おじいさんと河童(ショートショート49)
馬車引きのおじいさんがいました。
仕事が終わったあと、おじいさんは毎日のように馬を川へ連れていき、体のすみずみまで洗ってやっていました。
ある日。
おじいさんがいつものように馬を洗っていると、この川に住む河童があらわれました。
この河童、たいそうないたずら者で、さっそく川辺の岩の上から声をかけてきました。
「なあ、じいさん。なにをしてるんだい?」
「こうしてきれいにしてやれば、馬はこう思うんじゃよ。明日もがんばって働こうとな」
おじいさんは手を休め、河童に教えてやりました。
「ケッ! そんなこと、馬が思うもんけ」
「いや、いや。よくわかってくれておるんじゃよ、ワシの気持ちをな」
「馬のようなバカなヤツに、人間の気持ちなどわかるもんけ」
河童がケラケラと笑います。
――河童なんぞになにがわかる。
おじいさんはそう思いました。
「なにがわかるかって? ところが、そいつがオイラにはわかるのさ」
心の中を言い当てられて、おじいさんはおもわず河童を見ました。
しかし……。
――いやいや、まさかそんなこともあるまい。
そう思い直し、ふたたび馬を洗い始めました。
「まさかじゃなくて、そんなことがあるのさ」
河童にまた言い当てられました。
「おい、そこの河童。ワシの心の中がどうしてわかるんじゃ?」
「馬のようなバカじゃねえからさ」
河童はケラケラと笑って、川の深みに飛びこみ消えていきました。
次の日。
おじいさんが馬を洗っていると、またも河童があらわれました。
そしてこの日も、おじいさんの心の中を読みとっては、からかっておもしろがりました。
――捕まえて、こらしめてやれ。
おじいさんがそう思ったとたん、河童はあっというまに川に飛びました。おじいさんの心を読んで、先をこして逃げたのです。
「ケッ! オイラを捕まえるなんて、だれにもできねえことさ」
河童が水から顔を出し、バカにしたようにケラケラと笑います。
それからのおじいさん。
河童にとりあわないことにしました。心をからっぽにして、もくもくと馬を洗い続けました。
かたや河童。
おじいさんにとりあってもらえなくなり、からかいがいがなくなってはちっともおもしろくありません。
――シッポを引っぱってやれ。そうすりゃ、さすがにだまっちゃいないだろう。
河童は馬の尻に近づき、水の中からそうっとシッポに手を伸ばしました。
――けとばしてやれ!
おじいさんはとっさに思いました。
と、同時に。
馬がいきなりとびはねて、河童の腹をおもいきりけとばしました。
岩までふっ飛ばされた河童が、びっくりした顔であわてて逃げていきます。
「やっぱりオマエは、ワシの気持ちがわかっておるんじゃなあ」
おじいさんは何度もうなずいて、うれしそうに馬の腹をなでたのでした。
そのとき。
馬の尻から一匹のアブが飛び立っていきました。




