え可能とした者もいる。
あくまでこの学校はその魔法を、過去に存在した闇王ムー、及び闇堕ち魔導師にさせないために初代校長兼大魔道士ガリヴァーが知識を授けるべく設立した専門校である。
―――物語は朝のチャイムが鳴り、一人の少年と一人の美少女が欠伸をしながら自席に座るところから始まる。
「入学してきてから、三ヶ月ちょっと経つけど未だに魔法は成長しないな。」
そう独り言を呟くのはこの学校の新入生、シンである。彼は見た目は至って普通の、顔立ちのいい男子高校生だ。
「そんな独り言言ってる暇あったら少しは勉強に望んだら?」
こちらも整った顔立ちの美少女。真面目で高潔である性格を彼女の顔立ちが教えてくれる。彼女もまたシンと共にこの学校に入学した生徒『ローズ・ヴァローナ』だ。
「はいはい、そうですよね。…ヴァローナはもう水属性の十心は出来るようになったのか?」
「私はもう、できるようになったわよ?そんな事言ってるシンは十心どころか五心だって出来てないじゃない。私たちの担任が泣くわよ。」
「さりげ俺が才能ない指摘、やめてくれるか。」
この世界で言う心とは、すなわち魔法の段階のこと。火属性の魔法で言うなら一心はライターの日を指先から出せる程度で、二心からはその拡張、自由自在に操れるようになっていく。いわば魔法の基礎だ。そこから、応用し魔法を扱えるようになっていく。
「…五心ぐらい、できるようになりました。見てろよ。」
忌々しくヴァローナを見やり、そしてシンは自分の掌に集中させた。
火が掌の中で踊るように舞っている。
それを見たヴァローナは驚きの声を上げた。
「ハンっ、どうだ。」
「驚いたわ…。どうやらあなたを甘く見ていたみたいね…。」
「次、会ったときは十心ぐらい余裕でできるようになってるからな!」
「ふぅん。」
当たり前のように属性のことを解説してしまったがこの学校で定められている魔法は火属性、水属性、木属性、雷属性、風属性、光属性だ。他にもまだ未知数な属性を持つ魔法使いがいるらしい。
昔、闇王という存在が世界を崩壊させようとしていたことがあり、その闇王を封印した大魔道士ガリヴァーが闇属性という魔法は御法度として法律でも危険属性として制定した。
「何があったのかは知らないけどさ、闇属性使えるようになりたかったわ。」
「シン。あなた、捕まりたいの?闇属性は御法度なのよ。歴史の授業、ちゃんと聞いた?」
「…寝てた。」
ここでは魔法の使い方を正しく指導するため技術的な面もそうだが、魔法の歴史についても教師によって語られている。そうしたカリキュラムを導入しているのは過去の忌々しい産物を2度と産まないために大魔道士ガリヴァーが作った方針だ。普通の学校と何ら変わりはないかもしれない。
「いちゃいちゃしてるとこ悪ぃが、邪魔するゼ。ドアホ共。」
そう言って、二人の間に無理やり押し入ってきたのはシン達とのクラスメイトで同じく新入生『ヴォイル・カルム』だ。彼は火属性の家系に生まれている。才能に恵まれ、わずか13歳という若さで火属性の最大級魔法を使えるようになった。
「おい、カルム。なんだよ。…?てか待て、今俺とヴァローナがいちゃいちゃしてると…」
「あぁ?じゃあちげーってのかヨ?」
「カルム。私だってこんな男嫌いだわ。冗談はよして。」
「俺はまだ否定してねーよ!?」
カルムに否定をしたヴァローナに激しく反応するシン。
そんな三人は入学式で出会い、この三ヶ月ちょっとを共に過ごしてきた。
「ったク…気が滅入るゼ。折角、俺が闇堕ち魔導師討伐依頼を受けに行くとこだってのにヨ…」
「依頼!?待て!!カルム!!それはいくら何でも俺達には早くねーか!?」
「何を言ってるの、シン。火属性の最大級魔法を使えるカルムよ?もう依頼を受けれるようになってたっておかしくないわ。」
「ホンットにヨォ。シン。なめてんじゃねぇゾ!?」
ガリヴァー校では実技授業として、既に闇堕ちをし取り返しのつかない事に手を出した魔法使いを討伐する依頼を各学年の廊下に張り出し、生徒達がそれを受けて名を挙げていき魔法使いとしての成績も認められていくというシステムだ。
ちなみにランクも定められており、生徒が受けられるのはF~Sまでが規定とされている。教師も受けられるが、それはもっと次元の違うランクだ。
教師に認められることによってそれに応じたランクの依頼が受けられる。
「くっそ、先こされちまった。」
「お前にはまだ早ぇヨ。」
「そうね。」
「二人してやめてくれよ!! …んで?何ランクの依頼受けんだよ。」
「聞いて驚くなヨ。Bランク。」
「あー、Bランクね。余裕そう……って、はぁああああ!?」
「大丈夫なの?カルム。最上級魔法が使えるとはいえ、まだ体が追いつけないんでしょ?あまり無理は…。」
