5.オーク→豚→豚肉の塩漬け
魔族六部衆との通常会議が始まった。
今回は趣向を凝らし、会食しながらの会議とした。
大災害への対処も一段落付いた。
たまにはこういうのも良かろう。
「ガイアベルト王より、ドラフェン王国と同等の条件で降伏したいと申し出がありました。使者はガイアベルトの第一王子です」
「条件は、私が支配者である。全ての国民は第二臣民とする。法はシュタイン魔帝国国内法を適用する。往来は自由。これを条件に降伏を受け入れるつもりだが、よいな」
よいな、と言ったが、計りにかけたんじゃない。お前ら了承しろよ! という意思表示だ。
反論は許さぬ。建設的な意見、並びに補完意見なら聞いておこう。
テーブルに乗っている料理は豚肉料理。
豚肉の唐揚げ。豚肉の燻製。豚肉のスープ。スペアリブの甘煮などなど。豪華料理が盛りだくさん。
「皆、遠慮するな。これらは被災地に配った塩漬け豚肉がベースだ。金の心配はするな。ただ同然で手に入れた肉だ」
「うっま! 旨い! これも旨い! 俺は、なんて良い主を戴いたのだ!」
人狼のヴァルディックは喜んでがっついている。
リザードマンのノルディックも、黙々と口に放り込んで咀嚼している。
ところが、食が進んでいるのはこの二人だけ。
「どうした、ベレシュ。食べないのか?」
「い、いえ、えーと。私はバンパイアですんで、血液以外受け付けられない体でして……」
申し訳なさそうに小さくなっている。
「そうか、これは悪かった。吸血鬼は肉など食わぬのだったな。ゆるせ」
「勿体なきお言葉」
吸血鬼以外は肉を食べるだろ?
特にミラベル。サキュバスは肉食だろ? 男食ってるだろ?
「ダ、ダイエット中なんです。オー、いえ、豚肉は脂肪が多くて」
「右に同じく」
ビンネブルクまでダイエット中か。
女子にダイエット中と言われては無理強いできない。こう見えて私は紳士だからね。
「で、では僭越ながら儂が3人に変わって!」
決意の表情を浮かべているアーラス老。脂汗を流している。伸ばした腕も震えている。
あ、そうか! こりゃ悪い事したな。
「無理するなアーラス。老人が脂っこいのを食ってはいけない」
「い、痛み入りまする!」
泣く事ないだろ? 老人は涙っぽくていけないな。
こうなってみると、豚肉って、食べられない者の方が多い食材だな
「ヴァルディックにしろノルディックにしろ、そんなにもよく食べられるな?」
ベレシュが口元にハンケチを当てている。
「リザードマンは、口に入る物なら何でも飲み込む」
いつもはノムートの背中に隠れているチビッコまでもが豚肉料理を咀嚼している。
旨いか? そうか旨いか!
リザードマンは飲み込むような食べ方だ。
一方、狼の食いっぷりは見ていて清々しい。私が魔狼だからだろうか?
こうやって、大量の肉を前に食事して、大勢で囲っていると昔を思い出す。
陽気なワンワンは、人狼のヴァルディックと重なる。
インテリのギャンギャンは吸血鬼のベレシュ。
キャンキャンとアンアンは、アルケニーのビンネブルクと、サキュバのミラベル。
そういえば――、
ノムートみたいに無口な魔狼が居た。なにも言わず常に前線に出て戦っていた。娘が1人いたな。
アーラスみたいな老狼もいた。知恵だけが豊富な狼。年を取って走る事が出来なかったので真っ先に殺された……。
いや、止めておこう。
彼らはワンワン達じゃない。
この話はここまで。頭を切り換えよう。
「次の報告!」
「はっ!」
進行役のベレシュが、何故かほっとした表情を浮かべ、手にした紙の束を捲った。
「ガイヤベルト東部地方より、シュタイン魔帝国領内へ移民が始まりました。昨日より第一次移民を受付いたしました」
先だって、災害を利用してガイアベルト王国を揺さぶってやった。
ある事情で手に入れた豚肉の塩漬けをガイアベルト王国の東部である被災地に無償配布したのだ。私自らの手で!
「シュタイン魔帝国領へ来い。農地が余ってる」との伝言も付けて。
被害が少なかった西側地方にも配った。陥没は免れたがあの大地震。衣食住に困窮しているはずだ。
そこにつけ込む事とした。
こうする事で、人心がシュタイン魔帝国へ傾むくのだよ!
