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7.宗教弾圧

 翌朝の事である。


 種族的宿痾というか、地方の習慣というか、ベルシェ達バンパイアは第二シュタイン城こと、地下宮殿で休息に入った。

 うちは従業員に優しい企業である。福利厚生は充実している。

 ブラック企業とは言わせない。


 とたたたた! って足音が聞こえてきた。


「王よ王よ、我らが王よ」

 城の内装を担当するアルケニーのビンネブルグが、後ろ足2本をドリフトさせながら、謁見室へ駆け込んできた。


「お前、いい加減服着ろよ。なにも鎧を纏えとは言わぬ。一枚物で良いから! 戦闘において、紙一重で大怪我を回避できる事もあるのだぞ」


 人間型(和風美少女型)の上半身が裸なのだ。

 瞼を閉じても、透視能力を持っているので、どうしても見てしまう。

 漢の宿痾であるから、これはもうどうしようもない。


「そのうちそのうち! そんなことより!」

 なんだろう? 具申かな?


「シュタイン城の門前に、人が集まって我らが王を出せと叫んでおります。ノームトが押さえておりますが、いかが致しましょうか? あっさり殺しましょうか?」


 一気にセリフを並べて大きく息を吐いた。彼女にとって長台詞だったんだろう。

 それは置いといて、人が集まってる?


 ああ、国民が蜂起したのだな!

 よしよし! 虐殺イベント発生!


「ビンネブルグ! 魔族六部衆は何人集められるか?」

「ま、ま魔族? 六部衆? は……ベレシュ様はお眠ですし、アーラス様はお年ですし、ミラベル様は飛び立ったきりですし、ヴァルディック将軍とノムート警備大臣と、わたしの三人かな?」


 六部衆、の発音が小さかったけど、恥ずかしそうだったけど、疑問系だったけど、引きこもりなビンネブルグにしてはよく言えました。


「ならば集まれる者だけに招集をかけよ! 話くらいは聞いてやらんでもない。うっかり殺してしまうかもしれんがな。フハハハハハ!」


 こういうのは最初が肝心だからな。

 人間共め。恐怖政治の幕を開けてやろう。怯えよ! そして絶望せよ!



 201人の人間が綺麗に並んでいた。

 みんな、おそろいのフードをかぶってる。こりゃ全員聖職者だな。


 城門をばんと開けて、魔物がウジャっと飛び出した。頭数が足りないように思えたので、手隙の魔物も30人ほど同行させた。


 これが効果覿面。

 やかましく騒いでいた聖職者の集団は、途端に静かになった。


 ほんと言うと、効果を期待して上から飛び降りさせたかったのだが、ビンネブルグが嫌そうな顔を隠そうともしなかったので、仕方なく変更した。


 そして、大地を振るわせる衝撃と共に、元の姿(巨大化)の私が、城門前に飛び降りた。

 上空で待機していたのだ(インビジブルかけて)。


 震度4である。

 全員が尻餅をついた。

 8本の足で安定したビンネブルクを除いて。


「なにやら、この私に話があると聞くが?」

 無意味に爆音を立てつつ、体高を2.5メートルにまで縮めていく。

 5人ばかり心臓を止めて倒れたが想定より少ない。


「代表者、一人前へ出ろ!」

 特殊効果を期待して、牙の並んだ口から青白い煙を吐き出してみる。


 尻餅をついた人間が、さらに後ろへ膝行る。

 その中から、一人の白いローブを纏った人間が、前へと進み出た。

 若い女だ。身なりがよい。

 女にしては背が高い方。キリッとした知的な目。覚悟をもった引き締まった唇。


「ここにおわすお方は――」

 地べたに這いつくばっていたカッパハゲの中年男が、ネバネバの金切り声を上げた。

 怖いんなら、おとなしくしてろよ。


「聖女クリスタ様。恐れ多くも精霊教会の最高巫女である!」

 ほほう……王女とクッコロ騎士に続いて、聖女か……。


 天は我に、どの路線を進めと?


 で?

 って感じで顎を上げ、聖女様を馬鹿にした目でなめ回す。


「精霊神ゼウスーラの名において命じます。悪しき魔物共よ、今すぐおのが寝床へ帰りなさい」

 寝床って、私は寝る必要ないからベッドは作ってないし、魔族六部衆のベッドは後ろの城だし!


 だから天よ、私は何をすればよいのですか?

 だめだ、全然解らない!

 よし、部下に振ろう。


「今の、意味解ったか?」

 警備責任者ってことでアーラスに振った。


 トカゲ頭はゆっくりと首を振る。真剣に、真面目に理解が及ばなかったらしい。

 役にたたねぇ!


