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8.魔族六部衆のサバト

(魔族より)


 自称大精霊ゼウスーラの事件があった翌日の夕方である。


 地下施設と地上施設の境目。とあるナイショの部屋で、魔族六部衆という名の、魔族的感性からして精神年齢の低そうなグループ名をつけられた幹部6人が、顔を付き合わせていた。


 以前までなら絶対に何人かが(意図的に)欠席してい会合(そのため、アーラスが苦労した)だが、王という巨大な力を押し抱いたため、自主的に集まりを持つようになった。

 蝋燭が1本だけの明かり。明かり取りの窓はない。完全な密室。


「我らが王がご休息なされている間に、我ら……魔族六部衆?……で、現状確認と情報交換を行いたい」


 ベレシュが、「魔族六部衆」の部分を気持ち恥ずかしそうに発音しながら、議長を務めていた。


「その前に、ビンネブルク。服を着るようになったのは歓迎するが、その服装はなんとかならんのか?」

 最大に溜息をつくベレシェ。性格上、乱れた風紀が我慢ならないのだ。


「水着? なにそれ? でもちょっとその感性、悔しいわね」

 ミラベルが顔をしかめた。女性に対してのみ見せる、特徴的なしかめ方だ。


「我らが王。紙一重でもよいと言った。これ楽ちん」

 ビンネブルグが選んだ服は、一枚物。

 金太郎ファッション。色はホワイト。

 左右に一番長い部位が、膨らんだ胸をかろうじて隠す代物。紐で固定するタイプである。

 肩とか脇腹とか、いろいろ剥き出しだ。


「露出しすぎね。御下品よ」

 エナメルボンテージを身に纏うミラベルの口がそれを言った。


「ゴホン! 会議を続けるぞ! ミラベル、報告を聞こう」

 ミラベルが立ち上がった。発言者は立ち上がる。それが唯一決められたルールだった。


「そうね、ガイヤベルト、ホーエン、コーブロックは軍備を整えているけど、今だ様子見ね。古竜が率いていたドラフェン王国。ここはもう一度軍を出すわね。古竜の死亡がまだ国内に広がってないけど、それは時間の問題。広がりきる前に軍を出さないと、自滅するわね」


「ふん、勝率の悪い賭だな」

 ベレシェは鼻で笑った。


「おぬし、感情を表すようになったのう」

 アーラスの合いの手に、ベレシェは表情を固く引き締める。

「我らが王へ報告を上げよう。……報告を上げる必要がないかもしれないが」


 耳に苦い事を隠そうという意味ではない。

 あの王の事だ、報告せずとも既に感知している可能性が高い。

 精霊神ゼウスーラを蹴散らしたのだ。それくらいの能力を持っていて不思議ではない。


「それにしても……神すら下す我らが王は、いったい……」

 6人が6人とも深く考え込んだ。

 早々と会議が中断した事に、6人は気づいていない。 



「整理しましょう」

 脱線と知りつつ、ベレシェが話題を変えた。


「我らが王は、古竜を倒すべき選ばれた勇者を、さしたる労力を払う事無く殺しました。人族の、万を超える軍勢を一瞬で皆殺しになされました」


 その時を目に納めていたのだろうか? ベルシェは、ここ数日よく顔に表情を出すようになった。そう言われたのを忘れている。


「物質面でも、魔法の面でも、特殊な防壁を施した難攻不落堅牢のライエン城を一撃で粉砕されたのう。その後すぐに城を改築復元なされた。あれは魔力ではない。ましてや精霊力でもない。おそらく神力であろうぞ」

 嗄れ声のアーラスがより一層声を嗄れさせる。


「襲撃されれば諦めるしかなかった災害の古竜ゾンマーラウを虫けら扱い。私なりに検知の力で調べましたが、肉体的にもアストラル的にもゾンマーラウは『消滅』しました。この感じ、あの古竜、輪廻の輪から外れたと考えられます」

「ベレシュ、そなたも感じたか?」

 アーラスとベレシュが頷き合った。


「そうか」

 アーラスは目を閉じて考え込む。 

「あの時のあの技、ブレスなんだろうか? ありゃこの世界を引き裂くぞ」

 バンパイアに比肩する不死身さを持つ狼男、ヴァルディックが両肩を抱えて、震えてみせる。

 もうすでに立ち上がって発現するというルールは忘れられている。


「ワザとらしいわね」

「俺のカンが、ゾンマーラウのブレスより怖いと警告を発した。あれほど強い警告を感じたのは初めてだ」

 ミラベルが不快感を表すが、ヴァルディックは意に介さない。

 

