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アメイズ  作者: D-magician
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第8話 リトライ

 コツコツコツ……。


 薄暗い廊下を進む僕たちの足音が響く。二回目だからなのか、みんなが昨日よりゆっくり歩いているせいなのかはわからないけど僕は昨日より不安じゃない。そして昨日より建物の中をゆとりをもって見られた。そのおかげでわかったことも多い。

 この建物の裏口の鍵はユウちゃんが持っていること、裏口の扉がなぜか厚く頑丈なこと。廊下の電気のスイッチが裏口のそばの高い位置にあり、しかもなぜか紐みたいなものでぶら下がっていること。そのスイッチは壁についているハシゴを使わないと押せないことなど…。


 本当にいろいろと不思議な建物…。


 僕がそんなことを考えているといつの間にか昨日と同じ中央ロビーみたいな場所についた。一部が木の床なのも変わらない。そして昨日と同じ位置にパソコンがあり、ケンちゃんがそれに向かって座った。


「ねえ、ここって何なの?昨日も聞いたけど。」


「あ、そうだな。昨日は急いでたから説明できなかったんだったな。」


 僕の質問にコウちゃんが説明をしてくれた。


「ホテルだったらしいよ。俺たちが生まれるずっと前にできて、俺たちが生まれる少し前に倒産。で、俺たちが生まれた頃にどこかの金持ちが使っていたとのことだ。で、そのお金持ちがいろいろ改造したらこうなったらしい。」


「そうなんだ。」


「その後、そのお金持ちは突然姿を消した。ただその人が10年分くらいの維持費?みたいなものを町に払っていったので、誰も使わなくても壊されずにここにあるらしい。で、その期限が切れるのが今年。」


「ここ、壊されちゃうの?」


「それは俺にもわからないけど、水とか電気が止められたら俺たちは探検できないから。」


「何でここを探検することになったの?」


「ユウの家に不思議な封筒が届いたんだって。で、開けたらここの図面と入り口の鍵が入ってた。それを俺に教えてくれて俺が探検したくなった。だからまずは俺とユウで入ってみた。でもそこのパソコンの問題がさっぱりわからない。で、ケンを勧誘した。」


 コウちゃんはケンちゃんを見る。カタカタという音が静かな空間に響いている。ケンちゃんはすごい早さでキーボードをたたいている。


「で、ケンに解いてもらってドアの開いたあの3つの部屋に入ってみた。」


 コウちゃんが指差す先には3つのドア。真ん中は昨日僕が入った部屋だ。


「そしたら、どの部屋の問題も俺たちだけでは難しかった。だからまた仲間を探した。で、セイとメイを勧誘できたことで右と左の問題は解けた。あとは真ん中だけだった…。だけど…。」


「解けなかったのよ~!私たちは~!頑張っていろいろやってみたのにさ~。」


 急に大きな声でユウちゃんが割り込んできた。僕は心臓が止まるかと思った。


「みんな困ってたの~。そしたらセイちゃんが言ったの~!似たようなパズルを集めて祭りの屋台に置いて解けた人を誘おうって~。」


「で、やってみたんだ。役場にテント借りてあの場所で。けっこうたくさんの人がやってくれたけど、10分じゃあパズルを2個解くのが精一杯。ルービックキューブに至っては誰も解けなかった。で、みんな諦めて屋台で買い物したりテントの裏でゲームをしたりしてたんだ。店番は交代制にして。そしたらキュウが現れてすごい早さでパズルを解いた。だから勧誘した。」


「うん。ただ僕は信じられなかった。あんなに早くあのパズルを解けるはずがないって。」


 ケンちゃんがパソコンを操りながら話に入ってきた。


「だから僕は勧誘することに賛成できなかった。誰だかわからないって理由も大きかったし。でも、君はあの部屋のパズルも解いた。僕たちが解けなかったあのパズルを…。だから!」


