5.魔界創世
「その方ら、名乗りを上げよ」
喜色満面に顔を上げるガーゴイル。ガーゴイルの笑顔ってのも不気味だな。
「不肖、我はガーゴイルのアーラス。腕と解呪の恩は、忘れませぬ。老い先短い残りの一生を王に捧げます!」
次は魔貴族。
「改めて名乗りをあげる感謝を。我が名はベレシュ・ツェペシュ。バンパイア一族の長にして神祖。 一握りの灰となっても、王の剣としてお仕え致します」
次は赤い蝙蝠翼のお姉ぇさん。
金髪ショートに角が一対。赤いボンテージファッション。ガーター丈の赤いロングブーツ。もちろんピンヒール。
まろび出そうなオッパイが高得点。揺れているがGIFではない。三次元だ!
「わたしはサキュバスのまとめ役、ミラベル・レードレイ。この身も肌も心も王の物!」
そして腰の入ったウインク。
よし、合格!
日本髪、前髪パッツンの美少女。ただし、下半身は黒い剛毛に覆われた巨大蜘蛛。
「アルケニーのビンネブルグ。如何様なご命令なれどご自由に」
白い肌に黒髪がさらさらと流れる。
下半身がアレだが、美人だしオッパイ丸出しだし、許されるであろう。
グイと出てきたのは中年の人狼。
人間の服を着ている。一見、狼の仮面をかぶった人間だ。
「俺の、いや私の名はバルディック。狼だけでなく、あまたの獣人をまとめている、いや、います。首だけになっても王の敵に噛みつく自信はある! 期待してくれ、いや、して下さい!」
野にして粗野だが碑ではない。それを地でいく格好いい中年。いいよー。
最後が――トカゲ? の大男?
トカゲの大男の背後から、ぴょんと跳びだしてくるトカゲの、たぶん雌(可愛い)
「リザードマンのノムート。頼りになる男」
ぴょんと隠れる。
……。
よし!
これで一通りの挨拶は済んだ。
次は儀礼的に言って私の番だろう。
「私に名は無い。好きに呼べ」
実際、名は無い。
ボスとかアニキとか呼ばれていた。それで事足りていたからな。
前世の名は転生した際に置いてきた。
だからそれでいい。
「では、魔王様とお呼び致します」
ガーゴイルのアーラスが、上手く纏めたようだ。
……魔王か。そうきたか。
「やはり王と呼べ」
魔王はちょっとな。趣味じゃないし、魔族を束ねねばならないとか、そんな責任感は持てぬよ。
「ちょっと下がってろ」
次は何するんだろう? そんな感アリアリのおっかなびっくり腰で、6人の魔族は後退した。
私は翼をめいっぱい広げ、空中に浮かんだ。
背中の翼は伊達じゃない。自在に飛べる。
ずおーっと光ってばーっと……説明する為の単語がこの世界の言語にないのだ。
テラスの手すりの上に立つ、2メートル50センチの魔物。
私だよ私。
「これ以上小さくなる事も出来るが、面倒な手続きを踏まねばならぬ」
「身長……、自在なのですか?」
バンパイアのベレシュが驚いている。お前、冷静キャラなんだから、顔に表情出すなよ!
大きさはある程度自由に変えられる。
ナニしてアレしてコレすればいい。
フォルムはほとんど変わらない。狼の直立形態に両肩の角。太くて長い(カンガルー?)尻尾に背中の翼。
頭に一対の角が目立つだけ。
この山羊に似た角だけど、巨大化(通常フォルムだけど)しても生えている。
訳あって、角だけ大きさが変わらない。だから、小さくなると存在感を放つ。大きくなると存在感がなくなる。
それだけの事である。
で、2.5メートル以下の身長になると、角が対照的に大きくなって、デザインラインを損ねるのだ。
よって、小さくなる限界は2.5メートルと設定(自社設定)されている。
「豆粒になって餅にくるまれて食べらっるのも嫌だしな。もっとも腹に入った段位で、巨大化して爆破するがな、ハッハッハッ……あれ?」
みんなシーンとしている。
日本昔話は難しかったかな?