 アーラスが閉じていた目を開いた。

「ドラフェン王国軍を蹴散らしたあの爆裂火球。見たことの無い『魔法』じゃった。火力、魔力量、動員された元素数量。どう考えても上級禁呪。それを魔方陣も詠唱も無しで、顕現させる事ができる者、この中におるかのう?」


 無反応な者、あるいは首を横に振る者。返ってきた反応は、その二種類だけだ。


「そして、昨日の大精霊ゼウスーラを蹴散らした一件。神の雷は全身の筋肉と神経を直接攻撃し、さらに麻痺と硬直、内部よりの火傷を最高レベルで引き起こす代物じゃ。2発も喰らって、どうして平然としていられるのかのう? 不思議じゃのう」

 恐れと憧れ、恐怖と安心。正反対、二つの感情が6人の心に湧き上がっては消える。


「皆も手を焼いておったじゃろうが、……ゼウスーラを崇める精霊教会は、我ら魔族に対し、攻撃的な組織集団じゃ。そして、人間界に最も蔓延っておる宗教でもある。我らが王は、その大精霊すら蹴散す力をお持ちじゃ。いやはや!」

 アーラスが肩をすくめてみせた。


 王はどれほど強いのか? そもそも、何者なのか?

 見た目は魔族だが、魔族以外の存在なのかもしれない。


「さすがの我々魔族も、人族を生物視していますが……、王妃の助命嘆願をしていた女騎士の扱い。魔族でもあそこまで酷い事はしません。あの冷酷さ、無情さ……」

 いつ矛先が魔族に向くのか?


「敵には厳しい。身内には甘い」

 みんなの視線がビンネブルクに集まる。


「それは、神に近しいアルケニーの勘?」

「違う。事実」

 ミラベルの問いかけに、ビンネブルクは、否定と肯定で答える。


 皆が口を閉じた。

 我々は、王に、身内として認識して頂けるのだろうか?

 認識していただくためには、どれほどの努力をしなければならないのか?


 自分の行動が、自分の一族の命運を握る。

 ゾクリとする恐怖と、一族を背負う高揚感が同時に鎌首をもたげる。


「何を食えば、ああなれる?」

 ヴァルディックの言葉は、実に獣人らしい物言いだ。


「食事を取ったところを見ていない。眠ったところを見ていない」

 一番側に居るビンネブルグだからこそよく解る。


「完全生物」

 ぼそりと呟いたのはアーラスである。


「なんだそりゃ?」

 片方の眉を上げながら食い付いたのはヴァルディック。


「全ての生物、全ての存在の上に立つ完璧なる生物。全ての生物の能力を持つ個体。エネルギーは外から取らず、自ら作り出し、自ら消費する、自己完結型。完全たる非破壊生物。それが完全生物」

 予言書を読み上げるような厳かな声で、アーラスは知識の奥底から一節を汲み上げた。


「我らは……とんでもないお方を王として崇めてしまったのかもしれません」

 ベレシュの表情が硬くなった。


「いや、とんでもないお方で正解でしょう」

 ミラベルが蠱惑的な笑みを浮かべる。その背中を一筋の汗が流れた事を誰も知らない。


 この話題は、今はここまで。

 また言葉が途切れた。


 口を開いたのは、またしてもベレシェだった。

「次は『魔族六部衆』という恥ずかしい名称問題です」


「決めたのは我らが魔王……」

 アーラスの言葉に、空気が重くなる。


 沈黙を打ち破ったのはミラベルだった。

「もうこれは、エリザーベト? あの人間の女騎士にがんばってもらって、わたし達の仲間に入ってもらって、7人制にして、その時名称を変えてもらうしかないわね」


「ワンチャンに全チップを賭けよう!」

「みなでエリザーベトを盛り上げよう」

「エリザーベトに優しくしよう」

 ウンウンと頷き合う6人。


 ベレシュが立ち上がる。

「そろそろ時間だな」


 ちょうど蝋燭が燃え尽きた。


 密室は真の闇に覆われる。


 闇の中、生物の気配は消えていた。





次話「世界制覇前夜」

お楽しみに!

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