 ケンちゃんがキーボードをパシッとたたくと、真ん中の部屋の電気がついた。僕が昨日入ったパズルの部屋だ。


「もう一度解いてほしいんだ。僕たちの前で。そしてもし解けなかったら、僕は君を仲間に入れることに反対する。」


「いきなり何言ってるんだよ。あんたは!昨日解いたんだからいいだろ!何いきなり変なこと始めてるんだよ!」


「一度解けたものなら今日も解けるだろ?解けなかったらまぐれってことになる。まぐれで解けた人をいきなり仲間に入れるのはどうかと思う。僕は間違ってない。」


「間違ってない!じゃねえよ。明らかに間違ってるよ。仮にまぐれだったとしても、あたしらが束になっても解けなかったパズルをまぐれで解けたならそれはそれですごいことだろ?」


「だから、まぐれで解けて先に行けるなら彼じゃなくてもいいだろ。それに秘密が他の人に漏れたら困るんだし。」


「そりゃ、そうだけど!いや、でも…。」


「ケン、どうした?急に。らしくないぞ。」


「そうだよ~。ケンちゃん。キャラが変だよ~。どうしたの~?」


 みんなが意見を言い合って収集がつかない状況になってきた。と、そのとき、


「みんな!もう、いいって!」


 急に大きな声が響いた。みんな静かになった。大きな声を出したのは僕だけど…。


「みんな、いいよ。ケンちゃんの言う通りだし。」


「でも、いいのか?キュウ。お前…。」


「うん。いいんだよ。僕がみんなの仲間になれたのはパズルができるから。逆に言えばパズルができなければここにいる資格はないんだよ。」


「そうなのか?あたしにはわからないぞ!資格とか必要か?」


 僕の意見にセイちゃんが反論する。でも、僕は続けた。


「僕はケンちゃんに認めてもらえるように頑張るよ。でも、ちょっと問題が…。」


「なんだ?何かあるのか?」


 コウちゃんが僕に聞いた。僕は答えた。


「昨日、パズルを一通り解いちゃったから。昨日と今日のパズルって同じものなのかな?ってことが一つ。」


「あ、そうだな。俺たち全部解いたことなかったし。どうなってるんだろう?」


「もう一つは…、これは僕が知らないだけかもしれないけど。あの部屋って時間制限ある?」


「あ、ある、あるよ。各部屋10分だ。」


「それのスタートって、あの部屋に入ったときから?」


「いや、ケンがパソコンの問題をクリアして部屋のドアが開いたときからだ。」


「じゃあ、もう2分くらい過ぎちゃってるよね…?」


「あ!そうだ!こんな無駄な言い合いしてる暇ないな。キュウ、行け!みんなも行くぞ!」


「うん。じゃあ、行きます。とりあえずクリアすることを優先するから。ケンちゃん、その上で判断して。」


「あ、うん。わかった。」


 僕は走って階段を下りて部屋のドアを開けた。そして中に入る。


「部屋の中は同じ。だからまずは鍵を取ってきて…、」


 僕が考えている間にみんなが部屋に入ってきた。


「おい、ケン。あとユウとセイ。邪魔にならないようにキュウのそばで見てろよ。昨日だって、あっという間だったんだから。」


「そうなのか?じゃあ、あたしはかなり近くで見ないと。」


「私も見ないと~。ケンちゃん!あなたが一番見ないとでしょ~。」


「うん。わかってるよ。」


 僕の両隣にセイちゃん、ユウちゃん、ケンちゃんが立った。


「じゃあ行きます!」


 僕は昨日と同じように奥にある像の持つスプリングに引っ掛かるリングに手をかける。リングはスプリングにからんでいる状態だ。


「え、鍵は選ばないのか?」


 パチーン。


 セイちゃんの質問が終わるより早く、僕はリングをひねって向きを変えた。そしてリングをスプリングから外す。


「え、え~。今、何したの~?取れてるよ~!リングが。」


 ユウちゃんの驚きの声が終わるより前に、僕は中央の台の上のガラスケースの鍵を開けた。そして昨日のコウちゃんと同じように走ってリングをスプリングにかけた。そして中央の台まで戻る。

