7.貿易か・ら・の、戦争
貿易の話を続けよう。
「ちなみに、アーラスよ。北と東の大陸はどんな所だ?」
転生したら魔狼だった。森の外を知らなかった。ノーマンズ大迷宮は所詮迷宮。私は、海外どころかこの大陸の事も知らぬままだった。
「この件に関しまして、儂よりもエリザーベトが遙かに詳しいじゃろう。どれ、エリザーベトよ、儂らに代わって話すが良いぞ」
相変わらず魔族によるエリザーベト押しが強いな。
中身意識の向上は良い事だからな。邪魔はしない。
「謹んでご報告申し上げます」
エリザーベトが進み出てきた。
「この大陸と最も違う点は、北、東両大陸に魔族が存在しないという事です」
「ほほう、魔族が住んでいないと」
「はい。連中は生意気にも我が大陸を暗黒大陸と呼称し蔑んでおります。潰しますか?」
機械の右手をニギニギするエリザーベト。残念だが、その右腕に大陸を破壊する力は封印されていないぞ。
「他には?」
「航海技術が進んでおります。海軍では性能の良い大型船が主力。貿易はガイヤベルトが一手に握っておりました――」
エリザーベトの話によると、10年ほど前から両大陸間の戦争と内紛があり、我が大陸をかまっている暇が無かったらしい。
この大陸は大陸で激しい戦争を繰り返してきたから、お互い様だ。無駄に体力を削り合ってきた事となる。
気になる事は、海軍力が強そうだという事。
北と東の大陸に魔族が居ないという事。
我が大陸を暗黒大陸と呼んでいる事。
多分に、魔族の存在が大きな影響を与えていのだろう。
ああ、そうだ。私が知らない事がまだあった。
「エリザーベトよ!」
「はっ! コーブロックと戦ですか?」
「まだ先だ。機会が巡れば先頭に立たせてやるから、それまで大人しくしてろ」
何に逸ってるのか理解に苦しむが、こいつ時々、とんでもない人物や情報を持ってくる。魔族七部衆に取り立てて正解だな。
「前のな、元ライエン王国の産業って何だ?」
一から特産物を作るのではなく、現行の特産物を補強する方向へハンドルを切るほうが楽だ。新たな販売ルートを作る労力も節約できるからな。
「はっ! すぐ思い当たる商品は、偽造貨、もとい……貨幣鋳造。麻薬、もとい……精神高揚剤。奴隷、もとい……人材派遣。製紙業、これはそのまま訂正なしで製紙業。特に西ライエンで作られる紙は薄くて均一で丈夫と、各国にて公用文書用として人気の商品です」
「うむ! 聞いてはいけない物ばかりの中、製紙業だけは使えそうだな」
滅ぼして良かったライエン王国。なんの心残りもない。
紙を使った産業を考えてみよう。
新聞は……やめた方が良いな。この時代、情報は武器だ。人間共には操作された情報しか与えてはいけない。
……いや、情報操作した雑誌なら逆にアリか!
その為には印刷技術が必要だ。
この世界に精巧な印刷技術が有るとは思えない。思うに、版画とかが応用できるだろう。
多色刷りの版画。たとえば浮世絵なんかだが。売れそうだな。
「よし、エリザーベト。後で命を下す!」
「くっ! ご命令のままに!」
なんかいちいち悔しがっているが、悔しがる度に頬に朱が差す。……彼女にとって、命令はご褒美なのか?
「へ、陛下! 無事に帰還いたしましたブヒィ! たった一人の生き残りブヒィ!」
「え? だれ?」
体に筵を巻き付けた、小汚い豚が入ってきた。
「ひょっとして、オークキングか?」
「敵のガイアベルトも全滅しましたブヒ! それで丁半にして欲しいブヒ!」
「チッ!」
「陛下、今チッとか言わなかったブヒ?」
オークキングが帰ってきた。帰ってこなくても良かったのに。
「言ってないぞ。よくぞ無事帰ってきた。ご苦労! 次の議題だ!」
「無視が酷いブヒ!」
相手する時間が勿体ない。
「陛下!」
ビンネブルクだ。ピンクのアルケニーに耳打ちされていた。
「ガイアベルトのオルトバーン王陛下との謁見時間です!」
「でかしたぞビンネブルク。直ちにここへ通せ!」
このまま押し切るぞ。
「魔帝王陛下におかれましては、ご機嫌麗しゅう」
「魔帝王じゃなくて皇帝な」
こやつがオルトバーン王か?
