第98話 夢の中で。
「ケン、キュウ。まず決めなきゃいけないことがある。」
男子部屋でコウちゃんが真剣な顔をしている。僕は何事かと思ったけど、ケンちゃんは本を読みながら答えた。
「僕は布団派だから。キュウと話し合って決めていいよ。」
それを聞いて僕も理解した。部屋にはベッドが一つ、床には布団が二つ敷いてある。
「コウちゃん。僕も布団派だから。」
「マジで?よかったー。俺ベッド派だからさー。助かった。」
コウちゃんは子供のように喜びベッドに寝転がる。僕とケンちゃんも自分の布団を決めて横になった。
「よし。明日も早いから、寝るか。電気どうする?」
「僕はどっちでもいいよ。任せる。」
「僕も任せます。」
コウちゃんは豆電にして寝る体勢に入った。そして5分もたたないうちに眠りについた。
「いつもながらコウちゃんの寝付きの良さは羨ましいよ。」
ケンちゃんが小声でつぶやく。
「うん。すごいね。ケンちゃんはまだ寝る時間じゃないんじゃない?」
「そうだね。僕はいつもはあと一時間は起きてるから。まあ寝られなかったら廊下で本でも読むよ。」
「さすが。」
ケンちゃんらしい行動だと思う。ただ一応寝ようとはしてるみたいで目を閉じた。僕もゆっくり目を閉じた。みんなに話せて、聞いてもらって。心がすっきりしている。だからぐっすり寝られそうな気がした。
30分後…。僕の意識は夢と現実のはざまをウロウロしていた。ケンちゃんもたぶん寝られないみたい。すると部屋のドアがゆっくりと開いた。
「おじゃましま~す。」
小声でそう言いながらユウちゃんが入ってきた。
「やっぱりこうなったね。」
ケンちゃんが上半身を起こしてユウちゃんを見た。
「向こうのベッド大きいから三人で寝てたの~。そしたら私たちが蹴り落とされたの~。」
ユウちゃんは眠そうな顔で不満をこぼす。
「じゃあセイが占領してるんだ。」
ケンちゃんは笑った。
「ん?なんだ?どうした?」
コウちゃんが半分寝ぼけながらこっちを見ている。
「コウちゃ~ん。追い出されたの~。」
ユウちゃんはベッドのそばまで歩いていく。そして当然のことのようにコウちゃんの毛布をめくり、そこに入った。
「ある意味すごいね。お互い何の疑いもないんだね。」
「それは君の方も同じだよ。」
ケンちゃんが僕の足の方を指差す。その先にはメイちゃんが座っていた。僕は起き上がってメイちゃんの顔を見た。豆電で薄暗いけど、口の動きは何とかわかる。
「キュウちゃん、私もいれてもらっていい?」
僕はうなずいて毛布をめくった。メイちゃんはもぐりこむように入って僕の横に落ち着いた。
「キュウ。メイに聞いてほしいことがあるんだけど。」
ケンちゃんが僕の方を見た。
「セイが布団で寝てるなら、机の電気スタンドを付けても問題ないかな?」
メイちゃんを見ると口がゆっくり動いた。
「大丈夫だと思う。セイちゃんは一度寝たら起きないから。」
メイちゃんの言葉をケンちゃんに伝えた。ケンちゃんはゆっくり起き上がると枕元に置いていた本を二冊手に取った。
「メイ、この布団も使うなら使っていいから。」
ケンちゃんはそう言って部屋から出ていった。
「メイちゃん、どうする?」
メイちゃんは眠そうな顔で口をゆっくり動かした。
「キュウちゃんがいいなら、一緒に寝たい。そしたら寝られると思うから。」
僕は小さくうなずいた。
「メイちゃんが寝られるなら僕は何でもするよ。」
「ありがとう。キュウちゃん。」
メイちゃんは目を細めながら口を動すと、僕の胸に顔をうずめるようにぴったりくっついた。メイちゃんの髪からシャンプーのにおいがする。僕はやさしく頭をなでた。
ドキドキしてる…。でも嫌な感覚じゃない…。むしろずっとこうしていたいくらい…。
