1 大陸間戦争
お久しぶりです。
「大陸北の港が見知らぬ戦艦、複数に攻撃されております! 大型戦艦です!」
と、まあ、アルケニーから報告があった件について。
「大陸北」と言えば、ガイヤベルトかと思ったんだけど、少しずれていた。
迷宮陥没……ゲフンゲフン! 大陥没跡地、被災地域寄りの集落だった。
敵の船は大型だ。大型と言っても所詮は帆船。産業革命前の一品。せいぜいが4・50メットルでマストが3本といっところか。
側面にはこの大陸に無い大砲の列が顔を出している
そんなのが12隻、港町の沖合に停泊していた。
不安なのだろうね。大勢の村人達が遠巻きにして見ている。
ボートを漕いで上陸してきたのは、ジオン軍みたいな制服に、モーツアルトみたいなカツラを被った軍人さん50人だ。
50人全員が、この大陸にはない武器=銃を装備している。たぶんマスケット銃だ。マスケット銃って何なのかは知らないが!
射撃体勢を取った中、一人、色違いの制服を着た偉いさんが進み出た。
「これよりこの地は我がオーバーブルク王国の領土となる。さしあたって奴隷を二千人差し出せ!」
対応に出たのはオークキングである。
「その喧嘩、買ったブヒ!」
「撃てっ!」
「ぶひーっ!」
哀れオークキングは蜂の巣となった。
ズドーン!
「な、なんだ?」
全長百メットル越えの怪獣が、空から降ってきた!
私、参上!
破壊光線(ホーキング放射)発射!
ドギャン!
沖合の最新鋭戦艦が木っ端微塵に吹き飛んだ!
「ひいぃえぇえぇー!」
ペタリと座り込むオーバーブルク占領軍の皆さん。
「先に手を出したのはその方共だからな。千豚将軍の敵討ちである」
交渉の本命、エリザーベトが前に出てきた。
ちなみにオークキング千豚隊長の部下は、悲しいかな、先の戦いで絶滅した。ここにオーク一族は完全絶滅となった。合唱、じゃなくて合掌。
「そして理不尽な行為に対し、我がシュタイン魔帝国はオーバーブルク帝国の宣戦布告をここに受理する!」
オーバーブルク帝国の上陸部隊50人は、口や股間からエクトプラズムを放出していた。
……ミラベス達サキュバスに任せるか……。
さて、時と場所を違えて……
北の大陸オーバーブルク帝国にて。
王族、貴族、並びに国民達は、奴隷制度がもたらした平和と栄華を満喫していた。
そこに――、
ズドーン!
首都全域を震度5弱の揺れが襲った。
「なんだ? 何事だ?」
「あれは何だ!」
例えるなら直立した狼。
雲を突く巨体。
背中から蝙蝠と鷲の翼を二対四枚。
地のような赤い目。口から覗くのは鋭い乱食い歯。
邪教の教典より抜け出た魔物の王。地獄の蓋を壊し這い出してきた怪獣。
「ギャァアアース!」
それが吠えた!
城壁が崩れ、教会の尖塔折れ、家々の屋根が飛んだ。
犬が発狂し、気の弱い者がバタバタと死んでいく。
「駄目だ! 世界が滅びる!」
絶望に膝を着かぬ者は居ない。
「神よ! 我等に慈悲の手を!」
神に祈るにも気力を振り絞らねばならない。
その甲斐あってか――
「あれは!」
「天使様!」
怪物の周囲に舞う白い羽根。
「神様!」
「天使様!」
人々の顔に希望が戻ってきた。
天界よりの使者。天の使徒。天使。
雲霞のごとき数のエンジェルが顕現し、怪物の動きを封じる為――
バチュン!
怪物の胸から発射された赤い光が天使の1人を貫いた。白い羽を撒き散らし、墜落していく。
その姿に、人々は声を無くした。
怪物の腕と肩、足から無数の光が射出される。光は狙い違わず、天使達を撃ち落としていく。
だが、天界はまだ負けない。
怪物に匹敵する巨大な姿。聖なる方が顕現した。
「我が名はアテーナー! 愚かなり闇の怪獣よ! 神の力持ちて滅びを与えん!」
凛とした声がオーバーブルク全土に轟いた。
「戦神アテーナー様!」
人々の祈りが天に届いた。天も、この生物を野放しにする事を危ぶんだのであろう。
「やかましい」
怪物が初めて声を発する。いや、この怪物、会話能力を持つのか?