「……冗談だ。笑え!」
大爆笑の渦である。
目は笑っていないのが気になるが……。
大爆笑の渦である!
すっと手をあげる。
ピタリと笑いが止まった。
……よしとしましょう!
「付いてこい」
私を先頭に、6人の魔物が城の中へと入る。
ベランダに面した広場が謁見の間に設定した空間である。
飾り気の全くない部屋はがらんとしていて、音が響く。まるで洞窟か迷宮の中だ。
2段高くなった場所があるのだが、当然のように私はそこに立つ。
そして、これも当然のように、6人の魔族は下の段、つまり普通のフロアで、傅いた。
皆に対し、正面を向く。
自動で椅子が出現する。豪奢な背もたれは空中に浮いたタイプ。
こうしないと、尻尾が邪魔で座れないのだ。
この場合、立派な背もたれは絶対外せない!
どっかの宇宙のスカートの中の金髪皇帝が理想なんだよ。
オリジナルの(お気に入りの)椅子にふんぞり返る。肘掛けに預けた腕に顎を乗せる。
おおぅ! いっぱしの魔王じゃん! カッコから入って正解じゃん!
……もとい!
「面を上げい」
人生の中で一度は言ってみたいセリフ第3位である。
ちなみに第1位は、「敵を撃つとき、あなたは何を心に感じますか?」とインタビューで聞かれた海兵隊スカウトスナイパーが、肩をすくめて答える「反動?」ってセリフ。
……もとい!
顔を上げる6人の魔物。
「アーラス、ベレシュ、ミラベル、ビンエブルク、ヴァルディック、ノムート。お前達に褒美をやろう。これからは魔族六部衆を名乗れ。私が作る国の最高幹部だ。これからは好きに振る舞ってよいぞ」
皆顔を見合わせて、口元をほころばせている。
身分の確保をされた以上に、魔族六部衆という格好いい二つ名が付いたのだ。これを喜ばない知的生物は、この世に存在しないだろう。
「有り難き幸せ。魔族六部衆なる名称はアレですが……いえ、心より有り難く頂戴致します! 我らを最高幹部としての御取り上げ、真に有り難うございます」
よしよし、六部衆の名前がそんなに格好いいか! よしよし!
次だ。
「法律は追って作るとして、基幹となる思想は『私が法律』だ。歯向かう者は誰でも殺す。従う者だけに生を許そう」
また頭を下げられた。
ちょっと煩わしくなってきたが、これもロイヤルデューティ。王として受け入れねばなるまい。
「我らが王よ、偉大なる王よ、この城はライエン王の城だった物。王の御業で作り替えられましたが、まだ中に人が生き残っている様子。この始末、我らに初仕事としてお任せ願えましょうか?」
ベレシュが進言してくる。
そうだよな。半分は残ってたし、中の人間も生き埋め状態だしね。サルベージしてもらおうか。
「うむ、よかろう。せっかく修理した城だ。遠慮無く使わせてもらおうか」
「ご命令のままに」
「まて、誰が下がってよいと言った?」
早速行動を開始しようとしたベレシェを「威圧」の魔眼で止める。
この魔眼は、巨人との戦いで重宝した支援能力だ。
「キサマら魔族が下々の仕事をする必要はない。城の運営を知る人間は下使いとして残そう。歯向かう者は殺せ。だが少しでも使えそうなのは残せ。あと、王族が残っていたら生け捕りにしろ。王族でない貴族は……歯向かえば殺せ」
ベルシェは、ははっと頭を下げる。かけないはずの汗をかいているがなんで?
