第97話 戦ってみて。
「さて、次の議題に移ろう。」
コウちゃんが僕の様子を見てそう切り出した。
「『キュウがこれからどうするべきか』だね。」
ケンちゃんはお茶を飲みながら答えた。
「どんな方法があるんだ?」
セイちゃんはお菓子をガバッとつかみながらケンちゃんに聞いた。その大胆な行動がかっこよく見える…。
「そうだね。僕は素直に逃げるべきだと思う。」
ケンちゃんはコップを置いてから話し始めた。
「方法は相手と戦うか逃げるかのどちらか。ただ、さっきのキュウの話を聞く限り戦うのは難しい。クラスで孤立している上に担任も向こう側ならいくら何でも厳しいから。一番いいのは転校することだけど…。」
そこでケンちゃんの言葉が止まった。『転校』なんて大掛かりなことはさすがに…。
「は~い。じゃあキュウちゃんがこっちに転校してくればいいんだよ~。そしたらみんなで仲良く遊べるから~。」
ケンちゃんの案にユウちゃんがのってきた。
「そうだよ。あんたの学校はともかく、あたしたちの学校なら平和だし。何よりいじめられそうになってもあたしやコウが守れるんだから。そうしろ!」
セイちゃんものった。横を見るとメイちゃんも笑顔で僕を見ていた。
「うーん。悪い案ではないけど、俺は反対だ。」
「何でだよ!」
みんながコウちゃんを見た。コウちゃんは息を大きく吐いてから口を開いた。
「とりあえず現実的じゃないってことはある。転校なんてことはキュウの親とおばあさんが賛成して初めて実現することだから。あとは…。」
「あとは~?」
ユウちゃんが不満そうな顔でコウちゃんをじっと見ている。コウちゃんは頭をかいてから僕を見た。
「さっきケンが言ったように解決策が戦うか逃げるかしかないとしても、いきなり逃げることはないと思うんだ。逃げるのは最終手段にするべきだ。」
それを聞いたセイちゃんが立ち上がった。
「待て!さっきケンが言っただろ?厳しいって。クラスに味方がいなかったら勝ち目ないだろ!」
「そうだよ~。キュウちゃんがこれ以上傷つくなんてダメだよ~。メイちゃんが泣いちゃうでしょ~!」
突然メイちゃんの名前を出すユウちゃん。メイちゃんを見ると真剣な顔でうなずいていた。
「まあ、待てよ。いじめられてたのは何もできなかったキュウだろ?」
コウちゃんが大声を出すとみんなの声が止んだ。コウちゃんは声を小さめに戻して話を続けた。
「正直に言えば、俺も会ったばかりのキュウなら転校すること、つまり逃げることが一番だと思う。賛成できる。でも今のキュウはあのときのキュウじゃないから。今のキュウなら戦える。逃げる前に死ぬ気で戦うべきだと思う。」
コウちゃんの言葉が止まると部屋が静まり返った。時計の針の音が聞こえる。その沈黙を破ったのはセイちゃんだった。
「まあなー。確かに変わったからな。」
「そうだね。驚くほど変わったね。」
「そうだね~。」
僕自身は『今の僕』と『前の僕』の違いがわからない。でもみんなは少なからず納得しているように見えた。
「僕って変わったの?」
みんなを見ると笑顔で大きくうなずいた。メイちゃんを見ると笑顔ではないけど大きくうなずく。
「最初に会ったときは自信無さそうだし何かウジウジオドオドしてたしはっきり言わなかったし。正直『こいつ仲間にするの反対』って思ったこともあったからな。」
「セイちゃん言い過ぎ~。でも確かに自信なさそうだったね~。」
「うん。今のキュウは自信がついたよね。『たぶん』とか『思う』が減ったからね。」
みんなの意見が次々飛び出す。僕には自覚がない。
「それはアメイズが僕の好きなパズルや手品の分野だったからだと思うよ。普通の勉強と運動だったら…。」
「いや、それは違うな。」
コウちゃんの否定が早い。僕は驚いてコウちゃんを見た。
「会ったばかりのキュウなら例え得意な分野でも俺たちが『やってくれ』と言うまではやらなかったはずだ。それは自信がついた証拠だよ。」
僕は言葉が出ない。というより本当に実感がわかない。
「キュウ。とりあえず明日一日俺に時間をくれ。俺がスポーツを教えられるだけ教えるから。もし一日やってみて『できる』って実感できたときは勇気を持って戦ってみてほしい。」
コウちゃんが真剣な目で僕を見ている。コウちゃんから光が見えた。コウちゃんが『できる』と言ってくれるならできるのかもしれない…。そう思える、思ってしまえるような力のようなものを感じる。ただ、それでも僕はコウちゃんに聞いた。
「僕でも自信を持てるの?」
「ああ。キュウなら大丈夫だと俺は思う。というより確信に近い。」
コウちゃんはそう言って笑った。
「うん。わかった。明日コウちゃんと一緒に頑張ってみる。もしそこで自信みたいなものを感じたら、戦ってみるよ。」
僕のその宣言にみんなから拍手が起きた。僕は照れながらメイちゃんを見た。メイちゃんも笑顔で拍手してくれていた。
一時間後…。
「さて、そろそろ寝るか。」
コウちゃんがあくびをしてからみんなを見た。カードゲームやボードゲームをみんなで遊び尽くした。
「じゃあ交代で歯を磨きましょ~。行くよ~。セイちゃん、メイちゃん。」
ユウちゃんは二人を連れて部屋から出ていった。僕たちはコップやごみを全部まとめて一階に運んだ。
「キュウ。聞きたいことがあるんだけど。」
台所でケンちゃんがふと思い出したかのように僕に言った。
「なに?どんなこと?」
聞き返すとケンちゃんは少し考えて言葉を選ぶようにして僕に言った。
「もしもコウちゃんとのことが上手くいって、向こうでいじめに勝ったとしたら、君は梅川君をどうする?友達に戻る?それとも…。」
ケンちゃんが言いたいことは何となくわかる。
「今はわからないよ。でももし全部が上手くいったらそのときは梅川君に聞いてみたい。『僕は友達ですか?』って。」
「もし、友達だって言ったら?」
僕は少し考えてから答えた。
「そしたら、友達になるかもしれない。ただ、今度は裏切られる覚悟で。」
ケンちゃんは驚いた顔で僕を見て、そして笑った。
「君は本当にいいやつだね。」
「そうかな?でもこの話は上手くいった場合の話だから。まずは明日自信がつくかが問題だから。」
すると僕の背中をバシンと誰かが叩いた。振り返るとセイちゃんが笑顔で立っていた。
「大丈夫だ!コウに任せておけば!」
「そうだよ~。それにここにいるのはそれぞれの分野のトップなんだから~。勉強のケンちゃんに運動のセイちゃん。そしてその他の私。だから大丈夫~。」
セイちゃんの影からユウちゃんが出てきて胸をどんとたたいて見せた。
「そうなんだ。すごいメンバーだったんだね。」
そう答えた僕の服がツンツンと隣から引っ張られた。
「キュウちゃんなら大丈夫。私は信じてるから。頑張って。」
メイちゃんは口を動かしてニコッと笑った。
「うん。ありがとう。頑張るよ。みんなのおかげで頑張れそうだよ。」
みんなの笑顔を見ると頑張れそうな気がした。そしてみんなのためにも頑張らないといけない気がした。




