第十二話「妹の一歩」
暖かな日の光と共に、嗅ぎ慣れた甘い香りを感じて目を開く。
5年の間にすっかり見慣れた天井。
オレは自分の部屋のベッドに寝ていた。
顔を動かすと、シオンがオレに掛かっている布団に突っ伏して寝ている。
その頭を撫でようとして、自分の手がちゃんと動くことに違和感を覚えた。
折れたはずの指が、ちゃんと治っている。
身体中についた傷も、同様なようだった。
両親かクランボアが回復魔法を使ってくれたのかもしれない。今まで見たことないけど、そういうのもきっと存在するだろう。
とりあえず自分もシオンも無事なようで、ほっと一息。
改めて、シオンの頭を撫でる。
すると、ゆっくりとシオンが目を覚まして、顔をあげる。
寝ぼけ眼でオレを見た後、シオンは目をまん丸に見開き、そして満面の笑みになる。
「おにいちゃん、おはよう」
「ああ、おはよう、シオン」
二人して、笑いあう。
ああ、よかった。今度はちゃんと助けることができた。前世の失敗を繰り返すようなことにならなくて本当によかった。
しかしすぐに、シオンの顔が曇ってしまう。
「ん? どした? どこか痛いのか?」
「ううん……」
うつむいてしまうシオン。
なんだろう……?
「どうしたのか言ってごらん?」
優しく声をかけてあげると、シオンはうつむいたまま、ぽつりと呟く。
「おにいちゃん、ごめんなさい……」
「あ……」
シオンは自分のせいでオレを傷つけたと思っているようだった。
「いや、シオンは悪くない。悪いのはオレのほうなんだ」
「ううん。シオンが、まりょく?をへんなふうにしちゃったから、おにいちゃんが……」
「もともとは、シオンが魔力を使いたいって思ったのオレのせいだろ?」
「そうだけど……でも……」
「それより、オレはシオンが自分の力で魔力を制御できて嬉しいよ」
「え……?」
「ほら、あの時、自分の力であの荊棘を壊したじゃないか」
「うん……」
「あれはたぶん、すごいことなんだ」
おそらくあれはシオンが勇者と魔王の娘だからこそ、強力な魔力を有するからこそ、起きた事故だった。
普通なら、あんなに魔力がヤバイものであることは無いだろう。
というか、普通の基準があんなのだったら、この世界の5歳児はどんだけ凄いんだよと思ってしまう。
あんなのに一人で対抗して御しえる子供なんて、想像もできない。
それを、シオンはやってのけたんだ。
「よくやったぞ、シオン。おまえはすごい!」
「…………うん」
まだ納得していないようだ。
きっと、まだよくわかっていないんだ。
「シオン、オレはおまえを許す。シオンもオレを許してくれるか?」
「…………おにいちゃんはわるくないもん」
「それを言うならシオンだって悪くないよ」
「…………」
どうしたもんか……。
「うーん…………ま、いいか」
「え……?」
「シオン。おにいちゃんはな、シオンはなんも悪くないと思ってるし、こうして二人で無事でいられたから何も問題ない。それよりもシオンが魔力を自分の力で制御できたのが嬉しいんだ。もう、魔力を使えるだろ?」
「うん……」
感知してみれば、シオンからは大きな安定した魔力を感じる。
「さすがオレの妹だ、ってオレは今すごく誇らしいぞ」
「……ほんとう?」
「ああ、本当だ」
「おにいちゃん、わたしがまりょく?つかえるとうれしい?」
「ああ、嬉しい」
「そっか……」
シオンは何か考えるような仕草をした後、今までの落ち込んだ表情から、憑きものが落ちたようなスッと大人びた表情になる。
「じゃあ、シオン、もっとまりょく?じょうずにつかえるようになって、こんどはシオンがおにいちゃんのことたすける」
「……シオン」
「シオン、きめたの。おにいちゃんにたくさんごめんなさいしてもたりないから、そうするの」
「……ありがとう。シオンがそう思ってくれるだけで、すごく嬉しいよ」
なんて純真で優しいんだろう。まだ幼い4歳の妹がこんなにしっかりとしてるなんて、兄ながらちょっぴり泣きそうになってしまう。
前世や今世でオレが4歳の頃なんて、自分のことや遊ぶことしか考えていない悪ガキでしかなかった。
それに比べると、シオンはなんて偉いんだろう。
泣きそうなのを誤魔化すために、つとめて明るく振る舞うことにする。
「さあて、母さんたちにおはようを言ってこなくちゃ。行こう、シオン」
「うん……!」




