幸せの絶頂
「もう、三年(生)の夏休みかあ。僕なんかが幻ちゃんを彼女にするなんて、無茶だったのか」
飛はリビングで自分を嘆いていた。
長くて邪魔っ気な両脚を前にのばして、木の椅子にもたれかかっていた。
今日は何もする予定はなかった。
あのときのトラウマがあり、暗室に入って本を考察する気にはなれなかった。
だから、読みかけのライトノベルをリビングに持ちこんだ。
表紙に描かれている女の子が、亜空幻に似ていたので思わず買ってしまったのだが、冒頭で魔王にその女の子がさらわれてしまい、それっきり登場しなくなってしまった。
それで一気に読む気が失せて、ペンギンのしおりをはさんで本棚に戻した。
でも、やっぱり幻ちゃんがさらわれたままなのは可哀想過ぎて、続きを読むことにした。
主人公の下級勇者がズタボロになりながらも、ようやく幻ちゃんがさらわれている魔王城にたどり着いた。
そこまで読んだとき、スマホから着信音が流れた。
飛は再びペンギンのしおりをライトノベルに挟み、スマホを点けた。
「幻ちゃんからLINEが来てる!」
今夜、ひま? ひまだったらでいいんだけど。新光樹ショッピングセンターに七時に来てくれないかな。デートしよ♡
気持ちが舞い上がり、飛はスマホを持ったままスキップをした。
しかし、部屋の中だったので壁に激しく体当たりをかまし、膝をすりむいてしまった。
痛みなど今の飛には感じない。
意中の女子高生に逆告白されたのだ。すこし違う気もするけど。
いや、きっとデート中に逆告白される。
飛はもう一度、幻ちゃんのチャットを見返した。
「デート」ってことは遠まわしの「逆告白」だよね!
幻ちゃんのこと彼女って呼んでいいのかな。
勝手に呼ぶことにしよう。「彼女」って。
飛は高揚したまま返信した。
「もちろん! 『デート』ってことは幻のこと『彼女』って呼ぶね」
多少、支離滅裂な文章になってしまった。
カアーッと身体が火照った。
のどが渇き、麦茶をコップについで、一気飲みした。
スマホの時刻を確認した。
午後三時だ。あと四時間後に幻ちゃんとデートができる。
そうだ、幻ちゃんとLINEで話そう。
「新光樹に住んでいるの?」
さっそく、返信が来た。
「じゃあ、飛君のこと『彼氏』って呼ぶね」
この返信は「一つ前のチャット」に対してだな。
お互いに「彼氏」「彼女」で呼び合うとか、おかしいな。
多分、「彼氏」として僕のことを見てくれる。という意味だよな。
「新光樹に住んでいるの?」の返信が来た。
「そうよ」
話の順番が乱れてしまうんだよな。LINEって。
「新光樹、あんな大都会に住んでいるのかー。新光樹駅は確か、カラフルな鉄球が宙に浮いているモニュメントで有名だよね」
「あれは、超電導物質を利用していて、リニアモーターカーの原理を応用しているのよ」
「飛君は家どこなの?」
「埼玉県の朝霞。都会と田舎のいいとこどりをしたような、独特のあるとこだよ。陸上自衛隊やニンジンとかが有名かな。ニンジンは名菓もあるんだよ」
「へぇー! 地元を誇りに思っているのね」
飛と幻はそれぞれに出発の準備を整えながら、LINEでやりとりをして盛り上がった。
話が佳境にさしかかる。
「飛君は、私のどういうところが好きなの?」
飛は少し戸惑ったが、想いの丈をぶつけてみようと意気込んだ。
完全に気持ちが高ぶっている。
アガっている。
それを知っていても、抑えきれなかった。
「小柄でコウテイペンギンのヒナみたいに愛くるしいし、とっても優しいところ」
もしかして「小柄」ってコンプレックス言っちゃったかな。
既読がつく。幻の返信が表示される。
スタンプだった。
キャラクター化されたコウテイペンギンのヒナが、目をハートマークにしているスタンプだ。
言葉はない。
感情をスタンプで伝えたのだろう。
幻が僕のどこに惚れたのか、気になってきた。
「逆に、幻は僕のどこに惚れたの?」
「高身長で物知りだし。私を守ってくれそうなところ」
守る? 何かに襲われているのか?
飛は深くは聞かないことにした。
もしかしたら、最初から僕に気が合ったのかもしれない。
自ら告白しないで、逆告白に持ち込む自分の情けなさを恥じた。
飛は身だしなみを整えて、待ち合わせ場所である新光樹ショッピングセンターに電車で向かった。
車内で先ほどのLINEの会話を振り返った。
幸せの絶頂だ。
飛は喜びをかみしめた。
そして、心に誓った。
『この先、どんな厳しい未来が待ち受けていても、幻を守り抜く』ことを。
人類の絶滅だって抗ってやる!
世界が滅亡しても、幻を守り抜くんだ。




