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アメイズ  作者: D-magician
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第86話 休んで…。

「大丈夫か?代わるか?」


 セイちゃんが隣から声をかけてきた。僕は首を横に振る。


「とりあえず大丈夫。たぶん外までは。」


「そっか。辛くなったら言えよ?あたしは今日体力有り余ってるから。」


 セイちゃんはそう言って笑った。


「セイちゃ~ん。キュウちゃんの幸せな時間を邪魔したらダメだよ~。そんなに体力あるなら下にある私の自転車持ってきて~。」


「なんでだよ!邪魔してないし自転車は論外だ!」


 ユウちゃんはセイちゃんの反論に耳を貸さずに僕の横に来た。手をすーっとのばし僕の顔の横にあるもう一つの顔をなでた。


「王子さまに守ってもらえてすっかりおやすみ中だね~。お姫様は~。」


「疲れてるんだから起こしちゃダメだよ。ユウちゃん。」


「わかってま~す。でも少し羨ましいな~。ツンツンってしたくなるよ~。この寝顔は~。」


 ユウちゃんは人差し指でメイちゃんの顔をなでた。メイちゃんの顔が少し動く。でも耳元に聞こえる『スー、スー。』という寝息に変化はないから起きたわけじゃないみたいだ。


「ユウ!あんたこそほっといてやれよ!」


「は~い。じゃあごゆっくり~。」


 セイちゃんとユウちゃんは階段を先に下りていくコウちゃんたちに追い付くように早足で歩いていった。僕はゆっくりと廊下を進んでいく。メイちゃんを起こさないようにゆっくりと、ゆっくりと…。





「今日はもう終わりにするか。」


 ミラーを出てパズルの台のそばで休んでいるときコウちゃんが突然言った。


「え?何でだ?」


 セイちゃんが驚いた顔をしている。でも他のみんなは何となく理由を察していた。


「まあ一番の理由はメイだな。」


 コウちゃんは僕の肩にもたれかかってぐったりしているメイちゃんを見た。


「俺の想像だけど、メイはだんだん疲れやすくなってる気がする。今まではこんなことはなかったから。」


「そうだね~。今までも毎日一階のムーヴやテクニックをやってたけど、こんなに疲れてなかったよね~。」


 みんながメイちゃんを見た。メイちゃんはそれに気づいてないみたいで目を閉じている。


「残りの部屋はテレパスとミラー。そのどちらもメイが必要だ。でもそのメイがこの状態じゃあ続けるのは難しいだろ。だから今日はもう終わりにしてメイにゆっくり休んでもらうべきだと思うんだ。」


 みんながうなずいている。


「僕も賛成だね。コウちゃんが言うこともそうだけど、ミラーもテレパスも対策を考えないといけない状況だから。闇雲に挑戦するよりも作戦を練ってからの方がいい。」


「そうだね~。二人の言うとおりだね~。」


「あたしもそれでいいぞ。今日は活躍できなかったから、力が有り余ってるけど。キュウ、あんたの意見は?」


 みんなが僕を見た。僕は肩に寄りかかっているメイちゃんを見た。メイちゃんは目を閉じている。たぶん寝てる…。


「うん。メイちゃんは限界だと思う。無理をさせたくないし。みんなの意見に賛成です。」


 僕の意見を聞いてコウちゃんがうなずいて立ち上がった。


「よし、じゃあ今日はこれで終了。まずはアメイズを出よう。」


「は~い。」


「うん。そうだね。」


「帰るかー。」


 みんなが次々と立ち上がる。僕はメイちゃんの肩を軽くトン、トンとたたいてみた。


「メイちゃん。」


 声もかけてみるけど反応はない。ぐっすり眠っているらしい。メイちゃんの両手を持ち上げ僕の肩にのせる。前屈みになりながらメイちゃんを背中にのせてゆっくりと立ち上がった。