背は低いが精悍な顔つき。頭髪を短くしてる代わりに顎髭を蓄えている。
「おお! オルトバーン王! ティル王子は優秀であるな!」
「恐悦至極!」
オルトバーンは、ホッとした表情を浮かべている。私の機嫌が良いと見たのだろう。
オークキングの相手をしなくて良い位には機嫌が良いだけだ。
「オルトバーンよ、3千の軍を率いてきたようだな?」
この私の一言に、目を鋭くするオルトバーン。
「その身に何かあった際、一暴れするつもりだったか?」
オルトバーンは私の目をじっくり見据えながら、次のように言った。
「とんでも御座いませぬ。我がガイアベルトは武人の国。それゆえ、魔帝王陛下に武人として仕える所存。3千の兵はその意思の表れ! お疑いならば、この場にて某の命をお召しあげくだされ!」
小賢しい。
私がこいつを殺したら、オルトバーンを恐れたと思われる。などと思っての3千人だ。
「お前、私が人間よりの非難中傷を気に掛けるような生物だと思ったか?」
人間相手なら、通じたろうに。残念だったな。
青い顔をして俯いておるわ。おもしれー。
虐めるのはこの辺にしておこう。ミラベルに合図を送った。
「陛下、お取り込みの所、ご注進で御座います。コーブロック王国との国境で小競り合いが発生いたしました。少数の部隊により。わがシュタイン魔帝国所属の村がいくつか襲撃されました」
「と言う事だ。オルトバーン君、武門の出として君ならどうする?」
ちょいと目に「恐怖」魔眼を乗せておく。
「わ、我等にお任せを! 3千を率い、賊共を蹴散らしてご覧に入れましょうぞ!」
「よくぞ申した! だが、その方に全てを任せるのも気が引ける。食料は私が用意しよう」
「有り難き幸せ!」
「だがしかし、それだと万が一の事があったらティル王子が可愛そうだな」
自慢じゃないが、私は芝居が上手だ。困った感を全身で表現した。
「お恐れながら、魔帝王陛下」
「おお何か良い案はあるか、ベレシュ?」
「遠征軍の責任者を魔帝王陛下の配下より出す、というのは如何でしょう? 実質の指揮者はオルトバーン陛下が執るとして」
ベレシュよ、台詞が棒だぞ。
「良し! では総大将はエリザーベトとする!」
「お任せあれ!」
だから、エリザーベト、目を怪しく輝かせるな。
「補助として、ミノタウロ君を付ける。それともう一人、オークキング、お前もついて行け! 嫌なら焼き肉になれ」
「ブヒッ! 有り難き幸せ!」
むっちゃ嫌な顔をするオルトバーンだが、オークキングの始末も出来てこちらは願ったり叶ったり。後で、ミノタウロ君に、こっそりオークキングを始末するよう密命を与えよう。
「では、オルトバーンよ。真面目に戦わなくて良いからな。賊がコーブロック王国の者であるという証拠さえ掴めば良い。早めに引き上げてこい。下がって良し」
「……ははっ!」
侮辱に感じたろうね。
お前は戦端を開く係。私が戦争を終わらせる係。役割分担だ。
負のオーラを排出するオルトバーンと、女の情炎を吹き出すエリザーベトが出て行った後、魔族だけを残らせた。
「ベレシュ! お前、芝居が下手だぞ」
「え? 魔帝王陛下よりマシだと思いましたが」
面白い冗談を言うねベレシュ。私はHPを2,000費やして豪快に笑った。
つられてみんなも笑っている。みんなで悪事を働くのは楽しいね。
うむ、久しぶりに楽しかった。
そして、コーブロック派遣軍が出発して数日後。
瀕死の重傷を負ったエリザーベトが運ばれてきた。