メイちゃんから、スースーと寝息が聞こえてきた。僕は頭をなでる手の動きをゆっくりにしていき止めた。その手をゆっくりとメイちゃんの肩に移動させた。
メイちゃんは小さいな…。こんなに小さいのにすごい才能を抱えて、いつも僕を気遣ってくれて…。
メイちゃんの体温が僕を眠りに誘い、僕の意識がゆっくりと薄れていく。そんな感覚の中、僕は思った。
もしも、もしもできるなら、メイちゃんを守りたい。守ってあげたい。できるなら…。もしもできるなら…。
その夜、僕は夢を見た。夢の中で『これは夢だ』と実感できるタイプの夢を。その証拠に僕の目の前にはまだ小さかった頃の僕がいる。自分の小さい頃の写真を思い出して、たぶん小学校に入るくらいだと思う。場所はどこだかはわからないけど、屋内プールみたいだ。木でできた板が大きなプールの真ん中に通路のように浮かんでいてその上を小さい僕が歩いていく。僕はとりあえず小さい僕の後ろを歩いた。すると小さい僕の目の前で女の子が泣いていた。小さい僕はその子の頭をなでながら話を聞いている。小さい女の子は水の中を指差した。その先にはきらきら光るものが見える。
何か落としたのかな?
僕がそう思った次の瞬間、小さい僕はその光るものをめがけてプールに飛び込んだ。
「おい!僕は泳げないよ!」
僕の心配をよそに小さい僕はどんどん潜っていく。プールはかなり深いらしい。
「どうせ夢なら…。」
僕はプールに飛び込み小さい僕を追った。小さい僕はプールの底にたどり着き、光るものを大事そうに拾った。
すごいな…。夢の中の小さい僕…。
そう思ったとき、目の前にいる小さな僕が突然溺れだした。急いで水面を目指してバタバタ動いているがなかなか進まない。
「しっかりしろよ!小さい僕!」
そう叫ぶけど僕には何もできない。小さい僕は苦しんでいる。そのとき誰かが上から泳いできて小さい僕の手をつかんで水面へ引っ張っていく。僕は小さい僕を心配しながらもなぜかその体につかまり一緒に上がっていった。水面に出た小さい僕は近くにいる別の誰かによって木の通路に引っ張りあげられた。さっきの女の子が小さい僕のそばで泣いている。すると小さな僕は目を開けて、拾ってきた光るものをその子に渡す。その子はそれを首にかけてニッコリと笑い、きれいな声で小さい僕に言った。
「ありがとう。」
目が覚めた。外を見ると明るい。でも部屋の時計は4時をさしていた。
なんだったんだろう?今の夢は…。不思議な、なぜか懐かしさを感じる夢だったけど…。
僕が夢を思い出していると僕の顔に何かがふれた。
「キュウちゃん。おはよう。」
メイちゃんは口を動かすと僕の顔をなでてから笑った。
「おはよう。メイちゃん。よく寝られた?」
メイちゃんは笑顔でうなずく。
「今までで一番寝られたかもしれない。キュウちゃんのおかげだよ。」
「よかった。メイちゃんがよく寝られて。」
するとメイちゃんは寝るときと同じように僕にぴったりくっついた。
「あと少しだけ一緒にいて。そしたら起きるから。」
メイちゃんが上目使いで僕を見て口を動かした。僕はうなずく。
「あと10分こうしていよう。10分たったら起きて一緒に野菜を採りに行こう。」
メイちゃんはニッコリと笑って口を動かした。
「ありがとう。」
メイちゃんは僕の胸に顔をうずめて目を閉じた。僕はメイちゃんの頭をなでた。
あれ…?今のって…。
僕はその不思議さに驚いた。メイちゃんの動かした口から声が聞こえた気がした。夢の中で小さな僕に笑ってくれた女の子と、目の前にいるメイちゃんがぴったり重なった気がした。
不思議な夢…だったのかな?偶然だったのかな…?




