幻の決心
架空の大都会、新光樹区。
車道を駆けるのは9割が電気自動車。
家の屋根にはソーラーパネルが当たり前。
夕方にはライトアップされる。
新光樹の夜景はこの世のものとは思えないほどに、きらびやかで美しい。
亜空幻は新光樹駅から徒歩十分の高層マンションに住んでいる。
「架空」といっても東京都にあり、誰でも行くことが出来る。
ちなみに、創我飛の家は埼玉県朝霞市にある。
だから、一時間電車に揺られれば、いつでも新光樹に行けるのであった。
亜空幻はリビングでアイスを食べていた。
透き通った青のソーダ味の氷。
ソーダ氷のなかには、とろーり甘い練乳が入っている。
親は共働きをしているので、帰ってくるのが夜の7時になる。
だから独りだった。
「オーロラ、とっても素敵だった。でもそのあとの白い光なんなの! もし知っていたなら教えてくれてもよかったじゃない!」
幻は大きくアイスをかじった。
口から冷気が煙立ち、氷のかたまりがキーンと歯に染みた。
「だけど、飛君のおかげで貴重なオーロラが観られたんだもん。感謝しなきゃ」
机上には青い水たまりがいくつにも出来ていた。
アイスを食べ終わると、台ふきんでテーブルを拭いた。
幻は電子ゲームを取り出した。
「JKコロシアム オン スクール」
女子高生の日常を舞台にした格闘ロールプレイングゲームだ。
好きな女子高生を育成することもでき、通信対戦もできる。
いつか飛君と対戦したい。幻はそう思っていた。
亜空幻に似た小柄なキャラクターをひたすら練習した。
きっと、飛君相手だと本気出せない。
だから、強くならなくっちゃ。
それに男子ってゲームうまいから。
フルボッコにされるとつまらないじゃん。
幻はそういう理由で、ひたすらこのゲームに打ちこんだ。
テーブルの上には、これまでに幻が描いたイラストが無造作に置いてあった。
男子高校生の制服を着た女子高生が、壁倒立しているイラスト。
イケメンのこびとが組体操しているイラストなど、どれも個性的だった。
カラーペンで描かれていて、陰影もしっかりついていた。
幻の住む高層マンションから駅のほうに歩いて、新光樹公園を抜ける。
そこには、アバンギャルド(前衛的)なショッピングセンターが堂々と構えている。
「新光樹ショッピングセンター」で今夜、脚光を浴びているイラストレーターによる体験講座が開かれる。
幻は事前予約を済ませていた。
「突然、世界が終わることさえも、普遍的なことに変わってしまった。だから毎日を有意義に楽しまなきゃ」
ブラックホールが地球の軌道上に出現したら、世界は一瞬で終わる「地球の終焉説」。
以前それを飛君が教えてくれたときの、フレーズが幻の頭の中でこだました。
そのフレーズは、幻の眠っていた感情を呼び覚ました。
幻は覚悟を決めた。
雨上がりの蒼穹のように澄みきった心に、未練はない。
「私は飛君と、たとえ世界の終末だって乗り越えるの!」
幻は『この先、どんなに厳しい未来が待ち受けていても、飛君と生き抜く』ことを決意した。
人類の絶滅なんて抗ってやる!
飛君と二人でサバイバルを生き残るの!
幻は前から好きだった飛君へLINEした。
「今夜、ひま? ひまだったらでいいんだけど。新光樹ショッピングセンターに七時に来てくれないかな。デートしよ♡」
デートと送ったけど、決して帰らせない。
飛君と離れない。
だって、もうすぐ世界が本当に終わりそうな気がするから。
「世界滅亡」だって抗ってやるんだ!
飛君と二人で協力してね。




