4.ガイアベルトちほー
大陸北東部上空100,000メートルに到達した。
アフリカ大陸だとエジプトとスーダンに相当する地域だ。
ガイアベルト3万とオーク1万がぶつかったのは、あの辺りと……。
急降下。地上5,000メートルでホバリング。
作業第1段階。召喚魔法の一種を起動。
ボコボコと、死体が自らの力で起き上がってきた。
ゾンビじゃないぞ。こいつらはフレッシュゴーレムだ。
作業第2段階。召喚魔法。山のように塩が出現した。
作業第3段階。単純な命令を下す。ここでの仕事は一旦終了。
そしてガイアベルト王国、王都へ飛ぶ。
王都上空2,000メートルより自由落下。地響きを立て、ガイアベルト城の城壁を魔法結界ごと踏みつぶして着地。大地が揺れ、城を構成する建造物がいくつか崩れた。
ここも大地震で激しく揺れていたはず。その時の恐怖を思い出す者も少なくなかろう。
「キサマらの遠征軍は帰ってこない!」
太陽を背に、全長60メートルの魔物が蝙蝠の羽を広げて威嚇している図だ。
さぞ怖かろう。
だが、恐怖はこの程度じゃないぞ。
「我に矛を向けた罪として、東半分の領土を召し上げる!」
広域魔法「凍てついた波動」を発動!
ガイアベルト城の、残されていた建築物が吹き飛んだ。
町中でも、塔の先端が綺麗さっぱり無くなった。
残っていた城壁が崩れた。魔法結界を強制解除された事による強度不足が原因だ。
「我に従え!」
大音響で吠えた。
城下町の大きな建造物、教会かな? の、屋根が吹き飛び、雲の一部が千切れて消えた。
「我がシュタイン魔帝国の従属国家、ドラフェンが良き例である。悪いようにはせぬぞ」
HPを300使い、特別凶悪な笑みを浮かべた。
「愚民共よ、じっくり考えろ。しかし、行動する時が来たなら、考えるのをやめ、前に進むのだ! ウハハハハ!」
最後は大笑いで締め、蝙蝠の羽を意図的に大きく羽ばたかせ、上空へと移動。
「ウワッハッハハハハ!」
演出である。笑い声にエコーが掛かる魔法を使いつつ、下手に下がっていった。
人間共を恐怖のズンドコに叩き込む。むっちゃ楽しい!
再び、陥没地域に戻る。
作業最終段階だ。
命じていた作業は終了していた。
目的の物も手に入った。それをチョイして完成品。
さて、では、これをああしてこうして……。
とある謎の作業は、丸一日かかった。
さ、帰ろ帰ろ。
―― ガイアベルト王国城下町にて ――
小さな店で細々と商売を続けてきたオヤジがボソッと呟いた。
「ドラフェンと同じって事は、7公3民の税が、5公5民になるのか?」
ヒャッホイと叫ぶ声があちらこちらで上がったという。
―― でもって、数日後。シュタイン城にて ――
「この体、我が主のもの。これからも命の限りお仕えいたします!」
すっかり元気になったエリザーベト。
鈍色に輝く右腕をニギニギして健康をアピールしていた。
退院のお礼にやってきたのだ。
いやー、エリザーベト君、よく生きていたなー。
各部の骨折や裂傷はともかく、右腕が無かったからねー。
こう見えてリョナは苦手なんだよねー。
でもって、サイバネティック手術を施したわけよ!
ノーマンズ大迷宮時代、ゴーレムと戦っていた時期があった。
ゴーレムたって、見た目はロボとサイボーグだよ! この世界じゃゴーレムで一括りだけどね。
オーラバトラーみたいなとかが多かったね。
イデの巨人タイプとバスターマシンタイプにタッグで挑まれた時は焦った。あの時はまだ弱かったからね。
あいつら生物だったらしく、幸いにも私の能力が通った。
合体に合体を重ね、全てが終わった時、サイボーグ手術を会得できていた。
「我が主よ、早く次の戦いを我に!」
エリザーベトの目が、この私の戦闘力をもって引かせる程に輝いている。忠誠とやる気が天井知らずだ。
ただ、問題も一つ発生しちゃってね。
エリザーベトがね、変な方向性を持っちゃったのよ。
今でもさぁ、恍惚とした表情で機械化された右腕を眺めているのだよ。
この人ね、ミノタウロ君に背負われていた間、右腕が無くなっちゃったことに気づいていたんだよね。だのに、恍惚した表情を浮かべていたってさ。
出血も激しいし、他の部位の怪我も酷いのに。あの顔、すごく怖かったって。
ミノタウロ君が青い顔して言ってたから、間違いは無いと思うの。
私には理解できない性癖の持ち主だわー。ミノタウロ君も理解できないって言ってた。
でもって、新しいサイボーグ腕をことさら気に入ってるんだよね。
生身を機械に神経連結したんだよ。
地獄のようなリハビリにも、湿った笑顔で耐えていたんだよ。
女騎士、怖ぇー!
とは、全くおくびに出さず、この者らの王として威厳でもって対応する。
顔が構造的に表情を作りにくいって事が、初めて良い方向へ使われた。
「あまり逸ると、罰として機械腕を取り外してしまうぞ!」
一瞬だけ、エリザーベトが白目を剥いた。同時にオマタから匂ってくるメスの匂い。
「取り外せるのですか?」
しげしげと接合部を眺めている。
「汚れたりしたら洗浄できると便利だろ? 戦闘に使うのだからメンテナンス性に優れてないとな」
エリザーベトの血圧が上昇した。
なんか地雷でも踏んでしまったか?
ちょいシメておこう。
「両の手足を機械に置き換えたくはないだろう?」
HPを2300使って、ニヒルな笑みを浮かべた。
「四肢が……作り物……バラバラにされて……」
またエリザーベトが白目を剥いた。さらに匂い立つお股。
大丈夫か女騎士? 大怪我した時、頭を強く打ったか?
そういえば、ガイヤベルト国境戦って、エリザーベトの初陣だったな。
初めての戦いと未曾有宇野天変地異による生命の危機。
おそらく、それが彼女の精神を……。
私はもっとすごい経験をしているのだから、彼女が可愛そう等と思わない。
シメる方向を間違えたか? そうだ、機械の腕を喜んでいたよな?
「素直にしていれば、推進拳や障壁腕を埋め込んでやろう」
「有り難き幸せ!」
「下がってよし!」
やっと会話が終わった。
だれかこいつを引き取ってくれないかな?
その夜。日付が変わった頃だ。
何回目かの、 地下魔族六部衆会議が秘密裏に開かれた。
場所は秘密の会議室。照明は蝋燭が一本だけ。
「野郎ども! 今宵の議題は、『魔族六部衆』の名称変更についてだぁー!」
今回の持ち回り議長は、人狼のヴァルディックだ。ノリがいい。
他の5人は、すかさず首肯した。
普段なら誇り高き貴族であるベレシュが、言葉使いについて一言二言突っ込みが入るところだが、今回は流している。
「3万のガイアベルト軍と、1万のオーク軍全滅は動かしがたい事実! ……って事にしておくぞ! いいなお前ら!」
「「「「「異議なし!」」」」」
全会一致だった。
「エリザーベトが落ちこぼれねぇよう、これからもバックアップしていくぞー!」
「「「「「賛成!」」」」」
たった1本の蝋燭が吹き消され、その部屋は闇に閉ざされた。