「弱肉強食の獣たちでも、楽しんで命を奪ったりはしません。 悪の道に堕ちた者だけがそれをするのです」

 ばっ片手を上げる聖女クリスタ。

 精霊力がこの空間に勢いよく満ちていく。


 私は、より大きな力を感知し、空を見上げた。

 頭上では、いつの間にやら暗雲が渦を巻いている。おかしいな、今日一日、晴天だったはずだが?


「大いなる天の怒り! 人、それを天罰と言う!」

 サッと腕を振り下ろすクリスタ。


 空気を揺さぶり、上空の黒雲から、大振りの雷が落下!

 私の右角を直撃!

 大気を揺さぶり、大地を叩き、900メガジュールのエネルギーが放たれた。


 安定を誇るビンネブルクがひっくり返る。水棲により雷を嫌うノムートは姿勢を低くして、落雷を防ぐ。


「で?」

 私は普通に立っている。


「で、って? あれ? 雷落ちましたよね?」

 クリスタがアワアワしている。


 彼女の取り巻き達も、オタオタしている。


「質問に質問で返すな。この不作法者め! 私が聞いているのは、いつ天罰が降るのか、ということだ。おまえさっき、神の天罰が降るような事言ってたろ?」


 口の中が、唐辛子を舐めたようにピリッと来て、右の腰から脹ら脛にかけて、柔らかい暖かさを感じた。これが遠赤外線だな。


 ノーマンズ大迷宮時代、よく体の不調を雷平原で調整したものだ。なつかしい。

 ――私に雷撃は利かない――


「て、天罰よ! 神の力よ!」

 もう一回、雷が落ちた。

 ただし、不自然な状態のため、電位が足りず、小ぶりな落雷となった。


「神の力を恐れぬ愚かな悪魔め!」

 クリスタの取り巻きだろう髭オヤジが、私を指さして怒鳴る。


「神の実力が足りなかったようだな」

 結構な殺意を髭オヤジに向けたら、「ひっ」と唸って転がった。


 ビンネブルクが、たたたと近寄り、手の脈を取る。

 残念そうな顔をして、首を横に振る。……芝居がかった表情だった。


「精霊の王ゼウスーラよ! 愚かなる――」

「うぜぇ」


 巨大化!

 そして逆雷。

 上空の電位と逆の電位を高出力で作り出し、打ち上げた。


 雷雲がバスンと間抜けな音を立て、ドーナッツ状になりはてた。

 セイレイキョウカイとか名乗る方々が、ポカンとした顔で千切れ行く雲を見上げている。


「めんどくさいから、帰っていいかな?」

 人間共を見下げると、ビクリと体を震わせていた。

「それとも、皆殺しにしてから帰った方がいいか?」


 大暴動が発生した。


 逃げる195人の聖職者が、目の前の聖職者を蹴り倒して踏みつけて、怒濤の流れを作る。

 最後尾にあたるクリスタが「落ち着きなさい」と叫んでいるが、誰も聞こうとしない。聞いてない。


 23人が転がっている。動かない。たぶん圧死だ。

 クリスタ一人が、背中をこちらに向けて膝を付いていた。


 足の小指をツンツンする者がいる。

「我らが王よ、声をかけますか?」

「情け無用!」

 一言だけ口に出し、2.5メートルの身長タイプへ姿を変えた。


「低級精霊を信仰していたものの行く末はこんなもんだ。低級精霊ほど、人の願いを聞き届けてくれる。だが、所詮は低級精霊。破綻はすぐやってくる。私が手を下さなくとも、すぐにやって来ていたさ」


 私はクリスタへ歩いて近づいた。

 クリスタは俯いたまま、しゃべり出す。

「魔王、あなたは神様を信じてないの?」

「神様か? そりゃ信じてるさ。でもな、私の肉体とホーキング輻射ブレス。こいつらは私を裏切ったことは無い。それが全てだ」


 あ、泣き出した。


「聖女クリスタよ。ゼウスーラのような低俗精霊に心を奪われるな。おまえは、至高精霊とも会話できる能力を持っている。足があるなら立ち上がれ」


 くるりと背を向け、歩き出す。クリスタが顔を上げた気配を背中に感じながら、城門を閉じるよう命じた。


「我らが王よ」

 ビンネブルクがトテトテと足音を鳴らしながら私の後を付いてきた。


「なんだ?」

「王は厳しいです」

「あたりまえだ」

「でも、優しいです」


「私へのリスペクトなら後で聞く。それより服を着ろ」   







 ノーマンズ大迷宮にて――。


 蝙蝠の翼を得てしばらく経ったあの頃。

 大精霊とか至高精霊とかを倒して合体能力でその全てを吸収したのはナイショな! 




ご意見ご感想罵詈雑言、お待ちしております。


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