1.第一回金融政策会議
白亜の魔城。シュタイン城。
日が暮れると、闇から浮かび上がって見える城。
私が帝王になってから、ピンクだとかパステルブルーだとか、謎の明かりに染まる仕様にした。人間共に心理的圧迫を加える為だ。
なぜか、この時間になると、人間共のアベックが城を眺めて集まったりする。
きっと己らの未来に不安を感じての事であろう。
恐怖せよ! 未来を担う若人共!
「我らが帝王! ご紹介したい者がおります」
「なんだ?」
ビキニアーマーがいかにもビッチぽい女騎士エリザーベト(アラサー)である。
後ろに一癖ありそうな商人風の男を控えさせている。手に虫かごを持っている。
「私の名はテッド。こういうモノを扱っております」
差し出された虫かごの中には、小さな芋主が蠢いていた。
馬面の芋虫だ。
「お蚕さんか?」
「さすが魔帝王様。すべてをご存じで!」
「帝王な。褒めても何も出ぬぞ」
「では魔帝王様。蚕はどちらから糸を吐くかご存じでしょうか?」
口からかお尻からか? ということだな。
「私を試すとは良い度胸だ。2・3回死んどくか?」
チョイチョイと指で合図をすると、ベルシェが気を利かせて、牙を剥きだしてくれた。
「ひ、平にご容赦を!」
「わたくしからもお願いいたします。こやつには後で厳しく言って聞かせますので!」
脅かすのも大人げないので、話に乗ってやることにした。
いつでも殺せるしな。
念動力みたいなのを使って、虫かごを手のひらに引き寄せる。
ふむ、間違っても糸を吐かないよう、小さな幼虫が入っている。気が利く男ではないか!
「私はこの件に関して、答えを二つ用意しておる」
人差し指と中指を立てた。
「一つ目は、この答えを知っているか否か、の答えだ」
チョイチョイと人差し指を動かす。
「二つ目は、そうだな、答えの証拠を用意している、と言っておこうか」
私の回答に、テッドの目が微妙に踊っている。理解が追いついていないのだろう。
「では二つ目の回答から、見せてやろうか」
かごの中のお蚕さんを意識する。すると……。
「おお、蚕が成長していく!」
身が太く、全長が長く、ビキビキと音を立てて、お蚕さんがみんなの前で成長していく。
「魔帝王様のお力で……」
「帝王な。牛をミノタウロスに変態させたことを思えば、これくらい軽い作業だ」
見る間にお蚕さんは口から糸を吐き、繭を作っていく。
あちらこちらから、おお! と感嘆の声が上がる。
「というわけで、二つ目の答えがこれだ。口から糸を吐く」
ポイと虫かごを放り投げた。テッドが慌てて受け取った。手の中で2度ほどバウンドしてたな。
「お、恐れ入りました」
虫かごを腕全体で抱え込んで身を縮める。これがホンとの恐縮しました、というヤツだな。
「次に、一つ目の答えだ。どちらから吐くのか、私は知っている。口からだ」
無理矢理笑って見せた。HPを250ばかり消費するタイプの微笑みだから、怖くないはずだ。
「知ってても知らなくても、私にとって些細なことだ。おまえ、養蚕業者の代表か? 私にプレゼンしに来たのだろうが、悪かったな。いや、身から出た錆か? 言いたいことがあったのだろうが、聞く気分じゃないな。エリザーベトに用件を伝えておけ。気が向いたら聞いてやろう」
背中を丸めたテッドは、虫かごを大事そうに抱え、後ろへ下がった。
あっ! 思い出した。お蚕さんを使ったチート内政を!
「おいテッドとやら、あとでお蚕さんを100匹届けろ」
「魔帝王様、魔帝王様!」
「帝王な」
アルケニーのビンネブルク事務長が、切ない目で私を見上げている。最近事務長という役職を与えた。
「蚕を使って何をなされようとしておられるのでしょうか?」
「絹産業に決まっとるだろう」
「アルケニーのの糸の方が光沢も強度も魔法効果も優れているのに?」
……それもそうだけど、蜘蛛の糸ってのがね。
ビンネブルクが悲しそうな目をして、こちらを見上げている。
「……上位商品のシルク。最高上位商品としてアルケニーの糸だ」
うん、シルク産業は終わったな。
「なるほど! アルケニーの糸で作られた反物は、より高値で取引するのですな。いわばブランド戦略! さすが我らが魔帝王様じゃ!」
ガーゴイルのアーラス内務大臣がポンと手を打つ。
「う、うむ、さすがアーラス。よくぞ私の考えを読み取った。年の功は伊達ではないな」
私の顔は表情が出ない作りになっている。おかげでボロが出なくてすんだ。
こいつら、良いように考えるよね。前向きな姿勢が好印象だ。
エリザーベトが下がろうとしない。
「もう一点、ご相談したい事が御座います」
「なんだ?」
次も人間に関係する話なんだろうな。
「農民の数が足りません。戦争に領民を狩り出したのが原因です」
10万単位で返り討ちにしたからな。
そりゃ足りなくなるだろう。……私のせいか?
