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太陽の雲が人類をアレに進化させる、そう遠くない未来。  作者: 城谷創懐(シロタニクラフト)
第三話 「存滅の柱」
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存滅の柱

目を開けているのに、目を閉じているような真っ暗闇に囲まれていた。

ようやく目が慣れてきた。

それでも新光樹公園のシルエットしか見えなかった。

「電車もバスも、タクシーだって、交通機関は全部停まっているんじゃない?」

幻の可愛らしい声は聞こえるが、愛らしい表情が見えなかった。

「家に帰れないのはつらいな」

数秒間の沈黙のあと、幻の声が言った。

「うちくる? 近いし、緊急事態だから」

意中の女子高生の家にお邪魔することができるなんて、何たる不幸中の幸いなんだろう。

「え、いいの?」

飛は手汗をかいていた。

幻と飛の組まれた手のひらは、飛の手汗でにゅるにゅるしていた。

幻は気持ち悪くて、手を離したくなったが、はぐれてしまうのが怖かったから我慢した。

「さ、帰ろ」


天蓋には満天の星空が広がっていた。

無数の星が密集していた。

天の川だ。

漆黒の空に走る、白い光線。

暗闇に力強く映えていた。


「綺麗ね。わたしたちが宇宙の中にいることを思い起こしてくれるわ」


幻の言葉にジーンとくるものがあった。

幻と結ばれたあの時。

宇宙では電気を脅かす魔物が地球に接近していたんだ。

人間はこの広大な宇宙の中にいる。

人間だって生きているし、宇宙だって絶えず動き続けている。

宇宙は遠い存在のようで、本当はもう触れているんだ。

飛の瞳から流星のように涙がつたった。

宇宙の神秘に感涙していた。

飛の胸の内で、その涙が幻に出逢えた嬉し涙に変わり、

それは幻と二人になり孤独から解放された歓びの涙に変わった。


闇の中に人の気配がうごめいている気がした。

いつ突然、人とぶつかるか分からない恐怖が足かせとなり、足が重い。

なかなか前に進めなかった。

星あかりで足元だけは道路が見えるが、前を向いても、後ろを振り向いても闇が見えた。

二人は車道を歩いていたが、自動車が停まっていて通らないので、車道でも車に轢かれる心配はなかった。


「ここのマンションの三階が私のおうちよ」

立派な高層マンションだった。

三十階から四十階くらいはありそうだ。

エントランスからいきなりロビーに直結していた。

もちろん、マンションの館内も明かりは点いていない。

深夜なので幽霊とかが出てきそうな雰囲気すらあった。

自分の足音と幻の足音がやたらと響く。

エレベーターの前を通過した。

張り紙が貼られていた。

「ただいま、謎の停電により使用不可となっております」

手書きだった。

パソコンもプリンターも使えないのだから、当たり前だった。

三階まで階段で上るしかないようだ。

前後が全く見えない。

その中を一段、一段、慎重に上った。

すたすたと躊躇ちゅうちょなく上る彼女の背中を追いかける。

見えない背中を。

階段に穴などない。すき間などないはずだ。

飛が一番、怖かったのが踊り場だった。

踊り場では次の階段に上るために、少し平坦なところを歩かないといけない。

その次の階段を探している時が怖かった。

うっかり足の置き場を踏み外して、転落しそうだったからである。

こうして終始ヒヤヒヤして上りきった。

そこまではよかったのだが、左か右、どっちに幻が曲がったのかが分からなかった。

足音を聞く。

左から聞こえた。

飛は左の方向へマンションの廊下を進んだ。

幻の足音がピタリとやんだ。

家に着いたようだ。

飛はなんとか幻の小柄なシルエットを発見した。

幻は鍵を差し込み、扉を開けた。

「ただいま帰りましたあ」

幻が言った。

「お邪魔します。幻の彼氏、創我飛と申します」

飛は丁重に挨拶をして、中に入った。

壁掛け時計は12時3分のところで止まっていた。

だから実際の時刻は分からなかった。

電気が復旧するまで、時刻は分からずじまいだろう。

ある意味、時は2012年7月23日、午前12時3分で止まっていた。

時が止まっても、物体や太陽、動物まで動きが静止するわけではなかったのだ。

「お腹減ったけど、食べられるものあるかな?」

幻はそう言って、奥へ行ってしまった。

玄関で靴をぬぐ僕を置いて。

明かりが灯っていた。

幻が仏壇の二本のろうそくにマッチで着火したようだった。

マッチは電気を使わないから、火は起こせるみたいだ。

だけど下手に使って、火事になる危険性をともなっていた。

二本のろうそくの灯火ともしびが、リビングを照らした。

おかげで、部屋の様子が分かった。

リビングは整っていて、余計なものがなかった。

白いふっかふっかなソファーがリビング中央に置かれていた。

その前には楕円テーブルがあり、その上には不思議なイラストが無造作に置かれていた。

何が描いてあるか興味があり、上から覗きこむようにして見ていると、幻が恥ずかしそうに言った。

「あ、これね。これらは全部私が描いたの。イラストが趣味でさ」

「上手いな。僕には到底真似できないよ。一枚もらってもいい?」

飛は幻のイラストを手に取り、じっくりながめた。

「別にあげるよ。そんなに私のイラスト気に入ってくれた?」

「暗くて、色があせていてもここまで存在感放つイラストは、やっぱすごいや」

幻の笑みが聞こえた。

「これにするよ。この男装した女子高生が壁倒立しているイラスト。男装した女子高生も珍しいのに、制服着たまま、壁倒立しているんだなんて。面白くて見ていて飽きないよ」

「そのイラストね。中学生のとき描いたんだ!」

飛は中学生に描いたていで、もう一度そのイラストをじっくりながめた。

中学生でこのレベル!?

どうして女子はイラスト描くのが、上手なんだろう?

「飛君、パンならあるよ。焼いてないパンなら」

幻と二人で白いふっかふっかなソファーに座って、生のパンを食べた。

口の中の水分が奪われた。

パンの粉が気管に入り、せきこんでしまった。

「大丈夫? 気管入っちゃった?」

幻が優しく気遣ってくれた。

幻が席を立った。

蛇口から水を出している音が聞こえた。

幻がコップに水道水をたたえて、持ってきてくれた。

飛はそれを飲んで、せきをしないようにこらえた。

喉のイガイガを水で流しこんだ。

「ありがとう」

飛は枯れた声でお礼を言った。

二人は幻の寝室のベッドに仲良く入って寝た。

寝づらいシチュエーションなのに、飛は数秒で眠りについた。

幻は飛の寝顔を見ると、そのまま目を閉じた。



「存滅の柱」。

「存在」と「滅亡」の運命を握っている柱。

人間の世界を支えている一本の太い柱。

それは「文明」だ。

火、電気、技術力。

これらがむしばまれた瞬間、人間の世界は滅亡の一途をたどる。

「文明」こそが人類の存滅を握る柱なのだ。

文明の一つ、「電気」に我々人類は依存し過ぎている。

今や、火と技術力だけでは生きることがままならなくなってしまった。

その存滅の柱、「電気」が2012年7月23日に無くなっていたかもしれないのだ。

実際は「巨大太陽フレアの三つの波」や「CME(コロナ質量放出)」が9日だけ、地球からズレていたから、今、こうして「電気」がある。

便利な世の中がある。

しかし、いつ何時なんどき、再び巨大太陽フレアやCMEが発生するかは誰も分からない。

それが、地球を襲うのか、襲わないのか誰も分からないのだ。



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