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第三話「魔法」

 レオグラード・ハーティア。


 勇者クラインと魔王ベルゼリアの息子。それが転生したオレの新たな人生となるらしい。ちなみに魔族である母親にファミリーネームは無いから、ハーティアってのは父親クラインのだ。

 やっぱり父親はどこかの貴族さまで、ハーティア家ってのがあるらしい。階級とかはわからないけど、お付きの人間が助産婦みたいなやつしかいないから、きっと底辺なんだろうと思ってる。

 ……とは言っても、詳しいことはまだよくわからない。異世界に産まれてから、はや数日。……くらい経ったと思うが、気を抜くと寝ちゃって、日付感覚がちょっと曖昧なんだ。赤ん坊は寝るのが仕事、なんじゃなくて、寝ざるを得ないのだ。きっとまだ細胞分裂とか激しくてそれだけで体力を消費するんだろう。たぶん。


 だから、新たなるオレの人生は、まだ小さな揺り籠の中だけで完結してて、外がどうなってるのかとか、この世界がどうなってるのかなんて、全然わからないままだ。


 と、そんなことを考えているうちに、やっとまともに目が見えるようになった。


 産まれたての時は視界がぼやけまくって全く見えなかったのだが、数日経って目が発達してきたのか光に順応してきたのか知らないが、これでようやく、両親たちの顔とか部屋の中が見えるというものだ。

 するとその時ちょうど、


「ふふ、見てみろ。レオの瞳は我が故郷の森のような色だ」

「まあ! ほんとですね! 旦那様の瞳の色よりも深い緑色で、見てると吸い込まれそうなくらい魅力的で、お美しいです!」


 そう言って、母親と助産婦がオレの顔をのぞき込む。


「おぎゃあっ!」


 うぇえ!? 母親めちゃくちゃ美人なんだけど!!

 真紫の髪と、金に輝く瞳が特徴的で、目尻がきりっとしてて賢そうな人だ。そんな母親が微笑を浮かべて、オレを見てる。というか、スタイルもめちゃくちゃいいな……。


「おお、レオが私を見ているぞ。わかるかレオ? わたしがお前の母親だ」

「おぎゃあ! おぎゃあ!」

「わあ! なんだか嬉しそうですよ!」

 助産婦がオレのリアクションに手をたたいて喜ぶ。

「あ、あのあの、わたくしめはクランボアです! 奥様や旦那様、レオ様に仕える者でございます! どうぞお見知りおきを!」


 助産婦だと思ってた人はメイドだったみたいだ。主に、発言と服装的に。クランボアっていうのか。

 メイド服のクランボアは、栗色の髪を後ろでお団子にしてて、くりくりっとした栗色の大きな瞳と屈託のない笑顔が特徴的だ。

「ふふ、赤ん坊にお見知りおきをと言っても、仕方なかろう」

 あ、あと頭から出てる羊みたいにくるんと巻いた角も特徴的で……。

「ほぎゃあ!?」

 頭から角が生えてる!?

「あ! でも応えるみたいに、わたくしめのほうに手を伸ばしてらっしゃいますよ!」

「む、本当だな」

 すごい! 触りたい! なにあの角!

「おぎゃあ! おぎゃあ!」


「レオ……お前の母親は私だぞ?」


 母親、ベルゼリアが拗ねたように、指でオレの頬をつついてくる。メイドさんに嫉妬する母親ってどうなんだろう。可愛い人だ。いや、人じゃないのか。

 そうだ、ベルゼリアが魔族なんだから、このメイドさんも魔族だっておかしくない。……今更だけど、ここはそういうファンタジーな世界なんだな。父親は勇者だし。


「なあ、おい、レオ、母は寂しいぞ。確かにクランボアは可愛らしいがな。ちょっとは私にも興味を持て」

 また、つんつんとベルゼリアがオレの頬をつつく。

「ぬふっ、申し訳ございません奥様、レオ様はわたくしめを気に入っていただけたようです」

「ううぬ……」

 いや、だって科学万能の世界から来たオレにとってみれば、衝撃だったんだ。

 ……って、あれ? なんか母親の手に入れ墨みたいな模様が入ってる。

「おぎゃあ……」

 なんだこれ、かっけぇ……。


「おお、レオがやっと私に興味を示したぞ」

「奥様の魔術紋がお気に召したようですね」


 魔術紋……? もしかしてこの世界、魔法があるのか? 勇者や魔族がいるくらいだし、あるのかも!?


「ふむ、それならば…………ほれ、見てみろレオ」

 そう言うと、ベルゼリアがオレの頬をつついていたひとさし指をオレから離し、真上に向ける。

「おぎゃあ?」

 なになに?