「キュウ、あんた大丈夫か?さっきもミラーから連れて帰ってきただろ。あたしがやるか?」


「いいよ。まだ頑張れる。大丈夫。」


 そして僕はそう言ってゆっくりと歩き出した。




 螺旋階段が続く。階段はさすがに足にきつい。先に歩いていたセイちゃんがさすがに不安になったらしく戻ってきた。


「あんたを信用してない訳じゃないけど。階段だから危ないしな。」


「うん。ありがとう。」


 ゆっくりと一段一段踏みしめるように下りていると、首に回っていた手がすーっと動いた。


「メイちゃん、起きたの?」


 階段を慎重に下りながら聞いてみると肩にのっていた手が動き背中に文字を書いた。


「どこに向かってるの?」


「今日はもう終わりにしようって。だから外に向かってるよ。」


「え?まだ時間あるよ?」


「でもミラーもテレパスも手詰まりだから。作戦を立て直すって。」


 メイちゃんの手が止まった。


「セイちゃん。先に行ってて。もう階段も終わるから。もう大丈夫。」


 そう伝えるとセイちゃんは何かを察したようで僕の肩をぽんっとたたいてから早足で階段を下りていった。セイちゃんが見えなくなった頃、メイちゃんの手が動いた。


「私のせい…だよね?私が動けなかったから…なんだよね?」


「みんながメイちゃんを心配して終わりにしたのは確かにあるよ。」


 肩にふれる指に力が入る。


「じゃあ、戻って。みんなを呼んで。私は大丈夫だから。」


 僕は首を横に振る。


「メイちゃんは疲れてるよ。だからみんなは『休ませてあげよう』って決めたんだから。」


「私は大丈夫だから。みんなを呼んでー。」


 そう書いたのと同時に背中が暖かいもので濡れた。メイちゃんが背中をバンバンとたたく。僕は転ばないように気を付けながら階段を下りきった。メイちゃんを一度下ろし顔を見た。


「私のせいでせっかくの時間を無駄にしてほしくないの。」


 メイちゃんが僕を睨むようにして口を動かした。音のない悲痛な叫びが僕の耳には届いた。僕はゆっくりとメイちゃんの前に立ち、両肩に手をのせた。


「前にも言ったでしょ?メイちゃんの才能のおかげでここまで来れたんだから。それはみんなわかってるんだよ。」


「でも。でも。」


 メイちゃんの口が動く。次の言葉が出る前に僕は言葉を続けた。


「コウちゃんが言ってた。『ミラーとテレパス、どちらもメイが必要』って。僕もそう思う。メイちゃんがいなかったらテレパスはともかくミラーは最初の迷路を抜けることも難しかったはずだから。」


 メイちゃんは口を動かさずにじっと僕の顔を見ている。


「みんながメイちゃんを心配して、みんながメイちゃんを大事に思ってる。みんながメイちゃんを必要としてる。だからメイちゃんは今日はちゃんと休んで。メイちゃんが元気にならないと、メイちゃんが力を発揮できないと先に進めないんだから。」


 メイちゃんはうつむいたまま動かない。でも涙が一滴、また一滴と床に落ちていく。僕は肩にのせていた右手でメイちゃんの頭を、左手で背中をなでた。メイちゃんは顔を僕の胸にあてて泣いた。メイちゃんの体が震える。僕は震えを止めるようにぎゅっと抱き締めた。


 しばらくして、メイちゃんが顔をあげた。そしてようやく笑顔を見せてくれた。


「みんなが待ってるから行こう。」


 メイちゃんは小さくうなずいた。二人でならんで歩いて…と思ったけどやっぱりメイちゃんはまだ少しフラフラしている。


「メイちゃん、入り口までは僕が連れていくよ。」


 メイちゃんは少し悩んだ。でも小さくうなずいて、僕の肩に手をのせて背中に飛び乗った。僕はゆっくりと歩き始めた。


「キュウちゃん。ありがとう。」


 メイちゃんが背中にそう書いた。


「どういたしまして。」


 僕は歩きながら答えた。廊下を進んで階段を下りてムーヴやパズルの部屋の前を通って階段を上る。階段を上りきったときメイちゃんの手が動いた。なぜか僕の顔をなでた。


「どうしたの?」


 するとメイちゃんの手が背中に戻り文字を書いた。


「泣いてない?」


 メイちゃんは僕がつられて泣いていないか確認したみたいだ。


「大丈夫だよ。」


 そう答えるとメイちゃんは手を僕の胸の前で交差させ、ぎゅっとくっついた。顔は僕の右肩の上にあるけど近すぎて表情はわからない。僕はかなり恥ずかしい。


「メイちゃんは最近よく泣いちゃうよね?」


 恥ずかしさをまぎらわすように聞いてみるとメイちゃんは背中に返事を書いた。


「キュウちゃんのせいだよ。キュウちゃんのそばにいると素直になれるの。」


 余計に恥ずかしくなった。顔が熱い…。前を見ると出口がすぐそこに見えた。


「続きは帰り道に話そう。」


 メイちゃんの顔が背中にコツンと当たった。僕はゆっくりとドアを開けアメイズの外に出た。

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