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第十話「家族会議。シオンもいるよ」

 両親が急いで朝食をとってから、家族会議が開かれた。

 なぜかシオンも同席することになって、よくわかっていないシオンは椅子に座ったクランボアに抱っこされてにこにこしている。さっきのがよほど楽しかったのだろう。


「レオ、俺たちは3つ決めたことがある」


 対して、真面目な表情の父さんがオレを見て告げる。


「ひとつ、まず俺たちはレオとシオンのことを調べる」

「シオンも……?」

 名前が出た当のシオンは、なに? というふうに首をかしげて可愛い。もうちょっとおとなしくしててな。

「ああ、本当は我が子のことを調べるなんてしたくないし、今まで問題がなかったから特に調べたりしてこなかった。けど、そうも言っていられなくなったからな……」


 父さんは苦渋の表情を浮かべる。そりゃそうだよな……子供の異常を調べるなんて、親なら嫌だろう。

 だけど実のところ、赤ん坊の頃に魔力を解放できた理由や魔法がたくさん使える理由が、転生者だからなのか、それとも勇者と魔王の子供だからかなんてわからないから、調べられるなら調べてもらったほうがいいと思ってる。

 知らないうちに、魔力を使うことで寿命が減ってたりしたら笑えない……。


「私とクラインで調べれば大抵のことはわかる、とは言えないのが悔しいがな」

「え……? 勇者と魔王でもわからないことがあるの?」

「もちろんそうだ。たとえば神職でなければ魂の器を感じることはできないから、レオの魔力量を正確に感じることができないし、レオが人に近いのか魔族に近いのか、どのようなバランスで成り立っているのかわからない」

「なるほど……」


 そういうのは宗教関係の人の領分なのか。勇者とか魔王って言っても、やっぱり餅は餅屋なんだな。


「あれ……? というか、魔族の神職ってなに?」

 なんだか矛盾して聞こえる。

「ん? そのままだぞ。魔族にも信仰する神はたくさんいるからな」

「そ、そうなんだ……」

 魔族のイメージがよくわからないことになってきた。文明とかあるんだろうか。……いや、あるんだろう。母さんやクランボを見る限り、人間と同等以上の教養がある文明人だ。

「まあ、魔族の神はどれも人間から邪神と呼ばれているがな」

 そういえば、オレをこっちに転生させてくれた神様は、どういう神様だったんだろう。悪い神様には感じなかったけど……わからない。

 また会うことはあるんだろうか。

「それで、ふたつめは?」


「ふたつめは、レオとシオンを俺らでちゃんと鍛えるってことだ」


 また名前がでて、シオンはなあにとまた笑顔でオレを見る。いや、言ったのは父さんだけどね。やっぱりまだおとなしくしててくれ。

「でも、父さんには今でも稽古つけてもらったりしてるよね?」

「あれは普通の5歳の坊主にするようなヤワなやつだ」

「あ、あれで……?」

 子供がやるにはスパルタ過ぎないかと思ってたんだけど、父さんにしてみれば手を抜いてた生ぬるいヤツらしい。あれ以上はもはや虐待と言うんでは。

「シオンのことはもっと調べてから決めるが、レオ、お前には俺が“勇者として”修練をつける」

「そして私も“魔王として”持てるものを全て、惜しみなくレオに教えよう」

 なんかすごく大変な予感しかしない。

「それって、遠慮することは……」

「「できるわけないだろう」」

「だよねー……」

 今まで好き勝手やってきたツケと思って従おう……そもそも二人はオレが憎くてやるわけじゃないんだから、あまり嫌な顔をしてもいけない。

 できるだけお手柔らかにやってくれることを願うばかりだけど……真剣な表情の二人を見るに、そういうわけにはいかないんだろうなぁ。


「最後の3つめは、お前をどうこうっていうんじゃなくて、俺ら両親に関することだ。これはお前に言う必要はないんだが、一応言っておく」

「…………?」

 なんだか言いづらそうで、歯切れが悪い。なんだろう。

 すると母さんが父さんの言葉を継いで口を開く。

「なに、そう難しいことじゃない。単に、レオからも教えてもらおうということだ」

「オレから……?」

 まだこの世界に転生してたかだか数年しか経ってないオレなんかが勇者と魔王に教えることなんて無いと思うんだけど……。

「私やクラインが5歳の頃は今のレオほどしっかりしておらなんだし、魔法もそこまで使いこなせておらんかった。そんなレオが見ているものは、もしかしたら我ら両親には考えもつかぬことかもしれん。だから、もしそうであると思ったなら素直にレオに聞こうと、クラインと決めたのだ」

