屋内デート
飛と幻が結ばれた瞬間。
地球には厄災が迫っていた。
太陽の雲が近くまできていた。
CME。コロナ質量放出。
CMEは三部構造から成っていて、外側はループ・シェル構造をしている。
気体の殻のようなものに覆われているのだ。
その内側には太陽と同じように、プロミネンスが起きている。
螺旋状の磁気が渦巻いているのだ。
そして、螺旋状の磁気が宇宙空間をかき乱すのだ。
そのことを惑星間空間撹乱という。
惑星間空間撹乱が電気消失の原因。
地球の周りの宇宙空間をかき乱すことで、磁場が急変する。
地球の磁場が急変すると、何年も復旧できない重い障害も発生してしまう。
CMEは地球の文明に数年のあいだ、爪痕を残すのだ。
電気が復旧したあとも。
CMEはついに金星を通り過ぎる。
地球の軌道と交差するのは時間の問題だ。
午後6時、飛は待ち合わせ場所である新光樹ショッピングセンターに一時間も早く着いた。
街路樹の下で太い木の幹に寄りかかりながら、長い美脚を組み、スマホをいじって幻の到着を待った。
一分がとても長く感じる。
飛はインディゴブルーのシャツの上に、シルキーホワイトのジャケットを羽織って初デートに臨んだ。
下は脚を美しく見せるために、きつめのジーパンを履いた。
熱帯夜の猛暑を少しでもやわらげるために、涼しげな配色を選んだ。
スマホの時刻を見ると、6時半と表示されていた。
スマホの時刻を見ては、幻の姿を探す。
それを繰り返した。
足元には土が敷かれていて、平たく赤レンガで囲まれている。
そのような街路樹は二メートル間隔で置かれていた。
前には、奇形な建物がある。
円錐を逆にして地面に深く刺したような形だ。
あれが新光樹ショッピングセンターだ。
時刻は6時55分。
5分前だ。
そろそろ来るだろうと思って、駅へと続く一本道を歩く通行人に視線を移した。
街並みのビスタ景観(一本道の通り)の中に幻ちゃんの気配を察知し、目を凝らす。
「あ、幻だ」
幻はフェアリーピンクの薄手のワンピースを着用していた。
少しサイズが大きいのか、首が埋もれている。
コウテイペンギンのヒナそっくりだった。
相棒のクラフトみたいで、好感が持てた。
「私服可愛いじゃん」
飛は心を込めて言った。
音読の発声法みたいだが、心を込めたほうが好印象になることを知っていた。
「そう? 飛君も素敵よ」
幻はファッションセンスを評価してくれた。
良かった。ここでダサいと言われたら、ムードが台無しになるところだった。
「じゃ、行こうか」
幻はそう言って、飛を先導した。
飛は幻を追って、新光樹ショッピングセンターに入店した。
エントランスの床はターコイズブルーの上に白いグリッドが引かれているデザイン。
近未来感を演出していた。
壁沿いに間接照明がつけられていた。
冷房もついていた。
前方には三基の妙なエレベーターが隙間なく並んでいた。
白くて半透明だ。
透けていて、後ろのだだっ広い空間が見えていた。
「これに乗って周るのよ」
幻が説明してくれた。
「ずいぶん変わったエレベーターだね」
「これはケーブルカーの原理を応用しているの」
ここ新光樹の科学技術はミックスすることで革新的なテクノロジーを実現している。
このケーブルエレベーターは「ケーブルカー」と「エレベーター」のミックスだ。
ワイヤーで吊られていて、ななめ上やななめ下、そして前に移動できる。
センサーがついているからエレベーター同士がぶつかることはない。
ケーブルエレベーターの前に立つとドアが上へスライドして開いた。
二人は搭乗すると、幻が三階を押した。
次に閉まるボタンを押した。
四方八方が白く透けていて、身体が宙に浮いている感覚がした。
ケーブルの擦れる音が冒険心をかきたてた。
幻は時折、飛の様子をうかがった。
目が合うたびに照れてしまい、そっぽを向いた。
ケーブルエレベーターは水平を保ちつつ、斜め上に進んでいく。
ゆかいな音楽がうっすら流れ、それはしだいに大きくなり、二人を現実逃避させた。
異世界に迷い込んだような気分だった。
ある程度ななめに上昇したところで、前進移動にシフトした。
一つ一つの動作に感嘆の声をあげる飛を、幻は面白がった。
「3」と書かれたガラス床の前で扉が開いた。
回廊の中心部をケーブルエレベーターが移動し、回廊の直径は階を上がるたびに大きくなっていた。
斬新な空間デザインに飛は感心した。
幻にしばらくついていくと、百円ショップのような店に着いた。
黒とゴールドがふんだんに使われていて、リッチだった。
看板には「千円ショップ」と書かれていた。
「ここで買い物しよ。ちょっと高いけど。一つだけでもいいから勇気を出して買ってみない?」
買い物カゴを二つ取りながら、幻は言った。
飛は命の大金から、財布に一万円札の束を適当に入れて持ってきていた。
小銭も千円札もなかった。
あるのは一万円札だけだ。
「いいね」
飛は賛同した。
「ああ、これ!」
幻はいきなり大声を上げた。
幻が店頭の「手持ち型扇風機」を買い物カゴに即決入れた。
「飛は何にするの?」
幻が振り向き、そう言った。
まだ店に入ってないじゃん。店頭から選べというのか。
店頭からなら、インテリアグッズはあまり興味が無いし、「手持ち型扇風機」一択かな。
「お揃いで僕も買っちゃおう」
飛も幻と同じ「手持ち型扇風機」を選択した。
幻は顔を赤らめた。
僕とお揃いなのが嬉しかったようだった。
二人はレジの列に並んだ。
前には買い物カゴいっぱいに商品を入れた、いかにもセレブなおばちゃんがいた。
二人は買い終わると、再びあのケーブルエレベーターに搭乗した。
「今度は屋上でイベントがあるの」
幻はそう言い、屋上のボタンを押した。
ケーブルエレベーターはグイーンと音を立てながらななめ上に高速で上昇した。