「ヴァローナ、俺は話したはずだゼ。過去のこと。俺は早く魔導師にならなきゃいけねぇんだ。親父を殺した魔女を狩るために。」
「…カルム。」
カルムは両親がいない。
母は5歳の時に父に親権を押し付け、父は10歳の時に魔女から幼いカルムを守り、亡くなった。
「自爆魔法…か。」
「だけどありゃ魔女が殺したようなもんだゼ。俺は許せねェ。」
「カルムの事をお父さんが守ってくれたんだからな。なおさら、その命大事にしろよ。」
「そうよ、カルム。どうか無事で帰ってきてね。」
「おう。行ってくらァ。」
そう言うとカルムは教室を出ていった。
「本当に無事に帰ってくるといいわね。」
「Bランクってそんなに強いのか?あんだけ俺が驚いといてあれだけど。」
「惨殺者。」
「…へ?」
「数々の名高き高潔な魔導師を殺してきた魔導師のリストが、Bランクには含まれてるの。」
「それって…。」
「今の私たちにとっては一溜りもない強さの相手だわ。私はカルムを押したけど、まだ未完成なカルムは正直なところ…難しい気がする。」
その綺麗な水色の長髪を切なく揺らし、ヴァローナは吐息を漏らした。
「…大丈夫かな。あいつは。」
二人はこの後、カルムがどうなるかを知る由もない。ただただ、不安だけが募る。仮にBランクの主が最下級の強さであれば話は別だが、なんといってもBランクだ。そんな生易しい話ではない。
―――昼頃になってくるとガリヴァー校の校庭が騒がしくなる。これもまた一般校と何ら変わりもない光景だ。あまり違和感はない。強いて違いを指摘するのであれば、昼食であっても魔法練習に励む生徒がいて、あらゆる属性の色が目に映る景色にあるということだ。
「はぁ…、ヴァローナと…食べたかっ…た、な。」
相手もいないのにぎこちない独り言を呟くシンだが、彼は高校生の歳になってからはスタートに出遅れた。控えめな性格であるのと、何より実力がないのとで、あまり相手として意識される人間ではない。
「これからどうしようかな。ヴァローナは友達と話してるだろうし…俺が女子会に参戦するのも性分上、無理な話だ。」
苦笑してる自分に呆れつつ、校庭を囲むフェンスの向こう側を見ていた。綺麗な景色だ。空は快晴、下には綺麗な川がある。
そんな景色をぼーっと眺めているシンは自分の生い立ちをたまに考えたりする。カルムも、ヴァローナも皆、生い立ちがあって今の自分が存在している。ちゃんとした目標が定まっていて自分の存在意義を導き出している。シンは自分に存在意義をずっと求めている。
高校生の年頃にもなれば自分のやりたいことが見つかるが、シンにはそれがない。このガリヴァー校に入ったのも過去に『誰か』に『何か』を言われて入っただけのこと。
その『誰か』と『何か』は非常に重要なことで、きっと存在意義でもあっただろう。
しかし、シンには14歳最後までの記憶がない。覚えているのは目が覚めた当初、病院の寝室の上で母親が目覚めた自分に飛びつき、涙していたことだ。
「なんで、母さんは泣いていたんだろう。」
産まれたばかりのような感覚で、鮮明に覚えている。
涙する母親だけが不自然で、それ以外は真っ白な病室、ベッド、そしてその横に置かれていた黄色と紫の可愛らしいパンジー。
基礎知識も充分にあった。考えることが出来るのも過去に自分がまともに学んでいた証なのだろう。
「過去…か。よく分かんねぇや。」
ずっとこの景色を見ていても飽きる。ここでどうでもいいことを考えている時間が好きだ。だから、飽きるわけにはいかない。シンは食べ終わった弁当を片付けてクラスへと戻った。
「―――…え。」
なぜこうなっているのかは分からない。突如、違和感を感じた理由が分からない。
だってそうだろう。昇降口が暗く闇に染まっているのだから。
何事かと急いで上履きに履き替え、自分のクラスへと向かう。
…がそれはとてつもない圧迫感によって向かう足を止められた。
「う、ごけ、な……?」
息をするのも精一杯で、重い圧迫感はずしずしと脳に負担をかけ麻痺をさせている。耳に警報が入ってきたのに気づいたのはその痺れがなくなってからだ。
「緊急。緊急。生徒の皆さんは至急地下室へ避難してください。緊急。緊急。生徒の皆さんは至急地下室へ避難してください。」
二回繰り返される警報。
その警報は二回同じ警告をした後に続けた。
「―――ランクS魔導師による襲撃です。」
シンは背筋を凍らせた。
記念すべき第一作品共に第一話となるこのMagical School Academyを見ていただき誠にありがとうございます。作者のNOBUです。
小説をクリエイトするのは初の体験ですが、徐々に慣れていっていい作品が作れればなと思っています。自分をここで高めていきたい。趣味範囲でやっているので、次話更新スピードは気まぐれですがご了承ください。では次のお話でお会いしましょう。