世界滅亡 始動(前半・後半)
茶谷創懐
埼玉県朝霞市生まれ、朝霞育ち。
小学5年生で物語を書くことにハマり、それから一途に小説家を志している。
2017年4月から日本大学芸術学部文芸学科に入学して、虎視眈々と小説家のデビューを目指し、日々奮闘中。表紙も自分でデザインするのが夢で、デザインを学ぶため、新座総合技術高校のデザイン科に通っていた。
高校3年生のときに、文芸雑誌に自作小説「僕と彼女の埼玉踏破」が掲載された。
埼玉愛あふれる短編小説である。
そして、今回初のライトノベルを書き上げた。
現実的なSFのタイムトラベル系ライトノベルだ。
前半
創我飛(そうが つばさ)は「生まれつき」の高校生だった――。
飛は高校生の身体で、この世に出現していた。
生まれた瞬間、
少年が軒先で死んでいるのを目撃した。
頭部が粉々に砕け散っていて顔は確認できない。
飛は目の前の一軒家に住むことにした。
恐らくだが、死んだ少年はここの住人だろう。
少年の死体のジーパンのポケットには、家のカギが入っていた。
だから、飛は高校生くらいの少年が、この一軒家の住人だと考えたのだ。
生まれて間もなく。
飛はこの死んだ高校生の続きの人生を、代わりに歩むことにした。
(それが、なぜかすんなりと上手くいった)
飛は家に残された痕跡から、以前の住人の情報をつかんだ。
以前の住人の通っていた高校を、生徒手帳から知った。
飛はその高校に通うことにした。
勝手に。
生徒手帳に保管されている、身分証明書が飛の顔そっくりだった。
だから、バレないと確信していたのである。
埼玉県の朝霞にある普通科の高校。
飛はそこに通った。
全くバレない。
もう、不法侵入の犯罪をおかしている気がしなかった。
「罪悪感」は生徒と談笑している間に、口からゲップと一緒に去っていった。
やがて、飛はガールフレンドをつくった。
クラスメイトだった。
亜空幻(あくう ゆめ)という名の女子高生だった。
喩えるのなら「月光」だ。
彼女は月光のように僕を優しく包みこんでくれた。
孤独でさみしい僕をいつも、ほの明るく照らしてくれた。
友達の関係だったけれど、本当は、飛は幻に一目惚れしていた。
「幻を自分の彼女にしたい」
会うたびに、そう思うのだが結局。
告白する勇気が出ないまま、高校三年生の夏休みに入ってしまった。
飛はできれば逆告白されたかった。
つまり、幻のほうから僕に告白してほしかった。
二年生になった時に飛は「逆告白作戦」を決行していた。
掃除の時間に、隣のクラスの幻と会話をした。
飛は「世界の終焉説」を毎日のように語った。
それは「早く彼氏をつくらないと、世界が突然終わっちゃうかもよ」
と暗示させるためだった。
「逆告白作戦」もうまくいかずに高校三年生の夏休み。
もう間もなく、「世界の終焉説」が現実になるのに・・・。
2012年、7月21日。
世界滅亡の二日前から物語をスタートしよう――。
世界の終焉説が現実となる、壮大な青春物語を。
ちいさく落ち着いた部屋。
飛は部屋を暗幕で覆った。
邪魔な昼光をシャットアウトするためだ。
光源を失い、澄みきった清らかな闇が部屋中にたちこめる。
それから手さぐりで机上のスタンドライトを点けた。
暗室に月光のごとく、ほの白い灯りが染み渡った。
暗室がほんのりと色彩を取りもどす。
アンティーク調の本棚には教科書をはじめ、ギュウギュウに小説が並んでいた。
それぞれの小説のタイトルから壮大な物語や世界観が連想され、見ていて飽きなかった。
全部、以前の住人の所有物である。
飛は夏の陽光が嫌いだ。
眩しくて集中力がそがれる。
それに、時々グレア(光を見続けると視界にあらわれる色点のようなもの)が邪魔をする。
だから月光が好きだった。
あの目に優しい適度な光が集中力を高めてくれる。
それで、飛はわざわざ部屋を暗くして、夜の空間を創りだしているのだ。
飛は暗室を書斎として使っていた。
ここで読書をして思ったことを「考察」として書き留めておくのだ。
このようにして、飛は本の内容を自分なりに噛みくだいた。
脳の栄養としているのだ。
一風変わった文学少年の飛にもガールフレンドがいる。
そのきっかけは、誰でもできる簡単なことだ。
授業で自己紹介をするよりも前。
幻だけに一足先に簡単な自己紹介をした。
以下のような流れで。
「僕は読書が好きで、この高校に入ったんだ。ここの図書室は大きいときいてね。亜空さんは読書は好きなの?」
「うんうん、読書はあまりしないよ。それよりも少女漫画のほうが、どちらかというと好きかな」
「突然、話しかけてビックリした? 共通趣味を持っている人と友達になりたくてね」
飛は少し間をあけた。
初対面の女子に緊張して早口になっていたのに気がついたからだ。
「趣味。少女漫画のほかに何かある?」
飛が訊く。
「ゲームかな。育成RPG」
そしたら、趣味が合った。
飛も育成RPGは好きで、よく「ひまつぶし」にやっている。
それから、共通趣味の会話を展開した。
「僕も、育成RPG大好きなんだ! どんなゲーム? タイトルは?」
すると、幻の顔がほころぶのが分かったんだ。
相手も僕と同じように、初対面の男子に緊張していたみたいだ。
「JKコロシアム オン スクール。格ゲー(格闘ゲーム)の要素もあって面白いの」
「それ、ロリオタ(少女好きなオタク)に大人気なゲームじゃん」