 ここまで約1分。


 パズルを取りだし確認する。パズルは解けたままだし、からくり箱に入っていた金属もそのままの状態だった。


「昨日と同じ状態。ってことは…。」


 僕は台を見た。台にはパズルをしまうくぼみがある。からくり箱をしまうくぼみもある。


「くぼみの形から考えて、パズルを解いてない形にしてしまうのかな…。たぶん…。」


「それでいいと思うぜ。俺も。つまり昨日俺たちがガラスケースから出した形に戻せばいいんだ。たぶん。やってみてくれ。」


「うん。まずはからくり箱から。」


 僕はからくり箱の中に金属を戻し、フタをスーッとすべらせるように閉めた。


「手順を逆にするから…、こっちから戻していって。ここを一度…。」


 カタカタと音をたてて箱のいろんな部分を動かす。そして、


「完成。で、ここにセットして。次のパズルを…。」


 僕は完成したパズルを納めるべき場所に入れて、次のパズルに取りかかった。


「早いね~。さすがだね~。」


「あたしは何してるかもさっぱりだよ。」


 みんなが話している間も僕の手は動く。ハートとクラブのパズル。外すときと同じ角度にすれば簡単につながる。


 チャリーン。


「はい。完成。最後はこれを…。」


 完成したパズルを左手で納めて、右手で次のパズルを取る。スペードとダイヤのパズル。これも角度を間違えなければ…。


 チャリーン。


「完成。これをここにセットして。」


 最後のパズルを台に置いてガラスケースを閉めた。するとガラスケースが台の中に入り代わりにボタンが出てきた。


「これを押せばいいんだよね?」


「たぶん。やってみろ。キュウ。俺たちもやったことないんだから。」


「うん。じゃあ、押すね。」


 カチッ。


 僕はボタンを押した。部屋の中に変化はない。


 失敗したのかな…?と僕がそう思ったとき、


「よし!クリアだ!」


 コウちゃんが叫んだ。


「そうなの?何でわかるの?」


「あ、言ってなかった。クリアすると入り口のライトがつくんだ。今見たらついてたから。」


「そっか。よかった~。どこか間違ったかと思った…。」


「すごかった!最初から最後まですごかった。びっくりしたよ。さすがメイにかっこいいって書かせるだけのことはあるな!キュウ。」


 セイちゃんが興奮しながら言った。セイちゃんの横でメイちゃんがノートを開いてこっちに見せている。


「すごかった!!!かっこよかったよ!!!」


 自己紹介のときのページだった。僕はメイちゃんの方を見て笑った。メイちゃんも笑った。


「すごかったよ~。あんな解き方があるんだね~。私たちは最初のリングを取るので5分くらいかかってたのに~。いきなりパチーンって。」


 と、ユウちゃんは驚きながら解説した。そして隣にいたケンちゃんの肩をたたいて言った。


「は~い。審査員のケントさ~ん。審査結果をお願いしま~す。」


 みんなが静かになりケンちゃんを見た。僕も緊張しながらケンちゃんを見た。


「いや、すごすぎて言葉もないよ。圧倒的だった。さっき変なこと言ってた自分がかなり恥ずかしいよ。」


 そしてケンちゃんが僕の前に来て右手を差し出した。そして、


「さっきはごめん。よろしく!キュウ。」


「うん。ありがとう。よろしく!ケンちゃん。」


 僕たちが握手する。みんなが拍手した。


「いやー、ケンが変なこと言うから一時はどうなるかと思ったよ。」


 コウちゃんがそう言ってケンちゃんのそばに立った。


「ごめん。コウちゃん。でも、なんとなく…。」


「ケン、とりあえず次の部屋のドアを開けてくれ!さっさと残りの部屋を片付けて次のフロアに行くぞ!」


「了解!」


 ケンちゃんが走って階段を上っていく。


「キュウ。お疲れ!次も頼むぞ!」


 コウちゃんが僕の背中をバシッと叩いて言った。


「うん。次も頑張るよ。」


 僕も答えた。


 今までより自信をもって返事ができた気がしたのは、きっとケンちゃんが認めてくれたからだと思う。

 僕は階段をかけ上がりケンちゃんの横に立った。ケンちゃんは僕をチラッと横目で見た。そして静かな声で、


「次は必ず僕が解いてみせるから。」


 そう言ってケンちゃんは笑顔でキーボードをたたいた。

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