4.激闘! 古の竜!
こちらを見下ろす大型の、なんか黒っぽい竜。
こいつの後ろで生物の反応を感知。
これは……5万人ちょいか?
ノーマンズ大迷宮前広場で、ライエン軍と対峙していた陣営の軍か?
「滅び行く種族に我が名を示そう!」
あ、黒っぽい竜が何か言ってる。
「我が名はゾンマーラウ!」
シラね。
「なにぃ! 古の竜、ゾンマーラウ様じゃとう!? ごふっごふっ!」
ガーゴイルの爺様が説明を兼ねて叫んでくれるのは良いが、年を考えろ、年を!
だれか 背中さすってやれ! 背中!
「ふふふ、そうよ! 我輩は、神によりこの世界が混沌より仕分けされる以前から存在した超越者。神が決めし理の外に生きる存在! ケハハハハッ!」
古竜ゾンマーラウが大口を開けて笑っている。やだこの子笑顔が可愛くない。
ガーゴイル老が前に歩み出て、テラスの手すりに手を掛けた。
「ゾンマーラウ様、御静まり下され。御身も我らと同じ。この世界に居場所を無くした者同士。共に手を携え――」
「やかましいわー!」
ゴウと吠えるゾンマーラウ。ガーゴイル老が背の羽を畳み、手すりにしがみつく。
烈風と気の圧力が、6人の魔物を襲う。さすがに尻餅をつく輩はいないか。
「誰がキサマら下等生物と同列に扱えと言った? 我輩は超越者なり! 自分の意思で好きに生きる! 戦いたい時に戦い、殺したい時に殺す! チカラが、我輩を完全自由な存在としておるのだ!」
この世の、全てを自由に出来る力。
この世の、全ての生物の頂点に、圧倒的力を持ちて君臨する存在。
その者だけが、真の自由を手にする事が出来る。
「ひ弱なキサマらや、ぽっと出の若造に、我輩と同じ時間を生きる許可は出せぬ!」
6人を圧倒する純粋なパワーが、古竜ゾンマーラウの全身より迸る。
でもさ……、だからこそ気になるよね?
「その様な絶対者が、何故ゆえ人間の走狗となる?」
「なんだと若造?」
呪眼を起動させ私を睨む。とっさに対抗策をとったが、さすが古竜。顔の毛の根元が、ヒリヒリと痛む。
「私の質問が理解できなかったか? 絶対的な力を持つ者が、なぜ人間の先頭で戦う? それを教えてくれと言っているのだ」
ゴウン!
ゾンマーラウが零フレームでブレスを放った。
収束されたブレスだったので、ちょっと顔を捻ってそれを躱した。
新設した物見の塔を貫通し、後ろの町中に炸裂する。
大爆発に続き火災発生。城の近くだから貴族の住宅街か。広い敷地が類焼を防ぐだろうから、放置。……大火災が発生しても放置するが
6人の魔物達は……なんとか立ち上がっているようだな。
背後で音を立てて崩れていく石作りの塔。
「少しは出来るようだな小僧。よろしい!」
ドラゴンに殺気の籠もった目で睨まれた。
「神がいなくなった」
ここに厨二がいます。
「ぽっと出の小僧には解るまいが、常に感じていた神の気配をいつしか感じぬようになった」
……心当たりがあるような無いような。
「我輩の力が付きすぎて、ついに神を凌駕してしまったのだ!」
……色々な情報を交換したい欲望に狩られているが、記憶が曖昧な事もあるので、躊躇した。
「お前が殺してしまった勇者だ。あの小僧は、我輩と戦う為に生まれた人間だ」
話が飛んだ。
老人の話は、あちこちに飛んで結論がないと聞くが、これはまさか、……老人性痴呆症。
「我輩は戦いに飢えておる。我輩は強くなりすぎた。釣り合う相手が居なくなったのだ。ならば作ればよい。見込みのある人間に力を与え、成長させ、ドラゴンスレイヤーを与えた。ようやく戦えるまでに育った勇者をお前が殺した!」
なんか話を聞いていると、私が悪者に思えてきたぞ。どうしよう?
