表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/11

第十話

 階段を駆け上がると、三階の廊下の端に彼が倒れていた。胎児のように丸くなっている。体が小刻みに震えていた。急いで駆け寄り、すぐ横に座り込むと、肘をついて果陸の頭を抱き上げた。汗で顔に貼りついた髪を指先ですくい、頬を寄せた。


「俺が…。俺が…」


 果陸はうなされるように呟きつづける。


「思い出したのね」


 彼は知ってしまった。心は恐怖と後悔で、いまにも押しつぶされてしまいそうだった。

 こうならないように、記憶をシャットアウトして彼に見せないようにしていたのに。彼自身の脳のどこかにも残っていたようだ。

 堰き止めておいた記憶が溢れ出し、二人の脳のシェアリングが復活してフル回転を始める。


 俺が殺した。俺が殺した。俺が殺した。俺が殺した。俺が殺した。俺が殺した。俺が殺した。俺が殺した。


 リカが死んだのはわたしのせい。あなたのせいじゃない。

 二人の思考は、高速で回転しながら捻れ、混ざり合い、ゆっくり融合していく。

 罪を君が一人で背負い込んでいたんだ。

 あなたに罪はないわ。

 ナイフを握っていたのは俺だ。

 それをさせたのはわたし。

 あなたは何も知らないのよ。

 知らないのも罪だよ。

 知らないようにしたのもわたし。

 そうやって俺を守っていたんだ。

 あなたがわたしを守ったように。

 俺は忘れることで救われた。

 わたしは黙ることであなたを救う。

 俺は殺すことで君を助けた。

 わたしは祈ることで助けられた。

 信じることで騙された。

 叫ぶことで殺された。

 食べることで空虚を忘れた。

 眠ることで癒やされた。

 思考することでお互いを試した。

 泣くことであなたを感じた。

 君を感じるのは難しい。

 努力が足りないのよ。

 努力なんて言葉は曖昧だよ。

 愛と置き換えてもいいよ。

 それはもっと曖昧だ。

 曖昧なのはいけないこと?

 答えを出すには議論がいるね。

 左右の脳で議論する人はいないよ。

 普通の人だって逡巡くらいするよ。

 迷いと議論は別物だよ。

 結果は同じだ。

 あなたは二人がいい?

 二人でいる必要はないね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