「先に皆の役割をあらかた振り分けておこう」
私を最高権力者=王として……権勢を振るうためには仕事の割り振りと責任転嫁が必要だ。
「アーラスは私の補佐しろ。つまり内務大臣だな」
「有り難き幸せ!」
ここんところはお堅い老人ぽいな。深層心理に刻み込むように感謝してくれている。これ、裏切ったら泣くだろうな。
次! 狼男!
「ヴァルディックは実戦部隊の総指揮官、つまり軍務大臣兼将軍職だな。命を惜しむな名を惜しめ」
「俺、いや私の働きをとくとご覧あれ!」
やべ、政治ごっこが楽しくなってきた。
次、おっぱい……いや、サキュバス。
「ミラベルは外交を任そう。外務大臣だ。その地位を利用し、軍、並びに政治の補佐として情報管理に努めよ。他に使えそうな役職が見つかったら遠慮無く振るぞ」
「それこそ得意中の得意。全ての男を骨抜きに!」
何を想像しているのか、ミラベルの目が怪しく光る。正に徒花。揺れる胸。
次、アルケニー。
「ビンネブルグは城の維持管理を任せる。この城は殺風景だ。飾りだのなんだの、全て任せる。好きなように飾れ」
「デザイナーは幼き頃からの夢!」
ミラベルとは正反対。野に咲く花のような清楚な笑顔を浮かべるビンネブルグ。下半身の蜘蛛脚がもそもそと蠢く。
次、鱗に覆われたリザードマン。
「ノムートは……」
鱗で防御力が高いよな。こいつの敵勢ってなんだろ?
どっかのゲームだとレベル上げすればドラゴンになるとかならないとか?
「防衛大臣? 国内並びに王都の防衛と警備に力を尽くせ?」
疑問系で命令する。
背後から現れる少女トカゲ。
「委細承知」
ノムートは無口キャラで確定。
「そしてベレシュ」
色白の男前バンパイアのベレシェの名を呼ぶ。
「お前は、全ての役職と魔族の総まとめだ。総理大臣とでも名乗れ。戦時は最高司令官だ」
「あ、有り難き幸せ」
言葉に詰まっている。感動かね?
「命を惜しまず私と背初の接触を成したベルシェは、信頼する価値があると踏んだ。お前らはこれからだ。これから信用できる生物か否かを見極めさせてもらう。魔族六部衆の名は誰が継いでもよいのだぞ?」
「魔族はその全てが魔王に人生を捧げましょう。魔族六部衆の恥ずかしい名など……もとい、魔族六部衆の名に恥じぬ生き様をご覧に入れましょう!」
全員を代表して、総理大臣のベルシェが宣誓を行う。
私は立ち上がってこれに答える。
「よろしい。では、私が命じよう。人間の意思はこの際無視して、ライエン王国は廃止。我ら魔族が乗っ取り、国名をノイ・シュヴァイン・シュタイン魔王国と改名する!」
あれだ。女の子だったら誰もが憧れる、シソデレラ城の元になった白いお城の名前だ。
「ノイ……シュヴァイン……シュタイン?」
さすが魔族の中でも貴族とされるバンパイア、ベレシュ。間違わずに発音できるとは!
「新しい白鳥の石すなわち「新・石造りの白鳥」という意味だ。優雅と強さを備えたよい名だと思う。そしてこの城がノイ・シュヴァイン・シュタイン城である!」
おおーっ!
6人の声が合わさった。
これより、ライエン王国は地上から消え去り、代わってノイ・シュバイン・シュタイン魔王国が姿を現す事となる。
さあ、前世の知識を利用した内政チートの始まりだ!
あとでアカシック・エキサイツ・レコードに接触して知ったのだが、上のは間違っていた。
白いお城の正式名称はノイ・シュヴァン・シュタイン(Neu Schwan Stein)城。
ノイ・シュヴァイン・シュタイン(Neu Schwein Stein)を直訳すると「新しいブタの石」、となる。
マモー! 俺を消してくれ!
次話「恐怖政治」
おたのしみに!