ロマンチックサプライズ
外の様子が気になった。
混乱した世界はどんなものなのか。
興味本位で。
飛は窓の外を眺めた。
いつもの景色と変わらない。
車は道路を流れていたし、人も歩いていた。
警報が発令されたからって、どう備えればいいか。
そんなことは分からない。
未知なのだ。
巨大太陽フレアの影響を予測できないのだ。
飛行機が重低音を響かせて空を飛んでいた。
飛行機が空中で旋回した。
飛行機の進路が反対方向になった。
Uターンしていた。
珍しいものを見ることができた。
飛は満足して視線を窓外からそらした。
飛はふと自分の誕生をかえりみた。
あの時、生と死を繰り返したような過激な衝撃が急襲した。
意識がすっ飛ぶほどの衝撃だった。
これが、飛の誕生の瞬間である。
意識は戻ったのだが、ほとんどの記憶を失っていた。
自分の身体が、「過去」の地球に存在していた。
「中高年」だったはずの身体は、「高校生」の身体に変わっていた。
市役所に自分の在籍を確認しに行った。
高校1年生だった。
名前は「創我飛」だった。
そんな名字だったっけ?
飛は生まれ変わった気分だった。
あれから二年半の月日が経っていた。
「風呂の時間だな」
飛は夜ごはんの前に風呂に入るようにしている。
そのほうが清潔な気がするからだ。
湯船に独りで浸かっていると、空想や考察にふけてしまうことが多々ある。
時には妄想をしてしまうこともある。
風呂場の床と天井、壁。
全てに紺色のタイルが貼られている。
無数のカビで黒ずんでいる。
風呂掃除どころか部屋の掃除をしたことがあまりない。
面倒くさい。明日やる。翌日忘れる。
その繰り返しで、結局やらずに終わってしまう。
湯船側の壁には風呂用の世界地図をドーンと大きく貼っている。
地理の勉強のために買ったのだ。
それもカビでところどころ黒くなっていた。
そんな浴室で飛は告白の妄想をした。
飛のガールフレンドの名前は「亜空幻(あくう ゆめ)」
飛は一度も告白したことがない。
振られるのが怖い以前に、告白する勇気が持てない。
異種族のような生き方をしている人間。
そんな人間が、あんな可愛くて優しい子を彼女にしていいはずがない。
そんな固定観念が告白する勇気をかき消すのだ。
だから飛は逆告白されるために、ずる賢い作戦を思いついたのだ。
そして実行もしていた。
「世界の終焉説」を動画や本の紹介などで、幻ちゃんに植えこむ。
そうすることで、「早く彼氏を作って、幸せにならなきゃ。世界が突然終わるまでに」と焦らせて、逆告白させるのだ。
なんとも男っぽくない情けない作戦だ。
そして、ついに「電気が消える」という世界の終焉説の一つが現実となりそうなのだ。
しかし、明日から夏休みだった。
つまり、幻ちゃんに学校で会えない。
きっと、夏休み中に電気が消える。
世界中が大パニックになり、逆告白どころじゃなくなる。
一時間も湯船に浸かって、告白の妄想をしていた。
ぬるま湯なのでのぼせなかった。
世界がパニックに陥る前に、幻を「彼女」にする方法はないだろうか。
一番、楽な方法はないだろうか。
そんなことを頭に巡らせていた。
ふと、ひらめく。
巨大太陽フレアって確か、「オーロラ」がどこでも観られるんだよな。
その「オーロラ発生時刻」を考察して予知しよう。
オーロラ発生時刻を幻にLINEで伝えよう。
風呂から上がると真っ先にそれを実践した。
パソコンで検索をして、だいたいの発生時刻を予想した。
飛が見つけたサイトには、「オーロラは巨大太陽フレア発生後、数時間後に観られる可能性が高い」と記述されている。
「数時間後」で辞書を引くと「二、三から五、六ほどのかず」と載っていた。
勘だが五、六時間後だろう。
だったら平均して今から五時間半後にオーロラが観られると伝えよう。
いつの間にか夜になっていた。
幻ちゃんのLINEはとっくにゲットしている。
幻ちゃんから積極的に友達の証として僕とLINE交換したのだ。
「今日の真夜中、23時半ごろ、あなたに逢えた幸せの感動が、夜空に表れるから、受け取ってください」
あえて言葉をにごして、それがオーロラであることを伝えずに送った。
飛なりの「ロマンチックサプライズ」だった。
3分後、既読がついた。
返信はなかった。
飛はとたんに不安になった。
発生時刻が間違っていたら、どうしよう。
そうだ。
ずっと外を見ていよう。
発生時刻より前に、オーロラが現れたら電話しよう。
飛は外に出た。
そして玄関の扉の前にしゃがんで夏の夜空を見上げた。
蚊の翅音がプーンってうるさかった。
蚊に刺されて身体中がかゆかった。
夜ご飯を食べていなかったので、腹の雷鳴がゴロゴロうるさかった。
夜空に目がどんどん慣れてきた。
隠れていた遠くの星も瞬き始めた。
その時。
確かにオーロラが低空をたなびいた。
エメラルドの冴えた鮮やかな光が立ち上っていく。
彩光がカーテン状に降りそそぐ。
優雅に不規則に頭上で舞っていた。
気がつくと夜空一面がオーロラに覆われていた。
息をするのを忘れるほどの絶景だ。
今頃、幻ちゃんも観ているのだろう。
ほぼ23時半だ。
フィナーレかな?
赤い光も混じっていた。
激しく美しくオーロラが踊った。
徐々に漆黒の夜空が顔を出し、オーロラが払われていく。
贅沢な夜だった。
飛は家に戻り、夜ご飯の支度をした。
「うまくいくといいな。僕なりのロマンチックサプライズ」




