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第九話

 暗い室内に鋭い光が射し込んできた。ずっとクラシックが鳴り響いていたので部屋の外の様子はよくわからなかったが、まだシャワーの音がかすかに聞こえることから、部屋に入ってきたのが彼だと直感した。


 カーテンを締め切った部屋で目が覚めて以来、九里絵は自分が監禁されている場所を、なんとか果陸に伝えようと試みていた。しかし、自分のいる場所が特定できない。地名どころか、方角や距離も不明で、どうやって場所のイメージを送れば良いのかわからなかった。

 様々な方法を考えては実験してみたが、どれも巧くいっているように思えない。便利な能力だと思っても、こんな状況では全く役に立たないのだろうか。


 深夜になると状況が一変した。まるでトランシーバーのノイズが消えるように、果陸とのコンタクトが明瞭になった。どうやら果陸は眠ったらしい。彼の意識に抑圧されていた部分が露わになる。それが深層意識なのかどうか九里絵にはわからない。不用意に触って果陸の精神にダメージを与えてしまうことは避けたい。

 しかし、今は緊急事態だ。拉致犯の気分次第で乱暴されるか、場合によっては殺されてしまうかもしれない。

 九里絵は眠ったままの果陸の脳に命令して起床させ、服を着替えてそっと外出させたのだ。

 自分とリカの手枷を切ってくれれば、自分たちで脱出できる。犯人に見つかって格闘になったら危険だが、三対一なら万が一勝てなくても、逃げ出すくらいはできるだろう。


 果陸がゆっくりと部屋に入ってきた。廊下側からの逆光で顔は見えないが、ロープを切るためのナイフを持っている。イメージはかなり正確に伝わったようだ。早く、あいつが戻ってくる前に、早く助けて。

 しかし、信じられないことが起こった。九里絵のすぐ横で縛られていたリカが果陸を見て悲鳴をあげたのだ。


 どうして?

 いま騒いだら、あいつに気づかれてしまう。


 長時間、極度の緊張に晒されていたために、リカは心神喪失状態に陥ってしまったのだろうか。とにかく黙らせなくては。九里絵はリカに顔を近づけ声を潜めて訴えた。


「リカ!果陸よ。助けにきたの。だからお願い!騒がないで」


 九里絵の声はリカの耳に入らない。果陸を見る。彼は部屋に一歩入ったところで黙って立ち止まっていた。それは異様な光景だった。ペティナイフを持ったまま、虚ろな目で助ける対象をじっと見据えている男。男は急に動き出すと、リカの口を押さえようと近づいて片手を伸ばした。

 リカはその手から逃げようと身をよじり、さらに大きな声で叫びながら激しく足を動かして抵抗した。歯を剥いたリカが果陸の手に噛みつく。ゴリっという嫌な音が聞こえて、果陸は噛まれた手を押さえた。


 バカ!

 助けに来たのに。

 あいつに気づかれたらみんな死ぬかもしれない。

 あなただけじゃない。わたしも果陸も殺される。

 そんなに死にたいの?…。


 九里絵は、はっと気がついて思考を中断させた。果陸が動いていた。右手に持ったペティナイフがリカの喉に深く刺さっている。リカは奇怪な叫び声をあげた。


 なんてことを!

 あってはならないことが起こってしまった。


 呆然と目を見張る九里絵の前で、果陸の握ったペティナイフは何度もリカに突き出され、彼女の腹部を切り裂いた。

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