3.大惨事
ベルシェ達、幹部共の目が泳いでいる。
「落ち着け! 落ち着くのじゃ! それでも魔帝王陛下に使える魔族か!」
さすが年の功。アーラス老が皆を叱咤した。
とはいうものの、言葉だけでは状況を把握できないのだろう。仕方ない。
「これを見よ」
ゴーストよりの情報を処理し、幻影魔法を使ってテーブルの上に映像を投影した。
地平線が丸い。それくらいの引き映像でどうにか全体が確認できる巨大な穴。深さは……底が見えない。優に100メートルは超える深さだろう。
広範囲に陣を引いていたガイヤベルト軍もオーク軍も、全部飲み込んで余りある規模の陥没だ。
山も森も川も平野も、人の町も小さなダンジョンも、ゴーストの視界全て陥没、崩落していた。そこかしこから、陥没に伴う土煙が上がっているばかり。
無言のままの六部衆は、画像に見入っている。
一通り見せたところで画面を切り替えた。大気圏外からの画像だ。
なに、バックアップのため、同じ場所の高高度へ持ってきたゴーストよりの映像に切り替えただけだ。
「なんだ、これは?」
ベルシェが掠れた声を出す。いつもの貴族然とした声じゃないな。
この大陸の北海岸全てがガイヤベルト王国の領土だ。その広大な領土の東半分が、ボコボコになっていた。
蜂の巣状態というか、大小、5つの穴が開いている。5つの陥没面積と非陥没面積が同じほどの面積だろうか?
私は、組んでいた腕をほどき、顎に手を置いた。
「いずれ一番北の海に近い陥没場所は、海へ流れ出る大河を通して、海水が入ってくる事になるだろうな」
読んで字の如く、地形が変わった。大陸規模で。
「大規模すぎる! ここまで大規模な地震なんか見た事も聞いた事もない。天変地異クラスの天災だ! ど、どこから手を付けていいのか……」
ベルシェ達の狼狽がひどいんだが……。
「そうか? 昔、神と戦った時はこんなモンじゃなかったがな」
ズバッ!
なんだ? 空気を切る音か?
そんな速度で首を動かして、お前ら大丈夫か?
「ま、私が本気出せば、この程度じゃすまないが。ここまで大規模なのは、力のコントロールが難しい。ちょっとでも加減を間違うと、この大陸を水没させかねんからな! アッハッハッ!」
HPを2000使って豪快に笑ってやった。
みんな、黙ってないで何とか言えよ。
誰も喋らない。仕方ないので私が口を開いた。
「この穴一つに、布陣したガイアベルと軍3万とオーク軍1万が、ポロッと飲み込まれてしまった」
「「「「「「「なんですとー!」」」」」
「これでは、両軍とも助かるまい。全滅だ」
「オ、オーク軍1万は?」
「傾国のネタとなるオーク共を始末出来たんだから、結果オーライだろ?」
ひそひそ……「エリザーベトが」……ひそひそ……「せっかく手柄を」……ひそひそ……「これを機に魔族六部衆という……」
全部聞こえているが……みんな、仲間愛が強いんだね。
だけどこのまま会議室の、だらけた空気を放置しておいても、碌な事にならない。
「者共、そんなにエリザーベトの事が心配なのか?」
コクコクと頷く6人。
仲間か。
こいつらがエリザーベトの事思うのは、私がワンワン達の事を思うのと同じなのだろうか?
「……助かると良いな」
アーラス老が、わざわざ席を離れ、跪いた。
「偉大なる魔皇帝陛下。どうか、エリザーベトの救出隊派遣をご許可くだされ!」
「そのためのミノタウロ君だ。ミノタウロ君には、総崩れになる前にエリザーベトを抱えて走れと命じておる」
筋肉の化け物ミノタウロスに万が一があるような状況だったら、人間が生きていられる可能性はゼロだろう。
「あやつは必ずや、エリザーベトを連れて帰ってくるだろう」
不服か?
現場に居るミノタウロスクラスの魔物がどうにも出来なかったら、万の魔族を投入しても無意味だと思うがね?
いや待てよ。
「ミラベル!」
「ははっ!」
サキュバスのお姉さんが頭を垂れる。
「災害現場調査隊を組織して出せ。ガイヤベルトだけではなく、ホーエン王国やドラフェンは元より、コーブロック王国もだ! 直接被害はもとより、政治情勢や民意まで詳しく調べて報告させろ」
「ご命令のままに!」
よく考えれば、これほどの大災害なんだ。良きにつけ、悪きに付け、全世界が動くだろう。
「あ、有り難き幸せ」
アーラス老が深く頭を下げた。
これで魔族六部衆がに関する話も進む、とか、エリザーベトの功績が上がる、とか、囁き合う魔族六部衆共。
よく分からん所も一部あるが、早速の打ち合わせかな?
そんなに働くのが好きなのか? ああ、あれか、未曾有の出来事でパニックになったんだ。忙しく体を動かさないと気が紛れないんだろう。
だったら、もう一つ命令を追加しとくか。
「それと食料事情も調べておけ。我が国の余剰食糧もだ」
人間は、食糧が不足すると容易に反乱するからな。自国の食料くらいは確保しておかないと。ま、奪いに来たりしたら、皆殺しにするだけだけどね!
「お言葉のままに!」
再び、頭を下げるアーラス老。老人は丁寧だな。そして腰が低い。
「何か上がってきたら遠慮なく報告せよ。私はこれより被害現場の視察に赴く。みな下がって良し!」
私は部下共の退出を待たず、隣接したバルコニーへ出た。
背中の羽を広げ、ひと羽ばたき。一気に高度を上げる。そして巨大化。
北の空へ向かって飛ぶ。
視察とは名ばかり。現地には別の目的がある。予定が狂ったというか、良い方向へ転がったというか……。
それにしても、大地震の原因はなんだろう?
疑問が残るが、被害地域はガイヤベルトだ。痛くも痒くも無い。
――アーラス老side――
魔帝王陛下が被災地へと向かわれた。
「即時現地視察とは……」
行動力に溢れるお方じゃ。いや待つのじゃ。何か深いお考えがあっての事かもしれぬ。
現に、こうなる事を予見したかのように、ミノタウロスを同行させられたではないか。
「我等が魔帝王陛下は、エリザーベトの事考えて、ミノタウロスを付けておられたようじゃな」
「口ではああ言っておいでだが、お優しいお方だ。なあ、ビンネブルク、お前が言った通りのお方だったな」
冷酷で名を成すベレシュが、アルケニーのビンネブルクに微笑みを向けていた。珍しい事じゃ。
「エリザーベトだけじゃじゃないわ」
サキュバスのミラベルが頭を振っていた。
「各国の食糧事情まで調べよとおっしゃられた。お慈悲を施されるおつもりのようだ」
そうか、そういうことか。
ヴァルテックやノムート……の背中のチビまでが、心を振るわせている。
我が主は、偉大なお方だ。
翌夕刻、ミノタウロ君が、血まみれのエリザーベトを担いで帰ってきた。