「いくぞ?」


 その声と共に、ぽんっと、指先から炎が生じる。

 炎はそのままゆらゆらとベルセリアの指の上で踊った。


「おぎゃあ!? おぎゃあ! おぎゃあ!」


 おおおおおおお! やっぱりあるんだ魔法! すげえええ!!


「ふふ、喜んでいるようだな」

「むぅ……いいなぁ、奥様……」


 ん? クランボアは魔法が使えないのか? この世界、みんなが魔法を使えるわけじゃないってことか? 父親のクラインはどうなんだろう?

 とか思ってたら、どこかに出かけていたクラインがちょうど帰って来たらしく、また勢いよく部屋に入ってくる。


「今帰ったぞ! レオ坊は元気にしてるか!」


 ……クラインはアレだな、金髪碧眼の青年で、えらいイケメンだ。さすが勇者。子供のオレが言うのもなんだけど、クラインとベルゼリアが並ぶと、すごく絵になる。ずっと見てたくなるな。


「ふふ、もちろんだ。まあ、お前の相変わらずの元気さには適わんがな」

「ははっ、一刻も早く帰るために、仕事を急いで片付けて飛んできたぜ」

「……また無茶な術を使ったのではあるまいな」

「うぇ!? い、いや、あー、まあ、あれだ、できうるかぎり安全に可及的速やかにだな」

「ああ!? 旦那様! 体のあちこちに折れた木の枝や、動物の血が付いておりますよ!」

「うあっ!? しまった!」


 どうやらクラインも魔法を使えるらしい。でも無茶な術ってなんだろう。急いでたから木の枝が付くのはわかるけど、なんで動物の血まで付くんだ……?

「はぁ……あれほど野山を荒らすなと言ったろうに……お前の身体向上術は常人の数倍は掛かりが良いのだ。轢かれた動物が可哀想だろう」

 なるほど。なんか体にブーストかけて急いで帰って来たってことか。ヘイスト的な? ……にしたって、動物を轢き殺すレベルって、すごいな……。

「あ、それは大丈夫だ。轢いたのは低級の魔物だけだから」

「はぁ……やっぱり身体向上を使っていたか」

「んげっ!? 謀ったな!?」

「あとで説教だぞ」

「うう、頑張って仕事してきたのに……」

 自業自得だと思う。

「うふふ、歴戦の勇者様も、奥様には適いませんね」


「それよりクライン。レオが魔法に興味を持ったぞ」

「へえ、まだ赤ん坊なのにな。こりゃあ将来は大魔法士になるかもしれないな」

「ふふ、私とお前の子だからな。無いとは言い切れん」


 親バカだなあ……。というか、大魔法士ってなんだろう。そういう職業があるのか?

 ああ、知りたい。魔法のことはもちろん、この世界のこと、早く知りたいな。

「ようし、レオ、今度は俺の魔法を見せてやろう。父を敬え」

 お、やった! いいぞクライン! 親バカ最高!

「一応言っておくが、家を壊すなよ?」

「わかってるって!」


 そう言うと、クラインは手をかざして、なにごとか呟く。ベルゼリアは呪文なんて唱えてなかったけど、何か違うんだろうか。

 なんてことを思ってたら、クラインの手から光の玉が浮かび上がる。

「おぎゃあ!?」

 おおおおお! なにそれ!

「おっ! 本当にレオが喜んだ!」

 テンションがあがったのか、クラインはその光球を何個も生み出して、ぐるぐると空中で円を描かせる。

「だ、旦那様……!?」

「おぎゃあ! おぎゃあ!」

 すげえよクライン……!!

「おお! 楽しいかレオ!」

「こ、こら! 光魔法を振り回すな! 当たったらどうする!」

「はは、大丈夫大丈夫!」


 クラインが調子に乗ってどんどん回転を速くしていくと、あまりに速くなったせいか、風が巻き起こる。

「おぎゃ……?」

 あ、これアカンやつだ。


 調子に乗って気づいていないクラインが、さらに回転を速くした瞬間。

 ゴウッ!!

 激しいつむじ風が巻き起こった。

 ドガシャン、バリン! 派手な音と共に、部屋中が風でめちゃくちゃに……。

「あ、やべ……」

 あーあ……。


「クぅ、ラぁ、イぃぃン……」

「旦那様ぁー」

「ひ!? す、すまん!」


 その後、クラインはめちゃくちゃ折檻された。

 まあ……自業自得だわな。


 で、それから改めて、クラインとベルゼリアの魔法披露大会が始った。

 クラインは光を己が手足のように操り、ベルゼリアは呼吸するように闇を生滅させる。

 それだけじゃなく、クラインが風を発生させれば、ベルゼリアは火を生み、クラインが水を操作すればベルゼリアが土くれでその水を吸収する。


 いやあ、魔法ってすごい……。オレも使えるようになるのかな?

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