「で、でも……」

「いいんだよ、レオ。俺とベルゼリアは親だ。子を守るためには強くなきゃならん。だから、そのためには何でもしようと昨夜二人で決めたんだ」

 恥ずかしいのか、ぶっきらぼうに言う父さん。

 ここでも、オレやシオンのため。

 本当にこの両親は、まったく、子供を愛するのに容赦がない。

「わかった……なにか気づいたことがあったら、言う」

 オレも、彼らの子供としてそれに応えるとしよう。


 家族会議が終わると、さっそく家の外に出てひとまずオレの現状を確認することになる。

 シオンが大人しくしているのも限界だったので、ちょうどいいタイミングだった。今はひらひら飛んでる蝶々に夢中なようだ。

 両親としては大事な話だからシオンも同席させたみたいだけど、たぶんよくわかってなかっただろうな。


「レオ、最初はそなたの魔力量を調べたい。魔法として発現させずに気を失う寸前まで魔力を外に放出せよ」

「わかった」

 体に纏わせていた魔力を一斉に放つことにする。

 一番最初に魔力を解放した時以来だから、実に数年ぶりだ。

 魔法を使うときには頻繁に体外に魔力の一部を出していたから、問題なくできるはず。

「じゃあ、いくね――――ッ!」


 そしてオレは、胸の奥に溜まっている(イメージの)大量の魔力を操作する。


 瞬間、体がカッと熱くなったかと思うと、体内の魔力が一斉に体外に飛び出し大気のなかを駆け巡って霧散していく。


「な……っ!?」

「嘘だろ!?」


 両親の驚きの声を、魔力の放出とともに巻き起こった風がかき消す。

 そんな轟音の疾風が起こったのは偶然なのか、魔力の風なのかはわからない。

 魔力がオレを中心に同心円状に放出されていくのが感知でわかる(感知だけは今も常に張っている)。

 やっぱり遠慮無く魔力が使えるのはいい。とてもいい。これならすぐにでも魔力切れになって効率良く魔力量を上げられるだろうし、そもそもこの大量の魔力で魔法を行使したら面白そうだ。

 ちなみに、さきほど水球で遊んだ時はもちろんこんな一気に大量に魔力を使ったわけではない。たぶん、使っていたなら家が水没していただろうから。


 5分ほど経っても、まだ魔力は尽きない。


「ま、まだ終わらないのか!?」

「そなたの魔力は無尽蔵か……!?」

「いや、無尽蔵じゃないよ」

 今の魔力量を考えるともっと大量に体外に出しても大丈夫なんだけど……まだまだ魔力操作が上手くないから、そう簡単にはいかない。

 ちまちま魔力操作の練習はしてきたんだけど、やっぱり独学でこっそりやっていたから、たいした習熟につながってないんだろう。

 魔力操作が上達すれば、もっとたくさんの魔力を一度に体外へ出せるはずだ。


 それから5分くらい経つと、両親が慌て始める。


「わ、わかった! もういいぞレオ!」

「このままでは結界に影響が出る!」


 その声に魔力放出をぴたりと止める。

 両親を見ると、なんだか青い顔をしている。

「レオ……それでどれくらい減ったんだ……」

「あとどれくらい、そなたの中には魔力が残っている?」

 二人に問い詰められる。

「えっと、だいたい半分くらい……かな?」

 そう答えると、両親が目を見開いて、お互いの顔を見る。

 なんだろう……?