「そうなの!? 全然知らなかった。でも確かにそうね。女子高生キャラしかいないもの」
二人は笑った。
お互いに共感し合えるから、話していてとても楽しかった。
もうすでに飛は幻を友達にしていた。
積極的に一声かけてみる勇気。
それさえあれば、誰とでも友達になれる。
飛はそう信じていたのだ。
後半
飛は二人分の長机を一人で広々と使っていた。
机の上は生活感が出ていた。
のりやハサミなどの文房具。
ボールペンや蛍光ペンなどが、ペン立てにつっこんである。
よく使う文房具は机上に直接置いていた。
予定を書きこむ手帳や紙の辞書に電子辞書。
それらが階段のように積まれていた。
飛は木のいすに腰かけた。
木のいすにはひざ掛けが上にかけてある。
だから、尻が痛くならない。
飛の身長は180cmとかなり高い。
それに反比例して体重が55kgと軽かった。
その長身長の半分が脚だった。
だから、よく女子から美脚と称された。
その反面、腰が高くて、異種族のように人から見られた。
そのため、飛は高校では常に不本意ながら「上から目線」だ。
見下げるようにして人と会話する。
余計な威圧が会話を滞らせた。
机上には可愛らしいペンギンのぬいぐるみも置いてあった。
コウテイペンギンのヒナをモチーフにしたぬいぐるみだ。
以前の住人は高校生にして早くも独り暮らしをしていた。
飛の両親は(現在には)居ない。
飛(僕)は、突如この一軒家の軒先に生まれたのである。
出現したのである。
要するに、家では必ず独りだった。
飛は孤独だった。
さみしかった。
二年半の月日が経ったけれど、孤独は慣れない。
いつまでも背後霊のようにつきまとっていた。
だから孤独に耐えきれず、ペンギンのぬいぐるみを心の支えとしたのである。
飛が買ったのだ。
ぬいぐるみの名前は「クラフト」だった。
クラフトの青い瞳に映りこむスタンドライトの光が、可愛さを増強させていた。
汗が毛穴から噴きだしている。
止まらない多量の汗は皮膚が溶けているように錯覚させた。
汗まみれでビショビショになったTシャツが皮膚にへばりついた。
気持ち悪かった。
飛は部屋がサウナ状態になっていることに気がついた。
窓も締め切っている。
暗幕が風に踊るのが嫌なのだ。
昼光がその度にちらつくからだ。
さすがに蒸し暑くて耐えられなかった。
そこで飛は冷房のスイッチを入れた。
はずだが、ピッと音が鳴らない。
心地よい冷風も流れてくれない。
飛は倒れそうになってきた。
ここで倒れたら、誰も助けてくれない。
飛はコンパスのような両脚にグッと力を込めて、踏んばった。
それでも身体がふらふら左右に揺れていた。
その振り幅はしだいに大きくなる。
ついに前に倒れてしまい、ドアに手をついた。
「あ、ここから出ればいいのか」
飛はドアノブをひねり、そのまま解放された廊下へ倒れこんだ。
同時にヘドもでた。
「故障か? こんな暑いときに」
飛は四つん這いになっていた。
前受け身がうまくとれず、両手を先に床につけていた。
腕が衝撃で折れたと思うくらい痛んだが、無事だった。
「世界滅亡の片鱗」
脳裏にテロップがそう流れた。
四つん這いが重力でつぶれて、うつぶせ状態になった。
麦茶を求めて、リビングにある冷蔵庫へと歩み出した。
恥ずかしながら、ハイハイ歩きだ。
はたから見たら、脚が長いゾンビだ。
さっき吐いたヘドがTシャツについていた。
ヘドのにおいと汗くさい体臭が鼻を刺激した。
意識が遠のく中、ようやく冷蔵庫にたどり着いた。
冷蔵庫を開けた。
待ち望んでいた心地よい冷気が、飛を復活させた。
ボトルの麦茶を浴びるように直飲みした。
キンキンに冷えた麦茶は最高だった。
砂漠の中、オアシスを発見した感覚に近かった。
そんな体験したことないが。
すっかり回復した。
元気になった飛はテレビの電源を入れた。
はずだが、画面は点かず、黒いままであった。
一部の電化製品の故障は、世界滅亡の片鱗なのか?
飛の脳裏に聞きなれない言葉がパッと表示された。
「巨大太陽フレア」
実は今から八分前。
太陽の黒点が光り輝いた。
黒点の箇所が白い光を放った。
鮮烈にビガッと。
同時に太陽から紅い炎が放射されていた。
ブワッとドラゴンが炎の球を吐き出したみたいに。
炎は宇宙へと宙高く放射していた・・・。
ものすごい速さで宇宙空間を炎は突き進んだ。
地球めがけて。
巨大太陽フレアは江戸時代にも起きている。
1859年、安政の末年。
リチャード・キャリントン氏が観測した巨大太陽フレア。
それを「キャリントンイベント」という。
巨大太陽フレアとは一言でいえば、電気に支障をきたす宇宙災害である。
当時は電報システムしか電気を使っていなかった。
そのため、電報システムの停止。
電報用紙の自然発火。
そして、電信用の鉄塔が火花を噴いたことぐらいしか、被害は生じなかった。
だが、時は現代――。
飛の家の電化製品は平成初期の古いものだった。
その日は気温が40度と酷暑に見舞われた。
それで機器が熱くなってヤラれてしまい、故障しただけであった。
飛が宇宙の異変に勘づいた後に、スマートフォンから警報が鳴った。
「最大級のXクラスの太陽嵐(太陽フレア)が発生した模様」
とのことだった。
巨大太陽フレア。
いつか、幻に話した「地球の終焉説」の一つだった。
飛は震撼した。
震撼したのは飛だけではない。
全世界が震撼していたのであった。