「人間共の先頭で戦っていたのではない! 我輩が人間の軍を率いていたのだ! ライエン王国を勇者と共に、景気よく滅ぼす! その楽しい計画を貴様はっ!」
勇者云々以外は、私と思考方法が似たり寄ったりだったりするので、頷いて聞いておいた。
「だが、我輩は、神より心の広い竜である。小僧、我輩の僕となれ。その人の手に似た手を差し出せ。我輩が、世界に覇を唱えた後、ダンジョンの1つでもくれてやろうぞ。どうだ? ん?」
私は腕を前方の空間に向け動かした。
背後で6人が息をのむ音が聞こえる。
「そうだ、我が輩に手を差し伸べよ」
私は言われるまま、腕を伸ばし、手のひらを上に向け――
クイクイと手招きした。
一瞬空いた間がマヌケだった。
「こっのっ! 糞ガキがーっ!」
ゾンマーラウの上半身が発光。顔面にいくつもの魔方陣が発生しては、深層・立体・四次元化していく。
――陣構成が速いな。
「あれは! 古竜が放つとされた伝説のブレス。ワールド・エンド!」
ガーゴイル老、解説ありがとう。
「死にさらせー!」
大きく口を開けるゾンマーラウ。黄色い光が喉の奥より湧き上がり、魔方陣が活性化していく。
上半身の光が全て口に集中していってる。
私もゆっくりと口を開ける。
青い光の粒子が、口中へ集まってくる。
ちょっと前まで使っていた、某異世界からエネルギーの海を汲み上げる。
ドギャン!
古竜のブレスが斜め下に向かって発射された。
私の口からも青白い光が仰角で発射された。
正面からぶつかる黄色い破壊エネルギーと、青い破壊エネルギー。
――それは、
――拮抗する事なく、
黄色い光を四方へ飛沫として散らしながら、青い光が突き進む。
古竜ゾンマーラウを飲み込んで、斜め上へのベクトルを保ったまま、遙か天空へと突き抜けていく。
照射時間15秒。
これ以上の連続照射は、この世界にとって害にしかならない。物理次元の空間が引き裂かれる恐れがある。
太い光の束が、細い線となり、ちりぢりに消えていく。
静寂が世界を包む。
古竜ゾンマーラウなど、最初から居なかったみたいだ。
「古竜ゾンマーラウなど、最初から居なかったみたいだ」
それ今俺が思った。――俺って言っちゃったよ!
ベレシュさん、なに偉そうに場を締めてるの? プチ殺意が湧いたよ。
意趣返しをしてやろう。……八つ当たりだよ!
「古竜ゾンマーラウ? 誰だそれ?」
固まる6人の魔族。
力の差とはこういうものだ。
よしよし、効果は抜群だな。
「ああ、思い出した。そこの塔においたをしたトカゲだったな」
指パッチン。塔の傷が自動修復していく。物質再編の能力だ。
「王よ、王よ、我らが偉大なる王よ!
感極まったのか、ガーゴイルが両手と頭を石の床に擦りつける。泣き声だ。
他の5人も、膝を付き頭を垂れ、臣従を誓う。
既成事実として、連中の王にされたっぽい。
「よいのか? 私が王となれば、古竜以上の恐怖政治を布くぞ?」
「承知!」
即答かよ。
まあいいか、賑やかになるのだ。よかろう。
……その前に、華やかにしてやろう。
ゾンマーラウが引き連れてきた、隣国の軍隊な。
あの先っぽの方に、TNT火薬20キロトン程度の爆裂火球を出現させた。
火と風と「圧縮」の混合魔法だ。爆発による爆風がシャレにならないだけで、破壊力はそれほどでもない。
クレーターが出来るのは別の魔法だ。
隣国の軍隊だし、残りがどうなったか知らないし、興味もない。
目の前の6人に、もっぱら興味の矛先が向いている。
「さて、話を続けようか」
ご意見ご感想お待ちしております。
次回「魔界創世」
明日(27日)の朝、次話投稿します。
おたのしみに!