第六話「赤ん坊でも魔法が使いたい」
両親の境遇に思いを馳せているうちにクランボアに連れられてダイニングに戻る。草原の青々とした匂いから、慣れ親しんだ家の匂いへ。ちなみに家の匂いはベルゼリアとクランボアがいるおかげか、ほんのり甘い。
クランボアは、オレを揺り籠に寝そべらせて食事の準備を始める。
機嫌良くフリフリ腰を振りながら料理するクランボアを見ながら、気を取り直して魔法の練習に戻ることにする。両親のことは追々わかるだろう……。
光と風の魔法はできたから、おそらく他のもできるはず。火だけは危ないから止めておくとして、闇・地・水あたりをやってみよう。クランボアに見つからないようにしないとな。
まずは水がやりやすいかな。空気中の水素を固めていくイメージで……っと、そのままだと顔にかぶっちゃうか? さっき光球作った時みたいに、水球にして空中に浮かせてみよう(浮かせるって重力魔法とかに入るのかな?)。
クランボアが後ろを向いてるうちに。よっと……!
魔力がすっと体内から減った感覚と同時に、空中に手のひらサイズの水球が発生する。
おお! できるもんだな!
光球と同じように、複数を出現させて空中をぐるぐると回して……。
びしゃっ!!
「おぎゃあっ!?」
光球みたく上手くコントロールできなくて水球が思っきり顔にかかった!
「ええ!? どうして濡れてるんですか!?」
クランボアが水音に反応して慌ててオレの元にやってくる。
「お漏らし……?」
「おぎゃっ!?」
いやいやいや! ただの水だから! つうかオムツしてるし顔にかかるわけないでしょ!
「うーん……?」
クランボアは不思議そうにオレの顔をタオルで拭きながら首をかしげる。
うう、失敗失敗……。
クランボアは後ろ髪ひかれる様子ながら再び食事の準備に戻って行った。
「おぎゃあ……」
うーん、なんか光球の時よりコントロール難しかったな。なんでだ? 光と水って、なんとなく光のほうが扱い難しそうな気がするんだけど……。
あ、重さのせいか。
水魔法それ自体は問題なかったけど、重力魔法?の扱いが下手だったのか。
ということは、もしかして火のほうが水より扱いは楽ってことになるのか?
……いや、欲を出すのは止めておこう。オレはまだ産まれたばっかりで自力で動くことすらできないんだから。火を失敗したらシャレにならない。
おとなしく土魔法でも使ってみよう。
部屋に花の植木鉢があるから、両親がやってたみたいに、その土を土球にして……って、あれ? これって土魔法なのか? なんか浮かせて集めてるだけなような……。
まあ、土を扱ってたから土魔法だろうってオレが勝手に思っただけだから、本当は違う名称なのかもな。
そうだ、せっかくだから、もっと土魔法っぽいことをしよう。
たとえば……そう、土を泥状にしてみるとか。広範囲でやれば泥沼になって罠っぽくすることもできるはずだし、土魔法っぽい。
ではさっそく……えい!
おお、土が泥状態になってく! おもしれぇ!
……あれ? でもこれ、土が泥になるってことは水分を混ぜ込んでるってことだから、つまり水魔法も同時に使ってる……のか?
って、植物が泥に沈んでって花が可哀想だ! 元に戻そっと!
……よし、元に戻った。とりあえずこれでOK。
それにしても……。
魔法を使えば使うほど、謎が増えてく気がするな。早く大きくなって魔法のことを知りたい。
次は闇魔法を使ってみるか。
いい感じに魔力も減ってきたから、闇魔法で魔力を使いきってひと休みしよう。
さて、闇ってくらいだから光を遮断する透明なバリア的なのを作り出せばいいのかな?
……いや、でもそれ闇魔法か? なんか防御魔法的なものなんじゃないか?
ベルゼリアはもっと、なんか、こう、物質みたいに闇を扱ってた気がする。球にしてぐるぐる回してたしな。
闇に対するとらえかたがオレとは違うから、とか? 前世の知識があるからオレは科学的なアプローチで考えちゃうけど、この世界はファンタジー要素が強いし、そのとらえ方の違いが魔法に影響してたりとかな。とすると、そもそもあれが本当に闇魔法だったのかも怪しい気もする。
ま、いいや、とりあえずやってみよう。
光を遮断する丸い球空間を……とう!
「………………おぎゃぁ」
うん、できない。
なんでだろう? 原理とかがよくわからないからか?
まあ実際、風とか光はなんとなくわかるから抵抗なかったけど、闇の球って何なんだよって感じだもんな。
……だったらもっと、イメージしやすいもんにするか。
そうだな……せっかく闇魔法なんだし、なんかこう当たったら呪いが付く的なのとか、アンデッドを生み出すとか。
……うん、危険すぎる。
もっと平和なやつないかな……平和な闇魔法(なんか矛盾してる気がするけど)。
ゴミだけ吸うブラックホールとかってどうかな?
なんでも吸う普通のブラックホールは怖くてとてもできないけど、吸う物を限定すれば怖くないかも。ほら、自動で掃除してくれる家電みたいな。
うん、ダメだな。そんな条件付けみたいなことがもしできなくて暴走したら危なすぎる。
うーむ、闇魔法って難しい。
「おぎゃぁ……」
あ。薄ーく光を遮るカーテンを作ってみるってどうだろう。もちろん、物質を作り出すなんてできそうにないから、あくまでもそういうイメージの魔法だ。
これなら闇魔法の範疇な気がするし、完全に光を遮るわけでもないから、できそうだ。
えい!
「おぎゃあ!」
おおおおお! できた! オレの頭上だけが急に日の光が届きにくくなって暗くなったぜ!
って、なんかえらい勢いで魔力が減ってく!?
これってもしかして、かなり上等な魔法だったのか!?
あ、だめだ魔力無くなって意識が……。
まあ、なにはともあれ闇魔法(?)成功してよかった。
じゃ、おやす…………ぐぅ。
こんな感じでオレは魔力が尽きるまで毎日魔法を使いまくって、魔力を上げつつ、この世界の文字を覚えたり(会話は普通に理解できるのに文字はヒエログリフとアルファベットが混ざったようなやつで意味わからんかった)、運動して体力をつけていくことにした。
ベルゼリアとクラインは、オレに魔力が宿っていることを気にかけて、なにかにつけて調べたりしているようだったが、結局わからず不安そうだった。それがひとえにオレの身を案じてくれているからだとわかるから、なんだか申し訳なく思う。
だから、その間に言葉も話せるようになったんだけど魔法を教えてくれとは両親に頼まなかった。たぶん頼んだ方が効率的に教えてくれるんだろうけど、あんまり心配かけたくないからな。よってオレの魔法修練はずっと秘密裏に行うことにした。
そうこうする間にベルゼリアのお腹も大きくなって、1歳違いで妹が産まれ、数年が経ち、オレは5歳になった。
そんなとき、秘密にしていたオレの魔法が、いよいよバレてしまうのだった。