「レオ……よく聞け……」

 母さんが言い辛そうに、口を開く。


「今そなたが放出した魔力量は、私やクラインが持つ全魔力に等しい」

「え……?」

「そなたはすでに、この時点で単純な魔力量で言えば、勇者と魔王を超えている」


 混乱する。

 いやだって、ちょっと魔力を増やし始めたのが子供の頃からだって言っても、いくらなんでもそんなわけが……。


「……レオ、そなたが自身の魔力に目覚めた時から、魔力量はどれくらい増えた?」

「どれくらい……おおざっぱにだけど……だいたい、感覚的には100倍くらいになるのかな……」

「……レオ、普通はどんなに頑張っても魔力量が元の5倍以上になることは無い……」

「えっ」

「これはそなたの魔力解放が早かったからなのか、それとも勇者と魔王の子だからなのかは、わからない」

「そ、そう……」

「おそらく、5歳までという魂の器が不安定な時期の魔力操作が、魔力量の大幅な底上げに繋がったのだとは思うが……」

「魂の器が不安定な時期?」

「そうだ。5歳までに魔力解放を行うと、体が耐えられないという話は覚えているか?」

「う、うん。最悪死んじゃうから、普通はやらないって……」

「これは単純に体がもろいからだけではなく、5歳よりも前に魂の器から魔力を解放すると、魂の器がまだ不安定なせいで元々の魔力量よりも大量の魔力を生み出してしまうと考えられている」

「え……? もともとある魔力よりもたくさんの魔力を生み出すの?」

 なんだか収支があってないような気がする。

「5歳で魔力が解放できるようになるのは、5歳の体に合うように魂の器が安定するからだ。それまでは魂の器は固着せず不安定で、魔力の量も容易に可変する……のだと思う。詳しいことは学者にでも聞かねばわからないが」

「ふぅん……」

 魔力量が安定しない時期に鍛えていったから、普通よりもたくさん魔力が増えたのかも、ってことか。

 運が良かったというか……一歩間違えてたら本当に死んでたかもしれないんだな……オレ。危なかった……。


「あれ? でも、5倍以上にならないっていうのは? 一気にあがらなくてもコツコツ何年も何十年もかけて上げ続けていったら、もともとの5倍以上になんてできそうだけど……?」

「ああ、それは簡単だ。魔力量は10歳の時点で固定されるんだ」

「なるほど……」

「そうそう、だから5歳から10歳の間はどいつもこいつも魔力量を上げるためにっつって、親からしごかれまくるんだよな。まあ、そのしごきがキツくて魔法使えなくなるやつもいるけどな、ははは」

 なにそれこわい……父さん笑い事じゃないでしょう……。

「ま、そもそも、魔力を解放できるやつが全体の半分くらいしかいないんだけどよ」

「え? そうなの?」

「ああ、魔力の感覚を掴むのはセンスがいるからな」

「ふぅん……?」

 わりと簡単に魔力を感じられたから、それがイマイチよくわからない。

 もしかしたら、シックスセンスじゃないけど、魔力を感じることができる器官みたいなのが発達してるかどうか、そもそもあるのかどうか

ってのがあるのかもしれない。

「魔力を感じる器官……? そんな発想はなかったな……」

 聞いてみると、両親とも知らないみたいだった。

 やっぱりそんな器官はないのかな。

「でも、じゃあ、どうやって魔力を感じてるの?」

「む……?」

「どうって、お前、そりゃあ……」

 二人とも、沈黙してしまう。

 オレとしては五感をそれぞれ目や耳や鼻とかで感じるように、魔力を感じるところも脳なんだか魂の器だか知らないけど、どこかしらあるんだと思ってた。で、感知魔法っていうのは、それをブーストさせる魔法なんだとばかり……。

「なるほど……」

 その話をすると、両親とも考え込んでしまった。


 ふと気がつくとシオンが目を輝かせて、じっとこちらを見ている。もう蝶々はどこかに行ってしまったらしい。クランボアに手をつないでもらいながらオレを見ている。

「ん?」

 なに?というふうに首をかしげてみせる。

 するとシオンは……。


「シオンもやるー!」


 無邪気にそんなことを言って、魔力を解き放ってしまった。

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