こういう時は――
「ドラフェン王が悪い! 対応は考えておく。もう無いか? ならば下がって良し!」
矢継ぎ早に言葉を重ねるに限る!
「ところで、我らが魔帝王陛下!」
「なんだ?」
アーラス老が、態度を改めた。
「ノーマンズ大迷宮のことをお聞きしてもよろしいでしょうかのう?」
この老ガーゴイルは知識欲の塊だ。前から気になっていたのだろう。
時間経過と共に、多少なりとも距離が近づいたことは認めよう。それを測って、今この時に聞いてきたのだろう。
「細かいことを言えばキリがないのだが……」
私の仲間はワンワン達だけ。それに変わりは無いが、たまには仲間ごっこも良いだろう。
「迷宮はどのくらいの大きさなのでしょうかのう?」
大きさか……? 地下迷宮だからな。面積を問われるとちょいと困るな。
「次元が複雑に入り組んでる4次元構造だから、一概に広さは言えないなぁ……。あえて表現するとすれば……」
この大陸は、縦に縮んだアフリカ大陸みたいな形状をしている。
ノーマンズ大迷宮は大陸のほぼほぼ真ん中に大きな口を開けている。
「投影面積は大陸の4分の1か2程であろうか? 3次元的には、北西部に向けて広がっている、と思う。ガイヤベルト王国の南部をすっぽりと覆う広さだろうな」
……あの中を上へ下へ、空へ地へと常に戦いながらに移動していた。
今から思えば、24時間ずっと走りっぱなしだった気がする。初期は強制ワープしたり、落とし穴にはまったりと、迷子も良いところだった。
最奥の敵が最期だった。そいつを殺したら私に挑む者はいなくなった。
思えば、そいつがダンジョンマスターだったのだろう。
おや? こんな時間に外が騒がしくなってきた。
回想シーンを終えた私は、意識の一部を場外へ持っていく。
「オーク共1万匹の入場か。前の戦いに間に合わなかったクズ共め!」
「失礼ながらわれらが魔帝王! オーク共は3千匹だったと記憶しておりますのじゃが?」
アーラスの言も最も。3千匹との報告があった。私も、現物を見るまでは3千匹と思っていたさ。
「我らが魔帝王! オークの軍団が入城しました」
神祖にして総理大臣のベレシュが駆け込んできた。
「途中、同族を拾っていたようで、数が1万にまで膨れあがっております」
ほらね!
「さすが、我らが魔帝王! ご慧眼、恐れ入りまするじゃ!」
アーラスが深々と腰を折った。
シュタッと足音も軽やかにアルケーにして、事務長兼自称メイド頭のビンネブルクが現れた。
「オーク共の王を名乗る者が、我らが帝王にご挨拶を求めております」
今更挨拶と言われてもなぁ。
オーク共の数が数だし、下品だし、メシ食うだろうし、取り込んでも何も良いことがない。もっと早くに始末しておけば良かったかな?
1万匹もいれば、シュタイン魔帝国はたちまち食い尽くされるであろう。
それはそれでかまわないのだが、ウンコとか風紀の乱れが気になる。
「ご注進ー!」
サキュバスにして外務大臣兼、裏情報相のミラベルが、おっぱいを揺らしながら部屋に駆け込んできた。
「ガイヤベルト王国に動き有り! 我らがシュタイン魔帝国の従属国、ドラフェン王国国境近くに兵を集めております! その数、約3万! 北西のホーエン王国より戦力が出されている模様!」
「戦争かーっ!」
人狼のヴァルディック将軍が、それはもう満面の笑みを顔に浮かべて飛び込んできた。
「警備の手配をいたします」
リザードマンの警察大臣ノムート、の、広い背中からピョコンと小さい顔が出てて、代わりに喋った。
魔族六部衆勢揃い。
「静まれ、者ども」
小さい声でぼそりとつぶやいた。
それだけで、みんな口を閉ざす。
……ワンワンら、魔狼達だったら、すぐ静かにはならなかったろうな。
「良いことを思いついた。オークの王を呼べ。それと女騎士のエリザーベトとミノタウロ君も呼べ」
オークとミノタウロスと、そして女騎士の3つが揃った。
ここまでお膳立てがそろうと、もはやエリザーベトの未来は決まったようなものだろう。
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