ぶっちゃけ、今まで力業で欲しい物を手に入れてきたが、今後、内政を予定している。
策や搦め手を使っておくのも今後の布石となるのだ。
そういった意味もあって、短い時間で行き渡るようにするのがキモとなる。
よって、巨大化した姿で配っやった。
さぞや安心した事であろう!
「続いての報告です。5つの陥没した大穴周辺に、水が湧き出しております」
大震災で地層がしっちゃかめっちゃかになったのだろう。
詳しい話はミラベルが引き継いだ。このサキュバスは情報の取りまとめに能力を発揮していたのだ。
「被災地は大湿地帯となっていました。湧水量は洪水クラス。五つの大穴に水が滝となって流れ込んでおります。5つの大穴が大きな湖になるのは時間の問題でしょう」
これは問題だ。内政のプロとして、大いなるハンディキャップだ。
運河や用水路を作らなきゃなるまい。
……いや待てよ?
これは公共工事だ! 水不足と大量運送問題が一気に片付くぞ!
いいぞいいぞ、内政っぽくていいぞ! 大災害転じて福と成す、だ!
「単純計算で、ガイアベルト王国の領土は半分になりました。北の大陸との交流で富み栄えていたガイアベルトですが、今災害により、国内統治に何十年と費やさねばならないでしょう」
軍神と謳われた国王を冠するガイアベルト王国。
大陸を左右に貫く広大な領土。北の海を制する地理。
――だったのだが、運が無かったな。
「しかし――」
アーラス老が首を捻っている。
「なぜ故に大災害が起こったのでしょう? 大陥没を起こしたのは、ノーマンズ大迷宮の上にあったであろう地域と一致しますのう。何か関係があるじゃろうか?」
……そういえば、ノーマンズ大迷宮は、その後、どうなったのだろう?
魔物がポップしなくなったと聞く。
それって、迷宮が死んだって事だろうか?
ダンジョンは生き物だという説がある。
ダンジョンマスターが死ぬと迷宮も死ぬという。
……ノーマンズ大迷宮に巣くう魔物は全て倒した。大物は合体で取り込んだ。
どこかでダンジョンのマスターを殺したか、あるいは……。
最後の敵を合体吸収した記憶がある。今思い起こせば、あれが迷宮最後の魔物だったのかも。えらく特殊な魔物だったしな。
整理しよう!
ノーマンズ大迷宮にダンジョンマスターは居ない。私も外に出ている。
迷宮が死んだ。つまり迷宮の存在が維持できなかったので、物理的に上に乗っかっていた地盤が崩落した。
その地域がガイアベルト王国東部であった。
これが今大災害の原因と結果ではなかろうか?
……犯人は私かもしれない。
「陛下、どうされました? いきなり霊気が部屋に溢れましたが?」
ベレシュが恐怖を瞳に宿していた。
どうしよう?
ごまかすか?
ま、いっか。
「今回の大災害であるが――」
息をのむ六部衆。
「犯人は私だ!」
肉で喉を詰まらせるヴァルディック。
「まさか! そこまで陛下の力が!」
「あり得る。あり得る話だ!」
「だから、恐るべし!」
「ゴフッ! ゴフッ!」
「……」
咽せるヴァルディックの背中をトントンしているビンネブルク。
うーむ、よく考えたら、元ライエン王国と、ドラフェン王国、そしてガイアベルト王国が私の懐に転がって入ったのだ。
かつてこれほど楽に、王国を跪かせた王がこの世にいただろうか?
これだけの広い領土だ。農業内政もやりたい放題であろう。
「ふふふ、どうした貴様ら? 労せずして大陸の半分を手に入れたのだぞ? 何を慌てる必要がある?」
オレツェー! 私は両手を広げて微笑んで見せた。HPを500消費して。
「我が魔帝王の覇道は揺るぎなし!」
ベレシュが音頭を取った。
魔物共は血を滾らせている。
「残るは西のホーエン王国と、南のコーブロック王国のみ!」
オウ! と声が上がる。
「勘違いするな。覇道になぞ興味は無い」
水を差すようで悪いが、私は人間等と呼ばれる下等生物に興味はないんだからね!
「向かってくる者には死を。ただそれだけである」
「陛下のお気の召すままに!」
魔族六部衆は、一様に平伏する。
そうとも、おまえらは平伏するしかないのだからな!
年末進行に入ってしまいました。
よって、次話より数日おきとなります。
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