アテーナーの逡巡を突き、破壊光線が発射された。
至近距離より発射された青白い光の束が、アテーナーの直前で遮られる。
六角形に輝く不可視の盾がそこにあった。
アテーナーが馬鹿にしたように唇をゆがめる。
「アイギスの盾だ」
食い止められた破壊放線が、何倍もの太さになって跳ね返る。反射された光線の直系は、楽に怪物を飲む込む大きさだ!
「神をも恐れぬ愚か者と、恐れおののく子羊達に教えてやろう。このアイギスの盾はあらゆる力、災厄、邪悪、魔法を10倍にして跳ね返すのだ」
反射が続く。まばゆい光が市民達の目を焼く。
正義の光は怪物を飲み込むだけに納まらず、後方の空へと抜け、入道雲を消し去った。
「強い力を持てば持つほど、攻撃は熾烈となろう。己が力で滅びるが良い! 魔界の醜き怪物め! ハハハハハ!」
カウンター攻撃は、アテーナーが喋っている間も続いた。長時間の反射である。
古竜ゾンマーラフ滅ぼした破壊光線の連続放射なのだ。その熱量たるや、想像を絶する数値であろう。
そこで、一人の人間が、暗い思いつきに至る。
オーバーブルク王国に征服された国で数学の教師をしていた奴隷だった。
アイギスの盾による反射攻撃が今も続いている。と言うことは、怪物はあのカウンターの中、生きていて、今現在も破壊光線を発射し続けているのでは? と。
空から硬質な音が聞こえたのはその時だ。アイギスの盾がある辺りだ。
「うん?」
アテーナーが不審に思う。その瞬間。
アイギスの盾を貫いて、青い光の一束がアテーナーの胸を貫いた。
「あれ?」
人間で言う所の、食道と気管と肺と心臓の辺りに空いた穴から青空が見えている。
アイギスの盾から何十匹もの龍の首が飛び出してきた。
各々、個性的な軌道を描き、アテーナーの首に噛みついていく。
その龍共は互いに絡み合い、黒い剛毛が密生した太い腕と化した。
アイギスの盾が砕け、腕の持ち主が光を割りヌッと姿を現した。
アテーナーを掴んだ右腕だけが、不釣り合いに太くて長い。
「我が血肉となる誉れを与えよう。名も知らぬ下位生物よ!」
アテーナーの体が光った。いや、光になった。
その光は、あっけなく怪物の体に吸収されこの世から消えてしまった。
怪物は、アテーナーを取り押さえる為伸ばしていた腕を下げた。大きさは元通りになっていた。
「ふむ、さして旨くは無いな。味付けも薄いし。カンサイ風か?」
今度こそ、オーバーブルクの全国民が、真に口を閉じ静かになった。
「さてと、自己紹介がまだだったな。私は向こうの大陸を統べるシュタイン魔帝国の皇帝である。その方らが『未開』と呼ぶ大陸の持ち主だ」
怪物は親指で後ろの海を指ししめした。
この戦いを目にした全員が海に目をやった。
「その方からの宣戦布告を受け、態々やってきた。この国には、なかなかに骨のある戦士が居るようだな。此度の戦争、楽しみである」
楽しみか……全員が同じ言葉を無感動に思い浮かべていた。
「ちなみに、この大陸には居ないと聞き及んでいるが、ウチは魔族だらけだぞ。まあ、その方らより紳士的故、非戦闘民は三等市民として大切に扱ってやろう。半面、武器を手にする者には容赦ないがな!」
絶対武器は持たねぇ!
市民の総意であった。
「では、また会おう!」
四枚の羽根をひと羽ばたき。長い尻尾を大蛇のように蠢かせ、軽々と巨体を宙に浮かべ……瞬間移動だろうか? あの巨体が消えた。
その後、両大陸間に通商条約がまれに見るスムースさで結ばれたのだが、それはまた別の話。
鬱憤がたまった時の不定期掲載となります。w




