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太陽の雲が人類をアレに進化させる、そう遠くない未来。  作者: 城谷創懐(シロタニクラフト)
第五話 「人類の変転」
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魂の争奪戦 中編

飛がエイリアンに身も心も変化へんげしてしまった今。

燦然と輝き挑発してくる、幻の魂が欲しくて、欲しくて、喰らいたくてしょうがない。

幻の魂を喰らえば、「永遠の自由」が確実に手に入る。

だって、僕は幻が人間であることを知っているから。

でも、それは永遠に悔やまれる大過となる。

幻は意中の女子高生であり、僕を愛してくれた彼女なのだ。

幻の魂を喰らい、殺してしまったら幻の愛を裏切ることになる。

人類がたとえ絶滅しても、幻を守り抜く。

そう決意したじゃないか。

でも、「永遠の自由」になりたい。

「死」や「病」「苦痛」からおさらばしたい。

飛の胸の中で、二つの思いが交錯する。

胸中の天使がささやく。

「幻ではない人の魂を喰らうことを選びなさい。そうすれば「永遠の自由」を大好きな幻と共に味わえるのですよ」

胸中の悪魔もささやく。

「さっさと魂を喰らわないと、逆に喰われるよ。「永遠の自由」が欲しいんだろ? さあ、幻の魂にかぶりつけ」

幻は、まだそばで、こちらを見つめている。

飛には見えないが、涙目だった。

幻は飛のことを信頼していた。

自分の魂を飛が喰うはずがない。

と思ったのである。

幻のそばにずっといれば、いざという時に魂を喰って「永遠の自由」が手に入る。

飛はそう思っていた。

今、喰らわずに緊急時になったら喰らうのだ。

「愛を簡単に捨てるのか」

と胸中の天使が嘆いていた。

「早く喰わないと、いつ幻がエイリアンになるか分からないぞ」

と胸中の悪魔が脅す。

飛には見えないが、幻は涙を滝のように流しながら、飛というエイリアンの前に居座った。

プルプル両脚が小刻みに震えていた。

歯を食いしばり、幻はエイリアンの恐怖を堪えている。

エイリアンは金属の皮膚で、目が卵形で巨大だ。

口元には、ギザギザとした牙が鈍く光っている。

ナイフのように鋭利な牙だ。

口が人間の耳の部分まで裂けている。

悪魔の形相だ。

蒸気が漏れるような呼吸が聞こえる。

幻は鼻水も垂らしていた。

涙で顔がぐしゃぐしゃだ。

今や、美少女の面影はない。

「その場から動いてはいけない。動いたら命はない」

そう女の勘は言っていた。

声を殺していたが、とうとう耐えられなくなり幻は嗚咽した。

幻の喉にこみ上げてくる「歔欷きょき」が少しずつ漏れ始める。

飛には歔欷が聞こえていた。

むせび泣きがはっきりと聞こえていた。

幻の歔欷は飛の心を揺れ動かしていた。

胸中の悪魔が小さくなっていった。

幻の信愛。

それを飛は今確かに受け取った。

そして、幻の魂を喰うべきではないという気持ちにさせてくれた。


そのとき、幻の目にも異変が生じていた。

幻も「エイリアン・アイ」を持つ人間に進化したのだった。


その視覚を手に入れた瞬間、飛のおぞましいエイリアンの形相は忽然と消えた。

飛が闇の肉体を持ち、光の魂をうすらぼんやりと輝かせていた。

「あれは偽りの魂の光。あの光の中に強大な闇が潜んでいる」

幻はすぐに悟った。

飛の教えたルールを覚えていたのだ。

「私はもうすぐ、飛君と同じくエイリアンになるわ。そしたら一緒に他人の魂を喰らって、「永遠の自由」に旅立ちましょ」

幻は飛に向かって言った。

「守ってあげる。幻のこと」

飛は言った。

幻には悪魔のデスボイスにしか聞こえなかったが、女の勘がすぐに悟った。

幻はうなずいた。

朝の光が差し込んできた。

長い戦慄の夜が明けた。

「ちょっとトイレ行ってくる」

幻は飛にそう伝えた。

臓器が消えた飛にはもうトイレは不要物であった。

まだ幻は臓器が魂の闇に呑み込まれていなかった。

まだ人間なのだ。

飛は幻がトイレに入ったのを確認すると、トイレのドアの前に敢然と立った。

幻を守る。そう約束を交わしたのだ。

2012年、7月25日。

その日には人間の過半数がエイリアンになっていた。

人間が全員、エイリアンになれば「永遠の自由」は叶わなくなる。

世界の人口は1億人まで減少してしまった。

魂を喰われ、亡くなった者。

「永遠の自由」を手に入れ、自由の楽園に旅立った者。

いろんな人間が世界から消えていなくなっていく。

人類は破滅の時をむかえていた。

地球から人類がいなくなると、地球を管理する者がいなくなってしまう。

地球は滅亡するのだ。

「魂の争奪戦」の敗者は永遠に「地獄の死界」を歴代の死者とともにさまよい続ける。

「魂の争奪戦」の勝者は永遠に「自由の楽園」で気ままに暮らせるのだ。

永遠の死者か、永遠の生者か。

そのどちらかに分かたれるのだ。

トイレから出てきたら、幻はエイリアンになっていることを信じた。

でも、その確認が肉眼ではできないことに苛立ちを覚えた。

ピンポーン。ピンポーン。

誰かきた。

エイリアンか?

エイリアンが幻の魂を奪いにきたのか?

もしかしたらまだ人間かも。

幻の魂を喰らえないのなら、別の魂が欲しい。

飛はエイリアンの醜い姿のまま、玄関を開けた。

そこには二人の人間かエイリアンがいた。

「幻の母親です」

「幻の父親です」

二人は言った。

二人とも驚かないということは、二人ともすでに「エイリアン・アイ」だ。

幻はすでに用を足し終えていたが、ドアに鍵をかけてそのまま身を隠した。

「幻はどこ? いるなら出てきて親が迎えに来たのよ」

そう言いながら、幻の両親は飛の家にズカズカと入った。

廊下を足音を立てて歩く。

幻が息をひそめる。

「早くエイリアンになって」

幻はそう願うしかなかった。

飛は両親に言った。

「幻なら僕がエイリアンになった瞬間、走って逃げだしました」

飛は嘘をついた。

飛はちゃっかり、自分はエイリアンです。喰ったら化け物になりますよ。

とアピールもしていた。

幻の身体が重たくなってきた。

身体がこわばっていく。

「きた!」

幻は心のなかで喜んだ。

幻もエイリアンになった。

女の勘は注意をうながしてきた。

「両親は幻を喰らいにきたのかもしれない。両親は私のことを心底愛してくれていて、彼氏を作ることを反対していたのだ。きっと幻がエイリアンだろうが、人間だろうが喰うつもりだ」

幻の勘は当たっていた・・・。






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